千年生きたエルフの溜息

大濠泉

文字の大きさ
2 / 9

◆2 おいおい、またもや〈時の狩人〉が新米を入れたぞ! しかも、今度は女の子だ!

しおりを挟む
 春の日差しが暖かくなったある日ーー。
 ピンクの髪をした若い女の子が、酒場〈愚か者の罠〉に押し掛けてきた。
 酒場|〈愚か者の罠ブービー・トラップ〉は、僕が所属する、S級冒険者パーティー〈時の狩人〉が定宿にしている宿泊所でもある。

 彼女ーーリイファは北方出身の、小さな女の子だ。
 図体がデカい僕とは違って、僕の腰ほどの背の高さしかない。
 年齢は十六歳と言う。
 一応この国では十五歳以上は成人なので、村長の許可を得て村から出ることができ、ようやく王都に来られたのだという。

 彼女、リイファは、三つ編みの頭をちょこんと下げて、リーダーのバトラーさんの前で、大声を張り上げた。

「何でもしますから、仲間に入れてください!」

 自称勇者のバトラーさんは困惑気味に少女を見下ろしたまま、笑顔で固まっている。
 彼の口からは、言下に拒否することははばかられたのだろう。
 だけど、武道修道士モンクランガさんや、魔法使いハーベイといった男どもは、即座に冷たく断った。

「悪いが、ウチは嬢ちゃんのような女の子を可愛がるゆとりはねえんだ。
 他所よそを当たりな」

「そうですよ。あなたのような子に、ウチは務まりませんよ」

 だが、エルフの女性フレシアは違った。
 彼女は少女リイファの視線に合わせるようにかがんで、両手を広げる。
 ピンクの髪の少女を、優しく迎え入れたのだ。

「あら、可愛い子じゃない?
 素敵な八重歯をしてるわね。
 私は歓迎するわ」

 フレシアの言葉を耳にして、宿泊所の酒場に集っていた客たちは、驚きの声を上げた。

「おいおい、またもや〈時の狩人〉が新米を入れたぞ!」

「しかも、今度は女の子だ!」

 体が大きいだけの田舎者である僕、ライオネスを荷物係に採用しただけでなく、今度は八重歯も矯正できない貧しい田舎の子娘を、S級冒険者パーティーが迎え入れようとしている。
 普通なら、何が理由で採用したのかを、仲間に説明しなければならない。
 だが、よわい一千年を超す長寿エルフのフレシアに意見できるものなど、そうそういるわけもない。

 実際、リーダーであるバトラーさんが諦めたように首を横に振ると、フレシアさんに抱かれた格好になってる少女に呼びかけた。

「よかったね、お嬢さん。
 ウチの姐御のおメガネにかなったみたいだよ。
 よろしくね」

 自称勇者は大きな手を差し伸べる。
 少女リイファが頬を赤らめて、おずおずと手を出し述べた段階で、パーティー入りは決定したようなものだった。
 その様子を、僕は呆然と見続けていただけだった。

(こんな小さな女の子が〈時の狩人〉に!?)

 相応ふさわしくない。
 おかしいと思う。
 僕ですら荷物係がやっとなのに、こんなか弱そうな女の子に何が出来るのだろうか。
 魔物を狩ったり、罠をくぐることができるとは、とても思えない……。

 ーーそう思ったが、僕は瞬時に思考を切り替えた。
 S級冒険者パーティー〈時の狩人〉に相応しくないと勝手に決めつけるのは、僕が入団した際に、嫌がらせをしてきた連中と同じ愚を犯すことになる。
 それだけは嫌だった。

 僕は男だし、先輩だ。
 後輩が出来たのだと、素直に喜ぼう。
 そして、彼女に少しでも良いところを見せようと、頑張ることにした。
 それがひいては恩義があるフレシアさんたちに「一人前になった」と認められる近道だ、と思い直したのだ。

「よおし。リイファ、だっけか?
 僕はライオネス。
 今は雑用をこなしてるだけだけど、いずれは先輩方のように、一流冒険者になる男だ。
 君を歓迎する」

 僕は立ち上がって、パンパンと両手を叩いて合図した。
 すると、ウェイターが料理人たちを呼び込み、食材を僕たちのいるテーブルに運んできた。

 ドン!

 少女の目の前には、自分の背丈よりも大きい、でっかい生肉が、板ごと運ばれてきた。

「おおっ!」

「こいつは豪勢だ!」

「さすがはS級!」

 近くのテーブルについていた他のパーティーの冒険者たちも、感嘆の声を上げ、拍手する。

「なんですか、これは?」

 と少女が問いかけるのを、僕は得意げに鼻を鳴らした。

「これはね、昨日討伐したばかりの大鬼オークの肉さ。
 ここが〈時の狩人〉の常宿になってるのには、理由があってね。
 こうして討伐した魔物や迷宮ダンジョンで出た珍しい食物などを、すぐに調理してくれる場所だからなんだ。
 珍しい料理を食べるなら、〈愚か者の罠ココ〉が一番ってことさ」

 周りの冒険者が、はやしたてる。

「ほんと、羨ましいこった」

「そうだ、そうだ。
 俺たちも通いじゃなく、ここに泊まりてぇよ。
 だが、宿代が高くてなぁ」

「ボヤくな。オメェもS級になれば、ここに住めるってことよ」

 ゲラゲラと笑う。

 僕はまだ新人冒険者ながらも、まるでベテランメンバーのように胸を張って宣言した。

「リイファちゃん。
 君もこの肉を食べて、強くなるんだ。
 たっぷりと、これぐらいの肉を食べれるくらいにならないと、〈時の狩人〉のメンバーになれないよ」

「えーっ!?」

 と声をあげ、リイファは泣きそうな顔で言った。

「私、料理は得意ですけど、これほど食べるとなると……」

 フレシアさんは少女の頭を撫でながら言った。

「もう、ほんとに。
 ライオネスちゃんたら、ちょっと前に来たばかりなのに、すっかり先輩風吹かせちゃって。
 あんまり妹をいじめないことね。
 私はこの子入れるの、もう決めてるんだから」

 僕は頬を膨らませながらも、「わかってますよ」とだけ答えた。
 それを受けて、〈時の狩人〉のメンバーのみならず、周囲で食事をしていた他のパーティーの冒険者たちもゲラゲラと笑った。

 こうして僕の下に、一人の女の子が、新たなメンバーとして加入してきたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

現代ダンジョンの苦情係 〜元クレーム処理担当の俺、魔物の言葉がわかるので菓子折り一つで世界を救う〜

ぱすた屋さん
ファンタジー
「その咆哮は、騒音公害に当たります」 現代日本に出現した『ダンジョン』と、そこから溢れ出す魔物たち。 人々が英雄(Sランク探索者)の活躍に熱狂する一方で、組織の闇に葬られた部署があった。 ――ダンジョン管理ギルド・苦情係。 そこへ左遷されてきたのは、前職で数万件のクレームを捌き倒した伝説のカスタマーセンター職員・久我良平(くが りょうへい)。 彼にとって、新宿に降臨した災害級ドラゴンは「騒音を撒き散らす困ったお客様」であり、聖女の奇跡は「同意なきサービスの押し付け(強売)」に過ぎない。 「力」でねじ伏せる英雄たちが敗北する中、久我は「正論」と「どら焼き」と「完璧な事務手続き」を武器に、魔物たちの切実な悲鳴(クレーム)をハックしていく。 一癖も二癖もある仲間と共に、久我はギルド上層部の腐敗や外資系企業の傲慢な介入を次々と「不備」として処理していく。 これは、組織の鎖を断ち切った一人の事務屋が、人間と魔物の間に「新しい契約」を紡ぎ、世界を再起動させるまでの物語。 「――さて。予約外の終焉(ラグナロク)ですか? 承知しました。まずは、スケジュールの調整から始めましょう」

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として

たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。 だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。 一度目では騙されて振られた。 さらに自分の力不足で全てを失った。 だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。 ※他サイト様にも公開しております。 ※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※ ※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※

処理中です...