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第二部 第二章
アルベルト③ 慈悲
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ティーロがユーエンに駆け寄った後、その場の空気が変わった。ティーロの体が淡い光を帯び始め、その光はユーエンを飲み込み拡がっていったのだ。
ウルリヒも竜たちも、俺も。その光に飲まれていった。
それを怖いと思わなかった。それどころか、ティーロの力なのだとすとんと腑に落ちた。
温かい。ティーロの慈愛に満たされるようで、その空間にいるだけで涙が止まらなかった。
どれほどの時間そうしていたのか、どれほどの領域が光に包まれたのか。見当もつかなかったが、光が収束した時にはティーロは中心に横たわっていた。
「ティーロ……」
駆け寄って抱き起こす。規則正しい呼吸が聞こえて、眠っているだけだとわかる。ひとまず安心だと胸をなでおろした。
ユーエンもウルリヒも何が起きたのかわからないと言った表情で茫然と顔を見合わせている。石化も解けたうえ、外れた奴隷の首輪が落ちているのだから驚くのも無理はない。
「あ、アルベルトさん……ティーロは……」
「心配いらない。それより竜たちがどこに行ったか見たか?」
「い、いえ……」
周りにいた数体の竜も、シュメルという男も忽然と姿を消していた。
ばさり、と羽ばたく音が聞こえて見上げるが、それはグリフォンに乗ったギルベルトで竜ではなかった。
「アルベルト! 無事か!」
「ええ、どうもなっていません」
「何だったんだ、今のは」
「ティーロの力です。ですから危ないものではありませんよ」
そうか、とギルベルトは簡単に納得した。それもどうかと思うが、ティーロが信頼されている証だ。
「あの、アルベルトさん。ウルリヒが話をしたいそうなんですが、どうか聞いて頂けますか?」
「ああ。構わない」
すると、ウルリヒは地面に額を擦りつけるように頭を下げた。ユーエンもウルリヒの隣で身を小さくしつつそれに倣った。
「申し訳ありません。なんと詫びればいいのか。貴方様の番を連れ去り、あまつさえ危険に晒すようなことを」
「…………」
竜たちの目的は王の子をティーロに産ませること。ティーロから聞いた時に勘づいてはいたが、一番ウルリヒが言いたいのはそのことなのだろう。
天使だ、自分たちを救う存在だと言いながら、やっていることは盗賊と変わらない。ティーロが利己的な欲望の犠牲になってしまったことが何より悔しかった。そしてやすやすとそれを許してしまった自分自身も。
「それ以上はいい。謝られても許せる気がしない」
「……はい」
「俺たちはここを離れる。竜のことはそちらで処理してくれ。ユーエンが天使ならば、そちらの問題はすべて解決するんだろう?」
「はい。その通りです。村が回復した折には改めてユーエンを礼に向かわせます。その時はどうかユーエンを受け入れて頂きたい」
「……ティーロは拒まない。ただそれに甘えることを俺は許さない」
「はい。胆に銘じます」
どれだけ今のティーロが明るく元気であっても、心に刻まれた傷はまだまだ癒えていない。何かが切欠で苦しみを思い出すかわからないのだ。
二度と会わせるようなことはしたくなかった。同郷だというユーエンでも本当は近づかせたくはない。俺はティーロのように優しくはないのだから。
ただティーロが純粋に喜ぶ顔が頭に浮かんで、仕方ないとなってしまう。
俺はティーロが笑顔でいてくれさえすればそれでいい。そのためなら何でもする。伴侶を甘やかし過ぎだと言われようと、変わったなと言われようと愛情表現を辞めるつもりもない。
「帰ろう」
腕の中で気持ちよさそうに眠るティーロを抱き上げて、ティーロを乗せる気満々で待機していた兄に「お願いします」と声をかけた。
ウルリヒも竜たちも、俺も。その光に飲まれていった。
それを怖いと思わなかった。それどころか、ティーロの力なのだとすとんと腑に落ちた。
温かい。ティーロの慈愛に満たされるようで、その空間にいるだけで涙が止まらなかった。
どれほどの時間そうしていたのか、どれほどの領域が光に包まれたのか。見当もつかなかったが、光が収束した時にはティーロは中心に横たわっていた。
「ティーロ……」
駆け寄って抱き起こす。規則正しい呼吸が聞こえて、眠っているだけだとわかる。ひとまず安心だと胸をなでおろした。
ユーエンもウルリヒも何が起きたのかわからないと言った表情で茫然と顔を見合わせている。石化も解けたうえ、外れた奴隷の首輪が落ちているのだから驚くのも無理はない。
「あ、アルベルトさん……ティーロは……」
「心配いらない。それより竜たちがどこに行ったか見たか?」
「い、いえ……」
周りにいた数体の竜も、シュメルという男も忽然と姿を消していた。
ばさり、と羽ばたく音が聞こえて見上げるが、それはグリフォンに乗ったギルベルトで竜ではなかった。
「アルベルト! 無事か!」
「ええ、どうもなっていません」
「何だったんだ、今のは」
「ティーロの力です。ですから危ないものではありませんよ」
そうか、とギルベルトは簡単に納得した。それもどうかと思うが、ティーロが信頼されている証だ。
「あの、アルベルトさん。ウルリヒが話をしたいそうなんですが、どうか聞いて頂けますか?」
「ああ。構わない」
すると、ウルリヒは地面に額を擦りつけるように頭を下げた。ユーエンもウルリヒの隣で身を小さくしつつそれに倣った。
「申し訳ありません。なんと詫びればいいのか。貴方様の番を連れ去り、あまつさえ危険に晒すようなことを」
「…………」
竜たちの目的は王の子をティーロに産ませること。ティーロから聞いた時に勘づいてはいたが、一番ウルリヒが言いたいのはそのことなのだろう。
天使だ、自分たちを救う存在だと言いながら、やっていることは盗賊と変わらない。ティーロが利己的な欲望の犠牲になってしまったことが何より悔しかった。そしてやすやすとそれを許してしまった自分自身も。
「それ以上はいい。謝られても許せる気がしない」
「……はい」
「俺たちはここを離れる。竜のことはそちらで処理してくれ。ユーエンが天使ならば、そちらの問題はすべて解決するんだろう?」
「はい。その通りです。村が回復した折には改めてユーエンを礼に向かわせます。その時はどうかユーエンを受け入れて頂きたい」
「……ティーロは拒まない。ただそれに甘えることを俺は許さない」
「はい。胆に銘じます」
どれだけ今のティーロが明るく元気であっても、心に刻まれた傷はまだまだ癒えていない。何かが切欠で苦しみを思い出すかわからないのだ。
二度と会わせるようなことはしたくなかった。同郷だというユーエンでも本当は近づかせたくはない。俺はティーロのように優しくはないのだから。
ただティーロが純粋に喜ぶ顔が頭に浮かんで、仕方ないとなってしまう。
俺はティーロが笑顔でいてくれさえすればそれでいい。そのためなら何でもする。伴侶を甘やかし過ぎだと言われようと、変わったなと言われようと愛情表現を辞めるつもりもない。
「帰ろう」
腕の中で気持ちよさそうに眠るティーロを抱き上げて、ティーロを乗せる気満々で待機していた兄に「お願いします」と声をかけた。
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