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27. 甘えてるの Side マティア

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【Side マティア】

 ポールが立ち去って、テオと二人並んで図書館に向かう。

戦いを止めるために、これからどうしたらいいのかを書籍を読んで考えたかった。

(どんな手を使ってでも‥‥‥。)

 険しい表情を浮かべるマティアの名前を呼ぶのはテオ。

 「マティア。」

 テオはマティアの手を掴んだ。その力は、とても弱い。マティアでも、簡単に振り払えるほどの力。

 「死んだっていい、なんていうなよ。」

 テオは、まっすぐにマティアを見つめた。真剣な表情。テオが触れる手は温かい。その熱は、心まで温めてくれる気がする。

 「俺は、マティアがいなくなってほしくない。」

 テオの言葉は、傷ついた心をじんわりと癒す。

 (ねえ、テオ。なんで貴方はそんなに優しいのかしら。)

 「私もよ。」

 「え?」

 「私もテオに居なくなってほしくないわ。」

 マティアはテオの手をそっと振りほどく。

 「テオも、本当は……私の傍にいたらいけないのよ。ポールだって言っていたでしょう?私は敵国の王女。命の保証すらない。」

 (私はテオに甘えてる。)

 でも、いつまでも彼の優しさを利用しているわけにはいかない。

 「テオ、バード国に帰って。自分の国で、いつも通りのんびり穏やかに暮らすのよ。」

 テオの周りにはいつも、穏やかな空気が流れている。マティアはその穏やかさが大好きで、ずっと続いてほしいと願っている。戦いとは関係のない、遠いところで。

 「同じこと、言ってるな。」

 テオは、笑って肩をすくめた。

 「え?」
 
 「ポールとマティア、同じことを言ってる。お前らはやっぱ、似てるんだ。」

 テオは太陽に手をかざし、眩しそうに眼を細めた。

 「俺は帰らないよ。マティアと……もう一人の馬鹿な親友を守りたいからな。」

 もう一人の馬鹿な親友……。思い当たる人は一人しかいない。

 「テオって……意外と頑固よね。」

 「こっちのセリフだよ。な、マティアは俺に帰ってほしいって言ったよな?」

 「ええ。」

 「きっと、あいつも同じ気持ちなんだよ。口では、マティアを傷つけてるけどさ。」

 「……わかっているわ。」

 時折、ポールは心配そうな顔でマティアを見る。マティアがポールを見ていない時はいつも、怖い顔をしていない。

 何度も帰れと言葉を重ねるのは、マティアを巻き込みたくないからだって気づいている。
 
 「だからこそ……ポールを助けたいの。まだ、あきらめたくない。自分がどうなってもいいから。」

 ポールはリックストン国騎士団長。先の戦いでも、何度も大けがを負い一度は死にかけたと噂で聞いた。次戦いが起こった時に、彼が生き伸びられる保証はない。

 「譲れないだろ?」

 柔らかい口調で、テオはマティアに尋ねる。

「ええ。」

 テオは、優しくマティアの頭を撫でる。

「んじゃあ、俺がマティアの傍に残ることも納得してくれるよな。俺も、マティアと、まったく同じ気持ちだよ。」

「え、ええ……。」

 何故だかわからないけれど、テオに丸め込まれてしまった。
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