7 / 9
◆7 間違いない。これは、お兄ちゃんのものです! 私、一人でも探しに行きます!
しおりを挟む
王都近郊最大のデメロス迷宮の攻略は難航した。
この迷宮は今まで第六階層まであることが判明しているが、まだ先があるとも言われている。
多くの未踏破地域を残しつつ、階層のボスを倒さずに行ってもまだ先がある。
この迷宮に潜行した結果、数々の罠に引っかかって全滅したり、主要メンバーが欠けて解散するに至ったパーティーが、いくつも存在していた。
幸い、〈時の狩人〉は、七箇所以上も、今まで未発見だった地域の潜入に成功した。
リーダーの自称勇者バトラーさんや、武道修道士のランガさんが、強力な攻撃力を有するうえに、斥候のエレノアさんが探索技術に優れていた結果である。
ところが、得るものは少なく、リイファのお兄さんのランドも発見することがなかった。
特に第三階層は広大なために、マッピングも完全にされてはいない。
次の、森林地帯である第四階層も同様で、たとえリイファのお兄さんが所属するパーティーが潜っていたとしても上手く出会えるとは限らない。
今回、この迷宮に潜ってから、〈時の狩人〉は四十組以上のパーティーに遭遇し、共同戦線を張ったりして、罠を掻い潜り、魔物や中ボスを退治してきた。
だが、リイファのお兄さんの噂はとんと聞かなかった。
挙句、荷物係である僕が負傷してしまったことで、それがダンジョン攻略停滞の原因の一つとなっていた。
僕の活動の有無が、ダンジョン攻略の進捗に関わるということは、誇るべきことなのかもしれない。
けれど、やはり嘆かわしく思うべきことで、リイファのお兄さんを見つけることができないことも相まって、僕は忸怩たる思いにとらわれた。
だが、あの蛇に噛まれて以降、どうにも気力が出ない。
ちなみに、あれから二日かけて地上にまで戻り、すぐさま病院に駆け込んでいる。
すると、フレシアさんの治癒魔法が効いたのか、毒性は感知されず、僕自身の体力や魔力の減退も見られないので、生命力は相変わらずだった。
結果、「ゆっくり養生すれば回復するだろう」とお医者さんからお墨付きを得て、今は〈時の狩人〉の拠点宿〈愚か者の罠〉で休息している。
僕の活動休止を受け、すでに〈時の狩人〉は、大量の荷物をデメロス迷宮に持ち込むことをやめていた。
「ゆっくり休んだほうがいいわよ」
とフレシアさんは枕元で、僕に優しく寝かしつけるように言う。
彼女の後ろで仁王立ちする武道修道士のランガさんが、カッカカカと豪快に笑い、
「おまえに付きまとわれてたんじゃ、足手纏いなんだよ。休め、休め!」
と憎まれ口を叩く。
一方、リイファは跪いて僕の手を握り、涙を浮かべながらも、「ごめんね。でも私、行くから」と言う。
もちろん、彼女には、さらに迷宮に潜ってもらって、お兄さんを探して見つけてもらいたく思っていた。
僕のせいで迷宮攻略が停滞するのは、我慢ならない。
僕はベッドで半身を起こし、胸をトンと叩いた。
「こんな調子ですけど、後方支援は任せてください。
地上にいればこそ、やれることもあります!」
こうして僕は、みなが迷宮から持ち帰った宝物やドロップアイテムを換金するため、組合や商人とのやり取りに専念することにした。
それから、さらに一カ月ほどが経過した。
かなり身体は軽くなったけど、まだ少しゴホゴホと咳き込む。
体調は万全とは言えなかった。
それでも、リンゴやオレンジなどの果物は美味しくいただけるし、最近は肉の脂身まで食べれらるようになっている。
完全回復もすぐだろうと、みなもお医者さんも言ってくれた。
リーダーやランガさんなどは第三階層のラスボス攻略に忙しく、マッピングにかかり切りのエレノアさんもちっとも顔を出さなくなった。
それでも、リイファとフレシアさんは僕の許に頻繁に訪れ、一週間に一度くらいは一緒に地上に戻って来ては顔出してくれた。
迷宮の中に、幾つかの転移魔法陣を発見し、地上に戻りやすくなったのだという。
フレシアさんは優しく僕の頭を撫でてくれるし、その横でリイファが僕の手を握りながら「顔色も良くなって順調そうですね?」とニコニコしている。
なんだか女性二人に甘えまくる弟みたいで、恥ずかしい。
僕は頬を赤く染めながらも、口をへの字に曲げた。
「リイファもフレシアさんも、子供扱いはやめてください」
フレシアさんは「あらあら」と微笑みを浮かべ、僕の頭から手を離す。
でも、いつも通りにおどけてみせた。
「でもねえ、私から見たら、あなたは孫みたいなもの。
本当に小さなひよこみたいに可愛いのよ。
この子も一緒でね」
と、隣にいるリイファの頭を撫でる。
「この子、肌がすべすべしてて。
ほんと、若い子はいいのよね」
と、透き通るような肌をしたエルフが言う。
なんとも奇妙な感じがした。
ゴホゴホ咳が出る。
春が過ぎ、初夏に差し掛かったというのに、相変わらず寒い日々が続く。
「最近、冷える。寒いな」
「そうかなぁ?」
とリイファは首をかしげる。
その一方で、フレシアは大きくうなずき、「そうね」とつぶやく。
そうした穏やかな会合を何度か続けた後、変化が訪れた。
二週間後、リイファが勢い良く飛び込んできたのだ。
バタバタと音を立てて階段を昇ってきて、バタンとドアを開け、開口一番に叫んだ。
「お兄ちゃん生きてた! ダンジョンの奥にいるんだって!」
ベッドの上でパンを齧りながらぼんやりしていた僕の身体を抱き締め、顔を押し付けてきた。
ちょっと冷たい。
リイファは泣いていたようだ。
「フレシアさんが、お兄ちゃんのバンダナを見つけたのよ!」
僕がいない代わりに、荷物を運ぶのはランガさんの役回りになっていたが、荷物を管理する役目はリイファに押し付けられたらしい。
一刻も早く、お兄さんを探しに行きたいリイファだったが、経験も乏しい未熟な彼女が動くよりも、エレノアさんやフレシアさんが目や鼻を利かせた方が、はるかに罠を見抜け、魔物の動向も探ることができるから、仕方ない。
おとなしく荷物の番をする日々が続いていた。
結果、僕がしていたように、彼女もみなの荷物を預かって、次の攻略のための資材準備をするようになった。
そんなとき、フレシアさんのリュックから、見慣れたバンダナが発見されたのだ。
フレシアさんがもっていた荷物の中に、リイファはバンダナを見つけた。
真っ赤な色のバンダナで、白字で『北方のランド』と記されてあった。
「間違いない。これは、お兄ちゃんのものです!」
フレシアさんに尋ねたら、迷宮の第四階層に先行したときに見つけた、という。
リイファは、そうした経緯を早口で捲し立て、息を弾ませる。
その後、ゆっくりとした足取りで、フレシアさんがやって来た。
「まさかあのバンダナが、お兄さんのものだったなんてね。
それにしても、荷物係って怖いわね。
私の私物まで漁っちゃうなんて」
僕は笑った。
「仕方ないですよ。それぞれの私物も込みで管理しないと。
次のミッションをこなす準備をするのが役割ですから」
改めて問いかける。
「で、どこで見つけたんですか? そのバンダナ」
「リイファちゃんには言ったはずよ。
第四階層。
男どもが魔物やボス相手に張り切ってる間に、一歩先へ先行したら見つけたの。
持ち主は、まだ奥にいると思う」
「お兄ちゃんが生きてた!」
とリイファは喜び、僕の手を握ってブンブン振り回す。
第四階層は森林地帯と泉があり、そこを根城にしてさらなる階層踏破を目指す冒険者パーティーが十二組以上もあり、中には十年以上も滞在している冒険者もいると、フレシアさんは聞き込んできたという。
リイファは改めて拳を握り締めた。
「私、一人でも探しに行きます!」
彼女の威勢の良い宣言は、廊下にまで聞こえたようで、ダンジョンから帰ってきた他のメンバーたちがドヤドヤと僕のいる部屋に入り込んできた。
リーダーの自称勇者バトラーさんと武道修道士ランガさん、そして魔法使いハーベイさんといった男性陣の顔を見るのは久しぶりだ。
「ライ坊、元気だったか。
やっぱ、荷物はおまえに運んでもらわないとな」
「こんなにしょっちゅう地上に戻ってたんじゃ、一向に攻略が進まないよ。
でも、よかったなぁ、リイファちゃん。
お兄ちゃんが見つかりそうで」
僕と、僕の手を握って、ちょこんと隣でベッドに腰掛けるリイファを中心に、大人の冒険者たちが取り囲んで歓談を始めた。
「でも、第四階層も、湖のほとり以外は、かなり危ないし、湖の中にも見慣れない水生生物がいるってさ」
とエレノアさんが口を尖らせたら、ランガさんも大きくうなずき、
「リイファちゃんが先走ってんじゃ、危なっかしい。
特に第四階層への階段近くには、転移トラップが多いからな」
そこでリーダーのバトラーさんが、パンパンと手を打って話をまとめる。
「とりあえずは、すでにルートが開けているんだから、第四階層まで食糧や備品など、必要な荷物をまとめて、まっすぐ届けよう。
それから、他のパーティーと同じく、湖のほとりでテントを張って、拠点とすべきだろうね。
聞いたところによると、さらに第五、第六階層へと向かったパーティーが五つあったっていうから、その中の一つにリイファちゃんのお兄さんも紛れているかもしれないよ。
な、そう言ってたよな、フレシア?」
リーダーの知識は、どうやらフレシアさんの聞き込みから仕入れたものらしい。
フレシアさんはちょっと自信なさげにうなずく。
「ええ。噂に聞いた程度だけど」
こうした二人の会話を耳にして、リイファは目を爛々と輝かせた。
「私、第四階層で食事をとったら、すぐに第五階層に向かいます。
今度こそ、お兄さんに会える気がするんです」
彼女の喜びの声を耳にして、難色を示し、腕を組んだのは斥候のエレノアさんだった。
「水を差すようで悪いんだけど、第五階層以降は、ろくにマッピングされてないんだよね。
潜ったパーティーが幾つかいるみたいだけど、誰も地図を公開してくれてないのよ。
一歩、みんなより先に先行したんだけど、私の探索や索敵のスキルにも何の反応もなくって、嫌な雰囲気しかしない。
やっぱり、もっと武器や詮索のための杖とか、道具を装備してからじゃないと、私は行きたくないな」
要するに、商業組合や魔道具の店を漁って、いくつか調達したいものが揃られてからじゃないと、動く気がしない、それまで待ってくれないか、とエレノアさんは提案したのだ。
優秀な斥候らしい意見だった。
けれども、待ちきれないリイファは泣きそうな顔になる。
僕をはじめ、みながオロオロするが、そんなリイファに優しく声をかけたのがフレシアだった。
「わかったわ。心配いらない。
私が一緒に行くから」
そう言って、自らの肩に弓と矢筒を担ぐ。
ゆったりとした雰囲気のフレシアが、「みなは来なくてもいい」とまで断言した。
彼女がこれほど積極的になるのは珍しい。
一千年の経験を誇るエルフの協力を得ると知って、〈時の狩人〉のメンバーはみな、深く安堵した。
「だったら、安心だな」
「おお。吉報を待ってる」
「ありがとう。みなさん!」
リイファは涙を流しながら、フレシアさんに抱きつく。
抱擁し合う二人の女性を取り囲んで、仲間たちは微笑む。
そんな姿を、僕はベッドの上から眺めて、幸せな気分を味わった。
そして一刻も早く現場に復帰し、リイファやフレシアさんの手伝いをしたいと強く思った。
そして二週間後ーー。
ダンジョンから、エルフのフレシアさん独りが帰ってきた。
僕の妹分、〈ペンダントのリイファ〉はいなくなってしまったのだ。
この迷宮は今まで第六階層まであることが判明しているが、まだ先があるとも言われている。
多くの未踏破地域を残しつつ、階層のボスを倒さずに行ってもまだ先がある。
この迷宮に潜行した結果、数々の罠に引っかかって全滅したり、主要メンバーが欠けて解散するに至ったパーティーが、いくつも存在していた。
幸い、〈時の狩人〉は、七箇所以上も、今まで未発見だった地域の潜入に成功した。
リーダーの自称勇者バトラーさんや、武道修道士のランガさんが、強力な攻撃力を有するうえに、斥候のエレノアさんが探索技術に優れていた結果である。
ところが、得るものは少なく、リイファのお兄さんのランドも発見することがなかった。
特に第三階層は広大なために、マッピングも完全にされてはいない。
次の、森林地帯である第四階層も同様で、たとえリイファのお兄さんが所属するパーティーが潜っていたとしても上手く出会えるとは限らない。
今回、この迷宮に潜ってから、〈時の狩人〉は四十組以上のパーティーに遭遇し、共同戦線を張ったりして、罠を掻い潜り、魔物や中ボスを退治してきた。
だが、リイファのお兄さんの噂はとんと聞かなかった。
挙句、荷物係である僕が負傷してしまったことで、それがダンジョン攻略停滞の原因の一つとなっていた。
僕の活動の有無が、ダンジョン攻略の進捗に関わるということは、誇るべきことなのかもしれない。
けれど、やはり嘆かわしく思うべきことで、リイファのお兄さんを見つけることができないことも相まって、僕は忸怩たる思いにとらわれた。
だが、あの蛇に噛まれて以降、どうにも気力が出ない。
ちなみに、あれから二日かけて地上にまで戻り、すぐさま病院に駆け込んでいる。
すると、フレシアさんの治癒魔法が効いたのか、毒性は感知されず、僕自身の体力や魔力の減退も見られないので、生命力は相変わらずだった。
結果、「ゆっくり養生すれば回復するだろう」とお医者さんからお墨付きを得て、今は〈時の狩人〉の拠点宿〈愚か者の罠〉で休息している。
僕の活動休止を受け、すでに〈時の狩人〉は、大量の荷物をデメロス迷宮に持ち込むことをやめていた。
「ゆっくり休んだほうがいいわよ」
とフレシアさんは枕元で、僕に優しく寝かしつけるように言う。
彼女の後ろで仁王立ちする武道修道士のランガさんが、カッカカカと豪快に笑い、
「おまえに付きまとわれてたんじゃ、足手纏いなんだよ。休め、休め!」
と憎まれ口を叩く。
一方、リイファは跪いて僕の手を握り、涙を浮かべながらも、「ごめんね。でも私、行くから」と言う。
もちろん、彼女には、さらに迷宮に潜ってもらって、お兄さんを探して見つけてもらいたく思っていた。
僕のせいで迷宮攻略が停滞するのは、我慢ならない。
僕はベッドで半身を起こし、胸をトンと叩いた。
「こんな調子ですけど、後方支援は任せてください。
地上にいればこそ、やれることもあります!」
こうして僕は、みなが迷宮から持ち帰った宝物やドロップアイテムを換金するため、組合や商人とのやり取りに専念することにした。
それから、さらに一カ月ほどが経過した。
かなり身体は軽くなったけど、まだ少しゴホゴホと咳き込む。
体調は万全とは言えなかった。
それでも、リンゴやオレンジなどの果物は美味しくいただけるし、最近は肉の脂身まで食べれらるようになっている。
完全回復もすぐだろうと、みなもお医者さんも言ってくれた。
リーダーやランガさんなどは第三階層のラスボス攻略に忙しく、マッピングにかかり切りのエレノアさんもちっとも顔を出さなくなった。
それでも、リイファとフレシアさんは僕の許に頻繁に訪れ、一週間に一度くらいは一緒に地上に戻って来ては顔出してくれた。
迷宮の中に、幾つかの転移魔法陣を発見し、地上に戻りやすくなったのだという。
フレシアさんは優しく僕の頭を撫でてくれるし、その横でリイファが僕の手を握りながら「顔色も良くなって順調そうですね?」とニコニコしている。
なんだか女性二人に甘えまくる弟みたいで、恥ずかしい。
僕は頬を赤く染めながらも、口をへの字に曲げた。
「リイファもフレシアさんも、子供扱いはやめてください」
フレシアさんは「あらあら」と微笑みを浮かべ、僕の頭から手を離す。
でも、いつも通りにおどけてみせた。
「でもねえ、私から見たら、あなたは孫みたいなもの。
本当に小さなひよこみたいに可愛いのよ。
この子も一緒でね」
と、隣にいるリイファの頭を撫でる。
「この子、肌がすべすべしてて。
ほんと、若い子はいいのよね」
と、透き通るような肌をしたエルフが言う。
なんとも奇妙な感じがした。
ゴホゴホ咳が出る。
春が過ぎ、初夏に差し掛かったというのに、相変わらず寒い日々が続く。
「最近、冷える。寒いな」
「そうかなぁ?」
とリイファは首をかしげる。
その一方で、フレシアは大きくうなずき、「そうね」とつぶやく。
そうした穏やかな会合を何度か続けた後、変化が訪れた。
二週間後、リイファが勢い良く飛び込んできたのだ。
バタバタと音を立てて階段を昇ってきて、バタンとドアを開け、開口一番に叫んだ。
「お兄ちゃん生きてた! ダンジョンの奥にいるんだって!」
ベッドの上でパンを齧りながらぼんやりしていた僕の身体を抱き締め、顔を押し付けてきた。
ちょっと冷たい。
リイファは泣いていたようだ。
「フレシアさんが、お兄ちゃんのバンダナを見つけたのよ!」
僕がいない代わりに、荷物を運ぶのはランガさんの役回りになっていたが、荷物を管理する役目はリイファに押し付けられたらしい。
一刻も早く、お兄さんを探しに行きたいリイファだったが、経験も乏しい未熟な彼女が動くよりも、エレノアさんやフレシアさんが目や鼻を利かせた方が、はるかに罠を見抜け、魔物の動向も探ることができるから、仕方ない。
おとなしく荷物の番をする日々が続いていた。
結果、僕がしていたように、彼女もみなの荷物を預かって、次の攻略のための資材準備をするようになった。
そんなとき、フレシアさんのリュックから、見慣れたバンダナが発見されたのだ。
フレシアさんがもっていた荷物の中に、リイファはバンダナを見つけた。
真っ赤な色のバンダナで、白字で『北方のランド』と記されてあった。
「間違いない。これは、お兄ちゃんのものです!」
フレシアさんに尋ねたら、迷宮の第四階層に先行したときに見つけた、という。
リイファは、そうした経緯を早口で捲し立て、息を弾ませる。
その後、ゆっくりとした足取りで、フレシアさんがやって来た。
「まさかあのバンダナが、お兄さんのものだったなんてね。
それにしても、荷物係って怖いわね。
私の私物まで漁っちゃうなんて」
僕は笑った。
「仕方ないですよ。それぞれの私物も込みで管理しないと。
次のミッションをこなす準備をするのが役割ですから」
改めて問いかける。
「で、どこで見つけたんですか? そのバンダナ」
「リイファちゃんには言ったはずよ。
第四階層。
男どもが魔物やボス相手に張り切ってる間に、一歩先へ先行したら見つけたの。
持ち主は、まだ奥にいると思う」
「お兄ちゃんが生きてた!」
とリイファは喜び、僕の手を握ってブンブン振り回す。
第四階層は森林地帯と泉があり、そこを根城にしてさらなる階層踏破を目指す冒険者パーティーが十二組以上もあり、中には十年以上も滞在している冒険者もいると、フレシアさんは聞き込んできたという。
リイファは改めて拳を握り締めた。
「私、一人でも探しに行きます!」
彼女の威勢の良い宣言は、廊下にまで聞こえたようで、ダンジョンから帰ってきた他のメンバーたちがドヤドヤと僕のいる部屋に入り込んできた。
リーダーの自称勇者バトラーさんと武道修道士ランガさん、そして魔法使いハーベイさんといった男性陣の顔を見るのは久しぶりだ。
「ライ坊、元気だったか。
やっぱ、荷物はおまえに運んでもらわないとな」
「こんなにしょっちゅう地上に戻ってたんじゃ、一向に攻略が進まないよ。
でも、よかったなぁ、リイファちゃん。
お兄ちゃんが見つかりそうで」
僕と、僕の手を握って、ちょこんと隣でベッドに腰掛けるリイファを中心に、大人の冒険者たちが取り囲んで歓談を始めた。
「でも、第四階層も、湖のほとり以外は、かなり危ないし、湖の中にも見慣れない水生生物がいるってさ」
とエレノアさんが口を尖らせたら、ランガさんも大きくうなずき、
「リイファちゃんが先走ってんじゃ、危なっかしい。
特に第四階層への階段近くには、転移トラップが多いからな」
そこでリーダーのバトラーさんが、パンパンと手を打って話をまとめる。
「とりあえずは、すでにルートが開けているんだから、第四階層まで食糧や備品など、必要な荷物をまとめて、まっすぐ届けよう。
それから、他のパーティーと同じく、湖のほとりでテントを張って、拠点とすべきだろうね。
聞いたところによると、さらに第五、第六階層へと向かったパーティーが五つあったっていうから、その中の一つにリイファちゃんのお兄さんも紛れているかもしれないよ。
な、そう言ってたよな、フレシア?」
リーダーの知識は、どうやらフレシアさんの聞き込みから仕入れたものらしい。
フレシアさんはちょっと自信なさげにうなずく。
「ええ。噂に聞いた程度だけど」
こうした二人の会話を耳にして、リイファは目を爛々と輝かせた。
「私、第四階層で食事をとったら、すぐに第五階層に向かいます。
今度こそ、お兄さんに会える気がするんです」
彼女の喜びの声を耳にして、難色を示し、腕を組んだのは斥候のエレノアさんだった。
「水を差すようで悪いんだけど、第五階層以降は、ろくにマッピングされてないんだよね。
潜ったパーティーが幾つかいるみたいだけど、誰も地図を公開してくれてないのよ。
一歩、みんなより先に先行したんだけど、私の探索や索敵のスキルにも何の反応もなくって、嫌な雰囲気しかしない。
やっぱり、もっと武器や詮索のための杖とか、道具を装備してからじゃないと、私は行きたくないな」
要するに、商業組合や魔道具の店を漁って、いくつか調達したいものが揃られてからじゃないと、動く気がしない、それまで待ってくれないか、とエレノアさんは提案したのだ。
優秀な斥候らしい意見だった。
けれども、待ちきれないリイファは泣きそうな顔になる。
僕をはじめ、みながオロオロするが、そんなリイファに優しく声をかけたのがフレシアだった。
「わかったわ。心配いらない。
私が一緒に行くから」
そう言って、自らの肩に弓と矢筒を担ぐ。
ゆったりとした雰囲気のフレシアが、「みなは来なくてもいい」とまで断言した。
彼女がこれほど積極的になるのは珍しい。
一千年の経験を誇るエルフの協力を得ると知って、〈時の狩人〉のメンバーはみな、深く安堵した。
「だったら、安心だな」
「おお。吉報を待ってる」
「ありがとう。みなさん!」
リイファは涙を流しながら、フレシアさんに抱きつく。
抱擁し合う二人の女性を取り囲んで、仲間たちは微笑む。
そんな姿を、僕はベッドの上から眺めて、幸せな気分を味わった。
そして一刻も早く現場に復帰し、リイファやフレシアさんの手伝いをしたいと強く思った。
そして二週間後ーー。
ダンジョンから、エルフのフレシアさん独りが帰ってきた。
僕の妹分、〈ペンダントのリイファ〉はいなくなってしまったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
現代ダンジョンの苦情係 〜元クレーム処理担当の俺、魔物の言葉がわかるので菓子折り一つで世界を救う〜
ぱすた屋さん
ファンタジー
「その咆哮は、騒音公害に当たります」
現代日本に出現した『ダンジョン』と、そこから溢れ出す魔物たち。
人々が英雄(Sランク探索者)の活躍に熱狂する一方で、組織の闇に葬られた部署があった。
――ダンジョン管理ギルド・苦情係。
そこへ左遷されてきたのは、前職で数万件のクレームを捌き倒した伝説のカスタマーセンター職員・久我良平(くが りょうへい)。
彼にとって、新宿に降臨した災害級ドラゴンは「騒音を撒き散らす困ったお客様」であり、聖女の奇跡は「同意なきサービスの押し付け(強売)」に過ぎない。
「力」でねじ伏せる英雄たちが敗北する中、久我は「正論」と「どら焼き」と「完璧な事務手続き」を武器に、魔物たちの切実な悲鳴(クレーム)をハックしていく。
一癖も二癖もある仲間と共に、久我はギルド上層部の腐敗や外資系企業の傲慢な介入を次々と「不備」として処理していく。
これは、組織の鎖を断ち切った一人の事務屋が、人間と魔物の間に「新しい契約」を紡ぎ、世界を再起動させるまでの物語。
「――さて。予約外の終焉(ラグナロク)ですか? 承知しました。まずは、スケジュールの調整から始めましょう」
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる