ゴブリン飯

布施鉱平

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第三章

61話 湖の畔(ほとり)で

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 鍋が煮えた。

「……湖でアンコウを獲って、しかもそれをその場で鍋にしてアウトドアで食うとか……もう、なんか色々と間違っている気がする」
「いいじゃねぇか、細かいことは。うまそうだし、はやく食おうぜ」
「食べよう、食べよう」
「キュアァッ」

 何か釈然としない思いを抱くチロとは対照的に、ゴーダとヒナはすでに完全に気持ちを切り替え、お椀を片手に食事の開始を待ちわびていた(キングは最初から何も気にしていない)。

「はいはい、じゃあ、いただきます」
「「いただきます!」」
「キュアァッ」

 チロの合図を皮切りに、ゴーダとヒナが鍋に箸を伸ばす。

 チロはキングの皿にアンキモの身をいくつか乗せてやってから、自分の分もお椀によそい、その白く柔らかなアンキモの身を箸で割って、食べやすい大きさになったものを口の中に入れた。

「あー……懐かしい味だな、これ」

 口の中でホロホロと崩れていくアンキモの味は、何かに例えるならタラの身に似ているだろうか。

 湖の底に生えている藻を食べているからなのか臭みもなく、キモイ見た目の割には随分と食べやすい。

「おっ、うまいなこれ」
「おいしい」
「キュアッ、キュアッ」

 ゴーダたちにも好評なようだ。

「野菜とかも一緒に入ってると、もっと鍋っぽくなるんだろうけどな」

 アンキモはうまいが、やはり野菜が入っていない鍋はなんとなく寂く感じられ、チロがぽつりと呟く。

「あー、確かにそれな。やっぱり白菜が入ってないと、鍋食ったって感じがしないよなぁ」 
「小松菜とかでも結構イケるんですけどね。まぁ、どっちにしろ、今のところ食える植物ってシトラ草だけですし……」

 と、同じく転生組であるゴーダと鍋トークをしていたチロの目に、首をねじ切られたムンクさんの姿が飛び込んできた。

「そういえば、ムンクさんの外側・・って食べたことなかったな」

 チロの言うとおり、ムンクさんはその見た目のおぞましさから、中のショーユこそ重宝してきたものの、肉体(?)の部分にはまだ手をつけたことがない。

「これ食べ終わったら、ちょっと煮てみるか。アンキモの出汁だしも出てるし……」

 久しぶりに食の冒険してみようか、などと考えながら、チロはアンキモ鍋を食べ進めていくのだった。

 
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