僕たちの日常

かんだ

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14.問題勃発(上)

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 心臓を握られている、比喩でもなく本能的にそう感じた。自分の命は簡単に消え去ると思い知らされる。
 今前生きてきた中で、今日ほど、自身の死を感じたことはない。

 ♦︎

 始まりは、何やかんやあって大公家で留学してきた同盟国の王女を一日預かることだった。
 旦那様から出された指示は二つ。
 一つ、粗相のないよう、適度にもてなすこと。
 二つ、旦那様がいない時には、番様に会わせないこと。
 旦那様は番様を寵愛している。我々の責務が『番様が健やかに過ごされることに命を賭ける』ことであり、旦那様よりも皇帝陛下よりも、番様を最優先とするよう厳命されているくらいだ。
 使用人の質が良いこともあり、今まで番様に関することで大きな問題はなかった。……なのに、王女のせいで、今、大公家は最大の危機に瀕している。
 王女の歓迎会やら案内やらが終わり、無事に一日が終わるはずだった。
 番様と王女がそれぞれ寝室に戻り、使用人の仕事もあらかた終わっていた。旦那様は執務室で仕事中だったが、旦那様だけが起きている時間帯は基本的にマルタンらに任せるだけで良い。
 使用人一同、ふうっと安堵していた。
 だが、突然旦那様の執務室で大きな音が立った。私は番様の専属であり、番様が寝室に入られたことを報告するために執務室に向かっていた。大きな音に驚いたが、中に入って良いか分からずオロオロしていれば、「旦那様!?」とマルタンが中に入っていく。その隙間から、中が覗けた。
 そこには旦那様がいた。だが、何故か王女もいた。普通、夜に男女が密室にいたとなれば逢引きを連想するだろうが、旦那様に限ってはあり得ない。他の屋敷では使用人に手を出したり愛人を囲ったり、男女の関係を持つ主は少なくない。だが、旦那様に限っては本当に、絶対に、あり得ないことだった。
 だから、すぐに王女が何かやらかしたと思った。現に、よく見れば旦那様は王女の首を掴んだ状態で執務机に押し倒している。その姿しか見えなかったが、そこに甘やかな空気感なんてない。
「旦那様!? どうされたのですか!?」
「……マルタン、話は、後だ」
「え?」
「この女を、地下牢に、繋いでおけ。こいつが連れて来た奴らも、全員だ」
「彼女は同盟国の王女です、そんな、犯罪者を繋ぐ場所に」
「マルタン」
 旦那様の威圧的な声に、誰も否と言えるはずはなかった。
 マルタンが頷くと、すぐに騎士が中へ入っていく。そして、旦那様は大股で執務室を出ていく。その際、私に「リュシーは?」と端的に聞いて来た。私は軽く走りながらその後をついて行く。
「……寝室にてお休みになられました」
「子どもたちは?」
「皆様お休みになられました」
「俺とリュシーの、明日の予定は、全部キャンセルしろ。子どもたちも近付けるな」
「かしこまりました」
 私室に着くと、私は頭を下げてマルタンの元へ急いだ。

♦︎

 それから二日後、ようやく旦那様が私室から顔を出す。私達は番様のお世話を任されたため寝室へ入り、ギョッとした。
 旦那様と番様は毎日のように愛し合う。そのためお二人の体にはたくさんの愛し合った証が付けられている。だが、今の番様は今までとは全く違った。
 白く細い体に散るのは、噛み跡や鬱血、手の跡だ。血の跡もある。人が見たら乱暴されたと思えるような姿だった。眠るお顔は白く、呼吸は浅いため、一層そのように見せてしまう。
 こんなになるほど乱暴に抱かれたことはない。それだけ余裕がなかったということだろうか。蝶よりも花よりも大切にされていた番様なのに。
 私たちは冷静に、番様の体を労り、黙々と清めていった。
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