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16.女王様が大切なのです(sideアルフレッド)
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side アルフレッド
「逃げたい、、、。」
そう呟いたシアラ様に、僕、アルフレッドは言った。
「逃げましょう。シアラ様。」
くるくると可愛らしくはねた茶色の髪に、丸い大きな瞳。大切でしょうがない僕の女王様は、驚いた様子で僕を見つめた。
「ルカドル国はいいの?」
と、シアラ様が小さい声で尋ねる。
記憶が無いにも関わらず、シアラ様はルカドル国のことを大切に思っている。
「僕にとって大切なものはこの国ではなくて、シアラ様だけですから。」
僕の言葉に、シアラ様の顔は真っ赤に染まった。シアラ様を抱きしめて撫で回したい衝動に駆られる。
「な、、、!」
頬を押さえて、シアラ様は言葉を失っている。記憶を失う前には、あり得なかったことだ。以前のシアラ様は常に何かに追い詰められ憔悴していた。
『死んでしまった父と兄の意志を継いで、ルカドル国を守る。』
その強い意志はシアラ様自身の命を削っているかのようだった。
「だいじょうぶです。どこに逃げても僕が貴方を守りますから。」
逃げるための準備はずっと前からしてきた。
「でも、お金がないし、、、。」
「お金は心配しないでください。」
騎士として働いた賃金は全てそのために貯金している。
「逃げるって行っても、どこに逃げたらいいのか分からないし、、、。」
「ルカドル国を出ましょう。この国をでたら、シアラ様の顔が分かる人間なんてほとんどいません。」
他国で働くことを想定し近隣諸国の言語は毎日勉強してきた。最低限の日常会話なら、問題のないレベルにある。
シアラ様は驚いた顔で僕を見た。
「ずいぶん、用意周到なんだね。」
どんどん痩せ細って弱っていくシアラ様を黙って見ていられなかったのだ。
「あとは、シアラ様を説得するだけでしたから。」
シアラ様がオークリィに婚約破棄されたことは、ある意味幸運であった。評判の悪いオークリィと結婚して、シアラ様が幸せになれたとは到底思えない。
「私が女王を投げ出したら、本物のシアラは怒らないかな?」
と、シアラ様は首をかしげた。
記憶を失ってから、シアラ様は何故が自分のことを本当のシアラ様とは違う人間だと思いこんでいる。
(そんなことが起こるはずがない。)
体調不良であったとはいえ、記憶を失う少し前までシアラ様はいつも通りだった。
「怒るもなにも、貴方がシアラ様なのですから、問題ありません。」
シアラ様の気が変わってしまう前に、なんとかルカドル国から逃げ出さなくてはいけない。僕は焦っていた。
「そうよね。」
シアラ様は寂しそうな顔で、小さく微笑んだ。
記憶を無くしてからシアラ様は確かに少し変わった。だがそれは本当に小さな変化だ。シアラ様の核である優しさや真面目さは何も変わらない。
「逃げた先で望むことはありますか?
例えば、食事や治安、気候などです。
僕もいくつか逃亡先の候補を絞っているのですが、まずはシアラ様の希望が知りたいのです。」
僕の言葉に、シアラ様は少し笑った。
「なんだか、不動産みたいだね。」
「不動産?」
聞いたことがない言葉だ。
「ううん。なんでもない。
そうだなぁ、、、のんびりできる場所がいいな。」
「のんびりですか。いいですね。」
思わず笑みが溢れる。
シアラ様と誰にも知られずに穏やかに暮らせたならば、どんなに幸せだろうか。
「女王がいなくなったら、ルカドル王家は無くなってしまうのかな?」
シアラ様は頬杖をついて呟いた。
「そうなったとしても、シアラ様が気にすることではありません。もう、十分すぎるくらい頑張ったんですから。」
「そう、ね。」
シアラ様は曖昧にうなずくと黙って立ち上がった。窓の外を眺めたシアラ様は不安そうな顔で僕を振り返った。
「誰が来た。なんだろう・・・?」
外を見ると、10人程度の男たちが城の門を通ってこちらに向かって来ていた。
「他国の、商人達です。」
僕は大きく息を吸った。
「恐らく、借金の取り立てをしにきたのでしょう。」
「え?」
シアラ様の表情が一気に暗くなった。
「だいじょうぶです。僕が行きます。」
「いいえ。私も行く。アルフレッドだけに任せるわけにはいかないから。」
(やっぱり貴方は、シアラ様だ。)
逃げ方を知らない不器用さ、誰かを傷つけまいとする優しさ。それは記憶を失う前のシアラ様と同じなのだ。
「逃げたい、、、。」
そう呟いたシアラ様に、僕、アルフレッドは言った。
「逃げましょう。シアラ様。」
くるくると可愛らしくはねた茶色の髪に、丸い大きな瞳。大切でしょうがない僕の女王様は、驚いた様子で僕を見つめた。
「ルカドル国はいいの?」
と、シアラ様が小さい声で尋ねる。
記憶が無いにも関わらず、シアラ様はルカドル国のことを大切に思っている。
「僕にとって大切なものはこの国ではなくて、シアラ様だけですから。」
僕の言葉に、シアラ様の顔は真っ赤に染まった。シアラ様を抱きしめて撫で回したい衝動に駆られる。
「な、、、!」
頬を押さえて、シアラ様は言葉を失っている。記憶を失う前には、あり得なかったことだ。以前のシアラ様は常に何かに追い詰められ憔悴していた。
『死んでしまった父と兄の意志を継いで、ルカドル国を守る。』
その強い意志はシアラ様自身の命を削っているかのようだった。
「だいじょうぶです。どこに逃げても僕が貴方を守りますから。」
逃げるための準備はずっと前からしてきた。
「でも、お金がないし、、、。」
「お金は心配しないでください。」
騎士として働いた賃金は全てそのために貯金している。
「逃げるって行っても、どこに逃げたらいいのか分からないし、、、。」
「ルカドル国を出ましょう。この国をでたら、シアラ様の顔が分かる人間なんてほとんどいません。」
他国で働くことを想定し近隣諸国の言語は毎日勉強してきた。最低限の日常会話なら、問題のないレベルにある。
シアラ様は驚いた顔で僕を見た。
「ずいぶん、用意周到なんだね。」
どんどん痩せ細って弱っていくシアラ様を黙って見ていられなかったのだ。
「あとは、シアラ様を説得するだけでしたから。」
シアラ様がオークリィに婚約破棄されたことは、ある意味幸運であった。評判の悪いオークリィと結婚して、シアラ様が幸せになれたとは到底思えない。
「私が女王を投げ出したら、本物のシアラは怒らないかな?」
と、シアラ様は首をかしげた。
記憶を失ってから、シアラ様は何故が自分のことを本当のシアラ様とは違う人間だと思いこんでいる。
(そんなことが起こるはずがない。)
体調不良であったとはいえ、記憶を失う少し前までシアラ様はいつも通りだった。
「怒るもなにも、貴方がシアラ様なのですから、問題ありません。」
シアラ様の気が変わってしまう前に、なんとかルカドル国から逃げ出さなくてはいけない。僕は焦っていた。
「そうよね。」
シアラ様は寂しそうな顔で、小さく微笑んだ。
記憶を無くしてからシアラ様は確かに少し変わった。だがそれは本当に小さな変化だ。シアラ様の核である優しさや真面目さは何も変わらない。
「逃げた先で望むことはありますか?
例えば、食事や治安、気候などです。
僕もいくつか逃亡先の候補を絞っているのですが、まずはシアラ様の希望が知りたいのです。」
僕の言葉に、シアラ様は少し笑った。
「なんだか、不動産みたいだね。」
「不動産?」
聞いたことがない言葉だ。
「ううん。なんでもない。
そうだなぁ、、、のんびりできる場所がいいな。」
「のんびりですか。いいですね。」
思わず笑みが溢れる。
シアラ様と誰にも知られずに穏やかに暮らせたならば、どんなに幸せだろうか。
「女王がいなくなったら、ルカドル王家は無くなってしまうのかな?」
シアラ様は頬杖をついて呟いた。
「そうなったとしても、シアラ様が気にすることではありません。もう、十分すぎるくらい頑張ったんですから。」
「そう、ね。」
シアラ様は曖昧にうなずくと黙って立ち上がった。窓の外を眺めたシアラ様は不安そうな顔で僕を振り返った。
「誰が来た。なんだろう・・・?」
外を見ると、10人程度の男たちが城の門を通ってこちらに向かって来ていた。
「他国の、商人達です。」
僕は大きく息を吸った。
「恐らく、借金の取り立てをしにきたのでしょう。」
「え?」
シアラ様の表情が一気に暗くなった。
「だいじょうぶです。僕が行きます。」
「いいえ。私も行く。アルフレッドだけに任せるわけにはいかないから。」
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