アラサー超えの私たち、都市伝説で噂になってる廃病院にノリで行ってみたんだけど……

大濠泉

文字の大きさ
4 / 6

◆4 大体さぁ、こんなふうにいつまでも女同士でつるんでるから、私たち、彼氏ができないんじゃないの!?

しおりを挟む
 私たち、高山えりかと、新藤彩子、そして荒畑玲奈の女性三人が、山奥にある廃病院の手術室に閉じ込められてしまった。

 四方を白い壁にかこまれた手術室は、中央の扉しか出入口がなかった。
 みなで力一杯、何度も扉を押したり引いたりしても駄目だった。
 一向に開く気配はない。
 手術室は扉が閉じられている限りは完全な密室で、窓すらない。
 しかも防音処置がほどこされているみたいで、やたら静かだった。
 まるで外の様子がわからない。
 今が晴れなのか、雨なのかすらもわからない。

 幸い、みな、スマホを携帯し、腕時計をめていたから、時間はわかる。
 現在、夕方の六時十二分。
 昨夜遅くに侵入してから、かれこれ十八、九時間は経過していた。

「ざけんじゃないわよ!」

 私は何度もスマホで従業員たちと連絡を取ろうとした。
 私は雇われとはいえ、店舗運営を任されている店長なのだ。
 無断欠勤ができる立場ではなかった。
 あせって、最後には叫んでいた。

「嘘でしょ!?
 ここがいくら山の中といっても、車で来る途中、ナビも使えたし携帯もつながってたわよ。どうしてーー!?」

 この手術室が電波遮断する仕様になっているからなのか、そもそも山奥だからなのか、原因はわからないけど、とにかくアンテナが圏外のようで、誰にも電話がつながらない。

 玲奈は半笑いの表情で、話題を変えた。

「そんなことよりさぁ、いったい誰が私たちを閉じ込めたわけ?
 ここに来る間、ひとっこひとりいなかったじゃない?
 誰もいなかったでしょ?
 まさか幽霊かなにかが、いたっていうの?」

「もう! そんな非現実的な話は、どうでもいいじゃない。
 とりあえず、ここから出ることが肝心かんじんってことよ。
 出られさえすれば、普段の日常生活に戻れるんだから!」

 私は、ガンガンと扉を叩く。
 が、よほど頑丈がんじょうに造られているようで、びくともしない。
 扉の銀色が黒ずむ。
 私たち三人とも、今まで必死にドアを叩いたから、手の皮がけて血がにじみ出ていた。

 彩子が私の手を取って、首を振る。

「気持ちはわかるけど、えりかが一番、血が出てるんだから。
 あきらめて、手を洗って来なよ」

 私は力無くうなずく。
 幸い、手術室の隣に、お医者さんのための更衣室があって、そこの脇にトイレがあった。
 用を足した後、手を洗う。
 洗面台もあったので、水も飲める。
 だから、密室に長時間閉じ込められても、お腹が空く以外は、健康なままでいられた。

「でも、おかしいと思わない?
 ここ、どうして水道が通ってるわけ?
 廃病院なんでしょ。
 もう十年以上も営業していないはずよ」

「何だったって、良いじゃない。
 おかげで、水が飲めるんだから」

「まっとうな水かどうかなんて、わかんないじゃない?
 水道管なんか、びてたりしてさぁ……」

「うるさいわね。
 とっとと、ここから出られれば、どうとでもなるでしょう?
 出る方法、考えなよ!」

「だって、扉が一つしかないんだもん。
 その扉がびくともしないんだから、どうにもならないんじゃない!」

「あぁ、こんな時、男手が一つでもあればなぁ」

「男がいたって一緒でしょ。
 どうせ、自分は何にもしないくせに、腕を組んだままで、ガタガタ文句言うだけよ」

「そもそもさぁ、なんでこんなところに来たわけ?」

「彩子が連れてきたからじゃない?」

「私は連れてきてないわよ。
 率先して車を運転したのは、えりかでしょ?」

「なに? 私が悪いってわけ!?」

 私は頭に血がのぼり、甲高い声を張り上げた。

「いつもいつも私にばっかり料理作らせたり、車も運転させて!
 あなたたちが、私に何してくれたって言うのよ!
 いつもお酒持ってきたり、つまみ持ってきたりするだけで、タダで歓待かんたいしてあげてるコッチの身にもなってよね!」

 玲奈が負けじと声を上げる。

「うっさいわね!
『接客の練習になるから』って、私たちをしょっちゅうまねいてきたの、えりかでしょ!
 私も付き合うの、いい加減、うんざりしてたのよね。
 大体さぁ、こんなふうにいつまでも女同士でつるんでるから、私たち、彼氏ができないんじゃないの!?」

「彼氏がどうとか、この非常時に。
 玲奈って、ほんと、いつもいつも……」

 二人の視線が突き刺さる。
 玲奈は慌てて怒りの矛先を変えようとする。

「思い出してみなよ。
 こういった変なことがある時って、いつも率先して動いていくのって、彩子だよね?
 中学の修学旅行で京都行った時だって、わざわざ遠い場所のお寺に行くって言って、私たちを振り回して、結局、ずっと歩きっぱなしだったじゃない?
 結局、めんどくさいことに私たちがなっちゃうの、あんたのせいなのよ」

 さすがに彩子も、カチンときたらしい。
 眼鏡を掛け直して、言い返す。

「なによ、玲奈なんて、オトコに振られただの、れただのって、ガタガタ言うたびに、私がアリバイ作ってあげたじゃないの!?
 おかげで玲奈のお母さんと私、お茶を飲むほどの仲になっちゃったじゃない。
 あんたがズボラなんだから、もともとは単純なことを混乱させるのよ。
 私はね、塾の生徒から聞いた話を元ネタに事件現場を見てみて、授業の合間に『先生も行ってきたわよ』って話がしたかっただけなのよ。
 それが、そんなに悪いわけ?
 あんたみたいにオトコを追っかけてるばっかりじゃなくて、私は仕事のこと、考えてんだよ。これでも!」

「そんなこと言ったら、私にだって仕事はあるわよ。
 ディスカウントストアのレジもやってるけど、値札をつけたり、接客したり、いろいろこれでもやってるんだから。
 会社員なんだよ、ワタシはこれでも。
 塾の先生だからって、いつまでも威張らないでよ!
 ーーそうそう、威張ってるって言ったら、えりかもだよね?」

 玲奈は矛先を急に私に向け変えた。
 言いすぎたってことを、彩子の表情を見て察したんだと思う。
 だからって、私をディスる流れにするのはどうかと思うけど。

「店長になったからって偉そうに。
 アンタ、店長って言っても、正社員じゃないんでしょ?
 学生のバイターやフリーターと変わらない身分なんでしょ?
 契約でやとわれてるなんて、将来性ないわよ。
 私が演劇にヌマってた時、『演劇なんかやっても無駄。将来性がない』って言って!
『将来性がない』っての、どっちよ?
 ほんと、会社に使われてばっかで、先見の明がないんだから。
 そんなんだから、いつまでたっても同じことやって店も持てないの、あんたじゃない!?」

 私は玲奈の頬をバチンと平手打ちした。

「ほんとに、イライラするわね。
 アンタ、いっつも一言、多いのよ!
 ただでさえお腹もいてるのに、今ここから抜け出すこと以外に考える必要、何かあるわけ?
 私が店持ってるとか、持ってないとか、関係ないじゃない!」

 私の視界が少しボヤける。
 涙があふれ出てしまったらしい。
 彩子も同情してくれた。

「バカバカしい。
 そもそも玲奈の口から、正社員だの契約社員だのって言われても、何の説得力もないんだから。
 ほんとに玲奈は、アケスケに言ったらそれで良いって勘違いしてない?
 本音をぶつけてるから、それで良いっていうことでもないのよ」

 今度は玲奈が泣きそうな顔になる。
 それを見て、彩子も急に矛を収める。
 そして、私の方をマジマジと眺める。

「ーーでも、どうしてこんなところにまで来ちゃったんだろう。
 運が悪過ぎるわ。
 玲奈はわかるけど、どうしてえりかが反対してくれなかったの?」

 私はびっくりして彩子を見返した。
 それでも、彩子は澄まし顔で説教を始める。

「私は塾の生徒がしてた都市伝説の話をしたけど、まさか本当に事件現場にまで行っちゃうとは思わなかった。
 だいたいね、えりかが夜食用意したり車を運転したり、そういうふうにサービスするもんだから、みんなが後に退けなくなっちゃうのよ。
 えりかってさあ、世話を焼いたらそれで誰からもかれるって勘違いしてない?
 そうやってばかりだから、オトコに逃げられんのよ。
 あんたは、オトコに尽くしてばかり。
 学生時代付き合ってたマサトだってーー」

「関係ないでしょ、そんなの!」

 私は金切り声をあげた。

「彩子自身が、ついさっき言ってたでしょ!
 正しければ言って良いってことでもないのよ。
 それに、今の状況に何の関係があるわけーー」

 言い争いが加熱する。
 今度は、玲奈までもが乗ってきた。

「そうよ。彩子のその口振り、昔から嫌いだった。
 正論吐いてればそれで良いっていう、その態度。
 あなたも他人に説教する暇があったら、自分で身体カラダ、動かしなさいよ。
 典型的な頭でっかちの理屈倒れ。
 真面目なのに、中途半端な学力でさ」

「なによ、なによ!」

 今度こそ、彩子は泣き出した。
 眼鏡を取って、涙をぬぐう。
 それでも、玲奈は止まらない。
 今度は私の方を向いて、指をさして断言する。

「えりかもね、真面目に頑張ってたら、必ずむくわれるっていう幼稚な考え、良い加減、捨てなよ。
 最低、その考えを、私や他の人にまで押し付けるの、やめてくんない?
 重いんだよ。『頑張ってる私を見て』っていうの。
 そんなんじゃ、オトコは気が休まらない。逃げちゃうわよ!」

 悪口の言い合いが、終わらない。

 それなのに、私はなぜか次第に頭が冷えてきて、玲奈と彩子、二人の顔を正面から眺めていると、ストンと何かが抜け落ちた気がした。
 そして、大きく息を吸い込んで、自らに言い聞かせた。

(ここは落ち着くのよ。
 パニックにまれてはダメ。
 ただでさえ非常事態なのに、神経がまいっちゃう……)

 私は二人に呼びかけた。

「誰かが閉めたのかもしれないけど、詮索せんさくしても仕方ない。
 ここから出る方法だけを考えないと。
 だからね、ここは初めにかえって考えてみて。
 この廃病院の都市伝説では、閉じ込められた女性三人ともが全滅したってなってたけど、実際は違った。
 一人は逃げ出せた。
 そして、交番に駆け込んで、全員が助かったっていうんでしょ?
 ね、彩子?」

 彩子はうなずいた。

「ウチの塾の子がそう言ってた」

 私は二人の手を取った。

「だから、助かる方法はあるはず。ね、考えよ?
 まずは、その逃げ出せた一人になるのよ。その方法をーー」

「それで言うとーー使えるかもしれない蘊蓄ウンチクはあるの。
 その塾の子が言ってたんだ。
 この廃病院があった場所、元はお城だったんだって。
 戦国時代の」

 彩子は眼鏡をハンカチできながら言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

処理中です...