私、公爵令嬢ミリアは、指ごと婚約指輪を盗られ、死んだことにされましたが、婚約者だった王太子と裏切り者の侍女の結婚式に参列し、復讐します!

大濠泉

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◆6 どうぞ、王子様のお言葉のままに……

 ミリアが魔獣の体内から救出されてから、一ヶ月後ーー。

 彼女は隣国ベラマント王国の王宮にいました。

(まさか〈薬草の森〉で、救けてくれた眼鏡のヒトが、隣国の王子様だとは……)

 信じられないほどの偶然に、ミリアは今でも驚いていました。
 ベラマント王国の第一王子トロントーー彼は偽名で冒険者登録をしており、よくお忍びで〈薬草の森〉に来ていたといいます。
 それには理由がありました。
 トロント王子が正式にローランド王国を訪問するという体裁を取っては、お客様扱いになって、かえって自由に行動できず、薬草も魔鉱石も、宝石すらも手に入れることができなくなるからでした。

 ローランド王国の別名が〈宝石の国〉とするなら、ベラマント王国の別名は〈魔法の国〉といえます。
 でも、〈魔法の国〉は〈宝石の国〉に頭が上がりませんでした。
 じつは、宝石がないと魔法効果が弱まってしまうからでした。
 魔法を行使するにあたって、宝石で効果を増幅させる必要があります。
 ですから、魔法使いにとって、純度の高い宝石は、まさに必須アイテムでした。
 このことは、魔法使いや魔術師の間では〈誰もが知る秘密〉でした。

〈魔法の国〉の王子トロントは、ミリアに向かって、両手を広げて解説しました。

「魔法効果を高めるのに、特にキミの国の宝石は最高なんだ。
 ルビーもサファイアも、ダイアモンドも、どの種類であっても、最も魔法効果を高めてくれる。
 だから、貴国の宝石は高値で売買されるんだ。
 つまり、貴国の宝石の価値を高めてるの、じつは僕たちベラマントの魔法使いってわけなんですよ。
 この真珠も、見てください。
 真珠は貝から取り出すものなんだけど、貴国ローランド王国の湖は特に魔力がこもっていて、貴国のーーいやキミのバーラント領内の湖から採れる淡水真珠は、物凄く魔法効果を増幅するんだ。
 ほら、手をかざすだけで、白く光る。
 とんでもなく魔力を引き出してくれるんだ。
 キミの傷をすぐに癒して、欠けた指を生やすことができたのも、その真珠のおかげだ。
 もっとも、治癒魔法が得意な僕がいてこその芸当だけどね」

 ミリアは素直に感嘆の声を上げました。

「凄いですね、師匠!
 私、憧れます。師匠の治癒魔法。
 大勢の人々を救けることができるんですから。
 特定の個人を着飾らせるだけの宝飾品なんかより、よほど価値があります」

 手放しの褒めように、照れた王子は頬を掻いた。

「ありがと。まさか、〈宝石の姫〉からお褒めいただけるとは。
 とはいってもね、その宝石がないと、魔法は効果が弱くなるんだ。
 魔法使いや魔術師って、指輪やブレスレット、ネックレスなど、様々な宝飾品をゴチャゴチャ身につけてるイメージあるだろ?
 あれ、魔法効果を高めるために、仕方なくそうしてるんだ。
 でもね、こと治癒魔法に関していえば、宝石を介した魔法よりも、薬草を煎じたポーションの方が治癒効果が長持ちする。
 だから、薬草は治癒魔法に必須でーーああ、そんなこと、今はいいや。
 オホン。まずは弟子よ。
 キミに魔力がどれほどあるか見てみよう。
 この魔力測定の水晶に手を当てつつ、この真珠を握り締めて。
 いいかい?
 水晶の方は気に留めないで良いから、握り締めた真珠にだけ意識を集中するんだ。
 力いっぱい念を込めるようなかんじで。
 さあ!」

 言われるがままに、ミリアは真珠を握り締めて念を込めました。
 すると、真珠が熱を帯び、白く輝き始めたのです。

「ほう。やはり豊かな才能をお持ちだ」

 水晶の測定値を目にして、トロント王子は感嘆の声をあげました。
 ミリアは自分の秘められた力に、驚きを隠せませんでした。

「今まで、そんなことなかったのに。
 魔力を測っても、私、少ないって言われて……」

「いつも純度の高い宝石を身にまとっていたからでしょう。
 宝石というのは、魔力の触媒ですからね。
 念を込める対象にしないと、逆に、体内から魔力を吸収するのです。
 おかげで、宝石を身につけたままで魔力測定をすると、実際の魔力量より少ない表示になるのです。
 ましてや、キミの領内で産出されるような、最高級の宝石を身に付けていては、ろくに魔力が測れないでしょうね」

「ああ、なるほど。たしかに」

 ミリアは口に指を当てて、思い出します。
 水晶に手を当てて魔力量を測るとき、令嬢方はみな、お気に入りの宝飾品を身につけていました。

「そういえば、総じてわが国で魔力量が多いとされるのは、男性ばかりでしたわ。
 女性は宝飾品を常時身につけていますから、低く見積もられてきたのですね」

「失礼ながら、ローランドの方々は、魔力の扱いも、魔法の使い方も知らない。
 まあ、それも当然ですがね。
 わがベラマント王国で、魔法の発動条件たる呪文の大半を秘匿しているのですから」

 ミリアは目を輝かせて、トロント王子に詰め寄る。

「ひょっとして、本当に私にも使えるの? 魔法!」

 王子は眼鏡を掛け直して笑った。

「もちろん。
 呪文さえ教われば、キミが見たこともない魔法を、自分で使えるようになる。
 でも、そうなるためには条件が必要です。
 僕と結婚していただけませんか?
 身内となれば、呪文を教えて良いのです」

 だから、いきなりプロポーズしてきたのかーー。

 事情がわかって、ミリアは少し安心しました。

 この王子様は、根っからの〈教え好き〉なんだ。
 初めて出会った舞踏会のときも、令嬢方が退いてるのにも気づかずに、延々と薬草や鉱石についての蘊蓄うんちくを傾けていた……。

 とはいえ、お相手は一国の王子様。
 ラモス王太子と同じく、王位継承権第一位のお方だ。
 一方で、今の私は、外国の、しかも王太子から捨てられた公爵令嬢にすぎないーー。

 ミリアは、上目遣いで、おそるおそるトロント王子に尋ねました。

「いきなり結婚だなんてーー私、森に捨てられて、魔獣に食べられた娘ですよ。
 貴方のご両親……国王陛下やお妃様が、お許しになるのでしょうか?」

「いえいえ。ウチの両親なら、大喜びですよ。
 僕に結婚相手が出来たって、はしゃぐかも。
 しかも、〈宝石の姫〉とうたわれたバーラント公爵令嬢とならば、なおのこと。
 卒倒するかもしれないな。
 キミは素晴らしい宝石を産出するご実家をお持ちなんだからね!」

 明け透けに、自国の利益を語ります。
 トロント王子はどこまでも正直な男性のようでした。
 しばらくしてから、随分と失礼な物言いをしたと気づいて、眼鏡をかけた王子様は慌てて言いつのりました。

「で、でも! 僕は本気で、キミを気に入ったんですよ。
 キミが可愛らしいから」

「あら。そんなことを言われたの、初めてです」

「だって、薬草が好きなヒトに悪者はいませんし、女性なら、みんな可愛いに決まってますよ!」

「それって、ほんとに、私を気に入ったといえるのかしら?」

 あ、また失敗した、とばかりに、トロント王子は顔を赤くして、あたふたします。
 そんな彼の姿を眺めていると、ミリアは自然に心が安らぐのを感じました。

(でも、まぁ、いいか……)

 美辞麗句にいろどられた愛の言葉がいかにむなしいか、肌身に沁みる体験をしたばかりのミリアです。
 まっすぐ王子の目を見てから、ゆっくりとお辞儀をしました。

「どうぞ、王子様のお言葉のままに……」
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