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聖女フェルマ、どきどきする
しおりを挟む張り付いて脱ぎにくい服を全部脱ぐと、私はシオンの方を見ないようにして乾いた床に広げて置いた。
うわ~~~~、この、守るものが何もなくて、ものすごく心細い感じ……
シオンをちらっと振り返ると、こっちに背中を向けて座っていた。
うわっ、背中広い。
なんか、ほんと。彫刻みたいですごく綺麗だ。
またじーっと見てしまって、慌てて前を向いた。
ーーーーー……寒い。
なんか、落ち着いたら寒くなって来た。ここ、元々ひんやりしてるし。
「うっ」
ぶるるる、と震えが来て、思わず声が漏れてしまったら、シオンに気付かれた。
「寒いか?」
「うん、まあね……でも仕方ないし」
「お前が嫌じゃなけりゃ、背中にくっついててやるけど」
「ええっ!?」
「雪山とかでも、やるだろ。嫌ならやらないけど。向かい合ってくっつくのは嫌だろうから、お前は前向いてりゃいいよ。それなら大丈夫だろ?」
「ああああううう」
いや、シオンはものすごく親切な提案をしてくれている。今までの超しょっぺー塩対応からしたら、とてつもなく優しいよね。
それに、やっぱりかなり寒い。
「……うん、ごめんだけど、そうしてもらえるかな?」
そう言うと、
「分かった」
とシオンがごそごそ動く気配がした。そして、ふわ、っと私の背中に大きな体が被さってくる。私は膝を立てた足の前で両手を組んで座っていたけど、その上からシオンのがっしりした腕と、大きな両手が包んでくれる。
うわ……
これ、あったかーーい……
思わず、ほわああ、と体が緩んだよね。
「はわあ……」
声も出ちゃってた。
ぷっとシオンが笑った。
「お前、面白いなあ」
しばらく、そうしていると、寒くて仕方なかったのがだんだん温まって来た。
「……暖かくなったか?フェルマ」
「うっ、うん。ありがとシオン」
いつになく、優しい口調のシオン。
気にしないようにしてるけど、私の裸の背中に後ろからぴったりくっついているシオンの裸の胸と、触れた肌から伝わる熱いくらいの体温に、心臓がドキドキして止まらない。
シオンの心臓もどくどくしている。
「……」
沈黙が場を支配していた。
どうしよう。気まずい……胸のドキドキも治まらない。でもそのドキドキがなんか、気持ちいいような……。ずっと味わっていたいような変な気持ち。
なんか、眠い。
いつの間にか、私はうとうとしていた。
体がふわふわしていて、気持ちいい。すり、すり、と頬が暖かいものでくすぐられたような気がした。けど、夢、かな……
「フェルマ。大分服が乾いたぞ」
「ん……」
あ、やっぱり寝てたんだ。気付いたら、シオンはまだ後ろから温めてくれていたけど、服を目の前に差し出してきた。
「ありがと……」
まだ半分ぼんやりする頭で、それを受け取る。
シオンの体がする、っと離れて行って、隙間に寒い空気が入ってきたから、ぶるっと震えた。
のろのろと服を着て、ローブをまとった。まだ少し濡れているけど、仕方ない。びしょ濡れだった時よりだいぶマシだ。
振り返ると、シオンもちゃんと全部着ていて、いつものように単なる影がローブを着ているみたいになっていた。
あの超イケメンのシオンは夢だったみたいな気すらする。
「かなり魔力が戻ったから、探索でイグニス達の魔力を追ってみる」
シオンは少しの間じっとその場に佇んでいたが、イグニス様たちを見つけたらしい。
「大きな魔力が二つ、上の方にあるな。この感じはイグニス達で間違いない。フェルマは魔力はどうだ?戦えそうか?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「分かった。じゃあ上に向かおう」
そう言ってシオンは歩き出した。私もすぐに後を追う。
もう、さっきのことなんてまるでなかったみたい。切り替え早いなあ。いや、シオンは何も気にしてなかったみたいだったな。
……まあ、いいんだけど。
なんか、私だけドキドキしちゃったみたいで、ちょっと癪だなあ。
その後、特に危ない場面もなく、私たちは上の階のイグニス様たちと合流できた。
イグニス様たちは、あの魔法陣が発動した部屋で待っていてくれたらしい。
下手に追いかけても合流できなかった時、全滅しちゃうかもしれないもんね。
「たぶん、魔力が回復したらシオンがこっちを見つけるだろうって思ったからね」
イグニス様が言う。
とにかく、無事に合流できてよかった。私たちは街に戻ることにした。
*********
大好きな王道パターン、書いててめっちゃ楽しかったです。
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