千年生きたエルフの溜息

大濠泉

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◆5 そ、そんなんじゃありませんよ。リイファは妹みたいなもんです!

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 最近、S級パーティー〈時の狩人〉が、ぶっ続けでもぐっている迷宮ダンジョンがあった。
 その第二階層で得たコボルトの牙やオークの角といった戦利品を換金するため、僕は冒険者組合や商業組合を巡り歩いていた。
 その際、リイファのお兄さんランドについて聞いて回った。

 冒険者組合の受付のお姉さん、レミーさんは、北方からやって来たヤンチャな少年冒険者ーーランドのことを、しっかりと覚えていた。

「三年程度前のことなんか、昨日のことのようよ」

 と言う彼女はドワーフの血を引いているので、エルフほどではないが三、四百歳ほどは生きるというから、人間の感覚で言えば、三年なんて、ほんの数週間前のような感覚なのだろう。
 彼女の記憶と冒険者登録台帳に記された記録によって、ランドが〈骸骨騎士団〉という新興パーティーに入ったことまでは、わかった。

 だが、この〈骸骨騎士団〉というパーティーには問題が多く、リーダーが貴族出身だったせいで、さる貴族家と揉め事となり、すぐさま活動休止にさせられたらしい。
 珍しく僕と同行してくれていた斥候せっこうのエレノアさんが、顎に手を当てながら、往時を思い出しつつ言った。

「あれ、解散したって聞いたわよ。
 リーダーが国法に背いた元罪人っていう噂だからね。
 再結成されるっていう噂もあるけど、ホントかしらね」

 彼女の発言に、他の冒険者パーティーの武闘家や魔術師たちが、横から口を挟む。

「大きなパーティーだったからなぁ。
 ゴタゴタが続いて、何人もの冒険者があぶれて……ウチも何人か雇い入れたよな、あのとき」

「うん。すぐに別のパーティーに移っていったけど」

「ウチには他のパーティーの情報もよく入ってくるから、探りを入れといてやるよ」

 僕は先輩方に対して、勢い良く頭を下げた。

「ありがとうございます!」

 冒険者組合は酒場を併設していて、様々な職種の先輩方が半分酔っ払いながらも、受付近くのテラスでたむろしている。
 正直、「鬱陶うっとうしいなぁ」としか思ったことがなかったが、今日、初めて、酔っ払いたちが頼もしく思えた。
 そうした〈酔いが回った先輩方〉が様々に話している内容を細かにメモしながら、僕が相槌《あいづち》を打っていると、斥候のエレノアさんが「そろそろ、宿に帰ろう」と勧めてきた。

 いつのまにか、夕方ーー食事時になっていた。

 でも、今日はかなりの収穫があった。
 ランドくんは、曰く付きの冒険者パーティーの解散にともなって、フリーになり、幾つものパーティーに臨時で協力し、幾つかの依頼クエストをこなしていた。
 最後に、王都近郊で最大の迷宮ダンジョンに潜ったことまではわかった。

「でも、ランドくんが所属していたパーティーは、地上に戻ってこなかったという話ですよね? ひょっとして……」

 調べた結果を、リイファに伝えるものかどうか悩んで、僕は口籠もる。
 が、エレノアさんは快活に笑う。

「なに言ってんのさ。
 これだから、ライ坊は、まだまだ坊やなんだ。
 いいか、あのデメロス迷宮は近場で最大の迷宮ダンジョンなんだぜ。
 潜ってから三年戻ってこないって程度は、よくあることだ」

「え!? そうなんですか?」

「ああ。迷宮ダンジョン内部に活動拠点を移して、たまに買い出しや換金のためだけに、地上にメンバーを派遣するパーティーってのも、幾つもあるんだ。
 長く潜ってるパーティーの中には、十年、二十年ってのもあるそうだよ」

「凄いですね! 驚きました。
 それならば、ランドくんも健在かもしれない」

 エレノアさんは夕陽を見上げながら伸びをしつつ、つぶやいた。

「そっかぁ。
 三年前っていえば、たしかにそれぐらいだったかな。
 多くの若いのが、出たり入ったりしてたの。
時の狩人ウチ〉も大変だったよ。
 使えないのばかり、多く入って来てさぁ」

 エレノアさんによれば、大きな冒険者パーティーが貴族と揉めて潰されたとき、何十人という規模の、多くの新人冒険者の移動があったという。
〈時の狩人〉にも入れ替わり立ち替わり、何人もの男女が出たり入ったりしたそうだ。

 エレノアさんをはじめとして、たいがいのメンバーは、新人の参入をこばみがちだった。
 だけど、リーダーの自称勇者バトラーさんが「来る者、拒まず。去る者、追わず」といった鷹揚おうような態度で接するため、S級パーティーに入りたい、と新人が殺到したのだそうだ。
 特にエルフのフレシアさんが、リーダーのバトラーさん以上に、新人を可愛がるので、頻繁ひんぱんに新人冒険者が入り込み、一時期は二十人を超すほどの大所帯となった。
 おかげで、〈時の狩人〉は冒険者組合から「S級パーティーとしての質が、保てるはずがない」と等級を下げる処分がくだされそうにまでなったという。
 だから、ランド少年が、一時期、短期間ながらも〈時の狩人〉の冒険に参加していたことすらあり得る、一緒に一つや二つの森や迷宮ダンジョンに潜っていたかもしれない、とエレノアさんは言った。

「たしかに、入るのは甘々なんだよね、〈時の狩人ウチ〉は。
 フレシアがいるから。
 でも、居残るには、ちと、厳しすぎるからな。
 若い新入りは、すぐ逃げちまう」

「でも、とにかく、お兄さん、生きてるかもしれないんですよね、その迷宮の中に!」

 リイファに〈朗報〉として、兄のことを伝えられそうな気がして、僕は喜んだ。

 僕はエレノアさんに問いかけた。

「僕が来てから、その迷宮ダンジョンに潜りましたっけ?
 そのデメロス迷宮っての」

「いや、潜ってない。
 ちょっと難易度高いんだよね。
 かなり古い迷宮ダンジョンでさ。
 一度死んだら、蘇生されることがないんだ。
 ライ坊やリイファちゃんには、まだ早いって思って……」

 王都近郊で最大のデメロス迷宮では、一度死んだら助からない。
 蘇生されないタイプの迷宮なのに、潜行したパーティーの幾つかが全滅してしまっていた。
 第二階層にすら辿たどり着けず、這々ほうほうていで逃げ帰ってきた連中も多い。
 だから、僕とリイファが一人前になるまで、デメロス迷宮に潜るのは避けていたという。
 斥候のエレノアさんは再び伸びをしてから、僕より背丈が小さいのに、爪先立ちになって僕の頭を撫でながら言った。

「でも、まぁいいか。
 ライ坊の大事なリイファちゃんのためだもの。
 お兄ちゃんを見つけてあげて、ポイントを稼がなきゃね!」

「そ、そんなんじゃありませんよ。
 リイファは妹みたいなもんです」

 僕は力いっぱい両手を振って否定したけど、顔が赤くなるのを止められなかった。
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