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プロローグ
勇者パーティーのはぐれ者②
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「……ぷっはぁぁああ! いやァ~今日もたっくさん、働いたなァ~! オラもう身体が重くて一歩も動けないんだなァ」
「ガハハ、儂も貴殿と同じですぞ、ガルバ殿。 いつにも増して相手が強かったのもあってか、疲れ知らずの儂も少々疲弊しておりますわ」
夜風が涼しい食堂のベランダ席で、酒と食事を囲う勇者一党。
木製の樽のようなジョッキに酒を注ぎ、それを酌み交わすガルバとペルベッド。
2人とも酒気を帯びているようで、顔を真っ赤にしていた。
「でも、まあ……今日の戦いで“塔”を守っていた魔族は全員倒したわけですし、いよいよ明日は“西の塔”奪還!ですね」
「ああ、そうだともシェリア。 ただ、塔内の敵は今日の敵と比べ強さは段違いだ。 ……奪還は過酷を極めるだろう」
「今日よりも……ですか。 …で…でも! 私はとうに覚悟は決めてます。 どれだけ相手が強力でも皆さんで乗り越えてみせますよっ!」
「うんうん、頼もしい限りだなシェリア」
シェリアとマークスはそんな他愛もない会話を繰り広げていた。
ただ、そんな中でサヴァンはというと誰一人とも顔を向かい合わせずに、1人で短剣と長剣を研ぎ石で黙々と研いでいた。 ジョッキに注がれた酒と、皿に盛られた食事に少しも手を着けずに。
「サヴァン、食事は摂っておいたほうがいい。 明日は塔攻略だからな。 いっぱい食べておくれよ」
「…………」
そのサヴァンのその後ろ姿を見て心配したのか、マークスはそんな彼に優しく声を掛けた。
しかし、それに対するサヴァンの返答はなく。 そのまま、自分の剣を研ぎ続けている。
「ごめんシェリア……サヴァンに何か言ってやってくれないか? 俺とじゃ、口利かないみたいなんだ」
「あはは、了解です」
サヴァンと会話できず苦戦するマークス、シェリアに選手交代。
マークスに変わり、シェリアがサヴァンにそろりそろりと近づく。
シェリアは驚かれないようトントンと柔らかくサヴァンの肩を叩き、そして彼に優しく声を掛けた。
「サヴァン。 明日の為にも食事は摂ったほうがいいですよ。 明日は塔攻略なんですからね」
「俺に指図すんなチビ。 そんなもん必要ねェんだよ。 ンなもんよりも、俺は“アレ”の方が大事だ」
「ちょ、ひどくないぃ!? ていうか、私の方が年上だよ。 それも100歳ぐらいねっ!」
「ンなもん信じれっかよ……背丈も胸もチッセェくせに。 デケェのは態度だけじゃねぇか?」
2人の間に会話は一応成立した。
ただ、会話する2人の間には徐々に亀裂が入り、事態は悪化の一途をたどる。
そんな2人の姿を見かねたマークスは、その会話に頭を突っ込む。
「あー分かったよサヴァン……“アレ”だな。 ただ条件として、それが済んだら食事はちゃんと摂ってくれよ。 いいな? 絶対にだぞ。 神に誓えるか?」
「了解した。 ……世界神の御名に於いてその約束を守る。 これでいいかよマークス?」
「いいとも。 では俺、勇者マークスの名において “勇傑の儀” を執り行おう」
“勇傑の儀” それは古来より、勇者が一党を結成する際に行う儀式だ。
勇者の一党として相応しい人間を決めるために勇者と模擬戦を行い、そこで勇者に力を認められるか、勇者に勝利できた者のみが勇者一党への参加を許される。
そして仮にだが、“勇者に勝利できた” 者に対しては国王直々に褒美と勇者の称号に匹敵する名誉が与えられる。 ちなみに、褒美に関しては、国王の金と権力を以て可能な物が与えられる。
もちろんこれは、ガルバやシェリア、ペルベッドそしてサヴァンも例外ではなかった。
ただ、勇者に力を認められはしても、誰一人として『勇者に勝利を収めた者はいない』。
まず、古来より代々執り行われたこの儀の中で勇者に勝利を収めた者などいないのだ。
そしてサヴァンは、このパーティー編入の試験である勇傑の儀をマークスと事あるごとに何度も行っていた。 当然、何故 彼が幾度となく勇傑の儀をマークスに強要する真意は誰も詳しくは知らないが、恐らく皆は “褒美と名誉” が欲しいからだと、そう思っている。
「ンじゃ、早速……」
「待て待て。 ここじゃなんだ、人気のない場所に行こう」
「……」
マークスは、剣を引き抜こうと鞘に手を掛けるサヴァンを静止する。
それに対してサヴァンは一瞬やるせない表情を浮かべたが、静かに鞘を手からそっと離した。
そして、勇者一党は食堂から出て人気のない場所へと移動したのだった。
*********
食堂を抜けて人気のない場所へと移動した勇者一党。
そこは多くの廃屋が建ち並んだ暗い広場であった。
少なくとも人は住んでいないようで、辺りの建物の窓から灯りは見えない。
「これで何回、いや何十回目かのォ。 サヴァン…少々、血の気が多過ぎやせんか? 一々、相手してやるのも億劫じゃないんかぃ? マークス殿や」
「別に構わないさ。 この戦いを通して強くなって貰えば、俺にもサヴァンにとっても都合がいいしな。 じゃあ、ペルベッドさん。 開始の合図、頼みます」
「しょうがないですな。 ええ、じゃあ、よーい…………始めぇえっ!」
気合いの籠もったペルベッドの合図と共に、サヴァンは双剣を構えてマークスへ迫る。
対してマークスは盾と剣を構えているだけで、とくに目立った動きは無いようだ。
(前と同じだ……構えているだけで突っ立ったまんま。 右に盾、左に剣。 恐らくカウンター狙いだろう。 遠距離攻撃でもありゃいいんだが生憎、接近戦でしか俺は戦えねぇし)
サヴァンは瞬時に接近し、マークスを双剣の間合いに入れるとまず左の長剣で攻撃。
しかし、それは難なくマークスの剣で弾かれる。
流れるように右手の短剣で二撃目も叩き込むが結果は同じ。
攻撃が弾かれる度にもう一撃、二撃と立て続けに攻撃を行い続けていく内にサヴァンの攻撃速度は上昇していき、マークスもそれに対応して素早く弾き返し、そして二人の間に剣戟が始まる。
激しい金属音が、静まり返った広場中に響き渡ると同時に刃と刃の間に生まれた火花が辺りを照らした。
「サヴァン、攻めが甘いよ」
「うるせぇッ……!」
サヴァンに出来た僅かな隙を、すかさず剣で突くマークス。
彼の繰り出す横振りの剣撃はサヴァンの横腹を捉えている。
(さすがに、重いな)
そこでサヴァンも、すかさず左の長剣でそれを受け止める。
しかし、相手はマルダート王国随一の戦士…… “勇者” 。
サヴァンの左手に強くのしかかる斬撃の重さは並みの戦士のものと比べて計り知れない。
(守りが固い……ここは一旦距離を置くしかねぇか)
サヴァンは、渾身の力を振り絞りマークスの斬撃を振り払うと瞬く間に後ろへと下がった。 サヴァンの、マークスの一撃を防いだ剣を掴んでいたその掌は痺れで小さく震えている。
(ここで決める。 余力を全部、出し切ってやる)
サヴァンは重心を前屈みに低くし、双剣を構える。
そしてジッと、正面のマークスを上目で睨んだ。
(サヴァンの攻撃が来る。 また正面からのようだが……少し様子が違うな)
盾を正面に構えてサヴァンの動きに眼を見張るマークス。
いつ勝負が着くか分からない状況下。 辺りに緊張が走った。
「おら……ッ!」
高速で間合いを詰めたサヴァンは双剣でマークスに攻撃を仕掛ける。
先程の攻撃とは打って異なり、真正面からではなく、跳躍しマークスの頭上から双剣による無数の連撃を加えた。
しかしマークス、これを受けきる。
とは言え、頭上から繰り出す怒涛の連撃は止むことを知らない。
回数を増す毎に狙いは的確になっていき、威力も上がっていくサヴァンの猛攻。
マークスも負けじとその全てを弾き返す。 しかし猛攻は止まらず、なお加速する。
これには王国最強とも謳われた勇者が冷や汗をかいてしまうほどであった。
「煌の流技……」
「まずい!」
マークスがそう呟くと、サヴァンは目を丸くして目にも留まらぬ速さで後退りをした。
豚頭鬼王の首を一瞬にして跳ばしたマークスの御技を恐れて。
「なあ、サヴァン。 正直に話すが……今のお前なんかより、“お前の父上”の方がよっぽど手強かったぞ。 それに、お前がいくら力と技術を身に付けたところで怒りに身を任せて攻撃しているようじゃ……まるで意味がない。 今まで俺と戦ってきて、俺に傷を付けたことがあったか?」
「黙れッ……!」
「だいたい、この戦いに意味なんてあるのか? なあ、サヴァン」
「お前に無くても俺にはある! 貴様はァ……7年前に同朋を虐殺し、そして俺の親父の命もその手で奪い去った。 ……意味なんてそれで充分だ。 国王やその国民共、そして死んでいった同朋や親父の霊に、貴様の首が跳ね飛ばされる瞬間を見届けてもらう」
サヴァンのマークスを睨む目は更に鋭くなる。
そして双剣を握る手にもよりいっそう強いチカラが込められた。
「仮に、俺をそうしたところでお前は何を得るっていうんだ? 結局、何も―――」
「黙れ黙れ黙れ! お前にィ……お前に何が分かるっていうんだァァアア!!」
「そういうところだぞ。 サヴァン」
高速で間合いを詰めたサヴァンは双剣でマークスに怒涛の攻撃を仕掛ける。
怒りが込められたことでより一層、速度に磨きがかかっているがマークスに全て去なされている。
「うッ……」
「短気で、怒りで目の前が見えなくなる。 サヴァンの悪い癖だ」
マークスは一瞬の隙を見計らい、サヴァンの左手の長剣を剣で弾き飛ばした。
サヴァンは体勢を立て直し再び連撃を加えるが、かの勇者を前にしてこの勝負は決したも同然。
一瞬の間に、それを悟ったサヴァンは双剣を前で交差させ受け身の姿勢をとる。 ……しかし、時すでに遅かった。
「煌の流技 《閃光斬撃・一閃》」
「くそッ!―――」
サヴァンの意識はそこで途絶えた。
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