根来半四郎江戸詰密偵帳

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14 清正公坂

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 清正公坂の上には、幕府の大奥と西の丸に高級羊羹を納める老舗の大店和菓子屋虎屋が有り、そこの二階では機会あるごとに紀州藩の留守居役と薩摩藩の留守居役が茶会を開いては互いの情報交換をしながら腹の探り合いをしていた。
 「いやあ参勤交代の制度が固まってからというもの、藩主は国許と江戸を行ったり来たり、その出費で大変ですよ」、眼光鋭い水野が熱い茶を一服して切り出した。
 「それもそうですが、江戸城の天下普請もキツイ。二重の財政負担です。問題は財源をどうするかだが、割り振りも問題ですなぁ」、薩摩藩の留守居役である伊集院が羊羹に爪楊枝を突き通して口に入れた。
 「ここ虎屋の羊羹に使われる砂糖も薩摩藩が一手に掌握なされて居る。まさに独占、確か幕府に届けられた年間の売り上げは~」、水野が視線を宙に泳がせた。
 「いやあ~、たかだか二千両で御座るよ。御手伝い普請には、とてもとても」、伊集院が慌ててかぶりを振った。「それにしても最近江戸詰になった半四郎殿、一日に千里をかけるそうな、まるで古しえの甲賀者ですなぁ~」。
 「いえいえ駿馬でもあるまいし、買い被りの風聞にしか過ぎません」、水野が苦笑いをした。このタヌキおやじの化かし合いに呆れた虎屋の主人が懇ろに間を見て切り出した、「さあご両人、もう暮れ四つになりますぞ!お開きにしてくだされ」。
  伊集院は三田の藩邸が近かったが、水野は遠いので、虎屋の丁稚である佐治が麻布まで送ることとなった。「佐治、先程の伊集院の話をどう思った?」、「はい、襖の向こうから色々聴いていますが、二千両はちと少ないかなと」。水野は天を仰いで暫し思案した。「紀州から鈴鹿を呼べ、何日かかる?」、「十日ほど」佐治はこれだけ答えると麻布で忽然と姿を眩まし、しばらく虎屋で姿を見なくなった。
(続く)
 
 


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