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◆2 せっかく、ここまで来たんだからさ。行ってみようよ。都市伝説の検証ってことで。
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お酒を抜いた、翌日の夜ーー。
私たちは女性三人で噂の廃病院へ、肝試しに向かった。
都心から高速道路に乗り入れて西へと進み、H市を通り過ぎ、大きな人工の川を越え、山の中へと入って行く。
このまままっすぐ行けば沢があり、キャンプ場がある。
自然に囲まれた場所だ。
その道を少しUターンする形で、さらに山奥へと進む。
周囲より、かなり小高い場所に、噂の廃病院があった。
道すがらの車の中で、彩子はメガネをくゆらせながら、嬉々として廃病院についての蘊蓄を披露する。
彼女は、ハンドルを握る私の隣席に座っていたが、時折ナビを確認しては方角を示しつつ、コーヒーを淹れてくれたりしつつの演説だから、たいしたものだ。
いかにも塾講師らしく、抑揚をつけつつも、やや説教じみた口調で話すのが、彼女の特徴だった。
「その病院ではね、諸々の事情で、あまり表沙汰にならなかったそうなんだけど、何人も殺されてるらしいのよね」
彼女によれば、経営が成り立たずに廃業となった病院を舞台にして、シリアルキラーの若い男が、複数の女性を監禁したうえに殺人を犯したそうだ。
それ以来、怨みを残した女性の霊が出没する、との噂が後を絶たないとのこと。
加えて、事件発覚後、自殺したはずの殺人鬼がじつはまだ生きていて、今でも廃病院に訪れた女性を監禁し、殺し続けている、という。
まさに典型的な〈都市伝説〉であった。
とはいえ、彩子によれば、〈都市伝説〉が発生する根拠となった監禁・殺人事件は、実際にあったのだという。
当時の新聞によれば、廃病院ではなく、経営中の病院を舞台にしての事件であり、この事件があったせいで廃病院となったのが実情であった。
入院患者の男性が余命宣告されて自暴自棄となり、刃物で何人もの病人を殺した後に、見舞い客二人と看護師一名を監禁した。
全て女性で、二十代から三十代の三人が監禁され、一人だけが逃げることができた。
他はみな、犯人によって、刃物で手足を切断されたうえで、殺されたという。
そういった、週刊誌やネットのまとめ記事をベースにした〈事件のあらまし〉を語ったうえで、彩子は眼鏡を輝かせた。
「でもね、こういった〈実話〉ってされてるモノ自体が、都市伝説並みに話を盛られてたりするんだよね。
実際は、その後、その逃げた一人が交番に駆け込んだの。
その結果、警察が動いて、他の二人も助かった、っていうーー」
「なによ、それ?
だったら、怖くないじゃん」
そう声をあげたのは、後部座席で寝そべっている玲奈だ。
彼女は一人で缶チューハイを開け、酔いの回った舌を動かす。
「そもそも、彩子の言う〈実際の事件〉じゃ、誰も死んでなくね?」
彩子はムッとする。
誰かに抗弁されると、すぐにムクれる性格は相変わらずだった。
「なんで? ちゃんと話、聞いてた?
たしかに、監禁された女性はみんな助かってる。
でも、その前に、六人の患者さんを刃物で刺し殺してんだから、十分、酷いでしょ!?」
彩子は身を乗り出すようにして後ろを向き、叱責する。
「ーーそれに玲奈、なに一人で勝手に飲んで、酔っ払ってんのよ。
えりかは運転してんだから!
ちょっとは遠慮したらどうなのよ」
彩子に詰られても、いつものことで、玲奈はまるで意に介さない。
「ごめんて。でも久しぶりだからさぁ、三人で旅行ってさ」
彩子は大きく息を吐くと、話を戻す。
「でも、実話のほうに続きがあってね。
都市伝説以上に、コッチの事実のほうが怖いくらいなのよ。
監禁されてた三人とも助かったはずなんだけどさぁ、今じゃぁその三人ともが行方不明になってるってさ。
おかげで、三人でつるんで、またあの山の中の病院に行ったんじゃないかって噂されてるのよ。
病院に行ったきり、帰ってこないんだって」
玲奈が押し黙る。
私も、ハンドルを握る手が少し震えた。
「それこそ、都市伝説だよ」
私がまぜっ返したが、彩子は応じなかった。
「でも、ウチの塾でも割と成績が良い子が、まことしやかに語っているのよね。
なんでも、その生き残り三人のうちの一人が、近所のお姉さんなんだそうでーー」
私は車を道路脇に寄せて、ブレーキを踏む。
「なんだったら、やめにしない? 〈肝試し〉なんて」
私がそう提案したけど、玲奈が大声で反対した。
「行こう、行こう!
まさか、えりか、怖くなっちゃってんの?」
隣で、彩子は両手を合わせ、苦笑いしていた。
「ごめん。脅すつもり、なかった。
せっかく、ここまで来たんだからさ。
行ってみようよ。都市伝説の検証ってことで」
私は溜息をついた。
「なによ、二人して。
えらく乗り気じゃない?
ホラー映画だったら、真っ先に殺られるキャラみたいなこと言って」
あははは、と三人で笑った。
ワイワイガヤガヤとした、学生の頃に戻ったような気分だった。
私はアクセルを踏んで、再び高速に入った。
でも、このときに引き返せば良かったと本気で思うまで、いくらも時間はかからなかった。
私たちは女性三人で噂の廃病院へ、肝試しに向かった。
都心から高速道路に乗り入れて西へと進み、H市を通り過ぎ、大きな人工の川を越え、山の中へと入って行く。
このまままっすぐ行けば沢があり、キャンプ場がある。
自然に囲まれた場所だ。
その道を少しUターンする形で、さらに山奥へと進む。
周囲より、かなり小高い場所に、噂の廃病院があった。
道すがらの車の中で、彩子はメガネをくゆらせながら、嬉々として廃病院についての蘊蓄を披露する。
彼女は、ハンドルを握る私の隣席に座っていたが、時折ナビを確認しては方角を示しつつ、コーヒーを淹れてくれたりしつつの演説だから、たいしたものだ。
いかにも塾講師らしく、抑揚をつけつつも、やや説教じみた口調で話すのが、彼女の特徴だった。
「その病院ではね、諸々の事情で、あまり表沙汰にならなかったそうなんだけど、何人も殺されてるらしいのよね」
彼女によれば、経営が成り立たずに廃業となった病院を舞台にして、シリアルキラーの若い男が、複数の女性を監禁したうえに殺人を犯したそうだ。
それ以来、怨みを残した女性の霊が出没する、との噂が後を絶たないとのこと。
加えて、事件発覚後、自殺したはずの殺人鬼がじつはまだ生きていて、今でも廃病院に訪れた女性を監禁し、殺し続けている、という。
まさに典型的な〈都市伝説〉であった。
とはいえ、彩子によれば、〈都市伝説〉が発生する根拠となった監禁・殺人事件は、実際にあったのだという。
当時の新聞によれば、廃病院ではなく、経営中の病院を舞台にしての事件であり、この事件があったせいで廃病院となったのが実情であった。
入院患者の男性が余命宣告されて自暴自棄となり、刃物で何人もの病人を殺した後に、見舞い客二人と看護師一名を監禁した。
全て女性で、二十代から三十代の三人が監禁され、一人だけが逃げることができた。
他はみな、犯人によって、刃物で手足を切断されたうえで、殺されたという。
そういった、週刊誌やネットのまとめ記事をベースにした〈事件のあらまし〉を語ったうえで、彩子は眼鏡を輝かせた。
「でもね、こういった〈実話〉ってされてるモノ自体が、都市伝説並みに話を盛られてたりするんだよね。
実際は、その後、その逃げた一人が交番に駆け込んだの。
その結果、警察が動いて、他の二人も助かった、っていうーー」
「なによ、それ?
だったら、怖くないじゃん」
そう声をあげたのは、後部座席で寝そべっている玲奈だ。
彼女は一人で缶チューハイを開け、酔いの回った舌を動かす。
「そもそも、彩子の言う〈実際の事件〉じゃ、誰も死んでなくね?」
彩子はムッとする。
誰かに抗弁されると、すぐにムクれる性格は相変わらずだった。
「なんで? ちゃんと話、聞いてた?
たしかに、監禁された女性はみんな助かってる。
でも、その前に、六人の患者さんを刃物で刺し殺してんだから、十分、酷いでしょ!?」
彩子は身を乗り出すようにして後ろを向き、叱責する。
「ーーそれに玲奈、なに一人で勝手に飲んで、酔っ払ってんのよ。
えりかは運転してんだから!
ちょっとは遠慮したらどうなのよ」
彩子に詰られても、いつものことで、玲奈はまるで意に介さない。
「ごめんて。でも久しぶりだからさぁ、三人で旅行ってさ」
彩子は大きく息を吐くと、話を戻す。
「でも、実話のほうに続きがあってね。
都市伝説以上に、コッチの事実のほうが怖いくらいなのよ。
監禁されてた三人とも助かったはずなんだけどさぁ、今じゃぁその三人ともが行方不明になってるってさ。
おかげで、三人でつるんで、またあの山の中の病院に行ったんじゃないかって噂されてるのよ。
病院に行ったきり、帰ってこないんだって」
玲奈が押し黙る。
私も、ハンドルを握る手が少し震えた。
「それこそ、都市伝説だよ」
私がまぜっ返したが、彩子は応じなかった。
「でも、ウチの塾でも割と成績が良い子が、まことしやかに語っているのよね。
なんでも、その生き残り三人のうちの一人が、近所のお姉さんなんだそうでーー」
私は車を道路脇に寄せて、ブレーキを踏む。
「なんだったら、やめにしない? 〈肝試し〉なんて」
私がそう提案したけど、玲奈が大声で反対した。
「行こう、行こう!
まさか、えりか、怖くなっちゃってんの?」
隣で、彩子は両手を合わせ、苦笑いしていた。
「ごめん。脅すつもり、なかった。
せっかく、ここまで来たんだからさ。
行ってみようよ。都市伝説の検証ってことで」
私は溜息をついた。
「なによ、二人して。
えらく乗り気じゃない?
ホラー映画だったら、真っ先に殺られるキャラみたいなこと言って」
あははは、と三人で笑った。
ワイワイガヤガヤとした、学生の頃に戻ったような気分だった。
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