1 / 9
1
しおりを挟む
「……ぅ、うっ……ん、っぐ……」
ガンガンと頭まで響くような衝撃に僕は目が覚めた。
よく知っている、内臓を乱暴に突き上げられる感覚。体を折り畳まれ、圧し掛かられて、孔をオナホのように使われる。手には性器を握らされ、口にも突っ込まれる。こちらを顧みることなく続けられる暴力。
そう僕はただ性欲を満たすための玩具で……
――あれ、僕、これが嫌で命を断ったはずなのに。
見たくもない顔を見てしまうからと、いつもは頑なに閉じている瞼をうっすらと開いた。
そこには見たこともない男の顔。くすんだ茶髪にごつい体であいつらとは違った。周りの男たちも似たような体つきの全く知らない顔ぶれだった。
「急に大人しくなりやがって」
「ま、ヤりやすいから良いだろ」
「俺は悲鳴上げてる方が好きだけどなぁ」
「おまえの趣味なんて聞いてねぇよ」
外国人のように見えているのに、日本語を流暢に話していて違和感しか覚えない。でも、レイプされていることだけはわかった。
それを認識すると同時に、体と五感がラジオのチャンネルを合わせたかのようにぴたりと合致した。
「う、あ……っ」
途端に体が痛みを訴え、どこから発生したのかもわからない悲しみと恐怖が脳に流れ込んできたのだ。自分の記憶と誰かの記憶が入り乱れ掻き混ぜられて、心に塗りたくられる。その苦痛を伴う不快感に歯を喰いしばった。
『触るな! 僕に触るな!』
『助けて、殿下!』
『おねがい、やめて。やめて』
愛しい人に助けを求める悲痛な叫び。それがこの口から発せられた最期の言葉だった。
――ああ、僕乗り移ちゃったんだ、この子に。
ユノス・マルベス。
伯爵マルベス家の次男。
そして、第一王子ランベルトの婚約者だった子。
この世界には光の神子という者が存在し、世界を侵す瘴気を払う役目を担う。任命されれば、その活動に身を捧げることになる。
瘴気の元凶である魔王の発生が予言されたため、光の属性を持っていたユノスがその神子になる任を受けた。そして、報酬としてランベルトと婚約したのだ。
神子は神殿にて神降ろしのような儀式を行い、毎日祈りを捧げる。魔王討伐後も世界に飛散した瘴気を払い続けるため、一生を費やすこともある。人と会うにも、外出するにも護衛がつき、何をしようにも許可がいる。その前に自分の我儘を通すこともできない。神子はそんな制限だらけのつまらない人生を歩むのだ。
ユノスはそれでも良かった。ランベルトを愛していたから。
伯爵家では王子の妻になるなど夢のまた夢。ユノスにとってはまたとない機会で、ランベルトの側室になろうとも、彼が会いに来てくれさえすればいい。そうすれば自分は頑張れるからと。
そう思っていた。
しかし、ある人物がそれを邪魔した。神子の適性があると平民から神子のスペアとして選出されたニールという少年。彼は神殿を後見人として貴族の学園に入り、その天真爛漫さと愛らしい容姿によって次々とランベルトの側近など周囲の人物をオトしていった。
ニールが得体のしれない力を持っていると気付いたユノスはニールに何度も警告し、ランベルトに何度も訴えた。そんな者を信じてはいけないと。
ただ、それが裏目に出てしまった。
執拗なユノスに対して不審を抱き始めた王子に、ニールが悪い噂を吹き込んだのだ。側近たちもすべてニールに陥落されていたためただのイエスマンであり、噂を否定する者はいなかった。
そして、ニールが暴漢に襲われるという事件が起こった。強姦未遂でニールは事なきを得たが、ユノスが教唆したのだろうと当然噂が立った。確証がないためユノスは捕まりこそしなかったけれど、ほとんど罪人のように見られることになってしまった。勿論それはユノスがやったことじゃない。ニールの策略でしかないことはわかり切っていたのに。
僕は男たちが満足し行為を終わらせるのをひたすら待った。
こんなの僕にしたら慣れたものだったけど、この体は初めて他人のモノを受け入れて悲鳴を上げていた。これ以上抵抗しても痛みが増すだけ。それにもう暴れたとしてもこの子は戻ってこない。絶望し、この世界にいることを拒んだ。
純粋で、哀れで、あんな馬鹿な男のために必死で生きたこの子はもう……。
涙腺が壊れたみたいに涙が溢れ頬を伝い落ちる。自分の痛みとこの子の痛みが重なって、心が張り裂けそうだった。
「っ……こういうのって、最悪な事態になる前に回避していくものじゃないの? この世界には役立たずの神しかいないのかよ……っ」
それとも、慣れっこの僕ならこんなことされても平気だと思ってるの?
男たちが去った後、散らばった服をかき集める。震える指を叱咤しながら袖を通していると、廊下から複数の笑い声が聞こえ、僕は耳を澄ませた。
「こっちに、来る……?」
見られたら面倒なことになる。そうわかっているものの、この子の恐怖心に当てられた体は固まってうまく動かない。
そうこうしているうちにも足音は部屋の前で止まり、扉が躊躇なく開けられた。
「ニールの気持ちがわかったか?」
入ってきた途端に放たれた第一声。それはユノスが愛してやまないランベルトの声だった。
でも、僕はその一言ですべてを察した。
この暴行事件を仕組んだ犯人。ユノスを貶めて神子の座を捨てさせようとしたのが誰なのか。
腹の底にどろりとした黒い感情が溜まっていく。この子がどれだけ恐怖を味わったのか。絶対に失ってはならない大切なものを最後まで守ろうと抵抗し、助けを求めた彼の気持ちを。
――ユノスの純愛を踏みにじったこの屑共に思い知らせてやる。
それが自分の感情なのか、ユノスの恨みを引き継いでしまったために沸いたものなのか、区別はつかなかった。
でも、そんなのはどうでもよかった。
連中は逆光で僕の姿が見えないらしく、ぞろぞろとニールを中心に部屋へ入ってくる。
「……ひッ」
僕は恐怖に顔を歪めた。そして、どろりとした体液が付着し、力任せに掴まれた所為で痣が浮き出た足をわざと目につくように投げ出した。
「ユノス、そろそろ白状したらどうだ」
「……で、殿下……? ぁ、あ、見ないで……見ないで……!」
視線から逃げるようにずり下がり、か細く震える悲鳴を上げる。
緊張で呼吸を激しくすれば、誰かが生唾を呑み込む音が響いた。
「……ユ、ユノス?」
「ぃや……いやっ……」
一歩こちらに踏み出してくる足音。壁に阻まれて追い詰められているフリをしていると、無遠慮なニールの手によってカチリと照明のスイッチが押された。
隅々まで照らされた部屋。眩しそうに細められた王子の目が直後、驚愕に見開かれた。
「こ、これは!? どういうことだ!」
この場で起こったことが何のフィルターにもかけられることなく連中の目に晒される。引き千切られた服、屑共が馬鹿の一つ覚えのように放った精子、そしてユノスの血。
「お、俺はこんなことを命じていないはずだ! なぜ……うそだ、こんな、ありえない!」
王子の取り乱しように頭の中がスッと冷えていく。
ああ、そういうこと。レイプまでは流石に指示してなかったんだ。なら、あの屑共の勝手な判断か、おおよそニールの仕業。
ただ、そんなことはどうでもいい。
あんたが受け入れられなくとも、間違いなくこれが現実。
「……殿下が、命じた……?」
「ち、違う。ユノス、信じてくれ、俺は決してこんなことをするつもりでは……っ」
「…………信じる……? そんな……そんなの……。もう、僕は……、僕は、」
神子にはなれないのに――。
この世の者と体を繋げれば穢れとなる。そして光の属性は忽然と消える。
「神子に、なれない? おまえはすでに純潔ではなかっただろう! それを、……そうか、あいつらをたぶらかして――」
「純潔ではなかった……? 誰がそんなことを……」
「そ、それはニールが、おまえがアーロンと行為を、していたと……」
「アーロンと?」
アーロンはユノスの護衛であり、神殿が派遣した騎士だ。
だが、こうしてユノスが暴漢に襲われたのはアーロンが守るべきユノスを裏切ったからだった。
「……殿下は、彼の、ニールの言い分を信じるのですか? 婚約者の僕ではなく……?」
「――っ、」
頬を静かに涙が伝った。これは僕ではなくユノスの流した涙かもしれない。愛する人に信じてもらえない虚しさに、僕の心にまでぽっかりと穴が空いたみたいだった。
ああ、可哀想なユノス。こんな男に未来を潰されてしまうなんて。
僕は破かれた服を手繰り寄せ、外套を羽織った。こんな屑共に体をこれ以上見られたくなかった。
立ち上がれば、中に出されたものが内腿を伝い落ちて、その気持ち悪さに鳥肌が立つ。でも今はそんなことよりも、こいつに、この屑に、現実を突きつけてやりたかった。
痛む足を引き摺りながら王子に近づく。そして目の前に立って、伏せていた瞼をゆっくりともち上げた。視界には綺麗な、ユノスが愛していた空色があって――。僕はその瞳を虚ろに見つめた。
「……あなたのために守ってきた純潔を、こんなふうに散らされるなんて……」
瞼を閉じれば、ツと涙が頬をこぼれ落ちる。
僕はそのまま彼の横を通り過ぎ、振り返らずに部屋を出た。屑共の中に僕に声をかけてくるような馬鹿がいなかったことだけが幸いだった。
しばらく壁伝いに歩いて、角を曲がったところで立ち止まる。
「なーんてね」
笑いを堪え切れず、口を押さえてその場にしゃがみ込んだ。クククと喉が震える度に体に激痛が走ってもう最悪。
でもしょうがない。王子の絶望した顔が可笑しくて可笑しくて。ってか絶望していいのはユノスだけだろ? おまえにそんな権利なんてねーよ。
「屑が」
吐き捨てた途端、視界がぐらりと揺れる。座っているのに目が回る。流石にこの体は限界だったらしい。僕の意識はそのままブラックアウトした。
ガンガンと頭まで響くような衝撃に僕は目が覚めた。
よく知っている、内臓を乱暴に突き上げられる感覚。体を折り畳まれ、圧し掛かられて、孔をオナホのように使われる。手には性器を握らされ、口にも突っ込まれる。こちらを顧みることなく続けられる暴力。
そう僕はただ性欲を満たすための玩具で……
――あれ、僕、これが嫌で命を断ったはずなのに。
見たくもない顔を見てしまうからと、いつもは頑なに閉じている瞼をうっすらと開いた。
そこには見たこともない男の顔。くすんだ茶髪にごつい体であいつらとは違った。周りの男たちも似たような体つきの全く知らない顔ぶれだった。
「急に大人しくなりやがって」
「ま、ヤりやすいから良いだろ」
「俺は悲鳴上げてる方が好きだけどなぁ」
「おまえの趣味なんて聞いてねぇよ」
外国人のように見えているのに、日本語を流暢に話していて違和感しか覚えない。でも、レイプされていることだけはわかった。
それを認識すると同時に、体と五感がラジオのチャンネルを合わせたかのようにぴたりと合致した。
「う、あ……っ」
途端に体が痛みを訴え、どこから発生したのかもわからない悲しみと恐怖が脳に流れ込んできたのだ。自分の記憶と誰かの記憶が入り乱れ掻き混ぜられて、心に塗りたくられる。その苦痛を伴う不快感に歯を喰いしばった。
『触るな! 僕に触るな!』
『助けて、殿下!』
『おねがい、やめて。やめて』
愛しい人に助けを求める悲痛な叫び。それがこの口から発せられた最期の言葉だった。
――ああ、僕乗り移ちゃったんだ、この子に。
ユノス・マルベス。
伯爵マルベス家の次男。
そして、第一王子ランベルトの婚約者だった子。
この世界には光の神子という者が存在し、世界を侵す瘴気を払う役目を担う。任命されれば、その活動に身を捧げることになる。
瘴気の元凶である魔王の発生が予言されたため、光の属性を持っていたユノスがその神子になる任を受けた。そして、報酬としてランベルトと婚約したのだ。
神子は神殿にて神降ろしのような儀式を行い、毎日祈りを捧げる。魔王討伐後も世界に飛散した瘴気を払い続けるため、一生を費やすこともある。人と会うにも、外出するにも護衛がつき、何をしようにも許可がいる。その前に自分の我儘を通すこともできない。神子はそんな制限だらけのつまらない人生を歩むのだ。
ユノスはそれでも良かった。ランベルトを愛していたから。
伯爵家では王子の妻になるなど夢のまた夢。ユノスにとってはまたとない機会で、ランベルトの側室になろうとも、彼が会いに来てくれさえすればいい。そうすれば自分は頑張れるからと。
そう思っていた。
しかし、ある人物がそれを邪魔した。神子の適性があると平民から神子のスペアとして選出されたニールという少年。彼は神殿を後見人として貴族の学園に入り、その天真爛漫さと愛らしい容姿によって次々とランベルトの側近など周囲の人物をオトしていった。
ニールが得体のしれない力を持っていると気付いたユノスはニールに何度も警告し、ランベルトに何度も訴えた。そんな者を信じてはいけないと。
ただ、それが裏目に出てしまった。
執拗なユノスに対して不審を抱き始めた王子に、ニールが悪い噂を吹き込んだのだ。側近たちもすべてニールに陥落されていたためただのイエスマンであり、噂を否定する者はいなかった。
そして、ニールが暴漢に襲われるという事件が起こった。強姦未遂でニールは事なきを得たが、ユノスが教唆したのだろうと当然噂が立った。確証がないためユノスは捕まりこそしなかったけれど、ほとんど罪人のように見られることになってしまった。勿論それはユノスがやったことじゃない。ニールの策略でしかないことはわかり切っていたのに。
僕は男たちが満足し行為を終わらせるのをひたすら待った。
こんなの僕にしたら慣れたものだったけど、この体は初めて他人のモノを受け入れて悲鳴を上げていた。これ以上抵抗しても痛みが増すだけ。それにもう暴れたとしてもこの子は戻ってこない。絶望し、この世界にいることを拒んだ。
純粋で、哀れで、あんな馬鹿な男のために必死で生きたこの子はもう……。
涙腺が壊れたみたいに涙が溢れ頬を伝い落ちる。自分の痛みとこの子の痛みが重なって、心が張り裂けそうだった。
「っ……こういうのって、最悪な事態になる前に回避していくものじゃないの? この世界には役立たずの神しかいないのかよ……っ」
それとも、慣れっこの僕ならこんなことされても平気だと思ってるの?
男たちが去った後、散らばった服をかき集める。震える指を叱咤しながら袖を通していると、廊下から複数の笑い声が聞こえ、僕は耳を澄ませた。
「こっちに、来る……?」
見られたら面倒なことになる。そうわかっているものの、この子の恐怖心に当てられた体は固まってうまく動かない。
そうこうしているうちにも足音は部屋の前で止まり、扉が躊躇なく開けられた。
「ニールの気持ちがわかったか?」
入ってきた途端に放たれた第一声。それはユノスが愛してやまないランベルトの声だった。
でも、僕はその一言ですべてを察した。
この暴行事件を仕組んだ犯人。ユノスを貶めて神子の座を捨てさせようとしたのが誰なのか。
腹の底にどろりとした黒い感情が溜まっていく。この子がどれだけ恐怖を味わったのか。絶対に失ってはならない大切なものを最後まで守ろうと抵抗し、助けを求めた彼の気持ちを。
――ユノスの純愛を踏みにじったこの屑共に思い知らせてやる。
それが自分の感情なのか、ユノスの恨みを引き継いでしまったために沸いたものなのか、区別はつかなかった。
でも、そんなのはどうでもよかった。
連中は逆光で僕の姿が見えないらしく、ぞろぞろとニールを中心に部屋へ入ってくる。
「……ひッ」
僕は恐怖に顔を歪めた。そして、どろりとした体液が付着し、力任せに掴まれた所為で痣が浮き出た足をわざと目につくように投げ出した。
「ユノス、そろそろ白状したらどうだ」
「……で、殿下……? ぁ、あ、見ないで……見ないで……!」
視線から逃げるようにずり下がり、か細く震える悲鳴を上げる。
緊張で呼吸を激しくすれば、誰かが生唾を呑み込む音が響いた。
「……ユ、ユノス?」
「ぃや……いやっ……」
一歩こちらに踏み出してくる足音。壁に阻まれて追い詰められているフリをしていると、無遠慮なニールの手によってカチリと照明のスイッチが押された。
隅々まで照らされた部屋。眩しそうに細められた王子の目が直後、驚愕に見開かれた。
「こ、これは!? どういうことだ!」
この場で起こったことが何のフィルターにもかけられることなく連中の目に晒される。引き千切られた服、屑共が馬鹿の一つ覚えのように放った精子、そしてユノスの血。
「お、俺はこんなことを命じていないはずだ! なぜ……うそだ、こんな、ありえない!」
王子の取り乱しように頭の中がスッと冷えていく。
ああ、そういうこと。レイプまでは流石に指示してなかったんだ。なら、あの屑共の勝手な判断か、おおよそニールの仕業。
ただ、そんなことはどうでもいい。
あんたが受け入れられなくとも、間違いなくこれが現実。
「……殿下が、命じた……?」
「ち、違う。ユノス、信じてくれ、俺は決してこんなことをするつもりでは……っ」
「…………信じる……? そんな……そんなの……。もう、僕は……、僕は、」
神子にはなれないのに――。
この世の者と体を繋げれば穢れとなる。そして光の属性は忽然と消える。
「神子に、なれない? おまえはすでに純潔ではなかっただろう! それを、……そうか、あいつらをたぶらかして――」
「純潔ではなかった……? 誰がそんなことを……」
「そ、それはニールが、おまえがアーロンと行為を、していたと……」
「アーロンと?」
アーロンはユノスの護衛であり、神殿が派遣した騎士だ。
だが、こうしてユノスが暴漢に襲われたのはアーロンが守るべきユノスを裏切ったからだった。
「……殿下は、彼の、ニールの言い分を信じるのですか? 婚約者の僕ではなく……?」
「――っ、」
頬を静かに涙が伝った。これは僕ではなくユノスの流した涙かもしれない。愛する人に信じてもらえない虚しさに、僕の心にまでぽっかりと穴が空いたみたいだった。
ああ、可哀想なユノス。こんな男に未来を潰されてしまうなんて。
僕は破かれた服を手繰り寄せ、外套を羽織った。こんな屑共に体をこれ以上見られたくなかった。
立ち上がれば、中に出されたものが内腿を伝い落ちて、その気持ち悪さに鳥肌が立つ。でも今はそんなことよりも、こいつに、この屑に、現実を突きつけてやりたかった。
痛む足を引き摺りながら王子に近づく。そして目の前に立って、伏せていた瞼をゆっくりともち上げた。視界には綺麗な、ユノスが愛していた空色があって――。僕はその瞳を虚ろに見つめた。
「……あなたのために守ってきた純潔を、こんなふうに散らされるなんて……」
瞼を閉じれば、ツと涙が頬をこぼれ落ちる。
僕はそのまま彼の横を通り過ぎ、振り返らずに部屋を出た。屑共の中に僕に声をかけてくるような馬鹿がいなかったことだけが幸いだった。
しばらく壁伝いに歩いて、角を曲がったところで立ち止まる。
「なーんてね」
笑いを堪え切れず、口を押さえてその場にしゃがみ込んだ。クククと喉が震える度に体に激痛が走ってもう最悪。
でもしょうがない。王子の絶望した顔が可笑しくて可笑しくて。ってか絶望していいのはユノスだけだろ? おまえにそんな権利なんてねーよ。
「屑が」
吐き捨てた途端、視界がぐらりと揺れる。座っているのに目が回る。流石にこの体は限界だったらしい。僕の意識はそのままブラックアウトした。
126
あなたにおすすめの小説
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる