【完結】他に好きな人ができたと婚約破棄して、一方的にいなくなった男が、記憶喪失になって帰ってきました。

五月ふう

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勢いよく尋ねると、マレーはいたずらっぽく笑った。 
「秘密だ。」
 「ええ…。」 
「これは記憶を失う前の僕の、大切な記憶だからな。もしもランの秘密を教えてくれたら、僕の秘密も教えてあげるよ。」 
「…こういう時のマレー君は、どんなに聞いても教えてくれません。」 
「お、そうか。」
 「記憶を失う前のマレー君は、結構頑固な人でしたから。」 

そう言いながら、ランは魔法研究室に備え付けられている、寝室の扉を開けた。

 「シャズ、セヨンテの様子はどうですか?」 
「ずっと、眠ってるよ。こんなこと今までなかったよね。心配だよ。」 
「大丈夫。顔色はいいみたいだし、透けてもいないでしょう。私が最初にセヨンテを見たときは、消えかけていたんですから。」 

 今朝見たときと変わらず、顔色が悪く、生気がない。 

(なぜなんだろう…。)

 ランは静かに、セヨンテの額に手を当てた。 

「あれ?」 
「何か気が付いたのか?」
 「マレー君、ちょっと手を貸してください。」 
「何を手伝ったらいいんだ?」
 「そうではなく、私と手をつないでください。」 
「ど、どういう?」
 「早く!」 

ランは右手でマレーと手をつなぎ、左手でセヨンテの頬に手を当てた。

 「確かに…二人はよく似ていますね…。」

 (どういうこと?) 

マレーは黒髪に黒目、大柄な体。一方のセヨンテは茶色の瞳に、銀色の髪、小柄な体。全く違うのに、二人の体内を流れる魔力が(マレーは限りなくゼロに違い魔力だが)とても似ているのだ。 考え込むランの隣で、マレーが恥ずかしそうに手を離した。

 「そうだ、セヨンテの額に何か冷たいものをかけてあげようかな。」

 そう言ってマレーがいそいそとタオルを濡らし、セヨンテの額に手を触れた。 

その時。 

「うぐっっ。」 

セヨンテに触れたマレーの手に火花が走った。マレーの胸に緑の刻印が浮かび、マレーがその場に倒れた。セヨンテの体が宙に浮き、かすかにふるえている。 

「マレー君、セヨンテ!」 

ゴロゴロゴロゴロ… まぶしい光に続いて、雷の音がなった。明かりは消え、部屋の中は真っ暗になった。ランは必死でセヨンテとマレーを手繰り寄せ、二人がどこかに行かないよう、同時に抱きしめた。

 「シャズ、大丈夫ですか?!」
 「大丈夫だよ、ラン!マレーは大丈夫?」 

そうシャズが答えたとき、ランは異変に気が付いた。シャズは決して、ランのことを「ラン」と呼び捨てにはしない。いつものシャズとは違う、恐ろしいほど圧倒的な魔力。察知するだけで、かなわないと感じさせるような…。

 「あなたはシャズじゃありませんね!正体を現しなさい!」
 
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