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第一章
16話 洞窟の恐怖
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「…………」
大きな口を広げて待ち構える洞窟を前に、チロはゴクリと唾を飲み込んだ。
数日に渡って森を探索してきたチロだったが、洞窟となると勝手が違う。
前世でクレイジーな人間を紹介するバラエティ番組を見たことがあるが、そこで紹介されていた洞窟探検家の映像にすら、恐怖を禁じ得なかったチロなのだ。
狭い空間。
暗闇。
そこには、人間の根源的な恐怖が潜んでいる。
しかも、ここは異世界。
どんな危険があっても、どんな不思議生物が現れたり怪奇現象が起きたとしても、何もおかしくはないのである。
「…………でも、ちょっとだけ、覗いてみるかな」
しかし好奇心に勝てず、チロは一歩、洞窟に向かって踏み出した。
「うおぉ、こりゃすごいな」
入口に到達したチロが、感嘆の声を上げる。
洞窟は大きく、日が差して見える範囲の天井には数え切れないほどたくさんの鍾乳石が生え、奥は完全な暗闇に包まれていた。
漂ってくる風は冷たく、そして湿っぽい。
まさに、『ザ・洞窟!』といった風情である。
恐る恐る、周囲を警戒しながらチロは奥に進んでいった。
だが、ものの十数歩も進まないうちに、足元すら見えない闇に覆われてしまった。
「あっ、いまこそ『微光』が役に立つんじゃないか?」
夜はすぐに寝てしまうので、これまで使う機会がなかったスキル『微光』を、チロは手元に発動させた。
すると────
「く、暗い…………」
その光量は、電池切れ間近の懐中電灯か、というほどに弱かった。
手を前に差し出せば、うっすらとその周辺が見えないことはない。
だが、これで快適な洞窟探検が可能か、といえば、決してそんなことはない、と言わざるを得ないだろう。
「これならまだ、『着火』でその辺に落ちてる枝を燃やして、松明替わりにしたほうがましだな……」
チロは『微光』での洞窟探検を諦め、一旦外に出ると落ちている枯れ枝を拾って戻ってきた。
そして明るい場所で先端に火を点け、暗がりに向かって差し出す。
その瞬間、
ずんっ、という重さが枝を持った手に加わり、先端に灯されていた火の光が、急に暗く翳った。
「な、なんだっ!?」
慌てて手を引いたチロがその目にしたのは────
「ひ、ひぃぃぃいいいいいいいいいっ!?」
目も、鼻も、耳もない、真っ白なヒルのような生き物が、その身を焦がしながらも枝先に食らいつき、ビチビチと暴れている姿だった。
大きな口を広げて待ち構える洞窟を前に、チロはゴクリと唾を飲み込んだ。
数日に渡って森を探索してきたチロだったが、洞窟となると勝手が違う。
前世でクレイジーな人間を紹介するバラエティ番組を見たことがあるが、そこで紹介されていた洞窟探検家の映像にすら、恐怖を禁じ得なかったチロなのだ。
狭い空間。
暗闇。
そこには、人間の根源的な恐怖が潜んでいる。
しかも、ここは異世界。
どんな危険があっても、どんな不思議生物が現れたり怪奇現象が起きたとしても、何もおかしくはないのである。
「…………でも、ちょっとだけ、覗いてみるかな」
しかし好奇心に勝てず、チロは一歩、洞窟に向かって踏み出した。
「うおぉ、こりゃすごいな」
入口に到達したチロが、感嘆の声を上げる。
洞窟は大きく、日が差して見える範囲の天井には数え切れないほどたくさんの鍾乳石が生え、奥は完全な暗闇に包まれていた。
漂ってくる風は冷たく、そして湿っぽい。
まさに、『ザ・洞窟!』といった風情である。
恐る恐る、周囲を警戒しながらチロは奥に進んでいった。
だが、ものの十数歩も進まないうちに、足元すら見えない闇に覆われてしまった。
「あっ、いまこそ『微光』が役に立つんじゃないか?」
夜はすぐに寝てしまうので、これまで使う機会がなかったスキル『微光』を、チロは手元に発動させた。
すると────
「く、暗い…………」
その光量は、電池切れ間近の懐中電灯か、というほどに弱かった。
手を前に差し出せば、うっすらとその周辺が見えないことはない。
だが、これで快適な洞窟探検が可能か、といえば、決してそんなことはない、と言わざるを得ないだろう。
「これならまだ、『着火』でその辺に落ちてる枝を燃やして、松明替わりにしたほうがましだな……」
チロは『微光』での洞窟探検を諦め、一旦外に出ると落ちている枯れ枝を拾って戻ってきた。
そして明るい場所で先端に火を点け、暗がりに向かって差し出す。
その瞬間、
ずんっ、という重さが枝を持った手に加わり、先端に灯されていた火の光が、急に暗く翳った。
「な、なんだっ!?」
慌てて手を引いたチロがその目にしたのは────
「ひ、ひぃぃぃいいいいいいいいいっ!?」
目も、鼻も、耳もない、真っ白なヒルのような生き物が、その身を焦がしながらも枝先に食らいつき、ビチビチと暴れている姿だった。
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