千年生きたエルフの溜息

大濠泉

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◆3 ライオネスなんかより、〈ペンダントのリイファ〉の方が、よっぽど使えるなあ?

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 ピンクの髪をした女の子、リイファが、王都のS級冒険者パーティー〈時の狩人〉に加入してから、三週間ほどが経過した。

 新米の冒険者リイファは、〈時の狩人〉の面々とともに、魔物討伐のために森深くに入ったり、迷宮ダンジョンの中にある宝箱を目指してマッピングしながら、ぴったりと行動を共にし続けた。

 身体が大きい僕は、大きな荷物を背負いながら、時に魔法使いハーベイさんに回復と癒しの魔法をかけてもらいつつ、後をついていった。
 が、何とかメンバーの役に立ちたいという思いでいっぱいだったのは、僕だけではなかった
 リイファも頑張って、パーティーの役に立とうとする。
 見ていて、いじらしいほどだった。

 しかも、総じて、後輩である彼女の方が、僕よりも有能だった。
 肉体強化がちょっと出来るだけの僕と違い、彼女は弱いながらも、治癒魔法が使えた。
 リイファは大きい銀色のペンダントを持っていた。
 女神像が彫られた、中央に青い水晶がめ込まれたペンダントだ。
 そのペンダントをかざすと、その箇所に魔力が注がれる仕様になっていた。
 魔法使いのハーベイさんほど強力ではないが、ペンダントをかざせば治癒魔法がすぐに発動し、小さな切り傷や火傷ヤケド程度は、たちどころに治した。
 特に速攻で痛みをやわらげるには十分な効果があり、ハーベイさんが使うほどの大魔法を必要としない怪我ならば、十分に用が足りた。
 迷宮ダンジョンの中で、コボルトに襲われて足を負傷した僕と、何匹ものゴブリンと殴り合ってを首筋や腕を痛めた武道修道士モンクのランガさんの傷を、一瞬で治したりもした。

「おお、すげーな、嬢ちゃん。
 ハーベイのヤツは魔法を使うと、ずいぶん魔力をもっていかれるみたいで、一日中不機嫌になる。
 でも、リイファちゃんは違うな。
 魔力をあまり消費しないのか、そのペンダントは?」

 ランガさんが声をかけると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せる。

「このペンダントは、まわりから魔力をゆっくりとたくわえていくみたいで……。
 私の弱い魔力では、ようやく魔法を発動させる程度の力しかないんですけど、みなさんのお役に立てて嬉しいです」

 魔法使いのハーベイさんは微笑みを浮かべ、リイファの頭をぐりぐりと撫でた。

「それじゃあ、みなさん!
 これからは治癒、回復に関しては、リイファちゃんを頼りにしてくださいよ。
 俺はサボらせていただきます」

「おいおい、俺には児童虐待の趣味はないぞ」

「あれ? こんなでも、リイファちゃんは成人なんだよな?」

 あはははは。

 迷宮ダンジョン内で魔物の煮物を食べながら、なごやかな時間を、パーティーメンバーで過ごした。

 この日以降、リイファは〈ペンダントのリイファ〉と呼ばれるようになり、〈魔法使い〉として遇されるようになった。
 その一方で、僕は相変わらず雑用をこなす〈荷物係〉でしかなかった。

 後輩のリイファが〈魔法使い〉に昇格しても、僕はめげずにメンバーの役に立つよう、努力を怠らなかった。
 僕、ライオネスは、〈時の狩人〉のメンバーが森林や洞窟、迷宮ダンジョンなどにもぐる前に、いろんな道具や食糧などを購入し、それらの使用計画を立てる役割を担った。
 それゆえに便利に思われ、やがて先輩方から、単に〈荷物係〉と呼ばれるだけでなく、〈商人〉とか〈便利屋〉とも呼称されるようになった。
 僕は、迷宮ダンジョンや森林地帯などを長期、一週間以上かけて攻略する際には、必要不可欠の人材とすら思われ、S級冒険者パーティである〈時の狩人〉のメンバー構成を真似て、〈荷物兼商人係〉を随伴するパーティーが増えてきたと、冒険者ギルドの受付のお姉さんが、僕に言ってくれた。
 僕はちょっと誇らしい気持ちになった。

 だけど、僕以上にパーティーメンバーから可愛がられ、かつ重宝がられたのは〈ペンダントのリイファ〉だった。
 彼女もまた、迷宮などを長期で攻略する際に、必須のメンバーと認識されていた。
 リイファの持つペンダントは便利で、治癒の光を発するだけでなく、魔法で熱を発することもできる。
 おかげで冒険先でも、彼女は獲得したばかりの植物や肉をすぐさま調理することができた。
 彼女は料理の腕も良かったのだ。

「おお、うまいじゃねえか!」

 武道修道士モンクのランガさんが喜びの声をあげると、リーダーの自称勇者バトラーさんもフォークを片手に絶賛した。

「楽しみなんだよな、リイファちゃんのご飯」

 いつのまにか、食事時は、調理するリイファを中心に円陣を組むようになっていた。
 今回潜行している迷宮ダンジョンの第二層では、大きな植物が群生している。
 低層なことも相まって、魔物退治に励んでポイントを稼ぎやすく、どのパーティも長居したがる。
 だから、リイファが料理の腕を現場でふるえるということは、価値が高かった。
 迷宮の奥深くに潜った時ですら、食事時が楽しみになった、と斥候のエレノアさんや魔法使いのハーベイさんも言っていた。

 それに加えて、エルフのフレシアさんが、いつもぺったりとリイファにくっついていた。
 美貌のエルフが、少女の頭を撫で撫でしたり、ピンク色の髪をいてあげて、三つ編みに編んであげているさまを、何度見たかわからないほどだった。

 リイファは先輩方だけでなく、他のパーティメンバーであろうと、誰彼なく付き合うことができた。
 人見知りではあるけど、人懐っこいのだ。
 今日もリイファは、迷宮ダンジョンの中で、魔物の干し肉を、ペンダントによる加熱によって焼きながら、その肉を骨ごと切り取って、フレシアさんに渡したていた。
 フレシアさんはスラっとした容姿のエルフでありながら、意外と大喰らいで、特に肉を好むところがあった。

「エルフさんも、お肉を食べるんですね?」

 リイファが、ニコニコしながら、焼き肉を皿に盛り付ける。
 すると、フレシアは遠慮なく手を伸ばしつつも、若干、頬をふくらます。

「当たり前よ。これでも、〈弓使い〉なんだから。
 弓矢で仕留めた獲物を、ただ捨てるとでも思うの?」

「考えてみれば、そうですね」

「森で生活する私たちエルフは、当然、肉はさばいて、焼くなり、煮るなりして、食べるわよ。
 骨もとっておくわ。
 骨は乾燥させたうえで薬品を塗り、削り尖らせて、やじりにするの」

 フレシアさんは、かたわらに置いた矢筒から、一本の矢を取り出し、リイファ見せながら言う。

「この鏃なんかも、コボルトの骨から削り出して磨いたものなの。
 硬くて重宝するのよね。
 コイツらの骨のおかげで、お肉が美味しくいただけるってわけ。
 あ、でも、同族の名誉(?)のために言っておくけど、エルフは肉を食べるとはいっても、たいがいは少食よ。
 大喰らいは、私ぐらいかも。
 おかげで、普通のエルフより長寿なんじゃないか、と思ってるわ。
 里から出て、こうして人間と一緒になって冒険者もしてるし」

 かたわらで聞いて、僕は合点した。

(そうなんだ。
 やっぱり、フレシアさんは、エルフの中でも特別なんだ。
 いや、女性の中でも、特別に違いない)

 女性が美味しそうに肉を頬張るのを、それまで僕は見たことがなかった。
 僕のいた村では、小麦を育てて生計を立てる家が大半だった。
 獣や魔物を狩る狩猟者は少なく、肉が出るのは祭りの時ぐらいだったから、これほど頻繁に肉が食べられるのなら、森林だろうが迷宮ダンジョンだろうが、長期滞在しても一向に構わない、と思えるほどだ。
 それだからか、女性でありながら、フレシアさんは肉をバンバン食べる。
 無造作に両手で引きちぎって食べる。
 実際、エルフ、どんだけ肉、食うんだよ!? と驚いたものだ。

 たしかに、フレシアさんの狩りの腕はホンモノだ。
 荷物を運んでる時、猪や狼に襲われたりしても、どこからともなく弓矢が飛んできて、獣たちの額を射ち抜いた。
 上を見上げると、樹上には必ずと言っていいほど、フレシアさんがいた。
 フレシアさんの目が〈時の狩人〉パーティ全体に行き届いているから、安心して冒険ができるのだ。

 斥候のエレノアさんが道を開き、次いで武道修道士のランガさんが主だった障害を掃討し、自称勇者のリーダー、バトラーさんが全隊の指揮を担い、魔法使いのハーベイさんが後衛を任されていた。
 荷物係の僕は、いつも最後尾だった。

 が、今では同行する仲間がいる。
 ペンダントのリイファだ。
 僕ら最後尾の二人は、後衛の魔法使いハーベイさん、そしてチーム全体に目を光らせてる弓使いのフレシアさんにお世話になりっぱなしだった。

 だから僕は荷物係の差配で、ハーベイさんとフレシアさんに少し多めに食材を振り分け、リイファも料理の腕をふるう。
 そうした僕らの配慮が伝わっているようで、フレシアさんは肉をがっつきながら、褒めてくれた。

「ほんと、おいしいわね」

「「ありがとうございます!」」

 と、僕とリイファは声を合わせた。

 その晩の料理も豪勢だった。
 一本角ラビットの串焼きと、魔物化した猪をぶつ切りにして、根菜を混ぜたスープ。
 そして、体力の回復効果がある薬草を主体にしたサラダ。
 果実を集めて蒸留させた果実酒までがあった。

 ウサギ肉の串焼きを何本も平らげ、イノシシ肉をほおばって、腹を叩く自称勇者のバトラーさんは快活な声を上げた。

「ほんと、リイファちゃんなしでは、これからの活動は考えられないな!」

 リーダーの賞賛に相乗りする形でありながら、少々、毒を含んだ発言を、武道修道士のランガさんがした。
 僕の頭を軽く小突きながら、

「おい、ライ坊。
 おまえなんかより、リイファちゃんの方が、よっぽど使えるなあ。
 なにしろ、治癒ができるし、料理の腕に至っては、替えが利かない。
 おまえ、ウカウカしてると、頭越されるぞ」

 奴隷上がりのランガさんは、僕が来るまでは荷物係だったそうだから、親しくしてくれていたけど、歯に衣着せぬ物言いをする。

 「ははは。冗談、キツイっすよ」

 と僕は愛想笑いをする。

 ランガさんとしては、冗談混じりながら、僕に発破ハッパをかけたつもりなんだろう。
 けれど、内心では、僕はかなり落ち込んでいた。
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