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6.誘拐されてしまいました

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「おいっ、起きろ!!いつまで寝てるんだ!」

「は・・はい!え・・・?」

目が覚めると私は何者かに囲まれていた。彼らは手にナイフや斧を片手に私を見下ろしている。髭もじゃの男や、筋肉質の男たち・・・。

もはや私、誘拐された・・・?
義母からもらったはずのお金はすでに手元にない。夜間は身の回りに警戒していたけれど、朝日が出たらすっかり警戒を解いてしまっていた。まさか早朝に誘拐されるなんて。

「あんな場所で眠っているなんて、馬鹿な女だ。」

返す言葉もない。

「さぁ、正直に答えろ。お前はどこの家の人間だ・・・?」

斧を手に脅され、私は息を飲み込んだ。背筋に冷や汗が伝う。

「わ・・・私は、シエリ・ウォルターン。隣国デンバー国の・・・伯爵家出身です。」

私がサイラス様の婚約者だということは知られたくなかった。リングイット家はザルトル家の名家で、この国の多くの人が知っている。山賊たちはきっと私のことを利用して、サイラス様に金銭を要求するのだろう。そうなったら・・・ますます義母に認めてもらえなくなってしまう。

「デンバー国・・・?一人で来たのか?」

「そ・・・そうです。」

山賊はいぶかしげに首をかしげる。

「なんでだ・・・?」

「その・・・ザルトル国の方と駆け落ちしてきたのですが・・・昨日の夜、捨てられてしまって・・・その・・・それで・・・」

頭をフル回転させて、何とか嘘をつく。

「そりゃあ、可哀そうだな。」

髭もじゃの山賊の男は、私に同情してくれた。信じてくれた・・・の?

「せっかく貴族の女を誘拐できたと思ったのに。それじゃあ、身代金を要求できないな。デンバー国は遠すぎるし・・・。」

「まぁ、良いだろ。金は手に入ったんだ。・・・この女をどうする?」

山賊たちは、私の前で話し合いを始めた。

「わ・・・私を捕まえても・・・良いことはありませんよ・・・?」

必死で山賊たちに訴える。こんなとこで山賊に捕まって、サイラス様に迷惑をかけるわけにはいかない。

「うーん。だがなぁ・・・。」

「俺たちは馬鹿だからわからん!ボスのところに連れていこう!」

髭もじゃの言葉に私は震えあがる。

「さぁ、立て!ボスのところに行くぞ!大人しく従うなら、危害は与えない。」

「わ・・わかりました。」

今は大人しく従ったふりをして、この場所を抜け出せるタイミングを待とう。幸いにも、彼らは油断していて両手両足は自由だ。私は捕らえられていた小屋を出て、外にでる。太陽はすっかり高くのぼり、明るくなっている。サイラス様が帰ってきたとしても、私が母国に帰ってしまったと義母が伝えてしまうだろう。こんなことになるなら、おとなしく義母のお金を使って宿に泊まってしまえばよかった。

悲しいけれど私が山賊に誘拐され、行方不明になったことに気づく人はいないだろう。いや、でも一人私が誘拐された場面を見ていた子がいるはず・・・。

「あ・・・あの・・私の傍に猫さんはいませんでしたか・・・?」

私は猫さんを抱きしめたまま、居眠りして誘拐されてしまったのだ。猫さんは傷つけられていないだろうか。

「ああ。お前を連れ去るときにあんまりにも猫がうるさいんで、一緒に連れてきた。そのあたりにいるはずだぜ。」

髭もじゃの山賊は、あたりを見回した。私がいた小屋の周りにはいくつかのテントや簡易な小屋が立てられている。ここはきっと、山賊たちのアジトなんだろう。

「猫さんー!猫さんー!」

あたりを見渡して呼びかける。どこにいるの?猫さん?

「ニャアアア。」

「猫さん!」

私の声に気が付いたのか、猫さんが私の足元にすり寄ってきた。

「無事だったのね・・・!」

抱きしめて、頬をすり寄せる。

「ほら!猫とじゃれていないで、行くぞ!」

「は・・・はい!」

私は一人じゃない。心強い仲間がいる。そう思うと、急に勇気が湧いてきた。



   ◇◇◇

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