王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

五月ふう

文字の大きさ
15 / 27

第十四話:何より大切な人



「……結婚なんて、しないわ……。」

 小さな声で、セラは呟いた。

 ユリウスに待ってもらっても、セラの答えは変わらないだろう。

 (特別で大切な人……。)

 セラの思いはいつか恋愛感情に変わるのかもしれない。いつか断ったことを後悔する日が来るのかもしれない。それでも、セラは誰とも結婚するべきではないという考えが、心の中を支配していた。

 ユリウスはしばらく黙っていた。その間が恐ろしくて、セラは両手を強く握る。

「……わかった。」

「……ごめんなさい。」

 そう呟いてセラはぼんやりと天井を見上げた。
 
(どうしよう。ユリウスが遠くにいってしまうわ。)

 目に涙がたまってくるのが分かった。泣く資格なんてないのに。

(いつかこうなっていたのよ。)

 セラは自分に言い聞かせる。セラは16歳で、ユリウスは23歳。いつまでも幼いころのままではいられないのだろう。特に、ユリウスは愛人の子供とは言え、王族の血を引く人間なんだから。

 またしばらくして、ユリウスが口を開いた。

「なあ、セラ。」

「なあに?」

 涙が零れそうだと気づかれないよう、なんとか平静を装った。

「結婚が無ければ、どうだ?」

「え?」

「俺をどう思っている?」

「ユリウスはユリウスよ。」

「男として好きか?」

「わ、わからないわっ。」

「俺はセラを一人の女性として好きだ。側にいたいと思うし、独占したいし、触れたいと思う。」

 セラは息を飲んだ。心臓がどくどくと音を立てている。
 
(なんだろう、この気持ち……。)

 セラは両手で涙をぬぐった。

「入るぞ。」

「え?」

 だめだと言う前に、ユリウスは部屋に入ってきた。

(なんで……?泣いているって、きづかれた……?)

 セラは膝を抱えてユリウスを見上げた。顔が赤くなっていないだろうか。

「怖がらなくていいんだ。」

 緑の瞳はいつも穏やかにセラを見つめる。貴方が大切なのだと、セラはユリウスに伝えたいけれど、それは求婚を断わる行為と矛盾してしまう。

 ”結婚”という行為はセラにとって恐ろしすぎる。

「俺は何も変わらない。これまでもこれからもずっとセラのことが好きなだよ。」

 セラの心を見透かしたようにユリウスがセラに言う。ユリウスが身をかがめて、セラの顔を覗き込んだ。セラはユリウスに顔を見られたくなくて、膝の間に顔をうずめた。

「変わるわ。」

 セラは求婚を受け入れない。そのことを理解したとき、ユリウスは違う誰かを好きになるのだろう。セラではない誰か結婚して、かわいい子供を産み幸せになるのだろう。

(それでもいいのかもしれないわ……。)

 むしろその方が、ユリウスは幸せなのかもしれない。セラは顔をあげ、ユリウスを見つめた。先延ばしにせず、ここできっぱりユリウスの求婚を断わる覚悟を決めたのだ。

「私は……ユリウスの傍にいるべき人間じゃない。ユリウスにはもっといい人がいるわ。」

「セラは俺が傍にいるのが嫌か?」

「……嫌なわけないでしょ。」

「それなら、これからも、セラを助けられる場所にいさせてくれ。」

 ユリウスは、キラキラと輝く指輪をセラのベットの横にある机の上に置いた。

「ここに置いておく。見たくなかったら、川にでも捨ててくれ。」

 セラは唇をかんだ。ユリウスに指輪を置いていかれたら、その指輪を見るたびに今日のことを思い出してしまうだろう。

「大好きだよ。セラ。」

「……。」

 ユリウスの言葉にセラの顔は赤くなる。

(だめよ。しっかりして。)

 セラは自分に言い聞かせる。兄のような存在であるはずのユリウスへの気持ちが、変わってしまいそうになる。

「伝えられて、本当に嬉しい。」

 セラの気持ちも知らずに、ユリウスはにっこりとほほ笑むと部屋を出て行った。

「ずるい人……。」

 セラは呟いて、キラキラと輝く指輪を手に取った。指輪を眺めていると泣きそうになる。

(何よりも大切な人。)

 セラとユリウス。

 出会った時から二人は、特別な関係だった。


あなたにおすすめの小説

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています