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55. いつか、君の力になるよ side ブレイブ
いつ、ハルトン国に帰れるかわからない。
トールの町は雪が降りしきっていた。
ルーナ・ドルトン。
彼女のコンサートには、沢山の人が押し寄せていた。
僕が座っていたのはホールの右側。
前から10列目くらいの場所。
ある少女の歌を聞いて、僕は大きく心を揺さぶられた。
「どうして……あんなに悲しそうに歌うんだろう……。」
小さな少女が歌を歌っている。
彼女の名前は、ティーナというのだという。
会場は、白い光をともしている。
なぜだかわからないけれど、少女の歌に胸を締め付けられて、知らぬ間に僕はぽろぽろと涙を流していた。
(……どうかしている)
僕は立ち上がって、その場を後にした。まだコンサートは終わっていない。
ホールを出て、入口から外に出ようとしたときだ。
「ね……怖いことがあったの?」
ふいに後ろから声がして振り返ると、そこには小さな歌姫ティーナが立っていた。
彼女に泣いていたことがばれたのが恥ずかしくて、熱が顔に集まった。
(どうして彼女がここに……?)
まだ、ルーナ・ドルトンのコンサートが続いているはずだ。
真っ白いドレスを着たティーナは、両手をぎゅっと握った。
歳は10歳か11歳くらいだろうか。
「どうして……?」
動揺が悟られないように、僕はゆっくりと彼女に尋ねた。
「わたし、わかるの。歌を歌ってるときに、とっても悲しい人がいると、わかるの。」
ティーナは両手を僕のほうに見せると、両手が白くぽーっと光った。
(なんて美しい魔力だろう……)
そういえば、ティーナが歌っている間中、会場には白い光が舞っていた。
(会場中にティーナの魔法が及んでいたのか……)
だから、泣いてしまったんだろうか。
ティーナの魔法は、柔らかくて、優しい魔法だ。
ティーナは白く光る手でポケットに入れていた花を両手でつかんだ。
白い花は、ピンク色に染まった。
「これ、あげる。」
ティーナは真剣な顔をして、僕にその花を渡した。
「元気……でるかもしれないから。」
小さい声で、伏し目がちな目で、ティーナはそう言って花を僕に差し出した。
「……ありがとう。」
ピンク色の美しい花を僕は受け取った。
「……素敵な魔法だね……。」
涙をこらえることはできなかった。
そのピンク色の花からは、優しくて甘い匂いがした。
この小さな少女は、見ず知らずの他人のために、誰かを元気づける魔法をかけたのだ。
「あ……えっと……」
僕は、膝に手を当てて、ティーナと目を合わせた。
「ありがとう……君のおかげで、僕は……元気になった。」
「よかった……」
ティーナは本当にうれしそうに笑った。
母は僕を裏切り者と言い、父は僕に興味がない。
城の人々は、僕を汚らわしいもののように見る。
だけど、この小さな少女は、なんの関わりのない僕を元気づけようとしてくれた。
「いつかきっと、君の力になるよ。」
そう言うとティーナは笑顔で首を振って、その場を小走りで去っていった。
多分、この日の出来事を、ティーナは覚えていないだろう。
あの後気になって、ホールの人に尋ねたのだが、ティーナは僕以外の人にも、時折ああして元気づける花を渡しているらしい。
それを悪用しようとする者が現れないのは、ティーナが本当に傷ついている者を見抜いて花を渡しているからだろう。
皆、ティーナに感謝しており、ティーナに害が及ばないよう、願っていた。
「あの子は、魔法歌手病にかからないといいけどねぇ……」
かつてティーナに花をもらったというおじいさんはつぶやいた。
「魔法歌手病ですか……?」
「ああ。そうじゃ。この国の偉大な魔法歌手は皆、若くして亡くなっている。魔法歌手病という、原因不明の病によってな。」
ティーナは歌っている間、ホール中に魔力を張り巡らせていた。
あれだけの魔力を短時間に放出し続けたら、寿命が縮んでしまうのも、当然である気がする。
「ティーナちゃんに、幸せになってほしいねぇ……。」
「はい……本当に、そう思います。」
ティーナからもらった花は、とても丁寧に扱っていたけれど、数年後には消えてなくなってしまった。
ちょうどそれは、僕が、アドルフの側近として城に戻り、少しずつつらい過去を忘れ始めたのと同じころである。
トールの町は雪が降りしきっていた。
ルーナ・ドルトン。
彼女のコンサートには、沢山の人が押し寄せていた。
僕が座っていたのはホールの右側。
前から10列目くらいの場所。
ある少女の歌を聞いて、僕は大きく心を揺さぶられた。
「どうして……あんなに悲しそうに歌うんだろう……。」
小さな少女が歌を歌っている。
彼女の名前は、ティーナというのだという。
会場は、白い光をともしている。
なぜだかわからないけれど、少女の歌に胸を締め付けられて、知らぬ間に僕はぽろぽろと涙を流していた。
(……どうかしている)
僕は立ち上がって、その場を後にした。まだコンサートは終わっていない。
ホールを出て、入口から外に出ようとしたときだ。
「ね……怖いことがあったの?」
ふいに後ろから声がして振り返ると、そこには小さな歌姫ティーナが立っていた。
彼女に泣いていたことがばれたのが恥ずかしくて、熱が顔に集まった。
(どうして彼女がここに……?)
まだ、ルーナ・ドルトンのコンサートが続いているはずだ。
真っ白いドレスを着たティーナは、両手をぎゅっと握った。
歳は10歳か11歳くらいだろうか。
「どうして……?」
動揺が悟られないように、僕はゆっくりと彼女に尋ねた。
「わたし、わかるの。歌を歌ってるときに、とっても悲しい人がいると、わかるの。」
ティーナは両手を僕のほうに見せると、両手が白くぽーっと光った。
(なんて美しい魔力だろう……)
そういえば、ティーナが歌っている間中、会場には白い光が舞っていた。
(会場中にティーナの魔法が及んでいたのか……)
だから、泣いてしまったんだろうか。
ティーナの魔法は、柔らかくて、優しい魔法だ。
ティーナは白く光る手でポケットに入れていた花を両手でつかんだ。
白い花は、ピンク色に染まった。
「これ、あげる。」
ティーナは真剣な顔をして、僕にその花を渡した。
「元気……でるかもしれないから。」
小さい声で、伏し目がちな目で、ティーナはそう言って花を僕に差し出した。
「……ありがとう。」
ピンク色の美しい花を僕は受け取った。
「……素敵な魔法だね……。」
涙をこらえることはできなかった。
そのピンク色の花からは、優しくて甘い匂いがした。
この小さな少女は、見ず知らずの他人のために、誰かを元気づける魔法をかけたのだ。
「あ……えっと……」
僕は、膝に手を当てて、ティーナと目を合わせた。
「ありがとう……君のおかげで、僕は……元気になった。」
「よかった……」
ティーナは本当にうれしそうに笑った。
母は僕を裏切り者と言い、父は僕に興味がない。
城の人々は、僕を汚らわしいもののように見る。
だけど、この小さな少女は、なんの関わりのない僕を元気づけようとしてくれた。
「いつかきっと、君の力になるよ。」
そう言うとティーナは笑顔で首を振って、その場を小走りで去っていった。
多分、この日の出来事を、ティーナは覚えていないだろう。
あの後気になって、ホールの人に尋ねたのだが、ティーナは僕以外の人にも、時折ああして元気づける花を渡しているらしい。
それを悪用しようとする者が現れないのは、ティーナが本当に傷ついている者を見抜いて花を渡しているからだろう。
皆、ティーナに感謝しており、ティーナに害が及ばないよう、願っていた。
「あの子は、魔法歌手病にかからないといいけどねぇ……」
かつてティーナに花をもらったというおじいさんはつぶやいた。
「魔法歌手病ですか……?」
「ああ。そうじゃ。この国の偉大な魔法歌手は皆、若くして亡くなっている。魔法歌手病という、原因不明の病によってな。」
ティーナは歌っている間、ホール中に魔力を張り巡らせていた。
あれだけの魔力を短時間に放出し続けたら、寿命が縮んでしまうのも、当然である気がする。
「ティーナちゃんに、幸せになってほしいねぇ……。」
「はい……本当に、そう思います。」
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