離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

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54.ずっと昔から好きだった人 side ブレイブ

Side ブレイブ

「よし、行くか。」
僕が刺されてから、7日が経った。
朝、目を覚ますと、昨日より体がずっとよくなっているのが分かった。
(さっさと犯人を捕まえて、ティーナを自由にしてあげなくちゃ)

春の日。
カーテンを開けるとそこには、どんよりとした雲がのぞいている。

「あら! 体を起こせるようになったの! よかったわ! 今夜二人でディナーを食べに行きましょう!」

僕が自分のそばから離れていかないと信じ切っている顔。
そして僕も、リリーを愛していないといけないと、心のどこかで信じていた。

「どうしたの? 行きましょう!」

僕の手をつかむリリーの手をそっと振り払う。

「やめてくれ、行かないよ。」
「どうして?! ひどい‼ 私はブレイブの婚約者じゃない!」
「元婚約者、だよ、リリー。僕たちはもう、他人なんだよ。」

リリーは僕と婚約破棄をして、僕ではない男と結婚した。
どんな理由があったとしても、そこで僕とリリーの契約は終わっているのだ。

「僕たちはずっと前に、婚約破棄しているんだよ。」

リリーが焦った顔をしている。
僕の明確な拒絶を感じ取ったのかもしれない。
リリーは顔を真っ赤にして、目に涙をためて叫んだ。

「裏切り者‼ ねぇ! ちゃんとあたしのことを見てよ。あなたのママと一緒のことをするわけ?!」

リリーの言葉は僕自身が何度も自分に言い聞かせてきた言葉だった。
母親のようになりたくなかった。

僕は小さく笑う。

(なんで僕は、自分を捨てた元婚約者を想い続けることが誠実だと思い込んでたんだ?)

「僕は母様とは違うよ。」
「いいえ! 大切な約束を破るのだから、一緒よ!! なんてひどい人なの?!」

僕らはとっくの昔に関係が終わっていたのに、僕はそれに気づけなかった。
大切なものを失うまで気づけないなんて、僕は本当に馬鹿だ。

僕はリリーに背を向けて歩き出した。
もう僕に期待するのはやめてほしい。君は君の人生を生きてよ、リリー。
そう、口に出すことはなかった。
だって僕はまだ、リリーを利用しなくちゃいけないときが来るかもしれないから。

***



10年ほど前、平穏な僕の生活は終わりを迎えた。
「ねえ、ブレイブちゃん。ママと一緒にこんな国から逃げましょう。」

僕が16歳の時。
隣国との重要な交渉を後に控えた、パーティの夜だった。
母親のそばには、緑の瞳に、焦げ茶色の髪の男性が立っていて、母親の腰を抱いていた。

不気味な感じがした。
その男の顔に、見覚えがあった。
この人は隣国の大臣だ。
なぜこの人が、母の腰を親しげに抱いているのだろう。
それにこの人の目や顔は……。

「ママと一緒に行くわよね? ブレイブちゃん。」

普段は、それほど僕に関心のない母だった。
基本的に家にいることはなく、気まぐれにお菓子を買っては僕に与えて、一方的に可愛がってくれる、そんな人だった。

「行こう、ブレイブ君」

大臣の男が親しげに僕に言った。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
悲しいことに僕は、この大臣の顔を見慣れている。
大臣の顔は、僕と瓜二つだ。

でも、そんなこと認めたくなくて、僕は母に尋ねた。
「か、母様……この方は……?」
「私がずっと昔から大好きだった人よ。」

母は満面の笑みで言った。
「私たち、やっと本当の家族になれるのよ!」

そう言った母は、恍惚としていて恐ろしかった。
これは、駆け落ちだ。
そして僕は、父の本当の子どもではなく、この隣国の大臣の子どもなのだ……!
そんな事実が頭の中を駆け巡る。

「ぼ……僕は行きません! 僕はヴィギルト家の人間です!」

そう言うと母は酷く冷たい目をして、僕を見た。
「裏切り者」

次の日。母と、隣国の大臣が駆け落ちしたという噂が、城中を駆け巡って大騒ぎだった。
大臣は既婚者だったらしい。
相手方はメンツを潰されたと大騒ぎで、隣国とハルトン国の交渉は決裂した。

そして、僕の見た目に注目が集まった。
僕が隣国の大臣と見た目がそっくりだと皆が気付いたのだ。
リリーの親は僕に将来性がないと判断し、一方的にリリーとの婚約破棄を決めた。
そして、すぐにリリーには他の男との婚約が決まったという。

姿を表しているだけで、僕は陰口をたたかれた。
ブレイブ・ヴィギルトは不義の子だ……と。

「ごめんね……ブレイブ。」

僕にそうつぶやいたのは、すでにヴィギルト家を出て、宿を始めていたミミだった。
ミミの銀色の瞳。
それは、僕の血のつながらない父の目によく似ていた。

物心ついた時から僕のそばにいて、面倒を見てくれたミミ。
彼女は、僕の母と父が結婚する前に父が家の使用人との間にできた子どもである。
ミミもそれを知っていた。

「私のせいかもしれない。」

ミミは悲しそうにうつむいて、僕に言った。
「何も……言わないでくれ……頼む……。」

僕はミミの顔を見ることができなかった。
ヴィギルト家は信用を失い、僕は騒ぎから逃れるため、トール国に一人送られた。
父は表情一つ変えなかった。
多分、父は最初から知っていたのだと思う。
母にも、僕自体にもそれほど興味がなく、単に僕を必要な跡継ぎとして見ていたんだろう。

僕がティーナに出会ったのは、そんな時だった。

***

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