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第97話 ミルス平原の死闘
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エィスが、人間たちと魔族の最終決戦の地として選んだ地、ミルス平原。
そこが見渡せる小高い丘に、エィスとアトラス、そして貼り付けにされたヴォルトの姿があった。
ヴォルトだけでなく、その部下であるシオン、ルビィ、マグマ、ロック、ジェニーの四人も、『神言』によって心を奪われ生きる人形となった状態でその横に立つ。
ミルス平原には、人間族の軍隊が砦より出陣し、陣形を取って並んでいた。
およそ5万の人間族の軍隊は、全員エィスの『神言』を受けており、『死ぬまで魔族と戦え』という指示に従ってどんなに劣勢になっても最後まで戦う恐怖の軍隊となっている。
エィスの目的は、これから始まる総力戦において、人間たちと魔族たちの殺し合う姿を楽しむこと、そして死んだあとの魂を喰らうこと。それはオレにとっての最悪のシナリオだ。
魔王であるオレが魔族の被害を出したくないのはもちろんだが、人間の姿で転生したオレは旅をしてきた人間の世界にも愛着を感じているのだ。
「≪天候操作≫……」
オレは小さな声でぼそっと呟く。
すぐに近くにいたザズーがそれに気づき、オレを咎める。
「きさま今何か呪文を唱えたな?!」
ザズーは杖でオレの腹を突く。
「うぐっ!」
だがエィスがニヤニヤと笑いながらザズーをたしなめる。
「させとけ。どうせ悪あがきだ。いくら魔法を唱えたって魔法無効を掛けてる僕にもアトラスにも通用しないんだ。唯一警戒しなきゃいけないそいつの神器は取り上げだ。もう手も足も出ないぜ」
「はっ」
そう言ってエィスはオレの唱えた呪文を見過ごした。
先ほど唱えた魔法は、天候操作。オレの最大の雷撃魔法を落すための雷雲を集めようとしているのだ。
他者蘇生魔法を使える二柱の神人を相手にするのに、同時に二発の矢を放てない神器『灰燼に帰す弓』だけでは倒せなかった。どこまで通じるか分からないが、あとオレが頼れるのは、この雷撃魔法だけだ。
先ほど唱えた呪文によって、はるか天空では風向きがゆっくりと変わり、オレたちの頭上にゆっくりと雲が集まろうとしていた。
「あれが魔族の砦か?」
神人アトラスは神人エィスに問う。
「そうだ。それにしても魔族軍はまだ出て来ねえのか?ひょっとして砦で籠城戦をしようとしてやがるのか?」
平原の向こうにある魔族の砦には、城壁の上に魔族の旗がはためき、城壁の前には防衛のための数体のストーンゴーレムが控えている。
抗戦の意思は強く表れているのだが、人間族から平原での戦いを申し込まれているにも関わらず、魔族たちはまだ一兵もその姿を現していないのだ。
「チッ、まさか昨日の襲撃で全部解決するとでも思っちゃいねえよな?堂々と出て来なきゃシオンってやつを殺すって伝えたはずだぞ。それともこいつにはそこまでの人質としての価値がないって事か?一応魔族の代表なんだろ?」
「そのはずですが……」
ザズーは横で苛立つエィスに怯えながらそう答えた。
エィスは連れて来たオレの部下に、魔族軍の動向について何か知らないかと思い問いかける。
「おい、そこのおまえ。何で魔族軍が出てこないか分かるか?」
そう問われたのはロックだ。軍人らしい装備と最年長であり威厳のある顔を見て、一番知っていそうだと思ったのだろう。
実際ロックは魔王軍全体を取り仕切る将軍であった。
そしてロックの口から驚く内容が告げられる。
「これ以上の無益な戦いをすることはないと、わしが撤退を命令した。このまま魔王城を落されても構わない。魔界で散り散りになってでもいいから、とにかく一人でも多く生き延びよと命令をした」
「はあ?!」
エィスの声が裏返る。
「じゃああそこはゴーレムがいるだけで、中はもうもぬけの殻なのか?!」
「おそらくそうだ」
「ふざけんな!」
エィスは思い切りロックの足を蹴りとばす。
ロックはわずかに姿勢を崩すが、すぐにまた棒立ちになる。
「ふざけんなよ!僕の計画が台無しだ。余計な事をしてくれやがって!」
魔族軍はすでに撤退をしていた。これによって今すぐに魔族の被害が出る事はなくなった。苛立つエィスを横に、オレはロックに対し心の中で、よくやったと褒めたたえていた。
「どうするのだエィス?撤退した魔族軍を追うのか?」
「いや、そんなに時間のかかることはやらねえ。こうなったら……」
アトラスの問に対し、エィスは不気味な笑みを浮かべる。
「この人間族の五万の軍隊の命を生贄にして、ここに新しくゴモラを誕生させる。新しい僕の使い魔を魔界に放って、暴れまわらせてやる」
よくそんなに恐ろしいことを次々と思い浮かぶものだ。
オーウェンハイムを襲った古代巨獣ゴモラ。オレとユウの二人がかりでなんとか倒したバケモノ。そんなものが魔界に現れては、たまったものではない。
それだけではない。眼前に並ぶ人間族の軍隊だって殺させたくはない。
「うおおお!」
魔力による自然治癒でほぼ怪我の治っているオレは、手足を縛る縄を引きちぎった。
「なんだよ。まだやろうっていうのか?あの弓は取り上げられてもうここにはないし、例えあっても僕たちが二柱揃っている限り、おまえに勝ち目はないんだよ?」
それだけではない。協力してくれたオレの部下たちもすでにエィスの支配下だ。
「『灰燼に帰す弓』!」
オレがその銘を呼び構えると、オレの手の中に『灰燼に帰す弓』が出現する。
「バカな?何でだ?」
驚くエィスにオレが説明をしてやる。
「所有者として神器に認められれば、いかなる場所にあろうともこうして転移して呼び出せるのだ」
しかしアトラスは平然として答える。
「だからどうしたというのだ?俺たちのどちらかを倒してもすぐに蘇生することができるのだ。そんなもの恐れるに足りぬだろう?」
今からオレがやろうとしているのは最後の賭けだ。
「≪魔法の矢≫」
オレは『灰燼に帰す弓』に≪魔法の矢≫を添えるが、すぐには放たない。射るタイミングが重要だ。
オレが今からやろうとしているのは、神器と魔法の同時攻撃。
少しでもタイミングがずれたらまったく効果がない。
額から冷や汗が流れて行くのを感じる。
「懲りぬようだ。もう一度痛い目に会わせてやろう。≪神の雷≫」
アトラスも先ほどオレを倒した雷の槍を構えた。
「≪裁きの雷霆≫!」
天空に集まった雷雲からアトラスへ向けて雷が落ちる。それと同時にオレは手の中の≪魔法の矢≫をエィスへと放った。
眩い閃光と共に、ドゴンという轟音を立てて雷が鳴り響く。
近くにいたオレの部下たちも巻き込んでしまったが、あとで治癒させるしかない。
雷撃が少しでもアトラスの足を止める事が出来ればいいのだ。
止めを刺すためのもう一撃の≪魔法の矢≫を射ようとしたその時だった。
オレの胸の真ん中に、アトラスの雷の槍が突き刺さった。
眼前には無傷のアトラスと、既にアトラスの蘇生魔法によって蘇ったエィスも立っている。
「雷神たる俺に雷撃魔法とは舐めたマネをしてくれたものだな」
「魔法は無駄だって言ってるだろ」
余裕の笑い顔を浮かべた二柱に見下される。
オレの最大の魔法すら通用しなかったようだ。
こいつら二柱を同時に倒すには、やはりもう一つ神器を持ってくるしかないようだ。
そんなことを言っても、『灰燼に帰す弓』以外には、ユウの持つ『殲滅し尽くす聖剣』しか神器を見たことも聞いたこともないし、ユウはもはやこの世界にはいない。
そしてオレはついに悟った。
もはやこいつら神人から、人間も魔族も救う術は残されていないのだと。
胸の傷は自動的に癒えてゆくが、心の折れたオレに気付いたのだろう。エィスとアトラスは満足そうな顔でオレを見下していた。
もしもここにユウがいてくれたら……。
いやあいつはこの世界の住人ではない。巻き込んでしまうわけにはいかないのだ。帰ってもらってよかったのだ。
だがもしオレがユウを召喚する魔法を使えたら、最後にもう一度力を貸してもらう事ができたのかもしれない。
もしも~だったら、などという思考はいくら考えても何にもならない無駄なものだ。
それよりもこれからどうすればよいか考えるべきで、オレは普段そう努めているつもりだった。
だが弱ったオレの心は、どうしてもそう考えてしまう。
もしもユウがいたら……。
そんなオレの心が限界に達したせいか、遙か空の向こうに何か空を飛ぶ物体が見える気がした。
ブランコのような動きで不規則に飛行するそれは、まるでユウが勇者魔法≪接続線≫で空を飛ぶ時のようだった。
高速でこちらに向かってくるそれを、オレがぼんやりと見つめていることに、エィスたちも気づき振り返る。
「何だあれは?」
そんなエィスの言葉に誰も答えることなく、そして猛スピードで飛来したそいつはオレたちの目の前で急激に減速し、ふわっと地上へと降り立った。
「よう!」
オレは目を疑う。
突然現れたその男は……
「ユウ!」
勇者ユウだった。
そこが見渡せる小高い丘に、エィスとアトラス、そして貼り付けにされたヴォルトの姿があった。
ヴォルトだけでなく、その部下であるシオン、ルビィ、マグマ、ロック、ジェニーの四人も、『神言』によって心を奪われ生きる人形となった状態でその横に立つ。
ミルス平原には、人間族の軍隊が砦より出陣し、陣形を取って並んでいた。
およそ5万の人間族の軍隊は、全員エィスの『神言』を受けており、『死ぬまで魔族と戦え』という指示に従ってどんなに劣勢になっても最後まで戦う恐怖の軍隊となっている。
エィスの目的は、これから始まる総力戦において、人間たちと魔族たちの殺し合う姿を楽しむこと、そして死んだあとの魂を喰らうこと。それはオレにとっての最悪のシナリオだ。
魔王であるオレが魔族の被害を出したくないのはもちろんだが、人間の姿で転生したオレは旅をしてきた人間の世界にも愛着を感じているのだ。
「≪天候操作≫……」
オレは小さな声でぼそっと呟く。
すぐに近くにいたザズーがそれに気づき、オレを咎める。
「きさま今何か呪文を唱えたな?!」
ザズーは杖でオレの腹を突く。
「うぐっ!」
だがエィスがニヤニヤと笑いながらザズーをたしなめる。
「させとけ。どうせ悪あがきだ。いくら魔法を唱えたって魔法無効を掛けてる僕にもアトラスにも通用しないんだ。唯一警戒しなきゃいけないそいつの神器は取り上げだ。もう手も足も出ないぜ」
「はっ」
そう言ってエィスはオレの唱えた呪文を見過ごした。
先ほど唱えた魔法は、天候操作。オレの最大の雷撃魔法を落すための雷雲を集めようとしているのだ。
他者蘇生魔法を使える二柱の神人を相手にするのに、同時に二発の矢を放てない神器『灰燼に帰す弓』だけでは倒せなかった。どこまで通じるか分からないが、あとオレが頼れるのは、この雷撃魔法だけだ。
先ほど唱えた呪文によって、はるか天空では風向きがゆっくりと変わり、オレたちの頭上にゆっくりと雲が集まろうとしていた。
「あれが魔族の砦か?」
神人アトラスは神人エィスに問う。
「そうだ。それにしても魔族軍はまだ出て来ねえのか?ひょっとして砦で籠城戦をしようとしてやがるのか?」
平原の向こうにある魔族の砦には、城壁の上に魔族の旗がはためき、城壁の前には防衛のための数体のストーンゴーレムが控えている。
抗戦の意思は強く表れているのだが、人間族から平原での戦いを申し込まれているにも関わらず、魔族たちはまだ一兵もその姿を現していないのだ。
「チッ、まさか昨日の襲撃で全部解決するとでも思っちゃいねえよな?堂々と出て来なきゃシオンってやつを殺すって伝えたはずだぞ。それともこいつにはそこまでの人質としての価値がないって事か?一応魔族の代表なんだろ?」
「そのはずですが……」
ザズーは横で苛立つエィスに怯えながらそう答えた。
エィスは連れて来たオレの部下に、魔族軍の動向について何か知らないかと思い問いかける。
「おい、そこのおまえ。何で魔族軍が出てこないか分かるか?」
そう問われたのはロックだ。軍人らしい装備と最年長であり威厳のある顔を見て、一番知っていそうだと思ったのだろう。
実際ロックは魔王軍全体を取り仕切る将軍であった。
そしてロックの口から驚く内容が告げられる。
「これ以上の無益な戦いをすることはないと、わしが撤退を命令した。このまま魔王城を落されても構わない。魔界で散り散りになってでもいいから、とにかく一人でも多く生き延びよと命令をした」
「はあ?!」
エィスの声が裏返る。
「じゃああそこはゴーレムがいるだけで、中はもうもぬけの殻なのか?!」
「おそらくそうだ」
「ふざけんな!」
エィスは思い切りロックの足を蹴りとばす。
ロックはわずかに姿勢を崩すが、すぐにまた棒立ちになる。
「ふざけんなよ!僕の計画が台無しだ。余計な事をしてくれやがって!」
魔族軍はすでに撤退をしていた。これによって今すぐに魔族の被害が出る事はなくなった。苛立つエィスを横に、オレはロックに対し心の中で、よくやったと褒めたたえていた。
「どうするのだエィス?撤退した魔族軍を追うのか?」
「いや、そんなに時間のかかることはやらねえ。こうなったら……」
アトラスの問に対し、エィスは不気味な笑みを浮かべる。
「この人間族の五万の軍隊の命を生贄にして、ここに新しくゴモラを誕生させる。新しい僕の使い魔を魔界に放って、暴れまわらせてやる」
よくそんなに恐ろしいことを次々と思い浮かぶものだ。
オーウェンハイムを襲った古代巨獣ゴモラ。オレとユウの二人がかりでなんとか倒したバケモノ。そんなものが魔界に現れては、たまったものではない。
それだけではない。眼前に並ぶ人間族の軍隊だって殺させたくはない。
「うおおお!」
魔力による自然治癒でほぼ怪我の治っているオレは、手足を縛る縄を引きちぎった。
「なんだよ。まだやろうっていうのか?あの弓は取り上げられてもうここにはないし、例えあっても僕たちが二柱揃っている限り、おまえに勝ち目はないんだよ?」
それだけではない。協力してくれたオレの部下たちもすでにエィスの支配下だ。
「『灰燼に帰す弓』!」
オレがその銘を呼び構えると、オレの手の中に『灰燼に帰す弓』が出現する。
「バカな?何でだ?」
驚くエィスにオレが説明をしてやる。
「所有者として神器に認められれば、いかなる場所にあろうともこうして転移して呼び出せるのだ」
しかしアトラスは平然として答える。
「だからどうしたというのだ?俺たちのどちらかを倒してもすぐに蘇生することができるのだ。そんなもの恐れるに足りぬだろう?」
今からオレがやろうとしているのは最後の賭けだ。
「≪魔法の矢≫」
オレは『灰燼に帰す弓』に≪魔法の矢≫を添えるが、すぐには放たない。射るタイミングが重要だ。
オレが今からやろうとしているのは、神器と魔法の同時攻撃。
少しでもタイミングがずれたらまったく効果がない。
額から冷や汗が流れて行くのを感じる。
「懲りぬようだ。もう一度痛い目に会わせてやろう。≪神の雷≫」
アトラスも先ほどオレを倒した雷の槍を構えた。
「≪裁きの雷霆≫!」
天空に集まった雷雲からアトラスへ向けて雷が落ちる。それと同時にオレは手の中の≪魔法の矢≫をエィスへと放った。
眩い閃光と共に、ドゴンという轟音を立てて雷が鳴り響く。
近くにいたオレの部下たちも巻き込んでしまったが、あとで治癒させるしかない。
雷撃が少しでもアトラスの足を止める事が出来ればいいのだ。
止めを刺すためのもう一撃の≪魔法の矢≫を射ようとしたその時だった。
オレの胸の真ん中に、アトラスの雷の槍が突き刺さった。
眼前には無傷のアトラスと、既にアトラスの蘇生魔法によって蘇ったエィスも立っている。
「雷神たる俺に雷撃魔法とは舐めたマネをしてくれたものだな」
「魔法は無駄だって言ってるだろ」
余裕の笑い顔を浮かべた二柱に見下される。
オレの最大の魔法すら通用しなかったようだ。
こいつら二柱を同時に倒すには、やはりもう一つ神器を持ってくるしかないようだ。
そんなことを言っても、『灰燼に帰す弓』以外には、ユウの持つ『殲滅し尽くす聖剣』しか神器を見たことも聞いたこともないし、ユウはもはやこの世界にはいない。
そしてオレはついに悟った。
もはやこいつら神人から、人間も魔族も救う術は残されていないのだと。
胸の傷は自動的に癒えてゆくが、心の折れたオレに気付いたのだろう。エィスとアトラスは満足そうな顔でオレを見下していた。
もしもここにユウがいてくれたら……。
いやあいつはこの世界の住人ではない。巻き込んでしまうわけにはいかないのだ。帰ってもらってよかったのだ。
だがもしオレがユウを召喚する魔法を使えたら、最後にもう一度力を貸してもらう事ができたのかもしれない。
もしも~だったら、などという思考はいくら考えても何にもならない無駄なものだ。
それよりもこれからどうすればよいか考えるべきで、オレは普段そう努めているつもりだった。
だが弱ったオレの心は、どうしてもそう考えてしまう。
もしもユウがいたら……。
そんなオレの心が限界に達したせいか、遙か空の向こうに何か空を飛ぶ物体が見える気がした。
ブランコのような動きで不規則に飛行するそれは、まるでユウが勇者魔法≪接続線≫で空を飛ぶ時のようだった。
高速でこちらに向かってくるそれを、オレがぼんやりと見つめていることに、エィスたちも気づき振り返る。
「何だあれは?」
そんなエィスの言葉に誰も答えることなく、そして猛スピードで飛来したそいつはオレたちの目の前で急激に減速し、ふわっと地上へと降り立った。
「よう!」
オレは目を疑う。
突然現れたその男は……
「ユウ!」
勇者ユウだった。
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