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29. 一番最後まで君と Side マティア
しおりを挟む【Side マティア】
マティアは、毒が入った小瓶を握り締めたまま、その場に立ち尽くしていた。
”父親を止める”
マティアは、自分が何をするべきか理解した。だがその反面、その重圧に押しつぶされそうになる。
(何を怖がっているのよ。)
時間はない。ドントール国王がリックストン国を侵略するまで、あと一ヶ月もないのだ。ドントール国王がリックストンに流れる噂を知ったら、行動はもっと早いかもしれない。
(大丈夫、私はできるわ。)
息を大きく吸うが、手の震えは収まらなかった。
「マティア。」
立ち尽くしていたマティアを心配して、テオが探しに来たのだ。後ろからマティアの顔を覗き込む。
「険しい顔、してたぞ?」
テオの言葉にマティアは小さく微笑みをうかべた。
「そうかしら……。」
マティアは思わず、小瓶を握り締めた右手を背に隠す。だがテオは、そのしぐさを見逃してくれなかった。
「右手に持っているもの、見せてくれないか?」
テオは穏やかな表情でマティアに問う。
(なぜ……。)
父親から毒が入った小瓶を託されていることを、テオには知られたくない。テオに疑われたくない。
小瓶を見せても、テオはきっとそれが毒だとはわからないだろう。それでも、マティアは小瓶を見せることができなかった。
「なにも持っていないわ。」
マティアが付くのは、苦しい嘘。
「マティア、俺は知ってる。」
テオは耳元でささやく。テオの緑の瞳にマティアが映っている。
「え……?」
「その小瓶の中身。マティアの父親からそれをもらったんだろう?」
「なぜそれを……?」
「結婚式の日に、偶然マティアがドントール国王と話しているのを、聞いてしまったんだ。」
「嘘……。」
あの時、周りに誰もいないと思っていたドントール国王。彼はマティアにはっきりと、”ポールを殺せ”と言った。それをテオは聞いてしまったというのか。
(どうしよう……私は……)
頭が真っ白になる。
(テオは私を守ってるんじゃなくて……私からポールを守って……る?)
突如、優しく微笑むテオが味方なのかわからなくなる。
「私は……。」
(ああ、テオをどこまで信頼したらいい?私が毒を持っていることを、テオは誰かに言ったのかしら……?)
「だいじょうぶ。俺は言わない。」
言い聞かせるように、テオが言う。マティアの不安を感じとったのかもしれない。
「だけど、その小瓶で大切な人を傷つけることは、しちゃだめだ。」
(テオは、私の心の中を見透かしているのかしら。)
マティアがちょうど、この毒を使わなくてはいけないと思ったタイミング。テオはマティアに念を押す。
”毒を使うな”と。
「わかった……わ。」
マティアはテオから目をそらす。テオになんと言われようとも、この小瓶はマティアの数少ない武器の1つ。
「よろしい。」
テオはマティアの頭をポンポンとたたいて、本棚から席に戻っていく。
(何を考えているんだろう。)
大きくあくびをして、テーブルに突っ伏すテオ。さっきまでの真剣な表情は嘘のよう。
「あんまり、深く考えるな。俺はマティアの敵じゃない。さっき言った通りだ。守りたいから、側にいるだけ。」
頭をテーブルに預けて、テオはマティアを見上げる。
(テオはずるいわ。)
「信じてるわよ。」
「ああ。一番最後まで、何があっても、信じてくれな。」
照れくさそうにテオが笑う。
「いいアイディアは浮かんだか?」
「ええ、戦いは止められるわ。」
「どうやって?」
テオは体を起こすことなく、マティアに尋ねる。
「ドントール国王を、国王の座から降ろさなくちゃ。戦いの始まりはお父様だもの。」
「なるほどなぁ。」
そう答えた後、テオはあくびをする。
(なんでこの人は、ずっとのんびりしてるんだろう)
テオの態度に、高ぶったマティアの心が少し穏やかになる。
「その方法は?」
「各国の王族に手紙を書くわ。ドントール国王を追い詰めなくちゃ。」
テオはゆっくりと体を起こし、深くうなずいた。
「俺も手伝うよ。マティアならできる。」
◇◇◇
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