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第2章 大星祭編
第59話 近づかないでね?
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「わ、私、エレ先輩なんかじゃ、ないから………」
一度は逃げることを諦めた私。
だけど、忘れていた彼との約束を思い出し、言い逃れを始めた。
彼の手から逃れようと、腕を振り解こうと横に振る。
しかし、彼の力は思った以上に強くなっていて………。
「ねぇ、用事があるから、手を放して」
「今放したら、先輩逃げるじゃないですか」
「私、あなたの先輩じゃない。ごめんなさい」
「……………………先輩、よくしゃべるようになりましたね?」
言い返すのが意外だったのか、ギルバートは怪訝そうな顔を浮かべた。
「いや、多分違う人だから、そのあなたの先輩は変わらず無口だと思うよ……………?」
「今更誤魔化しても無駄ですよ」
真っすぐな蜂蜜色の瞳を細めるギルバート。
言い訳も逃れることもできなくなった私は、呆然としてしまう。
「さ、帰りますよ、先輩。みんな待ってます」
ギルバートの力は強く、逃げようとする私を無理やり引っ張っていく。
「ねぇ、君、誰?」
それを途中で止めたのはアーサー様。
彼はギルバートの腕を掴み、力づくで静止。ギルバートもそれなりに力があるのだろうに、びくともしない。
隣を見るとアーサー様に笑顔はなく、鋭い瞳でギルバートを睨んでいた。
「失礼足しました、殿下」
ようやくアーサー様の存在に気づいた彼は、手を離し跪いて首を垂れる。
「お初にお目にかかります、アーサー殿下。私、第7魔術師団所属銀翼魔術師ギルバート・アルスターと申します。今回はエレシュキガル・レイルロード銀翼魔術師のお迎えに参った次第でございます」
「そう………じゃあ、夏休みまでには戻るというのはどういうことか説明してくれる?」
「はい、エレシュキガル魔術師は家庭の事情で学園に通うことになりましたが、その際に第7魔術師団の団員に『夏休みまでには戻ってくる』と約束いたしました」
確認のためかアーサー様がこちらに視線を送る。私はコクリと頷いた。
新聞や兄様の手紙から情報を入手はしているが、実際師団がどうなっているのかは気になるところ。
前線から姿を消していた鬼姫の所在が分かった今、正直前線の状況が読めない。
彼女が戻ってきたとしたら、戦況が崩れてしまうだろうし、たとえ前線に出なくとも意外にも指揮命令をこなすから、厄介なのは間違いない。
その心配はあるけど………………。
「ギル、私まだ戻りたくないの」
ギルバートたちに約束した時は、夏休みまでには意地でも軍に戻るつもりでいた。
その手段はどうであれ、アーサー様と出会うまでは本気だった。
だけど、今は卒業まではここにいたい。
「約束してたのに……ごめんなさい」
「……………………先輩、あんなところ嫌だって言ってたじゃないですか。それだけじゃない、お母さまやルイさんの仇はいいのですかっ!?」
「あ、そのことなんだけど………」
ルイがいなくなった後、やってきたギルに軍人として戦う理由を問われたことがあった。
その時に、私はかつてルイに話したように、「母と戦友の仇を取るためだ」と答えた。
でも、ルイがアーサーで、私が死んだと勘違いしていたのよね……………。
気まずい気持ちを抑え込み、半眼で私はギルに事実を言った。
「それも謝るわ。ルイは生きてたの、ごめんなさい」
「………………………………え?」
「その………生きてたから、その……ごめんなさい」
「僕からも謝るよ………」
私たちの謝罪で、琥珀色の瞳は見開き、口をポカーンと開けるギル。
「…………っんと、つまりルイさんは………」
「うん、僕」
困惑、理解不能、ゆえに思考停止。
それが読み取れてしまうほど、ギルが驚いているのは明確だった。
「…………ル、ルイさんは生きていた…………な、なるほど、エレ先輩の気持ちは分かりました」
「なら――――」
「でも、軍への帰還は諦めきれません」
きっぱり言い放つギル。彼の決意、意思は変わらないようで。
「たとえ、ルイさんが生きていても、魔王はあなたの母を殺し、俺の家族を殺したことには変わりません。また、先輩には軍人としての使命があります」
「…………」
「エレ先輩、あなたを説得して連れ戻すまで、俺も学園に通います」
「…………えっ!? 通うって軍は!?」
彼も軍人であり、膨大な魔力リソースを持つ彼は貴重な人材。
特別な理由がない限り、長期の休みなど取れるはずがない。
「エレ先輩を連れ戻すまでは、戻らないと伝えてありますので、心配はありません」
準備は万全だったのか、ギルはきっぱりそう答えた。
「では、一旦失礼いたします」
ぺこりと頭を下げると、ギルはさっそく事務室へと直行、背を向けて走り出す。
夕日も沈み暗くなり、星々が見えてきたので、寮に戻ることにした。
その途中、私の手を取り、強く握りしめるアーサー様。
「ねぇ、エレちゃん」
「はい、何でしょう?」
「ギルバート君、だっけ? いい子そうだけど、彼にあまり近づかないでね? 絶対に2人きりにはならないで」
「え? なぜです?」
「んー、なんだか嫌な予感がするんだ」
「?」
アーサー様の曖昧な回答に、よく分からず1人首を傾げる私。
嫌な予感……………何に対して? ギルバートに対して?
ギルは軍人だし、魔王軍とか内通者とかでは絶対ない。入る前に魔法契約が交わされるから、絶対にありえない。
それはアーサー様も分かっていると思うけど………………。
「彼、多分自覚してないだろうな………そういうのってほんと質が悪いよね……」
独り言のように小さく呟くアーサー様。
彼の横顔には少し焦りが見えた気がした。
一度は逃げることを諦めた私。
だけど、忘れていた彼との約束を思い出し、言い逃れを始めた。
彼の手から逃れようと、腕を振り解こうと横に振る。
しかし、彼の力は思った以上に強くなっていて………。
「ねぇ、用事があるから、手を放して」
「今放したら、先輩逃げるじゃないですか」
「私、あなたの先輩じゃない。ごめんなさい」
「……………………先輩、よくしゃべるようになりましたね?」
言い返すのが意外だったのか、ギルバートは怪訝そうな顔を浮かべた。
「いや、多分違う人だから、そのあなたの先輩は変わらず無口だと思うよ……………?」
「今更誤魔化しても無駄ですよ」
真っすぐな蜂蜜色の瞳を細めるギルバート。
言い訳も逃れることもできなくなった私は、呆然としてしまう。
「さ、帰りますよ、先輩。みんな待ってます」
ギルバートの力は強く、逃げようとする私を無理やり引っ張っていく。
「ねぇ、君、誰?」
それを途中で止めたのはアーサー様。
彼はギルバートの腕を掴み、力づくで静止。ギルバートもそれなりに力があるのだろうに、びくともしない。
隣を見るとアーサー様に笑顔はなく、鋭い瞳でギルバートを睨んでいた。
「失礼足しました、殿下」
ようやくアーサー様の存在に気づいた彼は、手を離し跪いて首を垂れる。
「お初にお目にかかります、アーサー殿下。私、第7魔術師団所属銀翼魔術師ギルバート・アルスターと申します。今回はエレシュキガル・レイルロード銀翼魔術師のお迎えに参った次第でございます」
「そう………じゃあ、夏休みまでには戻るというのはどういうことか説明してくれる?」
「はい、エレシュキガル魔術師は家庭の事情で学園に通うことになりましたが、その際に第7魔術師団の団員に『夏休みまでには戻ってくる』と約束いたしました」
確認のためかアーサー様がこちらに視線を送る。私はコクリと頷いた。
新聞や兄様の手紙から情報を入手はしているが、実際師団がどうなっているのかは気になるところ。
前線から姿を消していた鬼姫の所在が分かった今、正直前線の状況が読めない。
彼女が戻ってきたとしたら、戦況が崩れてしまうだろうし、たとえ前線に出なくとも意外にも指揮命令をこなすから、厄介なのは間違いない。
その心配はあるけど………………。
「ギル、私まだ戻りたくないの」
ギルバートたちに約束した時は、夏休みまでには意地でも軍に戻るつもりでいた。
その手段はどうであれ、アーサー様と出会うまでは本気だった。
だけど、今は卒業まではここにいたい。
「約束してたのに……ごめんなさい」
「……………………先輩、あんなところ嫌だって言ってたじゃないですか。それだけじゃない、お母さまやルイさんの仇はいいのですかっ!?」
「あ、そのことなんだけど………」
ルイがいなくなった後、やってきたギルに軍人として戦う理由を問われたことがあった。
その時に、私はかつてルイに話したように、「母と戦友の仇を取るためだ」と答えた。
でも、ルイがアーサーで、私が死んだと勘違いしていたのよね……………。
気まずい気持ちを抑え込み、半眼で私はギルに事実を言った。
「それも謝るわ。ルイは生きてたの、ごめんなさい」
「………………………………え?」
「その………生きてたから、その……ごめんなさい」
「僕からも謝るよ………」
私たちの謝罪で、琥珀色の瞳は見開き、口をポカーンと開けるギル。
「…………っんと、つまりルイさんは………」
「うん、僕」
困惑、理解不能、ゆえに思考停止。
それが読み取れてしまうほど、ギルが驚いているのは明確だった。
「…………ル、ルイさんは生きていた…………な、なるほど、エレ先輩の気持ちは分かりました」
「なら――――」
「でも、軍への帰還は諦めきれません」
きっぱり言い放つギル。彼の決意、意思は変わらないようで。
「たとえ、ルイさんが生きていても、魔王はあなたの母を殺し、俺の家族を殺したことには変わりません。また、先輩には軍人としての使命があります」
「…………」
「エレ先輩、あなたを説得して連れ戻すまで、俺も学園に通います」
「…………えっ!? 通うって軍は!?」
彼も軍人であり、膨大な魔力リソースを持つ彼は貴重な人材。
特別な理由がない限り、長期の休みなど取れるはずがない。
「エレ先輩を連れ戻すまでは、戻らないと伝えてありますので、心配はありません」
準備は万全だったのか、ギルはきっぱりそう答えた。
「では、一旦失礼いたします」
ぺこりと頭を下げると、ギルはさっそく事務室へと直行、背を向けて走り出す。
夕日も沈み暗くなり、星々が見えてきたので、寮に戻ることにした。
その途中、私の手を取り、強く握りしめるアーサー様。
「ねぇ、エレちゃん」
「はい、何でしょう?」
「ギルバート君、だっけ? いい子そうだけど、彼にあまり近づかないでね? 絶対に2人きりにはならないで」
「え? なぜです?」
「んー、なんだか嫌な予感がするんだ」
「?」
アーサー様の曖昧な回答に、よく分からず1人首を傾げる私。
嫌な予感……………何に対して? ギルバートに対して?
ギルは軍人だし、魔王軍とか内通者とかでは絶対ない。入る前に魔法契約が交わされるから、絶対にありえない。
それはアーサー様も分かっていると思うけど………………。
「彼、多分自覚してないだろうな………そういうのってほんと質が悪いよね……」
独り言のように小さく呟くアーサー様。
彼の横顔には少し焦りが見えた気がした。
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