地味男はイケメン元総長

緋村燐

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二章 互いの秘密

スキンケアとヒミツ

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「さて、じゃあ早速始めようか。メガネ取って顔良く見せて」
 部屋についてやっとメイクが出来ると思ったら元気が出てきた。
 私は日高くんを座らせると、早速そう指示を出す。

 日高くんは何やら諦めの境地に達した様な顔をして、溜息をつきながら指示通りメガネを取っている。
 そうして見えやすいように髪をかき上げると、本当に溜息が出るほど整っている顔だなぁと思う。
 ただ、すぐに肌や唇の乾燥。
 そして目の下のクマに目が行き、頬が引きつる。

 昼食の改善をしてみたけれど、すぐに効果が表れるわけじゃないから乾燥などは仕方がないか。
 口元の傷はあともう少しで見えなくなりそうだといったところ。
 日高くんの顔の状態を見てやっぱりと思いつつ、最初にやるべきことは決まった。

「日高くん、まずは顔を洗って来て」
「は?」
 日高くんは意味が分からないとばかりに目をパチクリ。
「……今朝、顔洗って来たけど?」
 まあ、それはそうだろう。
 不思議がる日高くんに私は説明する。

「日高くん、朝の洗顔って水だけ? 洗顔フォーム使ってる?」
「水だけだけど?」
「うん、それはOK。じゃあ洗ってるときや顔拭くとき、ごしごし擦ってない?」
「擦ってるな」
「それよ!」
 突然大きな声で指さしたので、びっくりさせてしまった。

「そうやってごしごし擦ると肌に負担がかかって乾燥してしまうの。夜の洗顔も擦ってるんじゃない? 多分そのせいで乾燥肌になって来てるんだよ」
「……はあ……」
 解説している私に、日高くんは気のない返事をする。
 まあ、興味ない人に色々言っても仕方ないか。

「取りあえず、そういう事だから顔洗おう。擦らずにね」
「はぁ、分かったよ」
 そう言った日高くんは諦めて私の指示に従ってくれた。
 ぬるま湯で付けるように顔を洗う。
 このとき擦らないのも大事だけどバシャバシャ顔に当てないようにするのも大事。
 タオルで拭くときも擦らない。
 これも顔に当てるようにして水分をふき取っていく。

「……洗った気がしねぇ」
「そう。でもこれからはこの方法でやってね」
 文句を言う日高くんに私はニッコリ笑って強要した。
 でも嫌な顔をされたからやってくれるかどうかはわからないな。
 洗顔が終わったら部屋に戻って、すぐにスキンケアだ。
 洗顔後は早めに始めないと、どんどん水分が抜けて行ってしまうから。
 私のを使うしかないけれど、まあ大丈夫だよね。
 コットンに化粧水を含ませて、擦らないように気を付けながら軽くトントンと浸透させていく。

「……これ、必要なのか?」
「もちろん。肌にしっかり水分を入れないとね」
 そんなやりとりをしながら、ゆっくり優しくコットンを当てて行く。
「それにしても、どうしてここまで乾燥してるの? まだ高校生なのにベタベタするより乾燥してるとか……まあ、寝不足なのは見てて分かるけど」
 他にも理由があるでしょ、と暗に言う。

「まあなー。今は一人暮らしだし、色々と不健康な生活してる自覚はある」
 されるがままでひまなのか、普通に答えてくれた。
「夜は日をまたぐのが普通だし、だから朝は食べない事もほとんどだな。昼は倉木のおかげでマシになったけど、夜は腹にたまれば良いって感じの物しか食ってねぇ」

 何だその不健康きわまりない生活は!

「……家からは通わないの?」
 怒鳴りたいのを我慢して、そう質問する。
 一人暮らしだからそうなってるんなら、家に居れば良くなるって事だろう。
「前言わなかったか? 俺の地元は隣の県なんだよ。そっから通いとか流石に無理だってーの」
 言われて思い出す。
 そう言えば日高くんが総長をしていたっていう火燕、だっけ?
 その火燕が主に活動していたのが隣の県なんだっけ。
 と言う事は地元はそっちの方って事だ。

 いくらこの辺りが県境の近くだって言っても、流石に遠すぎる。
 確かに通いは無理だ。
「……それなら、どうしてここに来たの? 地味男でいるなら近くの高校でも良かったんじゃない?」
 ちょっと、突っ込んで聞いてみる。
 答えが無かったらこれ以上聞かないようにしようと思ったんだけれど、日高くんは普通に教えてくれた。
「親父に地味男になるって言ったのは今の学校に受かってからだからな。地味男の格好は、念のためってやつだ」
「そもそもどうして総長やめてこっちに来たの?」
 一番の疑問を口にすると、すぐには返事がなかった。
 突っ込み過ぎたかな? と思ったけれど「あー……まあいっか」と軽い調子で呟き話してくれる。

「俺の親父も昔総長やっててな。じいさんもどっかの学校で番長やってたとかで……いわゆる不良一族? とでもいうのか?」
「……それはそれで凄いね」
 コメントに困る。
「とにかくそんなだから、小さい頃から護身術代わりにケンカの仕方ばっかり教えられてよぉ。まあ、不良になるのは当然の成り行きだよな」
「そう、だね……」

 ……ん? そうなのかな?

「で、火燕はホント実力主義で、ケンカが強い奴が総長なんだよ。それでケンカの英才教育を受けてた俺は中学生にして総長になっちまった訳」
「ケンカの英才教育……」
 もはやどうコメントしていいのやら。
「でも同じ道を歩いて来た親父からすれば、やらかしてしまったーって感じだったらしい。おふくろに鬼の形相で怒られてたっけ」
「……お母さん、強いね」
 まあ、そんな人じゃないと元総長の奥さんにはなれないのかな?
「そんな感じで怒られた親父が、高校はここに行けっつってパンフレット渡してきたんだよ。総長辞めて普通の学生生活送ってこいって。自分はそれが出来なくて後悔したからとか言ってたか」
「へー」
 まあ、大体の流れは分かったかな。
 ……でも。

「でもそれでよく日高くんもお父さんの言う事聞いたよね? 普通反発しない?」
 一通り話してくれたから、この質問にも普通に答えてくれるんだと思った。
「……俺にも思うところがあったんだよ」
 でも、そのことには触れられたくないのかはぐらかされる。
「そっか……」
 気になるけれど、追及はしない。
 本人が触れられたくなさそうだったし、何より化粧水のパッティングが終わったし。

 私は今度は乳液を手に取り両手に広げ、塗りやすいように日高くんの後ろに回る。
「で、お前は?」
「え?」
 何を聞かれているのか分からなくて聞き返す。
「俺も話したんだからお前も話せよ。何であの学校に決めたんだ? 中学では地味子じゃなかったってんなら同じ中学の奴らが大勢いるとこに行っても良かったはずだろ?」
「あー、うん」
 返事をしながら気付かれたか、と思う。
 今の学校には同じ中学校から来た生徒はいない。
 あそこを受けたのは私だけだったから。
「でも日高くんみたいに特殊な理由じゃないよ? いたって普通。将来の夢のためだよ」
「将来の夢? 何になりてぇの?」
 日高くんの顔に乳液を塗りながら少しどう言おうか迷う。
 迷ったけれど、そのまま言う事にした。

「実はこれ!っていう職業がある訳じゃないんだ。でもメイクをする仕事にきたい。世界のメイク技術とかも学んでみたい。そう思ったら、グローバル教育に力を入れてる学校が通学出来る範囲にあるじゃない。もう迷わず今の学校に決めちゃったんだ」
 安直あんちょくだよね、と言いながら乳液も塗り終える。
「ああ、でも納得の理由だな」
 少し呆れ気味な日高くんの声。
 正面の位置に戻ると、呆れつつ面白そうなものを見る顔になっていた。
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