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第一章 領地でぬくぬく編
第33話 女神、願いを聞き受ける(★)
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朧月の微かな光が照らす修練場、ローラとモーラが、中央で向かい合う。
「本当に……いいのね?」
「ええ、お願い」
念のためローラが確認したが、モーラは本気のようだ。
決闘などと物騒なことをモーラがいい出したものだから、ローラは何事かと確認したのだ。
本来、貴族がいう決闘とは、敗者は勝者のいいなりになるのである。そう簡単に口に出していいものではない。だから、ローラは確認したのだ。どういう意味なのかと。
モーラ曰く、
『ユリアちゃんに勝てたことで自信を取り戻したといったけど、一度負けている時点でおかしいのよ』
だとか、
『今回勝てたのだって、たまたま実戦経験がないユリアちゃんだった訳で、次回はわからないわ』
だとか、
『師匠が指導したのだからあの剣技も頷けるわ。でも、魔法は、ローラ……あなたが指導したのでしょ?』
などといって、ローラの魔法と自分の魔法の違いを肌で感じるために、決闘を申し込むことにしたらしい。
モーラの真剣な表情を見てしまっては、ローラも断れなかった。
(まったく、何をいい出すかと思えば、これだからうちの人たちは……)
戦闘狂――とまではいわないが、関係ないにも拘らず、ダリル然り、セナやテイラーまでもが、ローラの魔法教練を意欲的に取り組んでいた。しかも、モーラとユリアの模擬戦のあと、ダリルとテイラーもユリアと模擬戦をしたいといい出す始末。
さすがの今日は、モーラの渾身の一撃をユリアが受けてしまったこともあり、遠慮してもらうことにした。ミリアに治癒魔法を掛けてもらえば、ユリアも戦えただろうが、ミリアとユリアには自重してもらったのである。
そう、ミリアは、ユリアがダメージを負ったことを喜んでいたのである。口に出さなくとも、ミリアの口元が緩んでおり、明らかだった。
ユリアもユリアで、
『大丈夫だ。英雄と戦えるなど騎士にとってこれ以上ない名誉! これくらいのダメージなら影響ないぞ』
と興奮した様子だったのである。
ローラは、英雄と呼ばれてまんざらでもない様子のダリルを調子付かせたくないのと、モーラが悲しそうな表情をしたこともあり、模擬戦を頑として許可しなかったのである。
それはさておき、ローラが嘆息してから頷く。
「じゃあ、ルールはどうする? 魔法眼持ちのわたしとじゃ、技術面では勝負にはならないわよ」
「そ、そうね。それは、わかっているわ。お願いした通り、決闘といったのは本気よ。だからといって、怪我をするほどのことは避けたいし、私個人としては、どれくらいの差があるのか知りたいのよ」
それは尤もなことだ。互いに憎しみ合っての決闘ではない。
(差を知りたい……ふーん、そういうことなのね)
ローラは、ようやく謎が解けた気がした。ユリアとの模擬戦では、あくまで剣技や経験によって結果が決まったのは否めない。モーラの悩みは、魔法詠唱であり、ローラの指導によりワンワード魔法の無詠唱に成功し、ふつうの攻撃魔法も省略できるまでになっていた。ただそれも、実戦形式では試していなかったのである。
どうやら、ローラを相手に、どこまでできるのか試したいようだ。
「わかったわ。じゃあ、お姉様は、好きに魔法を撃ってきてちょうだい。わたしが、詠唱の邪魔をするように魔法を放つから、それでもイメージを崩さずに魔法を撃てるかやってみて」
「でも、それじゃあ――」
「大丈夫。わたしは、一切怪我なんてしないから、全力でいいわよ」
大言壮語も甚だしい……そう、思われただろうか? いや、モーラは、口元を綻ばせてふっと笑った。
「そっかー、そこまで違いがあるのね。なんだか、自信が無くなってしまうわ」
「え、あっ、そ、そうじゃなくて、わたしはただ……」
「わかってるわよ。そんなに慌てなくてもいいわよ、ローラ。私は、どんな結果に終わろうとも、翼竜騎士団に入団するわ」
「む……」
ローラは、口元をへの字にする。なぜ、わたしは慌てているんだろうか? とローラが疑問符を浮かべる。しかも、ローラは、変な顔をしたつもりはないのだが、モーラに笑われてしまう。
「ふふ、そろそろ始めましょうか。いいわよ。私はいつでも」
「じゃあ、これを打ち上げるから、弾けたら試合開始よ」
ローラが右手を出して念じると、手の平に黄色く輝く光の玉が出現した。モーラが首を縦に振るのを確認し、ローラが閃光弾に意識を向けると、音もなく拳大の光球が夜空に昇る。そして、弾けた。
「大気に住まう風よ――」
モーラがすかさず詠唱を開始した。
(なによ。決闘とかいってわたしを気遣っているのかしら?)
モーラの詠唱から、風魔法だとすぐにわかった。が、ローラはガッカリだ。
「手加減してる場合じゃないわよ」
ローラが右腕を振っただけで風魔法のウィンドが発生し、モーラを軽く吹き飛ばす。手加減したつもりが、苛立ちから魔力を込めすぎたようだ。モーラが踏ん張り切れずに転倒してしまう。
詠唱の邪魔をするだけの予定だったが、これも已む無しである。そもそも、決闘なのだ。これくらいならば文句もいわれないだろう。
「ごめん、余計な考えだったわね。じゃあ、いくわよっ! 恵みを与える水よ、我の右手に集い――」
モーラが、立ち上がり、次なる呪文を唱え始めた。モーラは、水魔法が得意なのである。しかも、上位とされる氷魔法まで行使できるのだ。
おそらく、万が一を考えて、当たってもローラが怪我をする可能性が低い、ウィンドの魔法でもとモーラは考えたのだろう。ローラは、気に食わなかった。弟子に手加減されたようなものだ。
「ほらっ、もっと、イメージよ、イメージ!」
ローラが言葉を発する度に、小さな水球がモーラの足元に着弾する。もはや、でたらめだ。そもそも、ローラにとって詠唱は無駄な行為。べつに、いまのは呪文でも何でもない。
だがしかし、観戦者がいたならば、ローラが、「ほらっ」や「もっと」といったら、ウォーターボールが放たれるものだから、呪文と勘違いしそうな状況である。
本来、魔法士は後方支援職。安全が確保された場所からの攻撃が基本として戦術運用される。ローラの妨害行為は、モーラの集中力を搔き乱す。当たらないとモーラが油断して足を止めようものなら、気にせずローラが魔法を当てていく。モーラが入団しようと決心した翼竜騎士団は、魔法職の常識を打ち破る前衛型の騎士団なのだから、これくらいの妨害で集中力を乱されるようでは、お話にならない。
ただそれも、ローラがモーラを虐めているようにしか見えないだろう。
(なんか、これ、意外に面白いわね)
変な場所にスイッチが入ってしまい、ローラの妨害行為が、どんどん激しくなる。モーラは、呪文詠唱どころではないかもしれない。必死に口を動かしているモーラだが、ローラの無詠唱による連続攻撃に当たらないようにするのが精いっぱいのようだ。モーラは、あっちへ走り、こっちへ走り、はたまた飛び跳ねたりと、動き回っている。
(おっと、これじゃあ、何の意味にもならないわね)
ようやく、ローラが、趣旨がずれ始めていることに気付き、妨害の頻度を減らす。
「ごめん、お姉様」
手の平を合わせてローラが謝罪すると、モーラが、「ぜーはー」と肩で息をしているのだった。
一度だけ、モーラの詠唱が終わるまで邪魔をせずに待ってみる。無数の氷の玉が、ローラを襲う。
「え、ローラ!」
詠唱を完成させることに集中していたのだろう。アイスバレットが発動したことを喜んだように顔を綻ばせたモーラが一転、ローラが回避行動を取らないことに焦ったように叫んだ。
が、
「守りなさい、フィールドウォール!」
ローラは、わざと安心させるために適当に呪文っぽい言葉を叫ぶ。不可視の魔法障壁が展開され、氷が当たるたびにオレンジ色の波紋が広がる。
「やっぱり、魔力上げないとなー」
モーラの心配を他所に、ローラが反省する。モーラの攻撃を防ぎ切ったが、ローラとしては納得していない。モーラのイメージが強く込められている証拠かもしれないが、結構ギリギリだった。
「じゃあ、これくらいにしよっか」
言下、ローラが不敵な笑みを浮かべる。
「え、どういうこと?」
「お姉様に教えてあげるわ。これを武器に励みなさい!」
「えーっと、どういうこと?」
モーラは、意味がわからないようだ。それでも、ローラが説明をすることはない。身をもって体験してもらった方が早いだろう。
「この地に宿りし水よ、風よ、凍てつく氷の結晶よ、矛となって貫きなさい、アイスジャベリン!」
氷系の上級魔法をローラが唱えた。その実、ローラの魔力では、一〇〇分の一位の規模での発動だが、十分である。ローラの頭上に三メートルほどの氷の矛が出現し、モーラへと襲い掛かる。
「心配しないで、一〇〇分の一位の威力しかないから!」
「え、えーっと、守りなさい、フィールドウォール!」
威力が弱いと伝えても、モーラは身構えた姿勢を解こうとしない。モーラは、迫る鋭い氷の塊に危険を感じたのか、ローラが適当にいった呪文を真似して唱えるのだった。けれども、ローラは命中させるつもりはない。一直線にモーラへと突き進む氷槍の軌道を、直前で下へと変える。
途端、地面を抉りながらも、モーラに到達する前に氷が砕け散った。
「は、あはは……こ、これで、一〇〇分の、一なの?」
尻もちをついたモーラに土砂が降り注ぐ、魔法障壁が上手く作動したのか、埋もれることはなかった。
「どう?」
モーラに近付いたローラが尋ねる。
「ま、参りました……」
「あー、そっか、そうじゃないけど、まあいいわ。お疲れ様」
腕組みしていた腕を解き、ローラが右手を差し伸べる。モーラが手を取り立ち上がると、いきなり抱き着いてきた。
「ちょっとちょっと、お姉様?」
「ありがとう……」
「え?」
「ありがとう、ローラ……」
「あ、うん……」
本当は、アイスジャベリンのことを詳しく説明するつもりだったのだが、突然モーラが鼻を啜り上げ、泣き出してしまったので、タイミングを逃してしまった。
行き場を失った両手をモーラの背に回し、ローラは夜空へと視線を上げる。さっきまでの靄が嘘のように消えており、煌々と光る満月が煌めいていた。
(なによっ。あなただけ満足しちゃって。わたしの心は霞がかったままなのに……でも、これはこれで)
ローラは、モーラに抱きしめられた感触を心地よく思い、目を瞑るのだった。
「本当に……いいのね?」
「ええ、お願い」
念のためローラが確認したが、モーラは本気のようだ。
決闘などと物騒なことをモーラがいい出したものだから、ローラは何事かと確認したのだ。
本来、貴族がいう決闘とは、敗者は勝者のいいなりになるのである。そう簡単に口に出していいものではない。だから、ローラは確認したのだ。どういう意味なのかと。
モーラ曰く、
『ユリアちゃんに勝てたことで自信を取り戻したといったけど、一度負けている時点でおかしいのよ』
だとか、
『今回勝てたのだって、たまたま実戦経験がないユリアちゃんだった訳で、次回はわからないわ』
だとか、
『師匠が指導したのだからあの剣技も頷けるわ。でも、魔法は、ローラ……あなたが指導したのでしょ?』
などといって、ローラの魔法と自分の魔法の違いを肌で感じるために、決闘を申し込むことにしたらしい。
モーラの真剣な表情を見てしまっては、ローラも断れなかった。
(まったく、何をいい出すかと思えば、これだからうちの人たちは……)
戦闘狂――とまではいわないが、関係ないにも拘らず、ダリル然り、セナやテイラーまでもが、ローラの魔法教練を意欲的に取り組んでいた。しかも、モーラとユリアの模擬戦のあと、ダリルとテイラーもユリアと模擬戦をしたいといい出す始末。
さすがの今日は、モーラの渾身の一撃をユリアが受けてしまったこともあり、遠慮してもらうことにした。ミリアに治癒魔法を掛けてもらえば、ユリアも戦えただろうが、ミリアとユリアには自重してもらったのである。
そう、ミリアは、ユリアがダメージを負ったことを喜んでいたのである。口に出さなくとも、ミリアの口元が緩んでおり、明らかだった。
ユリアもユリアで、
『大丈夫だ。英雄と戦えるなど騎士にとってこれ以上ない名誉! これくらいのダメージなら影響ないぞ』
と興奮した様子だったのである。
ローラは、英雄と呼ばれてまんざらでもない様子のダリルを調子付かせたくないのと、モーラが悲しそうな表情をしたこともあり、模擬戦を頑として許可しなかったのである。
それはさておき、ローラが嘆息してから頷く。
「じゃあ、ルールはどうする? 魔法眼持ちのわたしとじゃ、技術面では勝負にはならないわよ」
「そ、そうね。それは、わかっているわ。お願いした通り、決闘といったのは本気よ。だからといって、怪我をするほどのことは避けたいし、私個人としては、どれくらいの差があるのか知りたいのよ」
それは尤もなことだ。互いに憎しみ合っての決闘ではない。
(差を知りたい……ふーん、そういうことなのね)
ローラは、ようやく謎が解けた気がした。ユリアとの模擬戦では、あくまで剣技や経験によって結果が決まったのは否めない。モーラの悩みは、魔法詠唱であり、ローラの指導によりワンワード魔法の無詠唱に成功し、ふつうの攻撃魔法も省略できるまでになっていた。ただそれも、実戦形式では試していなかったのである。
どうやら、ローラを相手に、どこまでできるのか試したいようだ。
「わかったわ。じゃあ、お姉様は、好きに魔法を撃ってきてちょうだい。わたしが、詠唱の邪魔をするように魔法を放つから、それでもイメージを崩さずに魔法を撃てるかやってみて」
「でも、それじゃあ――」
「大丈夫。わたしは、一切怪我なんてしないから、全力でいいわよ」
大言壮語も甚だしい……そう、思われただろうか? いや、モーラは、口元を綻ばせてふっと笑った。
「そっかー、そこまで違いがあるのね。なんだか、自信が無くなってしまうわ」
「え、あっ、そ、そうじゃなくて、わたしはただ……」
「わかってるわよ。そんなに慌てなくてもいいわよ、ローラ。私は、どんな結果に終わろうとも、翼竜騎士団に入団するわ」
「む……」
ローラは、口元をへの字にする。なぜ、わたしは慌てているんだろうか? とローラが疑問符を浮かべる。しかも、ローラは、変な顔をしたつもりはないのだが、モーラに笑われてしまう。
「ふふ、そろそろ始めましょうか。いいわよ。私はいつでも」
「じゃあ、これを打ち上げるから、弾けたら試合開始よ」
ローラが右手を出して念じると、手の平に黄色く輝く光の玉が出現した。モーラが首を縦に振るのを確認し、ローラが閃光弾に意識を向けると、音もなく拳大の光球が夜空に昇る。そして、弾けた。
「大気に住まう風よ――」
モーラがすかさず詠唱を開始した。
(なによ。決闘とかいってわたしを気遣っているのかしら?)
モーラの詠唱から、風魔法だとすぐにわかった。が、ローラはガッカリだ。
「手加減してる場合じゃないわよ」
ローラが右腕を振っただけで風魔法のウィンドが発生し、モーラを軽く吹き飛ばす。手加減したつもりが、苛立ちから魔力を込めすぎたようだ。モーラが踏ん張り切れずに転倒してしまう。
詠唱の邪魔をするだけの予定だったが、これも已む無しである。そもそも、決闘なのだ。これくらいならば文句もいわれないだろう。
「ごめん、余計な考えだったわね。じゃあ、いくわよっ! 恵みを与える水よ、我の右手に集い――」
モーラが、立ち上がり、次なる呪文を唱え始めた。モーラは、水魔法が得意なのである。しかも、上位とされる氷魔法まで行使できるのだ。
おそらく、万が一を考えて、当たってもローラが怪我をする可能性が低い、ウィンドの魔法でもとモーラは考えたのだろう。ローラは、気に食わなかった。弟子に手加減されたようなものだ。
「ほらっ、もっと、イメージよ、イメージ!」
ローラが言葉を発する度に、小さな水球がモーラの足元に着弾する。もはや、でたらめだ。そもそも、ローラにとって詠唱は無駄な行為。べつに、いまのは呪文でも何でもない。
だがしかし、観戦者がいたならば、ローラが、「ほらっ」や「もっと」といったら、ウォーターボールが放たれるものだから、呪文と勘違いしそうな状況である。
本来、魔法士は後方支援職。安全が確保された場所からの攻撃が基本として戦術運用される。ローラの妨害行為は、モーラの集中力を搔き乱す。当たらないとモーラが油断して足を止めようものなら、気にせずローラが魔法を当てていく。モーラが入団しようと決心した翼竜騎士団は、魔法職の常識を打ち破る前衛型の騎士団なのだから、これくらいの妨害で集中力を乱されるようでは、お話にならない。
ただそれも、ローラがモーラを虐めているようにしか見えないだろう。
(なんか、これ、意外に面白いわね)
変な場所にスイッチが入ってしまい、ローラの妨害行為が、どんどん激しくなる。モーラは、呪文詠唱どころではないかもしれない。必死に口を動かしているモーラだが、ローラの無詠唱による連続攻撃に当たらないようにするのが精いっぱいのようだ。モーラは、あっちへ走り、こっちへ走り、はたまた飛び跳ねたりと、動き回っている。
(おっと、これじゃあ、何の意味にもならないわね)
ようやく、ローラが、趣旨がずれ始めていることに気付き、妨害の頻度を減らす。
「ごめん、お姉様」
手の平を合わせてローラが謝罪すると、モーラが、「ぜーはー」と肩で息をしているのだった。
一度だけ、モーラの詠唱が終わるまで邪魔をせずに待ってみる。無数の氷の玉が、ローラを襲う。
「え、ローラ!」
詠唱を完成させることに集中していたのだろう。アイスバレットが発動したことを喜んだように顔を綻ばせたモーラが一転、ローラが回避行動を取らないことに焦ったように叫んだ。
が、
「守りなさい、フィールドウォール!」
ローラは、わざと安心させるために適当に呪文っぽい言葉を叫ぶ。不可視の魔法障壁が展開され、氷が当たるたびにオレンジ色の波紋が広がる。
「やっぱり、魔力上げないとなー」
モーラの心配を他所に、ローラが反省する。モーラの攻撃を防ぎ切ったが、ローラとしては納得していない。モーラのイメージが強く込められている証拠かもしれないが、結構ギリギリだった。
「じゃあ、これくらいにしよっか」
言下、ローラが不敵な笑みを浮かべる。
「え、どういうこと?」
「お姉様に教えてあげるわ。これを武器に励みなさい!」
「えーっと、どういうこと?」
モーラは、意味がわからないようだ。それでも、ローラが説明をすることはない。身をもって体験してもらった方が早いだろう。
「この地に宿りし水よ、風よ、凍てつく氷の結晶よ、矛となって貫きなさい、アイスジャベリン!」
氷系の上級魔法をローラが唱えた。その実、ローラの魔力では、一〇〇分の一位の規模での発動だが、十分である。ローラの頭上に三メートルほどの氷の矛が出現し、モーラへと襲い掛かる。
「心配しないで、一〇〇分の一位の威力しかないから!」
「え、えーっと、守りなさい、フィールドウォール!」
威力が弱いと伝えても、モーラは身構えた姿勢を解こうとしない。モーラは、迫る鋭い氷の塊に危険を感じたのか、ローラが適当にいった呪文を真似して唱えるのだった。けれども、ローラは命中させるつもりはない。一直線にモーラへと突き進む氷槍の軌道を、直前で下へと変える。
途端、地面を抉りながらも、モーラに到達する前に氷が砕け散った。
「は、あはは……こ、これで、一〇〇分の、一なの?」
尻もちをついたモーラに土砂が降り注ぐ、魔法障壁が上手く作動したのか、埋もれることはなかった。
「どう?」
モーラに近付いたローラが尋ねる。
「ま、参りました……」
「あー、そっか、そうじゃないけど、まあいいわ。お疲れ様」
腕組みしていた腕を解き、ローラが右手を差し伸べる。モーラが手を取り立ち上がると、いきなり抱き着いてきた。
「ちょっとちょっと、お姉様?」
「ありがとう……」
「え?」
「ありがとう、ローラ……」
「あ、うん……」
本当は、アイスジャベリンのことを詳しく説明するつもりだったのだが、突然モーラが鼻を啜り上げ、泣き出してしまったので、タイミングを逃してしまった。
行き場を失った両手をモーラの背に回し、ローラは夜空へと視線を上げる。さっきまでの靄が嘘のように消えており、煌々と光る満月が煌めいていた。
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