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4.そんなに、あの女が好きなの?
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「それとも…他に何か隠し事があるのかしら?」
ラーニャの言葉に、レンビードが勢いよく顔を上げた。
「…何が言いたい?」
「レンビード、あなたは…。」
「ラーニャ様。」
ラーニャの言葉を執事ステフが遮った。執事ステフは、白い髭を弄りながら、ラーニャを見上げる。執事ステフは、ラーニャが殺されたかけたこと、それからその首謀者がステフではないかと疑っている。だが、今そのことを伝えるべきではないと諭しているのだろう。
「部外者は引っ込んでろっ!」
「その…向こうから、メイドのメル様がこちらの部屋に向かって歩いてくるのが見えたものじゃから…。」
「え!メルが?!裸で戻ってきたの?」
「いえ、先ほどとは違い服を着ていますのう。」
「見たのかジジイ!」
「見たかったわけではないのですがのう。まさか、ご夫婦のために用意したお部屋で、白昼堂々と…情事に励んでおられるとは、まあ、思いもよりませんでしたからのう。」
「おっ、お前っ!」
レンビードが顔を真っ赤にして、執事ステフに拳を振り上げた。
「おや、レンビード様。貧弱な爺にそんな真似はおよしくださいっ。」
「うるさいっ、主人に無礼を働くとは!」
「馬鹿ね、落ち着きなさい、レンビード。事実でしょ。」
ラーニャは、静かに執事ステフとレンビードの間に割って入った。
「そんなに、あの女が好きなの?」
(私を殺そうとするほどに…?)
もしも、離婚しない状態でラーニャが死ねば、レンビードはラーニャの跡を継いでタイラス家の当主になることができる。つまり、貴族のままでいられるのだ。当主になってから、メイドのミルを改めて妻にするつもりなのだろうか。
「僕は…」
結婚当初、二人の関係は良好で、お互いに愛し合っていた。それが崩れ始めたのは、結婚して半年経った頃。
ラーニャがクサーズ国騎士団の入団試験に合格し、同時期にレンビードがクサーズ国の宮廷音楽隊試験に不合格となったのだ。ラーニャがずっと騎士を夢見ていたのと同じくらい、レンビードは幼い頃から、宮廷音楽家になりたいと望んでいた。
そのために、ずっと努力していたし、本人も宮廷音楽家になれると信じて疑わなかったのだろう。不合格だったレンビードは酷くショックを受けて、あんなに毎日練習していたバイオリンを弾くことができなくなった。さらに悪いことに、その頃ラーニャは、騎士としての訓練に追われて、レンビードの側に居てあげることができなかった。
ラーニャが騎士になって一年経った頃。遠征から帰って、1ヶ月ぶりに家に帰ると、レンビードに怒鳴られた。
『なんで女のくせに、騎士なんかやってんだよ!』
『なんでそんなこと言うの?!騎士になるのはずっと私の夢だったって、レンビードだって知ってるでしょう?!』
『そんなの…子供頃に言っていたことを、信じるわけないだろう!』
『お、応援してくれてるんじゃなかったの?!』
『妻が騎士でいることを、応援するわけないだろう!』
『そんなっ…なんで…。』
***
ラーニャの言葉に、レンビードが勢いよく顔を上げた。
「…何が言いたい?」
「レンビード、あなたは…。」
「ラーニャ様。」
ラーニャの言葉を執事ステフが遮った。執事ステフは、白い髭を弄りながら、ラーニャを見上げる。執事ステフは、ラーニャが殺されたかけたこと、それからその首謀者がステフではないかと疑っている。だが、今そのことを伝えるべきではないと諭しているのだろう。
「部外者は引っ込んでろっ!」
「その…向こうから、メイドのメル様がこちらの部屋に向かって歩いてくるのが見えたものじゃから…。」
「え!メルが?!裸で戻ってきたの?」
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「おっ、お前っ!」
レンビードが顔を真っ赤にして、執事ステフに拳を振り上げた。
「おや、レンビード様。貧弱な爺にそんな真似はおよしくださいっ。」
「うるさいっ、主人に無礼を働くとは!」
「馬鹿ね、落ち着きなさい、レンビード。事実でしょ。」
ラーニャは、静かに執事ステフとレンビードの間に割って入った。
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もしも、離婚しない状態でラーニャが死ねば、レンビードはラーニャの跡を継いでタイラス家の当主になることができる。つまり、貴族のままでいられるのだ。当主になってから、メイドのミルを改めて妻にするつもりなのだろうか。
「僕は…」
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ラーニャがクサーズ国騎士団の入団試験に合格し、同時期にレンビードがクサーズ国の宮廷音楽隊試験に不合格となったのだ。ラーニャがずっと騎士を夢見ていたのと同じくらい、レンビードは幼い頃から、宮廷音楽家になりたいと望んでいた。
そのために、ずっと努力していたし、本人も宮廷音楽家になれると信じて疑わなかったのだろう。不合格だったレンビードは酷くショックを受けて、あんなに毎日練習していたバイオリンを弾くことができなくなった。さらに悪いことに、その頃ラーニャは、騎士としての訓練に追われて、レンビードの側に居てあげることができなかった。
ラーニャが騎士になって一年経った頃。遠征から帰って、1ヶ月ぶりに家に帰ると、レンビードに怒鳴られた。
『なんで女のくせに、騎士なんかやってんだよ!』
『なんでそんなこと言うの?!騎士になるのはずっと私の夢だったって、レンビードだって知ってるでしょう?!』
『そんなの…子供頃に言っていたことを、信じるわけないだろう!』
『お、応援してくれてるんじゃなかったの?!』
『妻が騎士でいることを、応援するわけないだろう!』
『そんなっ…なんで…。』
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