根来半四郎江戸詰密偵帳

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03 湯女のゆな

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 「ねえ、半四郎さん、怖い人いっちゃたからもう一緒に長屋に帰りましょう~」、「お爺ちゃん、足りない分があったら言って、あたいが半四郎さんの分を払ったげるんだ」、ゆながしなを作った。「半四郎さん、孫娘をかどわかさないでくださいね」、オヤジが半四郎を睨み付けた。
 半四郎は咳払いを一つすると、やおらゆなと肩を並べて、長屋へと歩き出した。満月の夜に潮風の中をゆなと連れ立って歩くのは、故郷の紀州を離れて遠く江戸に居る半四郎にとって心温まるひと時であった。
  「ゆなちゃんに一つ相談があるんだ」、「何!?あたし半四郎さんの為なら、何でもしちゃうんだから」、半四郎は軽く咳払いをした。
  「実は明日、久々に藩邸に出仕するんだけどね、菓子折りを持って行こうと思ってる。お詫びがてらね、江戸の美味しいお菓子は何かな?紀州では上方の饅頭だけど、江戸のは不味くて食えないよ」。
   ゆなが不満げにホオをプッと膨らませた、「あら江戸の名物は餅菓子よ、そうね~長屋の庶民だったら絶対に買えないのは、麹町の千疋屋さんの三色餅だって聴いたけどね」。
  「何ですか?その三色餅って」、「半つきした餅米に、小豆、きな粉、胡麻の三色をまぶしたものよ」、半四郎は天を仰いだ、「うーむ、食した事はまだ無いが、麹町なら竹橋から近い。明日それを求めよう」。
 「ねえ半四郎さん。あたい浅草の仲見世で素敵な雪駄を見つけたんだ」、半四郎はゆなの娘心が可愛いと思い訊いた、「へえ、幾らするんだい?」、「一朱と二分、買ってくれたら、すぐ一緒になっちゃうんだけどな~~」、ゆなが上目遣いで半四郎を見た。
 「ゆなちゃんなら、長屋一の器量良しだし、そんな旦那がすぐ見つかるさ」、と半四郎は辛くもかわした。「もう見つかってるもん」、ゆなが眉間に皺を寄せて言いよった。
 「だって三色餅だって、百文するんだよ、女房にする女にそれぐらい出したってバチは当たらないと思うなぁ」、半四郎は江戸の物価に二重に肝を潰した。
  長屋の木戸の前に着くと、そそくさと戸口を閉めてゆなに謝意を述べるだけの半四郎だった。
(続く)
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