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11.心が笑っとる

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「ずいぶん手際がいいなぁ。」

次の日、私に掃除を頼んだアダムズは感心していた。

「そんなことないですよ。不器用なので、もっとちゃんとゴミを取れと良く言われてました。」

医療団にいたときは、雑用として日々掃除に勤しんでいた。

「実家で掃除をしていたのかい?」

「あ、いや、あの、、。」

医療団にいた過去を皆に知られては、彼らに迷惑がかかってしまうかもしれない。口籠った私を見て、アダムズはにっこり笑った。

「言いたくないことは言わなくていいさ。」

「ありがとう、ございます。食事だけでなく、こんなに優しくしていただけるなんて。」

私はアダムズの家の一部屋を借りて暮らしているのだ。昨晩は、ジョシュアが私の部屋まで食事を運んで来て、一緒にご飯を食べてくれた。

「いいや。儂こそ、オリビアちゃんみたいな良い子が来てくれて嬉しいよ。昨日レオから、婚約者の世話を頼まれたときは、本当に驚いたがなぁ。」

アダムズはレオ様のことを呼び捨てで呼んだ。一体どういう関係なのだろうか。

「レオ様が直接、アダムズさんに頼まれたのですね。」

「ああ。大切な婚約者を頼むと言うておったよ。」

私は驚いて、箒をてばなした。

「ほんとですか?!」

「そんなこと一言も言った覚えはないのだが。」

不機嫌な声が聞こえ、馬小屋に突如レオが現れた。

「言葉には出しておらんが、儂には分かるぞ。」

にやにやと笑うアダムズをレオは睨みつけた。

「余計なことを言うな。オリビア。」

突如名前を呼ばれて、

「はい!」

「余計なことはするな。それから、馬小屋から出るなよ。何かあれば、すぐにジョシュアに言え。」

険しい顔をしているが、その内容はすこぶる親切である。

(やっぱり、悪い人じゃないように見えるけどな。)

「あ、あの!こんなにいい場所に住まわせてくださって、ありがとうございます!」

私の言葉に、レオは大きく顔を顰めた。

「なぜだ?!」

「皆様、とても親切ですし。ご飯も美味しいですし、、これ以上素敵な環境はないです。」

レオは私に一歩近づく。

「俺は、さっさと出ていって欲しいと思っているんだが?」 

「嫌です。」

これに関しては一歩も引くつもりは無かった。

「馬鹿な奴め。」

レオは褐色の瞳で私をにらみつける。だが、やはりその顔に恐ろしさは感じない。父の真顔のほうが10倍恐ろしい。

「自覚しております。」

私はそう答える。私が馬鹿なのは昔からだ。

「はっはっはっ。」

私達の様子を見て、アダムズが楽しそうに笑った。

「レオのそんな楽しそうな顔を久しぶりに見たよ。」

私はレオと顔を見合わせた。

「あの、、、顰めっ面ではないですか?」

「俺は怒ってるんだぞ?」

アダムズは首を振った。

「儂には分かるぞ。レオの心が笑っとる。」

「何を言ってるんだ!」

そう言ったレオは仏頂面のまま、足早にその場を立ち去っていった。


  ◇◇◇

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