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四章 山の神の娘
空の告白
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すぐに上空まで飛び、煉先輩たちの姿も見えなくなる。
高校生たちはすぐに動ける感じではなかったみたいだし、煉先輩大丈夫だよね?
まだ痛みがあると言っていたからちょっと心配だけれど。
そんな風に思っていると、わたしを抱く風雅先輩の手に力が込められた。
「本当に、良かった……」
強い風の中、零れ落ちるようにそのつぶやきが耳に届く。
顔を寄せられて、耳元で話される。
「お前のクラスの生徒から、美沙都が日宮先輩に連れ去られたと聞いた瞬間から気が気じゃなかった。そのまま連れ去られてしまうんじゃないか、何か嫌なことをされてるんじゃないかって」
「風雅先輩……?」
「美沙都が山の神の娘だって認めたくない連中が邪魔してきて、そいつらがお前を里から追い出すと言っていて……美沙都が俺のそばからいなくなってしまうんじゃないかって……怖かった」
「……」
風雅先輩の思いが伝わってきて、胸がギュッとなる。
わたしも、風雅先輩と離れたくない。
ずっと、近くにいたい。
「美沙都」
「は、はい!」
耳元から顔を離した風雅先輩が、真剣な目でわたしを見下ろす。
透き通った新緑の目がわたしだけを映していて、ドキドキと胸が高鳴った。
「俺は、お前が好きだ」
「っ!?」
驚きすぎて言葉が出てこない。
いま……風雅先輩、なんて言った?
聞き間違いじゃ、ないよね?
目を見開くわたしに、風雅先輩は優しく話してくれた。
「……初めて祠で会ったとき、コタになつかれている美沙都を見て可愛いなって思った。そのことに俺自身驚いたんだ、同年代の女の子のことそういう風に思ったことなかったから」
「そう、なんですか?」
「ああ。それからも可愛いって思う気持ちは変わらなくて……那岐や日宮先輩に気に入られていく美沙都に独占欲が止まらなくて……」
それって……。
期待に心音が早くなる。
目の前の風雅先輩の表情が、優しくて、ひたすらに甘い笑顔になった。
「気づいたときには、俺はとっくに美紗都のことを好きになっていたんだ」
「っ! ふうが、せんぱっ……!」
聞き間違いじゃないことが分かって、今度は嬉しさに言葉が詰まる。
ちゃんと呼びたいのに、言葉が出せない。
でも風雅先輩はわたしが落ち着くのをちゃんと待ってくれた。
そして、優しく聞かれる。
「美沙都……返事、聞かせてくれ」
「っ! わた……わたしも、風雅先輩が好きですっ……きっと、初めて会ったときから」
そう、初めて会ったあのとき。
風雅先輩の綺麗な新緑の目を見た瞬間、恋に落ちていたんだ。
勘違いしたくないって言い訳をして、自覚するのも遅くなってしまったけれど……。
でも、きっと本当は……初めから風雅先輩に恋していたんだ。
「うん……ありがとう」
とても嬉しそうに表情をほころばせる風雅先輩。
そして、ちょっと弱音を呟く。
「はぁ……断られたらどうしようかと思った……」
「え?」
「美沙都のこと好きな男は他にもいるし、俺を選んでくれるか不安だったからな」
苦笑気味に告げられた言葉に驚く。
「そんな、だって……わたし、こんな風にドキドキするの、風雅先輩だけなのに……」
「本当に?……嬉しすぎる」
気持ちを言葉にしてくれる風雅先輩。
そんな彼につられるように、わたしも思っていたことを伝えた。
「……わたしも、嬉しいです。もしかしたら風雅先輩は使命だからわたしのことを守ってくれてるだけなのかもしれないって思ってたので……」
「は? 確かに使命もあるけど、それだけってわけじゃないぞ?」
わたしがそんなことを考えていたとは思っていなかった、と言って風雅先輩は説明してくれる。
「前に美沙都にだけ見えるっていう《感情の球》がそれぞれ色が違うって……その人の本質の色だと思うって言っただろう?」
「は、はい」
「人の本質を見抜く力は、神の力だ。その話を聞いたとき、美沙都が山の神の子供で、俺が守るべき“山の神の大事なもの”なんじゃないかって思った」
あ、あのときに風雅先輩は気づいたんだ……。
「嬉しかったよ。守るべき相手が美沙都なら、ずっとそばにいることが出来る。護衛だって言って、近くに行くことが出来る。……そう思ったから」
見つめられるだけで溶けてしまいそうなほど甘い笑顔で、風雅先輩は言う。
わたしが使命だからこそ、大事なんだって。
嬉しすぎて、胸が苦しくて、逆に不安になる。
「っ……! ほ、本当に? わたし、風雅先輩は使命の方を大事にしているものだと思っていたから……」
「なんだ? 信じられないのか? 信じてもらえるまで好きって言い続けてもいいけど……。そうだ、それこそ《感情の球》を見てみたらどうだ?」
「え?」
「多分だけど、俺の今の感情は読み間違えるってことはないと思うから」
自信たっぷりに断言する風雅先輩に、わたしは「じゃあ」と言って恐る恐る見てみた。
読み間違えないってどういうことなのかと思いつつ集中すると、夏空色の風雅先輩の《感情の球》が目の前に現れる。
「――っ」
息を呑んだ。
確かに、これは見間違えようがない。
球が放っている光は、混じりけのない優しいピンク色。
ハッキリとしたその色に、風雅先輩がそれだけわたしを好きだと……愛しいと思ってくれているのが分かって……。
「っあ……風雅、先輩……えっと、その……」
嬉しいけど、それ以上に恥ずかしくなって言葉が出てこない。
そんなわたしに、風雅先輩は言葉でも気持ちを伝えてくる。
「俺はさ、もっと美沙都のそばにいたいって思ってる。もっと触れていたいし……あと、キスしたい。……こんな気持ちは迷惑か?」
「い、いいえ……!」
キスというところにビックリしつつも、迷惑なわけないから否定の声を上げた。
「そうか……じゃあ、美沙都は俺の彼女ってことで良いんだよな?」
「ふぇ!?」
風雅先輩の彼女。
風雅先輩の特別な女の子。
わたしが、その女の子になれる?
「い、良いんですか?」
「いいに決まってるだろ?……俺も、美沙都の彼氏ってことで、良いんだよな?」
「かっかれ、し!?」
「ダメか?」
少し不安そうに顔を覗き込まれ、頭を横にブンブン振る。
「ダメじゃ、ないです……」
恥ずかしすぎて小さな声になりそうだったけれど、でも強い風に負けないようちゃんと聞こえるように伝えた。
すると風雅先輩はふわっと幸せそうな笑顔になる。
「良かった……嬉しい」
その言葉に、その笑顔に、わたしは泣きたくなるほど嬉しくなって……。
同時に照れくさくて彼の胸に顔を埋めた。
顔は見えなくても、赤い耳は見えてしまうかもしれない。
でも、傾いてきた太陽が空を赤く染めてきているから、きっと隠してくれる。
コタちゃんも気を使ってか、いつの間にか制服のポケットに隠れてくれていた。
だから、きっと気づかれない。
わたしがこんなにもドキドキしてしていることを。
……風雅先輩の鼓動も早くなっていることに、わたしが気づいていることも。
嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて……。
そんな幸せな時間をわたしは風雅先輩の腕の中で噛みしめた。
***
学校の上空に戻って来たわたしたち。
眼下に広がる校庭の様子に、わたしは思わず頬を引きつらせた。
……よ、妖怪大戦争……。
まさに、そんな言葉がピッタリな気がする。
何人ものあやかしの生徒たちが変転や半変転をして争っていた。
それを止めようとしているのか先生たちも出て来ていて、混戦状態。
わたしを山の神の娘だと認めたくないあやかしたちは力の強い者が多いのか、多勢に無勢でも戦えているからなおさら終わらないみたい。
「これ、どうすれば……」
つぶやいたわたしに、何かを思いついた風雅先輩がヒソッと耳打ちする。
耳に息がかかった瞬間ドキッとしたけれど、その内容にクスッと笑ってしまう。
「わたしに出来るでしょうか?」
「美沙都なら、出来るよ」
少しの不安を口にすると、力強い答えが返ってくる。
大好きな、恋人になった風雅先輩の言葉にわたしは自信をつけた。
「はい。……じゃあコタちゃん、手伝ってね」
「キー!」
わたしの言葉にコタちゃんはポケットから出てきて手のひらに乗る。
流石にまだ一人で力を使えるとは思えなかったから。
コタちゃんのフワフワな体がわたしの霊力を誘導するように温かくなる。
こうすればいいんだよっていうイメージが流れ込んできているみたい。
わたしはそのイメージ通り手のひらに霊力を集める。
たくさん集まってコタちゃんが手のひらから下りると、わたしは両手を空に向かって横に広げた。
すると黒い雲が校庭上空にだけ現れて、次の瞬間局地的な土砂降りになる。
雲が晴れる頃には、戦争状態だった校庭がシンと静まり返っていた。
わたしと風雅先輩はそんな校庭の朝礼台の上に降り立つ。
それだけでとても注目を浴びた。
「え……? 今のって、もしかしてあの子がやったの?」
「そう、だよな? 滝柳先輩の力は風だし……」
「こんな規模の雨を降らせるなんて……雨のあやかし以外じゃあ相当霊力のあるあやかしじゃなきゃ出来ないよ?」
ざわざわと少しずつ声が上がった。
予想以上の注目にちょっと怖くなって風雅先輩の制服をキュッと掴むと、大丈夫だと安心させるかのように肩を抱かれた。
怖さより、ドキドキの方が強くなる。
「え……まさか……本当に? 山の神の力?」
「母親がサトリだから、大した力なんてある訳ないって思ってたのに……」
わたしを認めたくないって思っていた人たちの声も聞こえる。
見ると、呆然としていたり項垂れていたり。
これでわたしを追い出すこと、諦めてくれるかな?
「美沙都ちゃん!」
周囲の様子を確認していると、仁菜ちゃんに呼ばれた。
丁度山里先輩と一緒にこっちに近づいて来てくれているところみたい。
二人とも半変転の姿で、仁菜ちゃんの猫耳姿は初めて見たのでちょっと感動した。
仁菜ちゃん、可愛い……。
今は雨で濡れてしまってる猫耳だけれど、濡れてなければきっとフワフワなんだろうなって思う。
「瀬里さん、良かった。無事みたいだね」
「心配かけてしまってすみません、山里先輩」
びしょ濡れでも優しく微笑む山里先輩は水も滴るいい男状態だった。
ちょっと色気もあるかもしれない。
「良かった、美沙都ちゃん」
ホッとした様子の仁菜ちゃんは、笑顔でそう言った後「でも」と不満顔になる。
「あたしたちまでびしょ濡れにすることなかったんじゃないの?」
「あ……ご、ごめんね?」
みんな熱くなってるみたいだから、雨でも降らせて冷やした方がいいだろって風雅先輩が言うから……。
わたしもいい考えだって思っちゃったし……。
だから、文句は甘んじて受け入れる。
「今度駅前のカフェでケーキおごってよ? それで許してあげる」
「分かった、カフェオレもつけるから!」
「いいの? やったぁ!」
それだけで笑顔になってくれた仁菜ちゃんにホッコリする。
こうして、最後は笑顔で落ち着いたのだった。
高校生たちはすぐに動ける感じではなかったみたいだし、煉先輩大丈夫だよね?
まだ痛みがあると言っていたからちょっと心配だけれど。
そんな風に思っていると、わたしを抱く風雅先輩の手に力が込められた。
「本当に、良かった……」
強い風の中、零れ落ちるようにそのつぶやきが耳に届く。
顔を寄せられて、耳元で話される。
「お前のクラスの生徒から、美沙都が日宮先輩に連れ去られたと聞いた瞬間から気が気じゃなかった。そのまま連れ去られてしまうんじゃないか、何か嫌なことをされてるんじゃないかって」
「風雅先輩……?」
「美沙都が山の神の娘だって認めたくない連中が邪魔してきて、そいつらがお前を里から追い出すと言っていて……美沙都が俺のそばからいなくなってしまうんじゃないかって……怖かった」
「……」
風雅先輩の思いが伝わってきて、胸がギュッとなる。
わたしも、風雅先輩と離れたくない。
ずっと、近くにいたい。
「美沙都」
「は、はい!」
耳元から顔を離した風雅先輩が、真剣な目でわたしを見下ろす。
透き通った新緑の目がわたしだけを映していて、ドキドキと胸が高鳴った。
「俺は、お前が好きだ」
「っ!?」
驚きすぎて言葉が出てこない。
いま……風雅先輩、なんて言った?
聞き間違いじゃ、ないよね?
目を見開くわたしに、風雅先輩は優しく話してくれた。
「……初めて祠で会ったとき、コタになつかれている美沙都を見て可愛いなって思った。そのことに俺自身驚いたんだ、同年代の女の子のことそういう風に思ったことなかったから」
「そう、なんですか?」
「ああ。それからも可愛いって思う気持ちは変わらなくて……那岐や日宮先輩に気に入られていく美沙都に独占欲が止まらなくて……」
それって……。
期待に心音が早くなる。
目の前の風雅先輩の表情が、優しくて、ひたすらに甘い笑顔になった。
「気づいたときには、俺はとっくに美紗都のことを好きになっていたんだ」
「っ! ふうが、せんぱっ……!」
聞き間違いじゃないことが分かって、今度は嬉しさに言葉が詰まる。
ちゃんと呼びたいのに、言葉が出せない。
でも風雅先輩はわたしが落ち着くのをちゃんと待ってくれた。
そして、優しく聞かれる。
「美沙都……返事、聞かせてくれ」
「っ! わた……わたしも、風雅先輩が好きですっ……きっと、初めて会ったときから」
そう、初めて会ったあのとき。
風雅先輩の綺麗な新緑の目を見た瞬間、恋に落ちていたんだ。
勘違いしたくないって言い訳をして、自覚するのも遅くなってしまったけれど……。
でも、きっと本当は……初めから風雅先輩に恋していたんだ。
「うん……ありがとう」
とても嬉しそうに表情をほころばせる風雅先輩。
そして、ちょっと弱音を呟く。
「はぁ……断られたらどうしようかと思った……」
「え?」
「美沙都のこと好きな男は他にもいるし、俺を選んでくれるか不安だったからな」
苦笑気味に告げられた言葉に驚く。
「そんな、だって……わたし、こんな風にドキドキするの、風雅先輩だけなのに……」
「本当に?……嬉しすぎる」
気持ちを言葉にしてくれる風雅先輩。
そんな彼につられるように、わたしも思っていたことを伝えた。
「……わたしも、嬉しいです。もしかしたら風雅先輩は使命だからわたしのことを守ってくれてるだけなのかもしれないって思ってたので……」
「は? 確かに使命もあるけど、それだけってわけじゃないぞ?」
わたしがそんなことを考えていたとは思っていなかった、と言って風雅先輩は説明してくれる。
「前に美沙都にだけ見えるっていう《感情の球》がそれぞれ色が違うって……その人の本質の色だと思うって言っただろう?」
「は、はい」
「人の本質を見抜く力は、神の力だ。その話を聞いたとき、美沙都が山の神の子供で、俺が守るべき“山の神の大事なもの”なんじゃないかって思った」
あ、あのときに風雅先輩は気づいたんだ……。
「嬉しかったよ。守るべき相手が美沙都なら、ずっとそばにいることが出来る。護衛だって言って、近くに行くことが出来る。……そう思ったから」
見つめられるだけで溶けてしまいそうなほど甘い笑顔で、風雅先輩は言う。
わたしが使命だからこそ、大事なんだって。
嬉しすぎて、胸が苦しくて、逆に不安になる。
「っ……! ほ、本当に? わたし、風雅先輩は使命の方を大事にしているものだと思っていたから……」
「なんだ? 信じられないのか? 信じてもらえるまで好きって言い続けてもいいけど……。そうだ、それこそ《感情の球》を見てみたらどうだ?」
「え?」
「多分だけど、俺の今の感情は読み間違えるってことはないと思うから」
自信たっぷりに断言する風雅先輩に、わたしは「じゃあ」と言って恐る恐る見てみた。
読み間違えないってどういうことなのかと思いつつ集中すると、夏空色の風雅先輩の《感情の球》が目の前に現れる。
「――っ」
息を呑んだ。
確かに、これは見間違えようがない。
球が放っている光は、混じりけのない優しいピンク色。
ハッキリとしたその色に、風雅先輩がそれだけわたしを好きだと……愛しいと思ってくれているのが分かって……。
「っあ……風雅、先輩……えっと、その……」
嬉しいけど、それ以上に恥ずかしくなって言葉が出てこない。
そんなわたしに、風雅先輩は言葉でも気持ちを伝えてくる。
「俺はさ、もっと美沙都のそばにいたいって思ってる。もっと触れていたいし……あと、キスしたい。……こんな気持ちは迷惑か?」
「い、いいえ……!」
キスというところにビックリしつつも、迷惑なわけないから否定の声を上げた。
「そうか……じゃあ、美沙都は俺の彼女ってことで良いんだよな?」
「ふぇ!?」
風雅先輩の彼女。
風雅先輩の特別な女の子。
わたしが、その女の子になれる?
「い、良いんですか?」
「いいに決まってるだろ?……俺も、美沙都の彼氏ってことで、良いんだよな?」
「かっかれ、し!?」
「ダメか?」
少し不安そうに顔を覗き込まれ、頭を横にブンブン振る。
「ダメじゃ、ないです……」
恥ずかしすぎて小さな声になりそうだったけれど、でも強い風に負けないようちゃんと聞こえるように伝えた。
すると風雅先輩はふわっと幸せそうな笑顔になる。
「良かった……嬉しい」
その言葉に、その笑顔に、わたしは泣きたくなるほど嬉しくなって……。
同時に照れくさくて彼の胸に顔を埋めた。
顔は見えなくても、赤い耳は見えてしまうかもしれない。
でも、傾いてきた太陽が空を赤く染めてきているから、きっと隠してくれる。
コタちゃんも気を使ってか、いつの間にか制服のポケットに隠れてくれていた。
だから、きっと気づかれない。
わたしがこんなにもドキドキしてしていることを。
……風雅先輩の鼓動も早くなっていることに、わたしが気づいていることも。
嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて……。
そんな幸せな時間をわたしは風雅先輩の腕の中で噛みしめた。
***
学校の上空に戻って来たわたしたち。
眼下に広がる校庭の様子に、わたしは思わず頬を引きつらせた。
……よ、妖怪大戦争……。
まさに、そんな言葉がピッタリな気がする。
何人ものあやかしの生徒たちが変転や半変転をして争っていた。
それを止めようとしているのか先生たちも出て来ていて、混戦状態。
わたしを山の神の娘だと認めたくないあやかしたちは力の強い者が多いのか、多勢に無勢でも戦えているからなおさら終わらないみたい。
「これ、どうすれば……」
つぶやいたわたしに、何かを思いついた風雅先輩がヒソッと耳打ちする。
耳に息がかかった瞬間ドキッとしたけれど、その内容にクスッと笑ってしまう。
「わたしに出来るでしょうか?」
「美沙都なら、出来るよ」
少しの不安を口にすると、力強い答えが返ってくる。
大好きな、恋人になった風雅先輩の言葉にわたしは自信をつけた。
「はい。……じゃあコタちゃん、手伝ってね」
「キー!」
わたしの言葉にコタちゃんはポケットから出てきて手のひらに乗る。
流石にまだ一人で力を使えるとは思えなかったから。
コタちゃんのフワフワな体がわたしの霊力を誘導するように温かくなる。
こうすればいいんだよっていうイメージが流れ込んできているみたい。
わたしはそのイメージ通り手のひらに霊力を集める。
たくさん集まってコタちゃんが手のひらから下りると、わたしは両手を空に向かって横に広げた。
すると黒い雲が校庭上空にだけ現れて、次の瞬間局地的な土砂降りになる。
雲が晴れる頃には、戦争状態だった校庭がシンと静まり返っていた。
わたしと風雅先輩はそんな校庭の朝礼台の上に降り立つ。
それだけでとても注目を浴びた。
「え……? 今のって、もしかしてあの子がやったの?」
「そう、だよな? 滝柳先輩の力は風だし……」
「こんな規模の雨を降らせるなんて……雨のあやかし以外じゃあ相当霊力のあるあやかしじゃなきゃ出来ないよ?」
ざわざわと少しずつ声が上がった。
予想以上の注目にちょっと怖くなって風雅先輩の制服をキュッと掴むと、大丈夫だと安心させるかのように肩を抱かれた。
怖さより、ドキドキの方が強くなる。
「え……まさか……本当に? 山の神の力?」
「母親がサトリだから、大した力なんてある訳ないって思ってたのに……」
わたしを認めたくないって思っていた人たちの声も聞こえる。
見ると、呆然としていたり項垂れていたり。
これでわたしを追い出すこと、諦めてくれるかな?
「美沙都ちゃん!」
周囲の様子を確認していると、仁菜ちゃんに呼ばれた。
丁度山里先輩と一緒にこっちに近づいて来てくれているところみたい。
二人とも半変転の姿で、仁菜ちゃんの猫耳姿は初めて見たのでちょっと感動した。
仁菜ちゃん、可愛い……。
今は雨で濡れてしまってる猫耳だけれど、濡れてなければきっとフワフワなんだろうなって思う。
「瀬里さん、良かった。無事みたいだね」
「心配かけてしまってすみません、山里先輩」
びしょ濡れでも優しく微笑む山里先輩は水も滴るいい男状態だった。
ちょっと色気もあるかもしれない。
「良かった、美沙都ちゃん」
ホッとした様子の仁菜ちゃんは、笑顔でそう言った後「でも」と不満顔になる。
「あたしたちまでびしょ濡れにすることなかったんじゃないの?」
「あ……ご、ごめんね?」
みんな熱くなってるみたいだから、雨でも降らせて冷やした方がいいだろって風雅先輩が言うから……。
わたしもいい考えだって思っちゃったし……。
だから、文句は甘んじて受け入れる。
「今度駅前のカフェでケーキおごってよ? それで許してあげる」
「分かった、カフェオレもつけるから!」
「いいの? やったぁ!」
それだけで笑顔になってくれた仁菜ちゃんにホッコリする。
こうして、最後は笑顔で落ち着いたのだった。
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