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最強メイド!誕生のお話。

第21話 襲撃

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 玲菜さんの言うキッズパークはここから近いということで、車ではなく徒歩で行くことにした。
 紫苑くんは柊さんと杏くんと手をにぎって、お散歩気分なのかスキップしている。

「紫苑さま、楽しそうですね。お兄さまたちとお出かけするのも久しぶりですから」

 楽しそうな紫苑くんを見て、玲菜さんはほほ笑んだ。
 紫苑くんたちのお母さんである美奈都さんは、仕事もしている上に社長夫人としての役割もあってなかなか一緒にいられない。
 夜は一緒にいられるけれど、毎日というわけじゃないんだとか。

 そのためどうしたって兄弟と過ごす時間の方が多くなる。
 でも二人も中学生になったし、紫苑くんも幼稚園に通うようになった。
 だから最近はこうして出かけることがなかったんだって。

「そうですか……」

 この三兄弟の仲が良いのは、さびしいからっていうのもあるのかな。
 しんみりしながら私は自分はどうだったのか思い出す。

 ……うーん。
 両親がいないときは大体おばあちゃんにしごかれていた気がする。
 うん、さびしいなんて思うヒマもなかったな。
 おばあちゃんは怖かったけれど、そういう意味では感謝かも。

「あ、ここを抜ければすぐですよ」

 玲菜さんが指し示したのはよくある横道。
 大通りに比べたらせまいけれど、車が二台すれ違えるくらいの幅《はば》はある。
 でも何だか変な感じがして一応警戒しながら道を進んだ。
 そうして十歩ほど歩いたところで気づく。

「人が、いない?」

 横道とはいえ休日の昼間、こんなに人の気配がないのはおかしい。

「みなさん! ちょっと待ってください。いったん大通りに戻りましょう!」

 これは絶対に良くないやつだ!
 そう思って叫んだけれど、遅かったみたい。
 横道の入り口部分に、通せんぼするみたいに大き目のワゴン車がまる。
 その中から覆面《ふくめん》をかぶった六人くらいの男の人が出てきた。
 反対側に、と思ったときにはどこかのお店にでも潜《ひそ》んでいたのか、もっと多くの覆面男が現れ囲まれてしまう。

 なにこれ、待ちぶせされた⁉
 でも、ここにはたまたま来ただけだし。それに案内してくれたのは玲菜さんで――。

「っ!」

 瞬時に思い当たることがあって、まさかと思いながら玲菜さんを見る。

「な、どうしてこんな……いえ、これでいいの。連れて来いって言われたじゃない。でもあれ? 誰に言われたんだったかしら?」

 あせったり冷静になったり、明らかに様子がおかしい。
 柊さんたちはすでに私以外の護衛の人たちに囲まれて守られていたから、私は先に玲菜さんに声を掛けた。

「玲菜さん、大丈夫ですか? 意識はハッキリしてますか?」
「え? あ、望乃ちゃん? ごめんなさい、何だか頭が混乱していて……ところどころ記憶が途切《とぎ》れてるし」

 やっぱりだ。
 これ、ヴァンパイアに催眠術をかけられた人の特徴《とくちょう》と似てる。

「記憶が途切れちゃったりする前に誰かと会いませんでしたか?」
「え? えっと……ああ、望乃ちゃんがドレスに着替えるとき、外にいた護衛の人を連れてくる前に男の子にぶつかっちゃって……」

 それからかな? と頭を押さえながら教えてくれた。

「分かりました。とりあえず玲菜さんは紫苑くんのそばにいてあげてください」

 背中をそっと押してうながす。
 きっと、玲菜さんに催眠術をかけたのはこの場所に誘導《ゆうどう》するためだと思う。
 だから催眠術の効果はすぐに切れるはず。

 かけたらしき人物が男のっていうのが気になるところだけれど、今はそこまで追求している状況じゃないよね。
 柊さんたちを守るため、私も護衛に囲まれている彼らのそばに行く。
 その頃には相手の方も準備が整ったのか、一触即発《いっしょくそくはつ》な雰囲気になっていた。

「……さて、そこにいる常盤三兄弟を渡してもらおうか?」

 覆面男たちの中の一人が、布ごしのくぐもった声でつげる。

「……渡すわけないですよね?」

 他の護衛さんたちが何も言わないので、私が答えた。
 覆面男たちは私が普通の中学生だと思っているのか、あなどった笑い声を出す。

「ははっ!……メイドのお嬢ちゃんも護衛なのかな? 可愛い顔に傷をつけたくなければ大人しくしておいた方がいいぞ?」
「心配いりませんよ。私、強いので」

 会話をしながら、私は意識を戦闘モードに切り替えていく。
 ケガをさせるつもりはないみたいだけれど、三人をかどわかそうとしてるんだから容赦《ようしゃ》しなくていいよね。

 クロちゃん、やっと出番だよ。
 私は心の中で呼びかけ、メイド服のスカートをグッとたくし上げた。

「なっ⁉」
「ちょっ、望乃⁉」

 後ろの方から柊さんと杏くんの驚きの声が聞こえる。
 何をそんなの驚いているのかな?って思いながら、私は自分の太ももに固定していたベルトからクロちゃんを取り出した。

 十五センチくらいの黒い棒・クロちゃんを強く一振りして、その勢いで伸びたところを引っ張る。
 カチカチッと固定される音がして、一メートルくらいの一本の棒になった。
 構えると、さすがにただの中学生とは思わなくなったみたい。
 覆面男たちは臨戦態勢《りんせんたいせい》になった。

「ただ者じゃあないってことかな? じゃあ、早くすませるとするか」

 そう言って彼らはいっせいに動き出した。
 私に向かってくる人、護衛に囲まれている柊さんたちに向かって行く人。
 二手に分かれていたけれど、ヴァンパイアの私からすれば大した意味はない。
 この中に《朧夜》のヴァンパイアがいたら話は違っていただろうけれど、動きを見た限りみんな人間みたいだったし。

「このっ! ちょこまかと!」

 素早く動く私について来れない覆面男たち。
 そんな彼らを私はクロちゃんで突いたり払ったりして倒していく。
 か弱く見えたってヴァンパイア。力だって結構あるんだから!
 まさに“ばったばったとなぎ倒し”って感じで覆面男たちを一人残らず倒した私は、彼らに言った。

「私が護衛をしている限り、常盤三兄弟に手出しなんかさせないんだから!」

 クロちゃんを構えて宣言した私は、内心決まった! とちょっと得意になる。

「っち! 仕方ねぇ、引くぞ!」

 初めに私に話しかけてきた覆面男の指示で彼らは走り去って行った。
 覆面男たちの姿が見えなくなって、緊迫《きんぱく》した雰囲気もやわ
らぐ。
 また変な人が来ないか周囲を確認してから、私はやっと構《かま》えをといた。

 一安心して柊さんたちの近くに行くと、護衛の人たちの間から紫苑くんが走り出てくる。

「ののねーちゃんすごい! かっこいい!」

 怖がっていないかなって心配したけれど、キラキラしたその目には恐怖なんて全く映っていなかった。

「すごくてかっこよくて、キレイでかわいくて……とにかくののねーちゃんはすごいの!」

 紫苑くんなりの称賛《しょうさん》に私はふにゃっと表情をくずす。

「ありがとう、紫苑くん」

 笑顔でほめ言葉を受け取ると、柊さんと杏くんも近づいてきた。
 二人は大丈夫かな? と心配したんだけれど……。

「望乃、お前なんてところから武器出してんだよ⁉」
「へ?」
「そうだよ、女の子があんな風に素足をさらすなんて」
「え? ええぇ?」

 なぜか怒られて困惑《こんわく》する。
 聞いた感じだと、クロちゃんを取り出すためにスカートをたくし上げたのがいけなかったらしい。

「で、でも、二分丈のレギンスもはいてますし」
『そういう問題じゃない!』

 二人の声がそろう。
 しかもその様子を見ていた紫苑くんが私と兄二人を見比べて。

「うーんと……ののねーちゃん」
「ん? 何?」
「はしたないから、めーなんだよ?」
「う……はい」

 紫苑くんにまで叱《しか》られてしまった。
 紫苑くん、はしたないなんて言葉どこで覚えたんだろう。
 でもとにかく、太ももに固定するのはダメらしい。

 女スパイみたいでカッコイイかなって思ったんだけどなー。
 残念。
 他の携帯方法考えなきゃ。
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