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とんでもない奴にとんでもないことを頼んでしまったかもしれない

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「じゃあさ、教えて欲しいんだけど。どうやったらケツでイケんの?」

これからずっとイケないままなんて、やっぱり嫌だ。俺だって陸人先輩と一緒に気持ち良くなりたいし、一緒にイキたい。
その為には、ケツ界隈の先輩であるこいつに、恥を忍んで聞くしかない!

そう思って決死の覚悟で言ったんだけど、堀越は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で肉を口からはみ出させたまま固まっていた。

「ちょ、おい、堀越?聞いてた?今の?」

周りを気にしながら堀越をつついたら、ようやく動き出した。

「え?今、なんて言った?ケツでイク・・・?」
「ちょっ!こっち来て、こっち!」

その時、こっちに人が来るのが見えて、俺は慌てて堀越を引っ張って遠くへ連れて行った。

「・・・ってわけでさ、俺一回もイケてないんだよ。でもやっぱり一緒にイキたいし、お前なら色々知ってそうだから聞いたんだけど」

皆から遠く離れた岩場の陰に堀越を連れて来て、俺は陸人先輩とのことを話した。
今まで誰にもこんなこと話せなかったから、やっと話せる相手に出会えた安堵感で、そりゃもう、話しまくった。
堀越は最初は目を丸くしていたけど、段々陸人先輩のピロートークを聞く俺みたいな目になって来たから、あ、やべ、と思ってやめた。

「ふーん、まあお前の悩みは分かったけどさぁ」

だるそうに聞いていた堀越は、首筋を片手で撫でながら口を開いた。

「俺、そっち側じゃないから、体験談は話してやれないわ」
「え?どういうこと?」

俺がぽかんとして聞き返すと、堀越はにやっと笑った。

「お前、ウケなんだろ。俺はタチ。つまりお前の陸人先輩と同じで、ちんこ突っ込む方なんだよ。だから俺はケツでイッたことねぇし、同じ立場では教えてやれないってこと」
「え、ええ!?」

堀越も挿れられてる側だと思い込んでいた俺は、びっくりして声を上げた。
でもまあ、冷静に考えてみればそうだよな。ゲイだからって全員ちんこ突っ込まれる方じゃないよな。
ああ、でもなんだよ・・・やっと悩みが解消するかと思ったのに・・・

「でも、俺、お前の陸人先輩よりは色々経験あるから、お前がケツでイケるように手伝ってやれるよ」

堀越の言葉に、項垂れていた俺はぱっと顔をあげた。

「え、ほんと?」
「うん。何だったら今からヤってみる?」

堀越がすっと俺の首に手を滑らせて、髪の毛を梳きながら耳元で言う。
思わず背筋がゾクッとしてしまったけど、慌てて距離を取る。

「ちょ・・・ヤるって、まさか最後までってこと?」
「何か問題ある?」

何でもないことのように言う堀越に俺は狼狽えた。

「お、大ありだろ!ダメだよ、そんな・・・それじゃ浮気だろ。俺、陸人先輩のこと裏切れないよ・・・」

堀越はそんな俺をじっと見ていたけど、はぁと溜息を付いた。

「まあいいんだけどさ。それじゃお前、これからも気持ち良くないセックスして、先輩が帰った後自分で処理し続けるんだ?」
「う・・・・・・」

ぐっと喉が詰まる。それは・・・嫌だ。だけど、陸人先輩を裏切るようなことはしたくない・・・

「ああもう、分かったよ」

黙ったままの俺に焦れたのか、堀越がめんどくさそうな声を上げた。

「最後まではしねぇよ。だけど触らなきゃどうしようもないから触るけど、それくらいならいいだろ?ちょっとエロいマッサージとでも思っとけよ」

これが最大限の譲歩だからな、という堀越に、俺はそれでもちょっと躊躇したけど、このチャンスを逃したらもう俺は一生ケツでイケないかもしれないと思うと、断る選択肢はないように感じた。

「うう・・・分かった。それでいいよ」
「よし。なら早速やるか」
「ちょ、ちょっとこんな所で!?絶対嫌だ!」

いきなり押し倒そうとする堀越にぎょっとして、思いきり押し返した。

「えー?何だよ、面倒臭いな・・・」
「こんな所でやろうとする方がおかしいって!」

ちっと舌打ちする堀越を何とか黙らせて、バーベキューが終わった後堀越の家に行くことになった。

それにしてもこいつ、やたら遊んでそうじゃねーか?色々経験あるって自分でも言ってたし、俺のことやらしー目で見てたし、すぐ手ぇ出そうとして来たし・・・
本当に約束通り、最後までしないでいてくれるんだろうな?
いざとなったら、タマ蹴って逃げるしかねーかも・・・

皆のいる場所に戻って、また涼しい顔で肉を食べる堀越を見ながら、俺はとんでもない奴にとんでもないことを頼んでしまったかもしれない、と早くも後悔していた。


******


バーベキューが終わった後、片付けとかしていたら、すっかり暗くなっていた。今着てるのは半袖のシャツ一枚で、いくら5月でも海風が寒い。

「な、なあ、あのあと堀越、俺の事なんか言ってなかった?」

まとめたゴミ袋をリーダーの車に運んでいると、透夜が恐々と聞いて来た。

「ああ、何も言ってなかったよ。聞こえなかったんじゃねーの?」

事実だし色々と面倒なのでそう言ったけど、透夜は「そんなわけないだろ、絶対聞かれてたって!」とか、「闇討ちされたらどうしよう」とか騒いでいた。
しょうがないから宥めようとして、堀越のことなんかよく知らねーけど、

「大丈夫だって。今日初めて喋ったけど、あいつそこまでしないだろ」

とか言っていたら、いきなり後ろからガバっと肩を抱かれて、びっくりして振り向くと堀越が笑っていた。

「ヒッ!ほ、堀越、くん」

透夜が引き攣ったような声を上げたけど、堀越はそれをスルーして言った。

「そうそう俺と璃央クン、今日喋ってたら仲良くなってさ。このあと俺んちで飲む約束してるから、ここで帰るよ。じゃーね、松原くん」
「え?お、おい、まだ片付けが」

俺がそう言いかけると、堀越は俺の持っていたゴミ袋を奪って、透夜に押し付けた。

「松原くん。悪いけどそれ片付けといて。いいよね?」
「あ、あ、ああ。もちろん!じゃ、じゃあな璃央、またな!」

透夜はゴミ袋を持ってダッシュでその場を去って行った。

「ったく、あんなビビるんなら最初から人の噂話なんかするな、っての」

堀越が苛立たしそうに舌打ちして言い捨てる。

「まあ、そこは確かに悪かったよ。ごめんな」

俺が透夜の代わりに謝ると、堀越は「お前は別に何も言ってなかったし、むしろ肯定してただろ」と呆れたように言った。

「そりゃあな。俺だって同じなんだし、人の事どうこう言えねーもん」

あの時、堀越がゲイだって話をしていた透夜が、好奇心とちょっとの嫌悪感を滲ませていて、俺は自分が否定されているような気がして、嫌だった。だから俺は俺を肯定したくて言ったようなもんだ。

「そうか」

抱かれた肩をさらにぎゅっと掴まれて、俺はハッとした。

「ちょ、ちょっといつまで肩、抱いてんだよ」

慌てて振り払うと、堀越はあっさり離して言った。

「お前、今日ここまで何で来たの?車?」
「え?俺、車なんか持ってねーし。リーダーの車に乗っけて貰って来たよ」
「ふーん。じゃあ大丈夫だな。じゃあ俺んち、行こうぜ。俺、車で来てるし飲んでないから」

ほら、こっちと手を引かれて、俺は「分かったって。手、引っ張るなよ」と言いながらしぶしぶついて行った。




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