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◆1 魔物を頭ごなしに討伐対象に認定するのは、おかしいのではないか。
私、アイリスは、王冠を頭上に戴き、エイブル王の隣に座る身分となった。
ロイド王国の王妃様になったのだ。
私は騎士爵の娘だった。
若い頃は武芸の腕を磨いたものだった。
女性としてはトップクラスの剣技を持ち、ゆくゆくは道場でも開こうかと考えていた。
だが、私が剣術大会で活躍するのを見て、エイブル王が惚れたという。
両親や親類による強力な勧めもあって、私、アイリスは国王の許に嫁いだ。
もちろん、結婚を約束した際に語ってくれた、エイブル王の抱負に、私自身も感じ入ったから、というのもあった。
「余が目指すのは世界平和だ。
そして、すべての生き物が幸せに生きていける社会を築いてみせる。
もう、其方に剣を握らせはしない」
私は手を合わせて喜んだ。
「嬉しいわ。
剣を振るう必要がない世の中に、私もなってもらいたい」
私、アイリスは、王家に嫁いでから、思い切って剣を捨てた。
義母や高位貴族たちから低い出自を冷笑されながらも、私は無事に子供を二人産んだ。
現在、四歳の王子と、生後六ヶ月の王女がいる。
家庭的にも、政治的にも順調だった。
対外戦争もなく、夫のエイブル王は狩猟を楽しみながらも、有力貴族と巧く親交を結び、政局を安定させていた。
ところが、思わぬ問題が起こった。
私が王女を身籠った頃からだった。
国中に、魔物が異常発生し始めたのだ。
滅多に発生しない魔物が、森林や洞窟といった人里離れた場所のみならず、普通の村落や街中でも発見されたのだ。
「魔物」とは、通常、狼や猪といった野生動物が、何らかの原因で魔素を過剰摂取することによって巨大化したものだ。
「魔素」とは本来、生物なら誰もがもっている、生命力そのものとされている。
だが、どういった場合に、外部から魔素=生命力が摂取され、どれぐらいの量を吸い込めば「過剰」なのかも、わかっていない。
それほど、わからないことだらけなのも、それぐらい動物の〈魔物化〉が希少な異常現象だったからだ。
ところが、この〈魔物化〉が、ここ最近、頻繁に起こるようになった。
理由はわからない。
ただ、森や洞窟に生息する野獣のみならず、家畜の馬や牛、豚から、果てはペットの犬や猫までが魔物化していった。
魔物は発見され次第、討伐されることになっていた。
なので、その生態は良くわかっていない。
ただ、大きく膨れ上がった胴体に、剥き出しになる牙、さらには異様に光る眼をしていることから、魔物は忌避されて、騎士や冒険者たちによって討たれていた。
そんな中、夫のエイブル王が、魔物に興味を持った。
きっかけは、愛する息子、カイト王子が、一匹の魔物と仲良しになったからだった。
その魔物は、もともと可愛らしい小型の猟犬だった。毛足の短い白い子犬だった。
エイブル王が狩猟に際して森に同行させたが、いつの間にか魔素を取り込んだらしい。
子犬は王子に懐いていたから、魔物化した後も、尻尾を振りながら、巨体を王子になすりつけようとした。
王子の護衛騎士が「危険です」と言って、王子の前に立ち塞がる。
そして、魔物になった子犬の首を掴んだ。
剣で突き刺し、駆除しようとする。
それを見て、カイト王子は泣いた。
「やめて。可哀想だよ!
魔物になっても友達だよ!」
その魔物が殺処分になるところを、王子は庇ったのである。
騎士が怯んだ隙に、魔物は王子の許に飛び込み、子犬時代と同じように、舌を出して、ベロベロと王子を舐めた。
「やめろよ。くすぐったい。
あはは!」
子犬のときより四倍は大きくなり、牙が剥き出しとなっていたが、その振る舞いはいつもと変わらなかった。
依然として王子に良く懐いて、仲良しだった。
その様子を見て、私は少し不安になった。
今まで通り、その容姿が白い子犬のままだったら、微笑ましい情景に映っただろう。
でも、今では魔物化し、大型犬なみの図体で、毛並みもゴワゴワ、鋭い牙を光らせている。
そんな魔物に甘噛みでもされたら、それだけでカイト王子は致命傷を負うだろう。
妹の王女エミーもまだ幼い。
私は母親として、子供たちを守る責任がある。
私はエミー姫を抱き上げ、王子と魔物が戯れている現場から離れようとした。
その反対に、夫のエイブル王は、魔物へと近づいてゆく。
そして、興味深そうに、王子と一緒になって、魔物の硬い毛を撫でた。
「ふむ。報告によれば、魔素を取り込んだ魔物は、知能が高くなる場合が多いそうだ。
もしかすると、魔物を頭ごなしに討伐対象に認定するのは、おかしいのではないか。
有識者を集めて、討議する必要があるな……」
ことの始まりは、そうした、ちょっとした好奇心だった。
だが、その好奇心を、一国の独裁者である王様が持ってしまったがために、悲劇が起こってしまったのだ。
ロイド王国の王妃様になったのだ。
私は騎士爵の娘だった。
若い頃は武芸の腕を磨いたものだった。
女性としてはトップクラスの剣技を持ち、ゆくゆくは道場でも開こうかと考えていた。
だが、私が剣術大会で活躍するのを見て、エイブル王が惚れたという。
両親や親類による強力な勧めもあって、私、アイリスは国王の許に嫁いだ。
もちろん、結婚を約束した際に語ってくれた、エイブル王の抱負に、私自身も感じ入ったから、というのもあった。
「余が目指すのは世界平和だ。
そして、すべての生き物が幸せに生きていける社会を築いてみせる。
もう、其方に剣を握らせはしない」
私は手を合わせて喜んだ。
「嬉しいわ。
剣を振るう必要がない世の中に、私もなってもらいたい」
私、アイリスは、王家に嫁いでから、思い切って剣を捨てた。
義母や高位貴族たちから低い出自を冷笑されながらも、私は無事に子供を二人産んだ。
現在、四歳の王子と、生後六ヶ月の王女がいる。
家庭的にも、政治的にも順調だった。
対外戦争もなく、夫のエイブル王は狩猟を楽しみながらも、有力貴族と巧く親交を結び、政局を安定させていた。
ところが、思わぬ問題が起こった。
私が王女を身籠った頃からだった。
国中に、魔物が異常発生し始めたのだ。
滅多に発生しない魔物が、森林や洞窟といった人里離れた場所のみならず、普通の村落や街中でも発見されたのだ。
「魔物」とは、通常、狼や猪といった野生動物が、何らかの原因で魔素を過剰摂取することによって巨大化したものだ。
「魔素」とは本来、生物なら誰もがもっている、生命力そのものとされている。
だが、どういった場合に、外部から魔素=生命力が摂取され、どれぐらいの量を吸い込めば「過剰」なのかも、わかっていない。
それほど、わからないことだらけなのも、それぐらい動物の〈魔物化〉が希少な異常現象だったからだ。
ところが、この〈魔物化〉が、ここ最近、頻繁に起こるようになった。
理由はわからない。
ただ、森や洞窟に生息する野獣のみならず、家畜の馬や牛、豚から、果てはペットの犬や猫までが魔物化していった。
魔物は発見され次第、討伐されることになっていた。
なので、その生態は良くわかっていない。
ただ、大きく膨れ上がった胴体に、剥き出しになる牙、さらには異様に光る眼をしていることから、魔物は忌避されて、騎士や冒険者たちによって討たれていた。
そんな中、夫のエイブル王が、魔物に興味を持った。
きっかけは、愛する息子、カイト王子が、一匹の魔物と仲良しになったからだった。
その魔物は、もともと可愛らしい小型の猟犬だった。毛足の短い白い子犬だった。
エイブル王が狩猟に際して森に同行させたが、いつの間にか魔素を取り込んだらしい。
子犬は王子に懐いていたから、魔物化した後も、尻尾を振りながら、巨体を王子になすりつけようとした。
王子の護衛騎士が「危険です」と言って、王子の前に立ち塞がる。
そして、魔物になった子犬の首を掴んだ。
剣で突き刺し、駆除しようとする。
それを見て、カイト王子は泣いた。
「やめて。可哀想だよ!
魔物になっても友達だよ!」
その魔物が殺処分になるところを、王子は庇ったのである。
騎士が怯んだ隙に、魔物は王子の許に飛び込み、子犬時代と同じように、舌を出して、ベロベロと王子を舐めた。
「やめろよ。くすぐったい。
あはは!」
子犬のときより四倍は大きくなり、牙が剥き出しとなっていたが、その振る舞いはいつもと変わらなかった。
依然として王子に良く懐いて、仲良しだった。
その様子を見て、私は少し不安になった。
今まで通り、その容姿が白い子犬のままだったら、微笑ましい情景に映っただろう。
でも、今では魔物化し、大型犬なみの図体で、毛並みもゴワゴワ、鋭い牙を光らせている。
そんな魔物に甘噛みでもされたら、それだけでカイト王子は致命傷を負うだろう。
妹の王女エミーもまだ幼い。
私は母親として、子供たちを守る責任がある。
私はエミー姫を抱き上げ、王子と魔物が戯れている現場から離れようとした。
その反対に、夫のエイブル王は、魔物へと近づいてゆく。
そして、興味深そうに、王子と一緒になって、魔物の硬い毛を撫でた。
「ふむ。報告によれば、魔素を取り込んだ魔物は、知能が高くなる場合が多いそうだ。
もしかすると、魔物を頭ごなしに討伐対象に認定するのは、おかしいのではないか。
有識者を集めて、討議する必要があるな……」
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