美貌の御曹司は、夜ごとの獣を飼い慣らせない ~現代源氏の溺愛、あるいは規格外の楔(くさび)~

namisan

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第7話 月下の社交界、あるいは独占の刻印

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 その夜、源煌(みなもと・こう)のペントハウスは、戦場のような慌ただしさから一転、静寂に包まれていた。
「……顔を上げろ、紫苑」
 煌の言葉に、紫苑は恐る恐る鏡を見た。
 そこに映っていたのは、路地裏で震えていた少女の姿ではなかった。
 夜空の色を溶かしたようなミッドナイトブルーのロングドレス。胸元には、煌の瞳と同じ色をしたサファイアのネックレスが輝いている。
 プロの手によって結い上げられた髪、薄く施された化粧は、彼女の素材の良さを極限まで引き出していた。
「綺麗だ。……俺の見立てに狂いはなかったな」
 煌が背後から紫苑の細い腰に腕を回す。
 鏡越しに目が合う。完璧なタキシード姿の煌と、それに釣り合うように仕立て上げられた紫苑。
 まるで、絵画の中のカップルのようだ。
「煌様……私、こんな格好で、本当に……?」
「自信を持て。お前は俺が選んだ女だ。誰に恥じることもない」
 今夜は、源グループが主催するチャリティーガラ(晩餐会)。
 政財界の大物が集うその場所は、紫苑にとって未知の世界であり、同時に煌が「新しい所有物」を周囲に見せつけるための舞台でもあった。
 ――会場となる超一流ホテルのボールルーム。
 シャンデリアの光が降り注ぐ中、煌が紫苑を連れて足を踏み入れると、会場の喧噪が一瞬にして止んだ。
「あれは……源総帥か?」
「隣にいる女性は誰だ? 見たことがない顔だが」
「なんて美しい……」
 無数の視線が突き刺さる。
 羨望、嫉妬、好奇心。
 紫苑は足がすくみそうになったが、腰に回された煌の手が、強く食い込むように彼女を支えた。
「堂々としていろ。下を向くな」
 煌が耳元で囁く。その声は命令でありながら、どこか甘い痺れを伴っていた。
 昨晩、バスルームで与えられた指の感触が蘇る。あの時と同じ手が、今はドレスの上から自分を支配しているのだ。
「あら、煌様。お久しぶりですわ」
 人波を割って、着飾った美女たちが次々と挨拶に来る。
 彼女たちは皆、煌に媚びるような視線を送りつつ、隣にいる紫苑を値踏みするように睨みつけた。
(この子? 地味な顔立ちね)
(どうせまた、すぐ捨てられる玩具でしょう?)
 声に出さずとも、その視線が語っている。
 紫苑は身を小さくした。やはり、自分は場違いなのだ。煌のような「雲の上の人」の隣にいていい人間ではない。
 その時だった。
 一人の恰幅の良い男が、酒の勢いもあってか、無遠慮に紫苑に近づいてきた。
「やあ源君。これはまた可愛らしいお嬢さんだ。……ねえ君、名前は? 僕のヨットパーティーにも来ないか?」
 男の手が、紫苑の二の腕に伸びる。
 触れられる――そう思った瞬間。
「――触るな」
 会場の空気が凍りつくような、冷徹な声が響いた。
 煌だ。
 彼は男の手首を掴んではいなかった。ただ、その氷のような瞳で男を射抜いただけで、相手を石のように硬直させたのだ。
「その薄汚い手を、俺の女に向けるなと言ったんだ」
「ひっ……す、すまん、源君……!」
 男は弾かれたように後ずさり、逃げるように去っていった。
 周囲が静まり返る中、煌は紫苑を強く引き寄せ、衆人環視の中でその額に口づけを落とした。
「……申し訳ない、皆様。少々、独占欲が過ぎたようだ」
 煌は優雅に微笑んで見せたが、その目は笑っていない。
 『これは俺の獲物だ。指一本触れれば破滅させる』という警告を、会場にいる全員に知らしめたのだ。
 その後、煌は紫苑を連れてバルコニーへと出た。
 夜風が、熱った頬を冷やす。
「……怖かったか?」
「い、いいえ……煌様が、守ってくださったので」
「守る? ふん、勘違いするな」
 煌は紫苑を壁際に追い詰め、夜景を背に彼女を閉じ込めた。
「俺は、他人の手垢がつくのが我慢ならないだけだ。お前は俺だけのものだ。髪の毛一本、細胞の一つに至るまでな」
 煌の太腿が、ドレスのスリットから覗く紫苑の脚を割り、ぐいと押し入ってくる。
 硬い。
 タキシード越しでも分かる、その「規格外」の存在感。
 昨夜のレッスンよりも、さらに熱く、大きく脈打っているように感じる。
「……帰るぞ、紫苑」
「えっ、もう……?」
「ああ。限界だ」
 煌は苦しげに吐息を漏らし、紫苑の耳を甘噛みした。
「他の男の視線にお前が晒されているのを見ていたら……どうしようもなく、興奮した。今すぐ連れ帰って、その体に俺の印を刻み込みたい」
 紫苑の心臓が早鐘を打つ。
 印を刻む。それはまだ「貫く」ことではないかもしれない。けれど、昨夜以上の濃密な「何か」が待っていることは確実だった。
「はい……煌様……」
 紫苑は、もう拒絶できなかった。
 煌の腕に抱かれ、夜の闇へと連れ去られるシンデレラ。
 城に戻れば、甘く危険な「続き」が待っている。
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