根来半四郎江戸詰密偵帳

dragon49

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11 密談

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 半四郎は、伊皿子からとって返すとすぐその脚で神田にとって返した。既に時刻は暮れの九つをゆうに回っているが、半四郎には息の乱れさえなかった。
 翌日は仏滅にあたり、塾が休みになるので深夜に何らかの談合があるはず、という半四郎の読みである。
  半四郎が神田の塾につくとすでに暮れ八つ、丑満時であった。塾の道場では、酔って鼾をかいて寝て居る者、ふらふらと小便に立って寝惚けて居る者、また富くじを譲った清水がまだシツコクしがみついて居るのであろう、飯盛り女の熱い嗚咽が時折聴こえる。
  道場の警戒は緩み、潜入には絶好の好機である。半四郎はすぐに裏手の印刷場に回り込んだ。裏木戸の棧に懐中の竹水筒の水を少しだけ垂らし、僅かに開けると行燈の灯りが微かに見えた。
 中に居たのは、丸橋と由井であった。「先生、本当に成功するのか?金もない武器もない、我々浪人風情が徳川を倒せるとは到底思えんし」、丸橋が目を剥いて由井に迫った。「計画は完璧だがな、問題は兵站と鉄砲なのだ。この二つが戦の鍵だ」。
 「奴らは同意してくれたのか?」、「勿論だ、二つ合わせれば120万石を超える、これ以上の後ろ盾はあるまい」、「後は日の本を抑えれば、天下の公論はこちらのものとなる」、由井は扇子でパタパタと自分に風を送った。
 「天子を奉ずるのか?」、「勿論だよ、二条城を占拠して、此処に天子を幽閉して執政の立場を摂れば、我々が義軍となる」。「では決行はいつだ?、先生」、「まあ焦るな、今しがた家光の命数を見たら、先は長くはない。幼君に政権が委譲される空白時を狙う」。
  半四郎は音もなくその場を離れた。
(続く)
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