根来半四郎江戸詰密偵帳

dragon49

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13 腕比べ

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 「そうだ、これから他の射手が退場しますから、それがしと腕比べをしませんか?立ち撃ち姿勢で五発勝負にしましょうか?」、半四郎が勝負を持ちかけると平八郎は目を輝かせて快く承諾した。「負けた方は、弁当を賭けて譲るのですよ」。
  上司の服部も先程の一件で罰が悪かったのか、一もなく二もなく立会いをかってくれた。「五発勝負!撃て!」、ダダーン、ダダーン!、二人の射手とも立ち姿勢に気が満ちて狙いにブレがない。
  しかし五発目に僅かに平八郎の気勢に狂いを察知した半四郎は、最後の弾をワザと圏外に外した。結果、半四郎は五点圏に四発で二十点、平八郎は一発だけ五点圏を外しただけの二十四点であった。
 「それがしの完敗ですね。どうしました?最後の一発だけ、気勢に狂いが生じたようですが?」、半四郎が訝った。「嬉しいのです。紀州の田舎町から、江戸に出て来て、それがしを一介の武者として扱ってくれたのは半四郎殿が始めてです」。
 半四郎は自らの手弁当を戦利品として、ためらいもなく平八郎に譲った。平八郎がさっそくその場で開けると、麦飯の上に山鯨がビッシリと載っている、今風の焼肉弁当であった。麦飯の片隅には、醤油と唐辛子で甘辛く煮たイナゴの佃煮が少々載っている。
 「それがしは、平素から野駆けを心がけて居るゆえ、俊敏な脚力を支える強靭な体力を付けるため自ら考案した、ももんじ弁当です。平河町譲りの薬食いゆえ、元気が出ます」。
 「どうか、高輪の長屋の我が家にいらして下さい。ささやかなれど歓待致し等御座ります」。平八郎は、感激して涙が大粒で射場に落ちていたが、どうして鉄砲衆なのに四ツ谷や内藤新宿の武家屋敷でなくて高輪の長屋なのか、何か不穏なものを感じて心から笑えぬ半四郎であった。
(続く)
 
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