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◆5 助けてください。ここから脱け出させてください。お願いします。お殿様ーー!
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彩子は眼鏡を再び掛け直し、閉じ込められた状態から逃げ出せるキッカケとなりそうな〈いわく話〉を始めた。
「ここ、もともとはお城だった。
といっても有名なお城じゃなくって、交通の要衝を守る支城ーー砦みたいなものだった。
この病院が建ってるの、ちょうど本丸の御屋敷に当たるところだって。
砦を守る一族が、家族と一緒に住んでいたそうよ。
で、籠城の挙句、お城ごと焼かれたーー」
「ほんと、それ?」
玲奈が真面目な顔で問いかける。
彩子は残念そうな顔で、首を横に振る。
「詳しくは知らない。
でも、塾の後輩で日本史の講師に聞いたら、有名じゃないけど、結構、その戦、酷かったそうよ。
本城のお殿様の要請で、お侍さんの大半が駆り出されたあと、敵の本軍がコッチの支城に攻め寄せて来たって。
籠城して持ち堪えようとしたけど、結局、お侍さんはすべて討ち死に、女子供は自ら喉を突いて自害した、とか」
「自害って……」
玲奈はうげぇって舌を出す。
私も眉間に皺を寄せる。
「なによ。
廃病院の都市伝説っていうから、てっきり現代の呪いかと思ったら、古い歴史があるのね」
ここで彩子が、私たちに身を寄せてささやく。
「だから、お殿様にお願いするんだよ。
『外に出させてください』って。
『必ず、援軍を呼んで参ります』って。
そしたら外に出してくれるって。
そう、ウチの塾の子は言ってた」
「なに、それ。ネットに書いてあった?
ワタシ、知らないんだけど」
「マジかどうかなんて、やってみなきゃわかんないけどね。
でも、一人だけ逃げ出せたヒトがそう言ってたって、まことしやかに伝えられてるの。
実際、塾で生徒が話してたのは、その話でね。
近所の娘さんだって言ったでしょ。その生き残りさんが。
そのヒトがそう言ってたって、生徒が言ってたのよ。
これってヘタな噂話より、信憑性あると思わない?」
彩子は顔を紅潮させながら、訴える。
私は気圧されて、相槌を打つ。
「たしかに、都市伝説やネットの噂話を鵜呑みにするよりは……」
でも、さすがに疑念が頭にもたげた。
「でも、ここを戦場に見立てるのはいいけど、私たち、女だよ?
そんなこと、お殿様にお願いして、大丈夫なわけ?」
援軍を呼びに出るなんて、明らかにお侍さんの仕事だ。
女子供は結局、城に閉じ込められて一歩も出られないで自害にまで追い込まれたはず……。
私の疑問に、彩子は喉を詰まらせる。
だけど、そん状況にお構いなしに、玲奈が明るい声をあげた。
「女だからこそ、逃げ出せんじゃね?
史実の方はどうだったか知らないけど、実際の監禁事件で逃げ出せたヒトは、女性だったんでしょ?
ワタシ、やってみる。
お殿様を頭に思い描いて、祈ってみる!」
玲奈が率先して、目を閉じる。
それを見て、私も彩子と目を合わせて、うなずきあう。
「じゃあ、祈る!」
「うん! それしかない」
実際、いかに非科学的なことだろうと、私たちにやれることは、手を合わせて跪き、祈ることぐらいしかなかった。
私は強く目をつぶり、本気で祈った。
彩子が言った話に従って、ちょんまげを結ったお殿様を想像して、その前で平伏するイメージを持ちながら、実際に手術室の冷たい床に手をつき、ひれ伏した。
そして必死に祈った。
(助けてください。
ここから脱け出させてください。
お願いします。お殿様ーー!)
目で見たわけじゃないけど、きっと、私たち三人、心を合わせて、祈ってたと思う。
お殿様に平伏して、懇願するーー。
そして、目を開けたら、私は外にいた。
崩れかけた『立入禁止』の看板の前で、私独りだけが突っ立っていた。
「ここ、もともとはお城だった。
といっても有名なお城じゃなくって、交通の要衝を守る支城ーー砦みたいなものだった。
この病院が建ってるの、ちょうど本丸の御屋敷に当たるところだって。
砦を守る一族が、家族と一緒に住んでいたそうよ。
で、籠城の挙句、お城ごと焼かれたーー」
「ほんと、それ?」
玲奈が真面目な顔で問いかける。
彩子は残念そうな顔で、首を横に振る。
「詳しくは知らない。
でも、塾の後輩で日本史の講師に聞いたら、有名じゃないけど、結構、その戦、酷かったそうよ。
本城のお殿様の要請で、お侍さんの大半が駆り出されたあと、敵の本軍がコッチの支城に攻め寄せて来たって。
籠城して持ち堪えようとしたけど、結局、お侍さんはすべて討ち死に、女子供は自ら喉を突いて自害した、とか」
「自害って……」
玲奈はうげぇって舌を出す。
私も眉間に皺を寄せる。
「なによ。
廃病院の都市伝説っていうから、てっきり現代の呪いかと思ったら、古い歴史があるのね」
ここで彩子が、私たちに身を寄せてささやく。
「だから、お殿様にお願いするんだよ。
『外に出させてください』って。
『必ず、援軍を呼んで参ります』って。
そしたら外に出してくれるって。
そう、ウチの塾の子は言ってた」
「なに、それ。ネットに書いてあった?
ワタシ、知らないんだけど」
「マジかどうかなんて、やってみなきゃわかんないけどね。
でも、一人だけ逃げ出せたヒトがそう言ってたって、まことしやかに伝えられてるの。
実際、塾で生徒が話してたのは、その話でね。
近所の娘さんだって言ったでしょ。その生き残りさんが。
そのヒトがそう言ってたって、生徒が言ってたのよ。
これってヘタな噂話より、信憑性あると思わない?」
彩子は顔を紅潮させながら、訴える。
私は気圧されて、相槌を打つ。
「たしかに、都市伝説やネットの噂話を鵜呑みにするよりは……」
でも、さすがに疑念が頭にもたげた。
「でも、ここを戦場に見立てるのはいいけど、私たち、女だよ?
そんなこと、お殿様にお願いして、大丈夫なわけ?」
援軍を呼びに出るなんて、明らかにお侍さんの仕事だ。
女子供は結局、城に閉じ込められて一歩も出られないで自害にまで追い込まれたはず……。
私の疑問に、彩子は喉を詰まらせる。
だけど、そん状況にお構いなしに、玲奈が明るい声をあげた。
「女だからこそ、逃げ出せんじゃね?
史実の方はどうだったか知らないけど、実際の監禁事件で逃げ出せたヒトは、女性だったんでしょ?
ワタシ、やってみる。
お殿様を頭に思い描いて、祈ってみる!」
玲奈が率先して、目を閉じる。
それを見て、私も彩子と目を合わせて、うなずきあう。
「じゃあ、祈る!」
「うん! それしかない」
実際、いかに非科学的なことだろうと、私たちにやれることは、手を合わせて跪き、祈ることぐらいしかなかった。
私は強く目をつぶり、本気で祈った。
彩子が言った話に従って、ちょんまげを結ったお殿様を想像して、その前で平伏するイメージを持ちながら、実際に手術室の冷たい床に手をつき、ひれ伏した。
そして必死に祈った。
(助けてください。
ここから脱け出させてください。
お願いします。お殿様ーー!)
目で見たわけじゃないけど、きっと、私たち三人、心を合わせて、祈ってたと思う。
お殿様に平伏して、懇願するーー。
そして、目を開けたら、私は外にいた。
崩れかけた『立入禁止』の看板の前で、私独りだけが突っ立っていた。
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