離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

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56. 迎えにきたよ side ティーナ

side ティーナ

私はぼんやりと湖を眺めていた。
お腹に手を当てた。
少しずつ、このお腹が膨らんでいくのだろう。
私が妊娠に気が付いたのは遅かった。
このお腹の赤ちゃんとさよならするなら、一刻も早く処置を始めなくてはいけないだろう。
私は小さい石を湖に投げた。

「…幸せにしてあげられるかな…。」

私は望まれずに生まれた子どもだ。
実の母親から、まともに愛された記憶がない。
今だって、唯一の取り柄だった歌を歌えない。
それでも、私は。

「早く…会いたいな…。」

小さく、笑った。
あの夜、私はブレイブに命を救われて、生きたいと願った。
その時にできた大切な子どもを、私が手放せるはずがなかった。

「戻ろ…。」

この街を旅立つ支度をしなくては。ブレイブにこの事実を知られるわけにはいかないのだ。
私が立ち上がった時。

「やあ、ティーナ。」

甘い声がして振り返ると、そこには、第三王子アドルフが立っていた。

「…アドルフ王子。どうして」
「ティーナを迎えに来た。」

そう言うと、アドルフ王子はにっこり笑った。
わけがわからない。
本物だろうかと目を凝らすけれど、やはりアドルフ王子だ。

「歌、歌えたでしょう?」

アドルフ王子は、楽しそうに私に尋ねた。
まるで、なんでも見透かしたみたいに。
「少し……だけ。」
「僕には分かっていたよ。だから、そろそろティーナを迎えに行かないといけないなって、思ってたんだ。」

アドルフ王子は、私に手を差し出した。

「一体……何を……?」

この人は、何を知っているんだろう。
訳が分からなくて、差し出された手を掴むことができない。

その手を取ったら、何かが変わってしまいそうで。
アドルフ王子は、まっすぐに私を見た。

「ティーナを迎えに行ってほしいって言ったのは、ルナ・ダルトンだよ。」
「師匠…?」
「ああ。前にも言ったことあると思うんだけど、僕は昔、ティーナの師匠であるルナ・ダルトンに会ったことがある。」
「師匠は、殿下に……一体何を伝えたんですか……?」
「それを知る、覚悟はある?」

アドルフ王子は、楽しそうに手をフリフリと振った。
私が、殺してしまった師匠。
ルナ・ダルトンは私に、一体何を伝えたかったというのだろう。

「わ……わたし。」

アドルフ王子は大きな瞳で、私の目を見つめ、見透かしたように言う。

「いま、ティーナの大切なもののために、知りたいんじゃないの?」

その言葉で、覚悟が決まった。
私は、アドルフ王子の手を取った。

「教えて、ください。師匠は殿下に、一体何を伝えたんですか?」

木枯らしが吹く。
湖に、一羽、鳥が降り立って水飛沫が立った。

「ティーナが歌が歌えなくなるように仕向けた…まあ言ったら呪いをかけたのは…ルナ・ダルトン、君の師匠だよ。」

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