2 / 29
2.一度目の婚約破棄は前世でした
しおりを挟む
私がシアラに転生する直前の記憶。
それは散々なものだった。
日本、東京都某高級レストラン。
私、渋川かなえは婚約者である鮎川とディナーを楽しんでいた。その日は私の33歳の誕生日だった。
デザートを食べ終えフォークを皿に置いた鮎川は、にっこり笑って言った。
「今日で会うのは最後にしよう。」
鮎川の言葉で、一瞬頭が真っ白になる。
「なんで、、、?
私達、婚約してるのに、、、?」
鮎川と付き合って1年、婚約して1ヶ月が経つ。そろそろ式場の手配をしようと動き始めていたときだった。
「だってお前、めんどくさいんだもん。」
悪びれもなく鮎川が言い放つ。
「最低!」
めんどくさい女。それは私の人生にずっとつきまとってきた言葉だ。
「いいだろ。かなえは金もあるんだし。将来安泰。羨ましいぜ。」
鮎川の言葉は私を容赦なく傷つける。
最高学歴に大手企業就職。理論武装のめんどくさい女。それが周囲の人が思う私の人物像だった。
「ふざけないでよ!そんな理由で婚約破棄なんて、あんまりにも酷すぎるわ!」
「婚約なんて、かなえが勝手に進めたんじゃないか。」
平然と鮎川が答える。
確かに私が焦って進めた部分はある。だけど、33歳の私と一年も付き合ったのだから、婚約は当然の流れだと思っていた。
「待ってよ!貴方のこと訴えるわよ!!」
可愛げが無いセリフだと分かっている。それでも、これまで鮎川の為に費やしてきた時間とお金はそう簡単に諦められるものでは無いのだ。
「出来るもんならな。お会計はいつもの通り頼んだよ。」
鮎川とのデートでお会計をするのはいつも私だった。より稼ぎが多いほうが払うことが平等。その鮎川の主張のせいだ。
「ちょっと待ってよ!!」
立ち上がった私を振り向きもせずに、鮎川はひらひらと手を振った。
鮎川の腕には私がプレゼントした高級時計が巻かれている。
「嘘でしょ、、、?」
一人高級レストランに取り残された私は、頭を抱えた。
◇◇◇
次の日、私は鮎川ともう一度話し合おうと何度も連絡をしたが、電話は繋がらなかった。
「冗談じゃないわよ、、、。」
鮎川に教えてもらった彼の職場まで行ってみたが、受付の女性は無表情で言った。
「鮎川という名前の人間は、弊社には在籍しておりません。」
鮎川が住むアパートは解約されており、完全に足取りを見失ってしまったのだった。
(貸したお金はどうなるの・・・?)
私は新事業を立ち上げたばかりでお金が無いという鮎川に200万円を貸している。
「騙された、、、の?」
一日中鮎川を探し続けて、気がつけば22時を過ぎている。まだ今日は何も食事を取っていないが、全くお腹は空かない。
(嘘だ、、、。)
自分のプライドが邪魔して、現実を受け止め切れなかった。
よろよろと自宅に帰る私の前を小学生の少女が歩いている。少女は体より大きく重たそうなランドセルを背負って、目を擦っていた。
(塾帰りかな。)
真面目そうなおさげ頭の少女の姿は、かつての自分を思わせた。友達と遊ぶことなく、ひたすら勉強に忙殺された幼少期。両親は仕事人間で、塾の迎えに来てくれたことは一度も無かった。
(だいじょうぶかな?)
階段を降りる少女はぐらぐらと左右に揺れている。相当眠いのだろう。
「あぶない!!」
少女は足元の石につまづいて、大きくよろけた。
考えている暇は無かった。荷物を放り出して、私は少女の手を掴む。
(お願い!!助かって!!)
少女をぎゅっと抱きしめたまま、階段を転がり落ちた。
ゴロゴロゴロゴロ
一番下まで落ちた。ゆっくりと目を開けると、女の子が必死の形相で私を呼びかけている。
「お姉さん!!お姉さん!!」
体中が痛かった。頭から血が流れているのが分かる。
(私、もう駄目なのかも、、、。)
少女は大粒の涙を流して泣いている。
(せっかく助けられたんだもの。この子には笑顔で生きてほしい。)
私は最後の力を振り絞って、にっこりと笑った。
「しあわせに、なってね。だいじょうぶ、だから、、きにしないで、、、。」
薄れゆく意識の中で私は考えていた。
(次の人生は、どこかの国のお姫様になって、ひたすらにちやほやされたいな、、、。お願いします、神様、、、!)
◇◇◇
しかし、目を覚ますとすぐに二度目の婚約破棄をされてしまったのだった。
(私、転生しても幸せになれないの?)
こんなはずではなかった。
だって、人生の最後にあんな善行を積んだのだ。
次の人生はイージーハッピーなものになると、思い込んでいた。
それは散々なものだった。
日本、東京都某高級レストラン。
私、渋川かなえは婚約者である鮎川とディナーを楽しんでいた。その日は私の33歳の誕生日だった。
デザートを食べ終えフォークを皿に置いた鮎川は、にっこり笑って言った。
「今日で会うのは最後にしよう。」
鮎川の言葉で、一瞬頭が真っ白になる。
「なんで、、、?
私達、婚約してるのに、、、?」
鮎川と付き合って1年、婚約して1ヶ月が経つ。そろそろ式場の手配をしようと動き始めていたときだった。
「だってお前、めんどくさいんだもん。」
悪びれもなく鮎川が言い放つ。
「最低!」
めんどくさい女。それは私の人生にずっとつきまとってきた言葉だ。
「いいだろ。かなえは金もあるんだし。将来安泰。羨ましいぜ。」
鮎川の言葉は私を容赦なく傷つける。
最高学歴に大手企業就職。理論武装のめんどくさい女。それが周囲の人が思う私の人物像だった。
「ふざけないでよ!そんな理由で婚約破棄なんて、あんまりにも酷すぎるわ!」
「婚約なんて、かなえが勝手に進めたんじゃないか。」
平然と鮎川が答える。
確かに私が焦って進めた部分はある。だけど、33歳の私と一年も付き合ったのだから、婚約は当然の流れだと思っていた。
「待ってよ!貴方のこと訴えるわよ!!」
可愛げが無いセリフだと分かっている。それでも、これまで鮎川の為に費やしてきた時間とお金はそう簡単に諦められるものでは無いのだ。
「出来るもんならな。お会計はいつもの通り頼んだよ。」
鮎川とのデートでお会計をするのはいつも私だった。より稼ぎが多いほうが払うことが平等。その鮎川の主張のせいだ。
「ちょっと待ってよ!!」
立ち上がった私を振り向きもせずに、鮎川はひらひらと手を振った。
鮎川の腕には私がプレゼントした高級時計が巻かれている。
「嘘でしょ、、、?」
一人高級レストランに取り残された私は、頭を抱えた。
◇◇◇
次の日、私は鮎川ともう一度話し合おうと何度も連絡をしたが、電話は繋がらなかった。
「冗談じゃないわよ、、、。」
鮎川に教えてもらった彼の職場まで行ってみたが、受付の女性は無表情で言った。
「鮎川という名前の人間は、弊社には在籍しておりません。」
鮎川が住むアパートは解約されており、完全に足取りを見失ってしまったのだった。
(貸したお金はどうなるの・・・?)
私は新事業を立ち上げたばかりでお金が無いという鮎川に200万円を貸している。
「騙された、、、の?」
一日中鮎川を探し続けて、気がつけば22時を過ぎている。まだ今日は何も食事を取っていないが、全くお腹は空かない。
(嘘だ、、、。)
自分のプライドが邪魔して、現実を受け止め切れなかった。
よろよろと自宅に帰る私の前を小学生の少女が歩いている。少女は体より大きく重たそうなランドセルを背負って、目を擦っていた。
(塾帰りかな。)
真面目そうなおさげ頭の少女の姿は、かつての自分を思わせた。友達と遊ぶことなく、ひたすら勉強に忙殺された幼少期。両親は仕事人間で、塾の迎えに来てくれたことは一度も無かった。
(だいじょうぶかな?)
階段を降りる少女はぐらぐらと左右に揺れている。相当眠いのだろう。
「あぶない!!」
少女は足元の石につまづいて、大きくよろけた。
考えている暇は無かった。荷物を放り出して、私は少女の手を掴む。
(お願い!!助かって!!)
少女をぎゅっと抱きしめたまま、階段を転がり落ちた。
ゴロゴロゴロゴロ
一番下まで落ちた。ゆっくりと目を開けると、女の子が必死の形相で私を呼びかけている。
「お姉さん!!お姉さん!!」
体中が痛かった。頭から血が流れているのが分かる。
(私、もう駄目なのかも、、、。)
少女は大粒の涙を流して泣いている。
(せっかく助けられたんだもの。この子には笑顔で生きてほしい。)
私は最後の力を振り絞って、にっこりと笑った。
「しあわせに、なってね。だいじょうぶ、だから、、きにしないで、、、。」
薄れゆく意識の中で私は考えていた。
(次の人生は、どこかの国のお姫様になって、ひたすらにちやほやされたいな、、、。お願いします、神様、、、!)
◇◇◇
しかし、目を覚ますとすぐに二度目の婚約破棄をされてしまったのだった。
(私、転生しても幸せになれないの?)
こんなはずではなかった。
だって、人生の最後にあんな善行を積んだのだ。
次の人生はイージーハッピーなものになると、思い込んでいた。
37
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……
三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」
ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。
何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。
えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。
正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。
どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる