離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

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51. ティーナを愛してる side ブレイブ

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Side ブレイブ

「…会いたいよ…。」

目を覚ましてから、どれくらいの時間が経っただろう。

僕は、ベッドに横たわったまま、天井を見つめ、深く息を吐く。
目を覚ました翌日、一度だけ会いにきてくれたけれど、ティーナは自分のせいだと責めるばかりだった。
 
(会いたい。)
 
ただ、それだけだった。
 
僕はティーナが好きだから、守たくて。
その気持ちに一点の曇りもない。
倒れた時に見た、あの絶望に満ちたティーナの顔が、瞼に焼き付いて離れない。
僕は後悔なんて、していないのに。

「……ティーナ。」

思わず名前をつぶやいた時、扉が開いた。
 
入ってきたのはリリーだった。
いつもどおり、花柄のワンピースを着ている。
タイミングからして、今の独り言もきっと耳に入ったはずだ。
だが、リリーはそれに気づいていないふりをし、微笑んで見せた。

「ブレイブ。ずいぶん顔色が良くなってきたわね!」

あの日から、僕のそばで看病をしているのはリリーだった。
目を覚まして以来、リリーはずっと僕のそばにいて、世話をしてくれた。

「…ああ。」

もちろん、それをありがたく思う。
だが、胸の奥に違和感がある。
あの日、リリーはなぜか、勝手に俺の家に入っていたという。
何かを待ち構えるみたいに。
 
「体の調子はどう?」
「かなり良くなってきたよ。」
「本当に良かったわ。あの子のせいでブレイブが傷つけられた時は、ショックでどうしていいか分からなかったもの。」

リリーは僕の両手を握って言う。

「あの子?」
「ティーナのせいで、ブレイブは死にかけたのよ。そうでしょ?」
「違う。」

僕は即座に否定した。

「違くない。ブレイブのお父さんも言っていたし、国軍の調査でも、ティーナに恨みを持つ人間の犯行だって言っていたもの。」
「……本当にそう思っているのか?」
「何が言いたいの?」
「君は何も知らないのか?」
「知るわけないでしょ! 嫌な感じ!!」

(なあ、リリー。本当に知らないのか?)
 
本当に、ティーナを狙った人間が誰なのかを。
僕はもう、君の借金取りに金を払った。
普通なら、それでティーナに用はなくなるはずだ。
何者かがそこに関わっていない限りは。
リリーがこの事件に関わってるんじゃないか。
なんとなく、そんな気がしていた。

「あたしは、ブレイブのことを心配してるだけなのに!」

リリーは額に深い皺を寄せたが、その目は定まらなかった。
動揺しているようだ。
リリーは何かを隠している。

「……ティーナを呼んでくれないか?」
「どうして?」
「……」
「これ以上ブレイブを危険にさらしたくないから、ティーナは近づけない!」

そう叫ぶと、リリーは逃げるように僕の前から姿を消した。

        ***

リリーが部屋を離れた隙を見計らい、僕は松葉杖を手に取った。
右の脇腹はまだ鈍く疼く。
痛み止めを飲んでから動けばよかったと後悔したが、もう遅い。
それでも、会いたい気持ちが足を動かす。

(ティーナは泣いていないだろうか。)

「……ティーナ。」

庭に出たところで、ティーナの姿を見つけた。
ベンチに座り、肩を落とすティーナ。
そのそばにはレオンが立っている。

(ティーナと……レオン?)

僕は慎重に足を進めた。
ひどく嫌な予感がした。
 
彼女は泣いているように見える。
俺は息を呑み、声をかけられず、建物の影に身を隠した。

聞こえてきたのは、レオンの声。

「…ティーナを愛している。」

確かにレオンは……僕の偽物の…大好きでたまらない妻にそう言った。

僕は建物から少し顔を出し、2人の様子を覗き込む。
 
レオンはいつも通り無愛想だったが、その顔には怒りも苛立ちもなかった。
むしろ柔らかく見えた。
 
(何を話しているんだろう。)
 
ティーナは感情を押し隠すことが多いが、レオンと彼女の間には何か特別な結びつきがあると感じていた。
 
そして今、その確信が強くなる。

(やっぱり2人は……特別なんだ)

僕は両耳をふさいだ。ティーナの返事なんて聞きたくなかった。
自分を隣国まで迎えに来てくれた、幼馴染の元婚約者。

そんな男になんて答えるか…だなんで、考えたくもない。

僕は、ようやく心を決める。

もう、終わりにしよう。
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