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どうやったらケツでイケんの?
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「うぇーい、璃央久しぶりー」
じゅうじゅうと肉の油が焼けて白い煙が立ち込めるなか、缶ビールを手にした透夜が上機嫌で肩に手を回して来る。
「おー、久しぶり」
「全然顔出さないから俺、寂しかったよー」
「ずっとバイト入れてたからな」
もう酔ったのか赤い顔をしている透夜に、俺はトング片手にせっせと肉をひっくり返しながら答えた。
今日はバイトが休みの日で、久々に名前だけ置いてたサークルに顔を出した。実態は単なる飲みサーだけど。
大学近くの海岸でバーベキューするから焼き係やってよ、参加料タダでいいからと言われて、陸人先輩も用事があって会えないから参加することにした。
バイトで毎日焼き鳥焼いてるのに、休みの日まで肉焼くのかとちょっと思ったけど、タダで腹いっぱい肉食えるし、まあいいや。
「ほら、飲んでばっかいないで肉食えよ。消し炭になるだろ」
「璃央、母ちゃんみてぇ」
俺が透夜の紙皿に肉を盛ると、透夜は苦笑いしながら割り箸で肉を挟んで口に入れた。
「お前らもみんな、早く肉食えよ。どんどん焼けてんだけど」
周りで飲んで騒いでるやつらにも声を掛けるけど、みんな「もう腹いっぱい」とか「今は肉いい」なんて言ってなかなか減らない。もう、俺だけで全部食うぞ。
そう思ってたら、一人寄って来た。
「肉くれよ」
「おう、いっぱい食えよ」
そいつの持ってる紙皿に、もうミディアム通り越してウェルダンになった肉を山ほど載せる。
「俺、ほんとはレア気味のが好きなんだけど」
眉をひそめるそいつに俺は我儘なやつだな、と思いながら
「しょうがねーだろ。みんな食わねーんだからさ。それ全部食べきったら、レアに焼いてやるよ」
そう言ったら、意外に素直に頷いた。
「分かった」
そいつが立ち去ると、透夜が寄って来てこそっと俺に耳打ちする。
「あいつ、ゲイらしいよ」
「え?」
俺は思わず立ち去ったそいつの後姿を見た。背が高くて染めてないサラサラの黒髪に、キリッとした涼し気な目のイケメンの―――名前、何だっけ?
「あの、イケメンが?」
「うん。堀越世良な。あいつが男とホテル入るの見たやついるんだ」
「ふ、ふーん。でもほら、たまたま『ちょっと入ってみっかー』なんて、好奇心で入ってみただけなんじゃねーの?」
昔の俺なら「マジかよ」なんて笑って聞いていたかもしれないけど、今の俺は人の事は言えない。少し気まずい思いをしながらそう言ったら、透夜は首を振った。
「そんなんじゃなさそうなんだって。そいつ、堀越が男とホテル入るの、何度も見たって言ってたし」
「へ、へー。まあ、今の時代、そういうのもアリじゃねー?別に周りに迷惑掛けてるわけじゃねーんだしさ」
なるべく何でもないように言った時、隣にいた透夜がびくっとして俺から距離を取った。
何だ?と思って振り返るとそこには、まさに今話題にしていた堀越世良が、空になった紙皿を手に立っていた。今の話を聞いていたはずなのにその顔は無表情で、何を考えているのかは分からなかった。
「じゃ、じゃーな」
物凄く気まずそうに透夜が去って行って、俺も気まずかったけど仕方なく口を開いた。
「く、食うの、早いな」
「まあな。ほら、全部食べたからレアに焼いてくれるんだろ」
「あ、ああ。ちょっと待ってろ」
涼しい顔の堀越に、俺は急いで生肉をトングで挟んで、今度は軽くレアっぽく焼いてやった。
2、3枚紙皿の上に載せてやると、堀越はすぐにそれを口に入れて、美味そうにもぐもぐしている。
俺はその顔をじっと見ながらさっきの会話を反芻していた。
そうか・・・こいつ、ゲイなのか。だったら、こいつもケツにちんこ挿れられてんのかな・・・そんで、こいつはそれでイケてんのかな・・・
そんな事を考えていると、気になって気になって仕方なくなって来た。
それで思わず見過ぎてしまったらしい。ぱっと顔をあげた堀越と、ばっちり目が合った。
「あっ・・・ま、まだ焼こうか?」
慌てて言うと、堀越は「うん頼む」と言いながら、俺の顔をじぃっと見ていた。
やべぇ、どうしよう、見てる見てる。
肉を焼きながら俺は変な汗が出て来て、シャツがじっとり濡れて来るのを感じた。
堀越はじっと見てるだけでそれ以上何も言おうとしないのが、よけい気まずい。
「ほら、焼けたよ」
すぐ食いつくされるから、今度は4、5枚焼いて皿に載せてやったら、堀越は「ありがとう」と言いながら、その場を動かずそこで食い始めた。
気まずっ・・・なんでどっか行かねえんだよ。
仕方なく、食うやつのいない肉をまた焼き始めたら、堀越が空になった皿を目の前に差し出して来た。
「お代わり」
「えっ!?も、もう食ったのかよ!?」
頬をハムスターみたいに大きく膨らませたまま頷く堀越に俺は驚きながら、イケメンなのに何だこの顔、とおかしくもなって思わず噴き出してしまった。
「はは、あははっ!何だよその顔、ハムスターみてぇ!それに食うの早すぎだろ!お前、肉ちゃんと噛んでる?飲んでんじゃねーの?」
俺が爆笑するのを堀越はきょとんと見ていたけど、口の中の肉を飲み込むとちょっと笑った。
うわ、笑うとイケメン度マシマシだろ。
「ちゃんと噛んでるよ」
「は?嘘だろ、ぜってぇ飲んでるって、ははっ」
あーおかしい。笑ってたら肉がレア越えてミディアムになってたから、慌てて引き上げた。
「あー・・・もう、お前のせいでレア通り過ぎちゃったわ。まあいーや。これは俺が食お」
そう言って、紙皿を取って肉を入れて、また生肉を焼き始めた。
その様子を堀越は黙って見ている。
つか、また俺の顔見てる・・・
「なんか、俺の顔についてる?」
あまりに気まずくてそう言ったら、堀越はいいや、と首を振った。
「ただ、可愛い顔してるなって思って見てただけ」
「え?」
びっくりして顔を上げたら、ばっちり目が合う。うわ・・・この目。ヤッてる時の陸人先輩みてぇ・・・こいつ、俺の事、そういう目で見るんだ・・・
「・・・やっぱりあの話、本当なんだ?」
焼けた肉を堀越の皿に載せながら、俺はちょっと躊躇ったけど聞いてみた。
堀越は俺から目を離さないまま「それ聞いてどうするわけ?」と言った。
「・・・相談したい事があるんだ」
俺は心の中でぐっと拳を握って、思い切ってそう言った。
堀越は肉を口に入れながら、じーっと俺の真剣な顔を見ていたけど、
「ふーん・・・まあさっき聞いた通りだよ。俺が男を好きなのは本当」
なんでもないように言った。
「それで相談したい事って何?」
そう言われて、俺は素早く周りを見回して、近くに人がいない事を確認してから言った。
「じゃあさ、教えて欲しいんだけど。どうやったらケツでイケんの?」
じゅうじゅうと肉の油が焼けて白い煙が立ち込めるなか、缶ビールを手にした透夜が上機嫌で肩に手を回して来る。
「おー、久しぶり」
「全然顔出さないから俺、寂しかったよー」
「ずっとバイト入れてたからな」
もう酔ったのか赤い顔をしている透夜に、俺はトング片手にせっせと肉をひっくり返しながら答えた。
今日はバイトが休みの日で、久々に名前だけ置いてたサークルに顔を出した。実態は単なる飲みサーだけど。
大学近くの海岸でバーベキューするから焼き係やってよ、参加料タダでいいからと言われて、陸人先輩も用事があって会えないから参加することにした。
バイトで毎日焼き鳥焼いてるのに、休みの日まで肉焼くのかとちょっと思ったけど、タダで腹いっぱい肉食えるし、まあいいや。
「ほら、飲んでばっかいないで肉食えよ。消し炭になるだろ」
「璃央、母ちゃんみてぇ」
俺が透夜の紙皿に肉を盛ると、透夜は苦笑いしながら割り箸で肉を挟んで口に入れた。
「お前らもみんな、早く肉食えよ。どんどん焼けてんだけど」
周りで飲んで騒いでるやつらにも声を掛けるけど、みんな「もう腹いっぱい」とか「今は肉いい」なんて言ってなかなか減らない。もう、俺だけで全部食うぞ。
そう思ってたら、一人寄って来た。
「肉くれよ」
「おう、いっぱい食えよ」
そいつの持ってる紙皿に、もうミディアム通り越してウェルダンになった肉を山ほど載せる。
「俺、ほんとはレア気味のが好きなんだけど」
眉をひそめるそいつに俺は我儘なやつだな、と思いながら
「しょうがねーだろ。みんな食わねーんだからさ。それ全部食べきったら、レアに焼いてやるよ」
そう言ったら、意外に素直に頷いた。
「分かった」
そいつが立ち去ると、透夜が寄って来てこそっと俺に耳打ちする。
「あいつ、ゲイらしいよ」
「え?」
俺は思わず立ち去ったそいつの後姿を見た。背が高くて染めてないサラサラの黒髪に、キリッとした涼し気な目のイケメンの―――名前、何だっけ?
「あの、イケメンが?」
「うん。堀越世良な。あいつが男とホテル入るの見たやついるんだ」
「ふ、ふーん。でもほら、たまたま『ちょっと入ってみっかー』なんて、好奇心で入ってみただけなんじゃねーの?」
昔の俺なら「マジかよ」なんて笑って聞いていたかもしれないけど、今の俺は人の事は言えない。少し気まずい思いをしながらそう言ったら、透夜は首を振った。
「そんなんじゃなさそうなんだって。そいつ、堀越が男とホテル入るの、何度も見たって言ってたし」
「へ、へー。まあ、今の時代、そういうのもアリじゃねー?別に周りに迷惑掛けてるわけじゃねーんだしさ」
なるべく何でもないように言った時、隣にいた透夜がびくっとして俺から距離を取った。
何だ?と思って振り返るとそこには、まさに今話題にしていた堀越世良が、空になった紙皿を手に立っていた。今の話を聞いていたはずなのにその顔は無表情で、何を考えているのかは分からなかった。
「じゃ、じゃーな」
物凄く気まずそうに透夜が去って行って、俺も気まずかったけど仕方なく口を開いた。
「く、食うの、早いな」
「まあな。ほら、全部食べたからレアに焼いてくれるんだろ」
「あ、ああ。ちょっと待ってろ」
涼しい顔の堀越に、俺は急いで生肉をトングで挟んで、今度は軽くレアっぽく焼いてやった。
2、3枚紙皿の上に載せてやると、堀越はすぐにそれを口に入れて、美味そうにもぐもぐしている。
俺はその顔をじっと見ながらさっきの会話を反芻していた。
そうか・・・こいつ、ゲイなのか。だったら、こいつもケツにちんこ挿れられてんのかな・・・そんで、こいつはそれでイケてんのかな・・・
そんな事を考えていると、気になって気になって仕方なくなって来た。
それで思わず見過ぎてしまったらしい。ぱっと顔をあげた堀越と、ばっちり目が合った。
「あっ・・・ま、まだ焼こうか?」
慌てて言うと、堀越は「うん頼む」と言いながら、俺の顔をじぃっと見ていた。
やべぇ、どうしよう、見てる見てる。
肉を焼きながら俺は変な汗が出て来て、シャツがじっとり濡れて来るのを感じた。
堀越はじっと見てるだけでそれ以上何も言おうとしないのが、よけい気まずい。
「ほら、焼けたよ」
すぐ食いつくされるから、今度は4、5枚焼いて皿に載せてやったら、堀越は「ありがとう」と言いながら、その場を動かずそこで食い始めた。
気まずっ・・・なんでどっか行かねえんだよ。
仕方なく、食うやつのいない肉をまた焼き始めたら、堀越が空になった皿を目の前に差し出して来た。
「お代わり」
「えっ!?も、もう食ったのかよ!?」
頬をハムスターみたいに大きく膨らませたまま頷く堀越に俺は驚きながら、イケメンなのに何だこの顔、とおかしくもなって思わず噴き出してしまった。
「はは、あははっ!何だよその顔、ハムスターみてぇ!それに食うの早すぎだろ!お前、肉ちゃんと噛んでる?飲んでんじゃねーの?」
俺が爆笑するのを堀越はきょとんと見ていたけど、口の中の肉を飲み込むとちょっと笑った。
うわ、笑うとイケメン度マシマシだろ。
「ちゃんと噛んでるよ」
「は?嘘だろ、ぜってぇ飲んでるって、ははっ」
あーおかしい。笑ってたら肉がレア越えてミディアムになってたから、慌てて引き上げた。
「あー・・・もう、お前のせいでレア通り過ぎちゃったわ。まあいーや。これは俺が食お」
そう言って、紙皿を取って肉を入れて、また生肉を焼き始めた。
その様子を堀越は黙って見ている。
つか、また俺の顔見てる・・・
「なんか、俺の顔についてる?」
あまりに気まずくてそう言ったら、堀越はいいや、と首を振った。
「ただ、可愛い顔してるなって思って見てただけ」
「え?」
びっくりして顔を上げたら、ばっちり目が合う。うわ・・・この目。ヤッてる時の陸人先輩みてぇ・・・こいつ、俺の事、そういう目で見るんだ・・・
「・・・やっぱりあの話、本当なんだ?」
焼けた肉を堀越の皿に載せながら、俺はちょっと躊躇ったけど聞いてみた。
堀越は俺から目を離さないまま「それ聞いてどうするわけ?」と言った。
「・・・相談したい事があるんだ」
俺は心の中でぐっと拳を握って、思い切ってそう言った。
堀越は肉を口に入れながら、じーっと俺の真剣な顔を見ていたけど、
「ふーん・・・まあさっき聞いた通りだよ。俺が男を好きなのは本当」
なんでもないように言った。
「それで相談したい事って何?」
そう言われて、俺は素早く周りを見回して、近くに人がいない事を確認してから言った。
「じゃあさ、教えて欲しいんだけど。どうやったらケツでイケんの?」
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