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◆9 止まらない悪意ーーそして始まる結婚式!
そして、翌朝ーー。
いよいよラモス王太子とエイミーの結婚式が開かれました。
とはいえ、来賓者のほとんどが、前日の醜態を知っています。
おかげで、トロント王子とミリアが登場すると拍手が送られ、ラモス王太子とエイミーの二人には白けた視線が送られました。
それでも、ラモスとエイミーはへこたれません。
二人して、ふんと鼻息荒く、背筋を伸ばします。
王と王妃になってしまえば、コッチのものだ、と思っているのが露骨でした。
事情を知らない司祭は、おかしな雰囲気が式場全体に漂っているのを不思議に思いながらも、淡々と儀式を進めました。
そして、誓いの儀式となりました。
「汝、病めるときも健やかなるときも、この者を愛すると誓いますか?」
と司祭様が問うと、
「誓います」
「ワタシも、誓います」
と、ラモス王太子とエイミーのそれぞれが、そう宣言しました。
司祭様は安堵の溜息を漏らすと、次の儀式に進行しました。
「それでは、誓いのネックレスを」
「はい」
王太子がエイミーの首にネックレスを通します。
その瞬間、キラキラと、ハート型のルビーが、一段と赤く光り輝いたように見えました。
エイミーは得意満面の表情で、踵を返し、参列者の人々を壇上から見下ろしました。
以前だったら、会うことも許されなかった高位貴族の面々ばかりか、国王陛下、王妃殿下の姿も見られました。
そして、外国からの来賓も。
エイミーは、参列者の中の、ひとりの女性に目を止めました。
眼鏡男の隣で、〈宝石の姫〉と謳われた女性が、ジッとこちらを見詰めています。
私は認めない、とでもいうような、強い眼差しーー。
エイミーはギリッと奥歯を噛み締めました。
(なによ、相変わらず、馬鹿にしたような目をして。
ふん。あなたが外国に逃げたからって、ワタシは負けない。
きっと、ワタシのことを悪く吹聴するんでしょうけど、それよりも先にコッチから仕掛けてやるわ。
ベラマント王国なんて、魔法だけの国で、貧しいんだから。
魔法を使える者なんて少数だけど、こっちには大勢の人間を動員する財力があるわ。
ちょっと王太子をけしかけてやれば、アンタの国なんてーーぐっ!?
なに、どーいうこと!?)
エイミーは激しく動揺しました。
自慢の首飾りーーネックレスが、ギュッと引き締まってきたのでした。
「な、なによ!?」
力いっぱい緩めようとしますが、締まる力が止まりません。
中央でハート型のルビーが、ドス黒く濁り始めていました。
ギリギリとネックレスの輪が縮まって、エイミーの首を絞めます。
息ができなくなってきました。
「魔法か!? おのれッ!」
異変を感じたラモス王太子は、エイミーの許に駆け寄りました。
ネックレスを力づくで広げてやろうとします。
が、ますます締まっていきます。
王太子の指もネックレスと首の間に挟まって、取れなくなるほどでした。
たまらず、ラモス王太子は声を上げました。
「おい! さすがに酷くないか、ミリア!
いくら〈魔法の国〉の後ろ盾を得たからって、エイミーの首を絞めるだなんて!」
ミリアは無表情なままに、ただ冷たい視線を送るだけです。
代わって、ミリアの父、バーラント公爵が低い声を上げました。
「その首飾りにあるルビーは、私の娘ミリアが、亡き妻から形見としてもらったものだ。
なぜ、王太子殿下がエイミー嬢に贈るなんてマネができるのだ?
しかも、結婚の誓いの儀式においてーー恥を知りなさい!」
次いで、ベラマント王国のトロント王子が、声を上げました。
「助かりたいなら、他人を逆恨みするのを即刻、やめることだ。
そのネックレスは、悪意に感応する。
あなたたちが悪意を撒き散らさなければ、首が締まることもない」
ざわざわーー。
参列者たちが、ざわめき始めます。
参列者の中には、エイミーの両親もいました。
子爵位の彼らは始終、顔をうつむかせていました。
彼らはエイミーがミリア嬢の陰に隠れて王太子と付き合っていることなど、娘が今まで散々、不義理を働いてきたことを知っており、いずれ天罰が下るんじゃないかと、内心、怯えていました。
そして、今、その天罰が下ろうとしていると察して、視線を落としていたのでした。
反して、他の参列者は、壇上でうごめく若い男女を、喰い入るように見詰め続けました。
血色を悪くして紫色の顔になって苦しむエイミー。
そして、なんとかネックレスを外そうとしてもがくラモス王太子ーー。
ネックレスを必死に引っ張りながら、王太子は叫びました。
「だから、宝石なんか漁るな、って言ったんだ!」
その声を合図にして、キュッとネックレスがさらに締まりました。
その途端、エイミーの首からプシューッと鮮血が迸りました。
もはや、エイミーは息をしていませんでした。
白眼を剥いて、口から涎を垂らすのみです。
今度は、王太子が悲鳴をあげる番でした。
「がああ! 外れない。指が抜けない!」
ネックレスを引っ張ろうとして指を挟み込んでいましたが、その指が抜けず、そのままエイミーの首との間で締め付けられていったのです。
「ギャアアアア!」
叫び声とともに、王太子の指がちぎれ、それと同時に、エイミーの首はスパッと切り落とされてしまいました。
ゴトンと鈍い音を立てて、若い娘の首が落ち、ゴロゴロと参列者の足下へと転がり落ちました。
真っ白な床が、鮮血で真っ赤に染まってしまいました。
あまりの惨劇に、参列者はみな言葉を失い、沈黙が場を支配します。
そして、彼ら参列者たちが、壇上の彼、彼女を見て思ったことは、
「王太子の気が触れた!」
ということでした。
バーラント公爵やトロント王子らの言葉は、壇上にあった王太子らに向けられたものでしたから、居並ぶ参列者、特に後方で座る人々には、よく聞こえませんでした。
聞こえたとしても、事情がわからない彼らは、壇上でルビーに秘められた魔法効果が現われているなどということを理解する人はいません。
ですから、一般参列者にとって、ただ、わかったことは、王太子の指もちぎれましたが、はたから見れば、王太子が新婦エイミーの首をネックレスで絞めて殺したようにしか見えなかったのです。
「どういうことだ?」
「ラモス王太子が、乱心なされた!」
わあああああ!
悲鳴とともに、参列者のみなが式場から逃げ出しました。
新婦エイミーの首なしの身体は、赤く染め上がった壇上で倒れ込みます。
ネックレスの輪は、今や指輪なみの、小さなものになっていました。
しかも、赤く光り輝き、綺麗だったハート型のルビーは、今やひび割れ、黒く濁った色になっていました。
王太子は泣きながら壇上で振り向き、ミリアを睨みつけました。
「ミリア、貴様のせいだ! この悪魔め。俺が成敗してくれる!」
式場であっても剣を提げるのを、王族のみは許されています。
ですが、自慢の剣を抜こうとしても、指がちぎれていて、剣を握れません。
「ううッ!」
それでも、ラモス王太子はミリアを討つことを諦めません。
両手の指をゴッソリ持って行かれた激痛は、察するにあまりあります。
ですが、怒り心頭に達したラモスは、痛みを感じなくなっていました。
両腕をあげてミリアに襲いかかります。
ところが、ミリアの首を絞めようとするも、指がなくては叶いません。
血糊でミリアの首を赤く染めた段階で、トロント王子が立ちはだかりました。
そして、背後から、弟のアドルノ第二王子が腕を回して、押さえ込んできました。
こうして、ラモス王太子の動きが、完全に止められたのでした。
「良い加減にしないか、兄上!」
アドルノの叫び声を耳にして、最前列で参列していた王妃様が、見かねて甲高い声を上げました。
「衛兵! この痴れ者を外へ出しなさい!」
式場に配置された近衛兵たちが、いっせいに動き出しました。
そして、数人がかりでラモス王太子の腕を捻り上げ、ズルズルと身体ごと、式場の外へと引き摺っていきました。
その時には、ラモス王太子もゲンナリとして、無言になっていました。
やがて、最前列で事の次第を見詰めていた国王陛下は大きく嘆息し、嗄れ声をあげました。
「いつまでも長男相続にこだわるのは、余の間違いであった。
新たに王に即位するのは、第二王子とする。
明日の新王の即位式は中止だ。
ローランド王国の国王として、長男が醜態を晒したことをお詫びする」
そう語ってから立ち上がり、衛兵に守られながら、王妃と共に肩を落として退場していきました。
これに第二王子アドルノが続きます。
立ち去り際、第二王子はミリアの前で立ち止まり、爽やかな笑顔を見せました。
「隣国の未来の王妃様。
貴女は、私が憧れていた女性にそっくりです。
その方はいつも凛としていて、とても立派でした。
どうかお幸せに」
そう語ってから背を向け、立ち去っていきました。
こうして、ラモス王太子の野望に満ちた結婚式は、惨劇のうちに終わったのでした。
◇◇◇
この日以降、ミリアは公然と身分を明かすようになりました。
数日の間、実家であるバーラント公爵邸に婚約者ともども逗留したのち、隣国ベラマント王国へと帰っていきました。
帰国途上の馬車の中ーー。
ベラマントのトロント王子は、眼鏡を取り、向かいの席に座るミリア嬢に、いきなりキスをしました。
ミリアは目を丸くして驚きます。
「なにを……?」
トロント王子は顔を真っ赤にしながらも断言しました。
「キミは僕のものなんだからな。忘れるなよ!」
そう言って、彼女を強く抱き締めました。
「ええ」
とミリアは、目を閉じながら応えました。
後にベラマント王国の王妃となったミリアは、宝石の供給を豊かにすることに成功し、大陸有数の魔法強国となるよう王国を導きました。
なんでも気さくに語る、優しい王妃様として有名になりました。
それでも、王様との馴れ初めについては、
「森の中で魔獣に食べられたのを、救けていただいたのです」
とだけ語り、ローランド王国での出来事を、誰にも話そうとはなさらなかったそうです。
(了)
いよいよラモス王太子とエイミーの結婚式が開かれました。
とはいえ、来賓者のほとんどが、前日の醜態を知っています。
おかげで、トロント王子とミリアが登場すると拍手が送られ、ラモス王太子とエイミーの二人には白けた視線が送られました。
それでも、ラモスとエイミーはへこたれません。
二人して、ふんと鼻息荒く、背筋を伸ばします。
王と王妃になってしまえば、コッチのものだ、と思っているのが露骨でした。
事情を知らない司祭は、おかしな雰囲気が式場全体に漂っているのを不思議に思いながらも、淡々と儀式を進めました。
そして、誓いの儀式となりました。
「汝、病めるときも健やかなるときも、この者を愛すると誓いますか?」
と司祭様が問うと、
「誓います」
「ワタシも、誓います」
と、ラモス王太子とエイミーのそれぞれが、そう宣言しました。
司祭様は安堵の溜息を漏らすと、次の儀式に進行しました。
「それでは、誓いのネックレスを」
「はい」
王太子がエイミーの首にネックレスを通します。
その瞬間、キラキラと、ハート型のルビーが、一段と赤く光り輝いたように見えました。
エイミーは得意満面の表情で、踵を返し、参列者の人々を壇上から見下ろしました。
以前だったら、会うことも許されなかった高位貴族の面々ばかりか、国王陛下、王妃殿下の姿も見られました。
そして、外国からの来賓も。
エイミーは、参列者の中の、ひとりの女性に目を止めました。
眼鏡男の隣で、〈宝石の姫〉と謳われた女性が、ジッとこちらを見詰めています。
私は認めない、とでもいうような、強い眼差しーー。
エイミーはギリッと奥歯を噛み締めました。
(なによ、相変わらず、馬鹿にしたような目をして。
ふん。あなたが外国に逃げたからって、ワタシは負けない。
きっと、ワタシのことを悪く吹聴するんでしょうけど、それよりも先にコッチから仕掛けてやるわ。
ベラマント王国なんて、魔法だけの国で、貧しいんだから。
魔法を使える者なんて少数だけど、こっちには大勢の人間を動員する財力があるわ。
ちょっと王太子をけしかけてやれば、アンタの国なんてーーぐっ!?
なに、どーいうこと!?)
エイミーは激しく動揺しました。
自慢の首飾りーーネックレスが、ギュッと引き締まってきたのでした。
「な、なによ!?」
力いっぱい緩めようとしますが、締まる力が止まりません。
中央でハート型のルビーが、ドス黒く濁り始めていました。
ギリギリとネックレスの輪が縮まって、エイミーの首を絞めます。
息ができなくなってきました。
「魔法か!? おのれッ!」
異変を感じたラモス王太子は、エイミーの許に駆け寄りました。
ネックレスを力づくで広げてやろうとします。
が、ますます締まっていきます。
王太子の指もネックレスと首の間に挟まって、取れなくなるほどでした。
たまらず、ラモス王太子は声を上げました。
「おい! さすがに酷くないか、ミリア!
いくら〈魔法の国〉の後ろ盾を得たからって、エイミーの首を絞めるだなんて!」
ミリアは無表情なままに、ただ冷たい視線を送るだけです。
代わって、ミリアの父、バーラント公爵が低い声を上げました。
「その首飾りにあるルビーは、私の娘ミリアが、亡き妻から形見としてもらったものだ。
なぜ、王太子殿下がエイミー嬢に贈るなんてマネができるのだ?
しかも、結婚の誓いの儀式においてーー恥を知りなさい!」
次いで、ベラマント王国のトロント王子が、声を上げました。
「助かりたいなら、他人を逆恨みするのを即刻、やめることだ。
そのネックレスは、悪意に感応する。
あなたたちが悪意を撒き散らさなければ、首が締まることもない」
ざわざわーー。
参列者たちが、ざわめき始めます。
参列者の中には、エイミーの両親もいました。
子爵位の彼らは始終、顔をうつむかせていました。
彼らはエイミーがミリア嬢の陰に隠れて王太子と付き合っていることなど、娘が今まで散々、不義理を働いてきたことを知っており、いずれ天罰が下るんじゃないかと、内心、怯えていました。
そして、今、その天罰が下ろうとしていると察して、視線を落としていたのでした。
反して、他の参列者は、壇上でうごめく若い男女を、喰い入るように見詰め続けました。
血色を悪くして紫色の顔になって苦しむエイミー。
そして、なんとかネックレスを外そうとしてもがくラモス王太子ーー。
ネックレスを必死に引っ張りながら、王太子は叫びました。
「だから、宝石なんか漁るな、って言ったんだ!」
その声を合図にして、キュッとネックレスがさらに締まりました。
その途端、エイミーの首からプシューッと鮮血が迸りました。
もはや、エイミーは息をしていませんでした。
白眼を剥いて、口から涎を垂らすのみです。
今度は、王太子が悲鳴をあげる番でした。
「がああ! 外れない。指が抜けない!」
ネックレスを引っ張ろうとして指を挟み込んでいましたが、その指が抜けず、そのままエイミーの首との間で締め付けられていったのです。
「ギャアアアア!」
叫び声とともに、王太子の指がちぎれ、それと同時に、エイミーの首はスパッと切り落とされてしまいました。
ゴトンと鈍い音を立てて、若い娘の首が落ち、ゴロゴロと参列者の足下へと転がり落ちました。
真っ白な床が、鮮血で真っ赤に染まってしまいました。
あまりの惨劇に、参列者はみな言葉を失い、沈黙が場を支配します。
そして、彼ら参列者たちが、壇上の彼、彼女を見て思ったことは、
「王太子の気が触れた!」
ということでした。
バーラント公爵やトロント王子らの言葉は、壇上にあった王太子らに向けられたものでしたから、居並ぶ参列者、特に後方で座る人々には、よく聞こえませんでした。
聞こえたとしても、事情がわからない彼らは、壇上でルビーに秘められた魔法効果が現われているなどということを理解する人はいません。
ですから、一般参列者にとって、ただ、わかったことは、王太子の指もちぎれましたが、はたから見れば、王太子が新婦エイミーの首をネックレスで絞めて殺したようにしか見えなかったのです。
「どういうことだ?」
「ラモス王太子が、乱心なされた!」
わあああああ!
悲鳴とともに、参列者のみなが式場から逃げ出しました。
新婦エイミーの首なしの身体は、赤く染め上がった壇上で倒れ込みます。
ネックレスの輪は、今や指輪なみの、小さなものになっていました。
しかも、赤く光り輝き、綺麗だったハート型のルビーは、今やひび割れ、黒く濁った色になっていました。
王太子は泣きながら壇上で振り向き、ミリアを睨みつけました。
「ミリア、貴様のせいだ! この悪魔め。俺が成敗してくれる!」
式場であっても剣を提げるのを、王族のみは許されています。
ですが、自慢の剣を抜こうとしても、指がちぎれていて、剣を握れません。
「ううッ!」
それでも、ラモス王太子はミリアを討つことを諦めません。
両手の指をゴッソリ持って行かれた激痛は、察するにあまりあります。
ですが、怒り心頭に達したラモスは、痛みを感じなくなっていました。
両腕をあげてミリアに襲いかかります。
ところが、ミリアの首を絞めようとするも、指がなくては叶いません。
血糊でミリアの首を赤く染めた段階で、トロント王子が立ちはだかりました。
そして、背後から、弟のアドルノ第二王子が腕を回して、押さえ込んできました。
こうして、ラモス王太子の動きが、完全に止められたのでした。
「良い加減にしないか、兄上!」
アドルノの叫び声を耳にして、最前列で参列していた王妃様が、見かねて甲高い声を上げました。
「衛兵! この痴れ者を外へ出しなさい!」
式場に配置された近衛兵たちが、いっせいに動き出しました。
そして、数人がかりでラモス王太子の腕を捻り上げ、ズルズルと身体ごと、式場の外へと引き摺っていきました。
その時には、ラモス王太子もゲンナリとして、無言になっていました。
やがて、最前列で事の次第を見詰めていた国王陛下は大きく嘆息し、嗄れ声をあげました。
「いつまでも長男相続にこだわるのは、余の間違いであった。
新たに王に即位するのは、第二王子とする。
明日の新王の即位式は中止だ。
ローランド王国の国王として、長男が醜態を晒したことをお詫びする」
そう語ってから立ち上がり、衛兵に守られながら、王妃と共に肩を落として退場していきました。
これに第二王子アドルノが続きます。
立ち去り際、第二王子はミリアの前で立ち止まり、爽やかな笑顔を見せました。
「隣国の未来の王妃様。
貴女は、私が憧れていた女性にそっくりです。
その方はいつも凛としていて、とても立派でした。
どうかお幸せに」
そう語ってから背を向け、立ち去っていきました。
こうして、ラモス王太子の野望に満ちた結婚式は、惨劇のうちに終わったのでした。
◇◇◇
この日以降、ミリアは公然と身分を明かすようになりました。
数日の間、実家であるバーラント公爵邸に婚約者ともども逗留したのち、隣国ベラマント王国へと帰っていきました。
帰国途上の馬車の中ーー。
ベラマントのトロント王子は、眼鏡を取り、向かいの席に座るミリア嬢に、いきなりキスをしました。
ミリアは目を丸くして驚きます。
「なにを……?」
トロント王子は顔を真っ赤にしながらも断言しました。
「キミは僕のものなんだからな。忘れるなよ!」
そう言って、彼女を強く抱き締めました。
「ええ」
とミリアは、目を閉じながら応えました。
後にベラマント王国の王妃となったミリアは、宝石の供給を豊かにすることに成功し、大陸有数の魔法強国となるよう王国を導きました。
なんでも気さくに語る、優しい王妃様として有名になりました。
それでも、王様との馴れ初めについては、
「森の中で魔獣に食べられたのを、救けていただいたのです」
とだけ語り、ローランド王国での出来事を、誰にも話そうとはなさらなかったそうです。
(了)
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