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第十三話:結婚なんて

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「セラ、俺と結婚してくれるか?」

 その求婚は突然だった。

 (け、結婚?!)

 セラは急いで階段を駆け上がり、自分の部屋の中に逃げ込んだ。心臓の鼓動が早まり、頭がぐらぐらと回る。
 
 (どうしたらいい……どうしたらいいの?!)

 セラにとってユリウスは何より大切な存在だ。だが今まで一度も恋愛対象としてユリウスを見たことがなかった。7歳離れた大好きで特別なお兄ちゃん。好きだと言われて、セラは戸惑いを隠せなかった。
 
(結婚なんてしたくない……。)

 セラはベットの前で小さく身を丸まらせた。

 ”妻と夫”という関係性はセラにとってひどく恐ろしいものだ。セラの両親の結婚は皆に望まれてしたものではなかったと聞く。だが二人は結婚し、セラを産み、いなくなってしまった。

(もう誰も傷つけたくない……。)

 ユリウスと結婚したら、いつか彼とお別れするときが来てしまうのかもしれない。セラは呪われた子だ。存在だけで、誰かを傷つけてしまうかもしれないのだ。
 
「セラ。入ってもいいか?」
 
 扉の外からユリウスの声が聞こえる。優しくて穏やかな声。ユリウスは小さい時からずっとセラの傍にいてくれた。苦しくなって部屋に閉じこもったセラを連れ出すのは、いつだってユリウスだった。セラは自分に問いかける。

 (ユリウスの気持ちに本当に何もきづいていなかった……?気づいていたのに、曖昧な関係なままでいたくて甘えていたんじゃないの……?)

 自分が嫌になりそうだ。

「入らないで!」

「わかった。そうしたら、ここから話すよ。」

 部屋のドアに鍵はかかっていない。だがユリウスは無理に扉を開けようとしなかった。
 
「話すことなんてないわ。」

 思ったより弱弱しい声になり、手が震えていた。ユリウスとの求婚を断わったら彼はこれから先セラの傍にいてくれないかもしれない。

(ユリウスがいなくなってしまう。)

 ユリウスはどうしてもセラにとって大切な存在だった。できるなら、最後まで側にいてほしいと望んでいる。それでも、誰かと結婚するなんて恐ろしく、絶対に嫌だった。

「ああ。そうだな。驚かせてすまなかった。」

「……謝る必要はないわ……。」

 (なんでこんなことになってしまったのかしら……。そうよ、ユリウスが危機に陥っているとカイルが言っていて……危機の内容を知りたかったのよ。)

 ユリウスの危機を聞き出そうとして、知りたくなかった彼の想いをしってしまった。

「さっきのことだが……すぐに答えをださなくていい。」

 扉の向こうでユリウスが言った。

「そう……。」

 その言葉にセラは胸を撫でおろした。

「セラに俺の気持ちを伝えたかっただけだ。俺は世界で一番セラが大好きで、ずっと一緒にいたいと思っているよ。」

 何も言えなかった。セラだって、ずっとユリウスの傍にいたいと思っている。だけど、明確な関係を求めていない。

(今のままじゃダメなの?)

 とユリウスに聞きたかった。今まで通り、時々ユリウスが神殿に来て、会ってお互いが大切な存在だと確かめ会えたなら、セラはそれで充分だった。でもそれはきっと子供っぽい考えて、それじゃダメだから、ユリウスは想いを伝えてくれたんだろう。

「……結婚なんて、しないわ……。」

 小さな声で、セラは呟いた。

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