離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

「ねえ、ブレイブ。自分でも分かっているんでしょう?あなたは妻《ティーナ》を愛していないの。あなたが愛しているのは、最初からあたしだけ。」
 
 思いがけず聞こえたその声に私はその場に立ち止まる。海岸にある大きな岩の影から、二人の男女が見つめ合っているのがはっきりと見えた。

「リリー……僕は……。」
「ずっと昔に約束したでしょう?二人で幸せになろうって。ねえ、ブレイブ思い出して。」

 茶髪の女性を見つめる男はブレイブ・ヴィギルト。ブレイブは一ヶ月前に結婚したばかりの私の夫だ。
 その夫を目に涙を浮かべて見つめる女の名はリリー。リリーはブレイブの幼馴染みで、元婚約者らしい。2人は親によって無理矢理、婚約破棄させられた過去がある。
 二人は私の姿に気がついていないようだ。私は、岩の影に隠れてブレイブとリリーの姿を食い入るように見つめた。
 「僕には妻がいるんだよ……リリー……。」
 「だからなに?」
 「それは……守られなくちゃいけない契約だ……君だってわかるだろ?」
 ブレイブの言葉を聞いて、私は心臓のあたりを押さえた。
「あたしとの約束はそれよりずっと前に結んだでしょう。ティーナとの結婚の様に嘘にまみれた汚らわしいものじゃなくて、もっと美しくて純粋なものよ。」
 リリーが一歩ブレイブに近づく。ブレイブはこちらに背を向けていて、彼がどんな表情を浮かべているのか分からない。
 「リリー……、分かってくれ。僕らはもう、あの時の二人じゃないんだ……。」
 「あたしはなにも変わらないわ。ブレイブの事を愛している、リリーのまま、ずっとあなたを待っていた。」
「リリー……。」

 苦しげな声で、ブレイブは幼馴染の名前を呼ぶ。

 私がブレイブと結婚してから、ずっと抱いていた違和感。彼はとても優しかったけれど、いつもどこか遠くを見つめていた。

「わかってよ、ブレイブ。あなたがあたし以外のものになるなんて許せないの。」
 
 リリーがゆっくりとブレイブの頬に手を伸ばした。ブレイブはその手を振り払わない。彼は微動だにせずその場に立っている。二人の影が、長く砂浜に伸びていた。

「愛しているわ、ブレイブ。嘘の結婚なんて終えて、あたしを愛してよ。」

 リリーはブレイブの顔を両手で挟んで言った。

 逆光がまぶしくて、私は目を閉じる。もしくは二人の姿を見ていたくなかったからかもしれない。

 再び目を開けたとき、ブレイブとリリーは口づけをしていた。

  ***


最初からわかっていた、私たちの結婚が嘘だって。それでも、信じたかったの。


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