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第十四話:何より大切な人
しおりを挟む「……結婚なんて、しないわ……。」
小さな声で、セラは呟いた。
ユリウスに待ってもらっても、セラの答えは変わらないだろう。
(特別で大切な人……。)
セラの思いはいつか恋愛感情に変わるのかもしれない。いつか断ったことを後悔する日が来るのかもしれない。それでも、セラは誰とも結婚するべきではないという考えが、心の中を支配していた。
ユリウスはしばらく黙っていた。その間が恐ろしくて、セラは両手を強く握る。
「……わかった。」
「……ごめんなさい。」
そう呟いてセラはぼんやりと天井を見上げた。
(どうしよう。ユリウスが遠くにいってしまうわ。)
目に涙がたまってくるのが分かった。泣く資格なんてないのに。
(いつかこうなっていたのよ。)
セラは自分に言い聞かせる。セラは16歳で、ユリウスは23歳。いつまでも幼いころのままではいられないのだろう。特に、ユリウスは愛人の子供とは言え、王族の血を引く人間なんだから。
またしばらくして、ユリウスが口を開いた。
「なあ、セラ。」
「なあに?」
涙が零れそうだと気づかれないよう、なんとか平静を装った。
「結婚が無ければ、どうだ?」
「え?」
「俺をどう思っている?」
「ユリウスはユリウスよ。」
「男として好きか?」
「わ、わからないわっ。」
「俺はセラを一人の女性として好きだ。側にいたいと思うし、独占したいし、触れたいと思う。」
セラは息を飲んだ。心臓がどくどくと音を立てている。
(なんだろう、この気持ち……。)
セラは両手で涙をぬぐった。
「入るぞ。」
「え?」
だめだと言う前に、ユリウスは部屋に入ってきた。
(なんで……?泣いているって、きづかれた……?)
セラは膝を抱えてユリウスを見上げた。顔が赤くなっていないだろうか。
「怖がらなくていいんだ。」
緑の瞳はいつも穏やかにセラを見つめる。貴方が大切なのだと、セラはユリウスに伝えたいけれど、それは求婚を断わる行為と矛盾してしまう。
”結婚”という行為はセラにとって恐ろしすぎる。
「俺は何も変わらない。これまでもこれからもずっとセラのことが好きなだよ。」
セラの心を見透かしたようにユリウスがセラに言う。ユリウスが身をかがめて、セラの顔を覗き込んだ。セラはユリウスに顔を見られたくなくて、膝の間に顔をうずめた。
「変わるわ。」
セラは求婚を受け入れない。そのことを理解したとき、ユリウスは違う誰かを好きになるのだろう。セラではない誰か結婚して、かわいい子供を産み幸せになるのだろう。
(それでもいいのかもしれないわ……。)
むしろその方が、ユリウスは幸せなのかもしれない。セラは顔をあげ、ユリウスを見つめた。先延ばしにせず、ここできっぱりユリウスの求婚を断わる覚悟を決めたのだ。
「私は……ユリウスの傍にいるべき人間じゃない。ユリウスにはもっといい人がいるわ。」
「セラは俺が傍にいるのが嫌か?」
「……嫌なわけないでしょ。」
「それなら、これからも、セラを助けられる場所にいさせてくれ。」
ユリウスは、キラキラと輝く指輪をセラのベットの横にある机の上に置いた。
「ここに置いておく。見たくなかったら、川にでも捨ててくれ。」
セラは唇をかんだ。ユリウスに指輪を置いていかれたら、その指輪を見るたびに今日のことを思い出してしまうだろう。
「大好きだよ。セラ。」
「……。」
ユリウスの言葉にセラの顔は赤くなる。
(だめよ。しっかりして。)
セラは自分に言い聞かせる。兄のような存在であるはずのユリウスへの気持ちが、変わってしまいそうになる。
「伝えられて、本当に嬉しい。」
セラの気持ちも知らずに、ユリウスはにっこりとほほ笑むと部屋を出て行った。
「ずるい人……。」
セラは呟いて、キラキラと輝く指輪を手に取った。指輪を眺めていると泣きそうになる。
(何よりも大切な人。)
セラとユリウス。
出会った時から二人は、特別な関係だった。
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