ゴブリン飯

布施鉱平

文字の大きさ
24 / 64
第二章

23話 出会い

しおりを挟む
「ん~っふふっふ、ふ~ん」

 ここ数日、チロはご機嫌だった。

 なにせ、大量の塩の結晶が手に入ったのである。

 これまでの『素材の味だけ・・を活かした料理』からグレードアップし、『素材の味を活かした塩味の料理』を作れるようになったのだから、その喜びも当然だと言えた。

 飽きるほど食べてきた焼きドリンギも、削った塩をパラリと振るだけであら不思議、あっという間に全く別の食べ物に変身するのである。

「塩って、すごいんだなぁ……」
 
 食事のたびに、チロは塩の偉大さを思い知っていた。

 もはや『塩信仰』とでも言ったほうがいいくらいに、チロの塩に対する畏敬いけいの念は膨らんでいた。

 洞窟内でも一番の大きさを誇る結晶に、朝晩祈りを捧げるほどである。

「では、いただきます」

 チロは塩に感謝し、塩をうやまいながら、手を合わせて食前の挨拶をした。

 今日のメニューは『ドリンギの塩焼き』に『サツマイモの塩ステーキ』、そしてデザートの『シトラ草の盛り合わせ ~ひとつまみの塩をかけて~』である。 

 …………いつもの料理にただ塩をかけただけだが、料理チート系の主人公ではないチロに出来るのは、所詮この程度だ。

 前世の記憶があるとは言え、頭の中にあるレシピなんてどれもぼんやりしたものだし、そもそも『レシピ通りにちゃんと分量を計って作る』なんて真面目な調理をしたことがない。
 
 クックパッ○に『豚肉150g』と書いてあっても、スーパーで買った豚肉のパックが230gだったら、気にせずそのまま全部使う。
 それがチロにとっての『料理』だったのだ。

 そんなチロに、『まあ、こんなに美味しい食べ方もあるのね!?』みたいな、奇抜な発想がある訳がない。

 食材と塩があるなら、焼いて塩を振って食う。
 それだけだ。

 だが、それでいいのだ。
 
 余計なことをして貴重な食料を不味くするよりは、なんのひねりもないただの塩焼きのほうがよっぽどマシである。

 ガツガツムシャムシャと、チロは塩味のドリンギやサツマイモを頬張り、食後のデザートであるシトラ草に手を伸ばした。

「ん、あれ?」

 …………が、その手は、虚しく空を切った。

 シトラ草の乗っていた皿は、空になっている。

 そしてその代わりに────





「キュアァ」





 ────皿に前足を乗せ、「もっとよこせ」と言わんばかりに鳴き声をあげる、金色のトカゲがいたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...