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第2章 大星祭編
第74話 かくしごとの笑顔
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2週連続で遅れてすみません! 74話お願いしますっ!
――――――
セトが乗っ取り操っていた幼女。彼女は王城から身代金を受け取った後、事前に準備していたミニスクロールで瞬間移動していた。
しかし、エレシュキガルとイシスがいる彼の隠れ家に帰ったわけではない。
幼女をこのまま隠れ家に来させてしまうと、彼女に何か追跡装置でも仕掛けられていたら、場所を特定されてしまう。
幼女は薄暗い空き部屋に転移。そこにいた女性へ袋を渡し、女性もまた転移。それを繰り返し、袋は転移する度に次から次へと引き渡され、5歳の少年が受け取り転移した先の部屋にはセトの姿があった。
「袋に異常はなし、仕組まれている形跡もなし、金額も間違いなし………おけ、少年よ。ゴーホームだ、お疲れさん」
セトは少年から袋を受け取り中身を確認すると、少年を家へと帰す。そして、自分も地下室へ戻ろうとした瞬間。
「また会えたね、セト王子」
部屋の隅にいたそいつに声をかけられた。
「………………」
転移させるごとに付けている人間がいないことは確認していた。袋に魔法をかけられていないか厳重に注意したというのに、王子はどうやって追跡したのかセトの前に立っていた。
だが、彼が襲ってくる様子はない。
「身代金は確認したのだろう? エレシュキガルを返してもらえるかな」
「……………ああ、エレシュキガルね。その前に、残りの50億は?」
「王城だ。もう用意してある。いつでも取りに来るといい」
「分かった」
セトは空き部屋のクローゼットを開ける。そこには大きな袋があった。
「この袋の中に愛しの婚約者さんが入ってるよ」
と言って、顎で袋を指すセト。
袋にエレシュキガルが入っているとは正気だろうか、ずっとこの中に閉じ込めていたのだろうか………。
婚約者が適当にあしらわれて、一瞬むっとするアーサー。彼はすぐに袋の紐を解き、中にいるエレシュキガルを助け出す。
「起きて、エレシュキガル」
セトが彼女の肩に触れると、ゆっくりとエレシュキガルの瞼が開いた。
「………エレシュキガル?」
アーサーに声をかけられ、見上げるエレシュキガル。虚ろだった紫の瞳は、アーサーを捕えた瞬間ハイライトが入った。
「アーサー様っ――――!!」
そして、勢いよくアーサーに抱き着くエレシュキガル。アーサーも抱き返すように、後ろから頭を押さえぎゅっと抱きしめていた。
★★★★★★★★
同時刻――――イシスとセトの地下室。
「イー、本当にこれ全部食べてよいのですか?」
「うん。ここにあるお菓子、全部エレシュキガルのための、もの………食べ、て………」
お菓子への欲望は底抜けなエレシュキガル。大量にあるが、全てお菓子はイシスが作ってくれたものだろう。
エレシュキガルはもちろん遠慮なく、シュークリームを頬張った。そして、次々にお菓子を口に放り込みながら、イーに1つの疑問をぶつけた。
「イー、私捕まってるんですよね? なぜこんなに美味しいものをくださるんです?」
金を集めるために自分を捕えたのなら、こんなによくする必要なんてない。金の浪費になってしまうため、拘束した上で牢屋に放り込んでおけばいいことだろう。
すると、イシスはらしくない引きつった笑顔を浮かべて。
「………………エレシュキガルに、いっぱい美味しいものを食べてほしいか、ら………エレシュキガル、お菓子好きで、しょ?」
「はい、大好きです! お気遣いありがとうございます、イー」
「うん、まだまだあるか、ら………いっぱい……食べて、ね………?」
「はい! ありがとうございます!」
イシスが震えた明るい声で答えていたことに、エレシュキガルは気づかないまま………感謝を述べてケーキを平らげていた。
★★★★★★★★
アーサーは、セトが消えるその瞬間までエレシュキガルを抱きしめていた。しかし、セトが消えた瞬間、パッと乱暴にエレシュキガルを突き放した。
「アーサー様? どうされたのですか?」
「………」
床に座り込み、こてんと首を傾げるエレシュキガル。
………ああ、本当によくできている。
体はエレシュキガルそのままだ。
一寸たりとも間違いがない。
声も全く同じ、仕草も彼女のままだった。
腰に携えていたレイピアを手に取るアーサー。彼は剣を構えると、容赦なく彼女の胸にレイピアを刺した。
「っ、はっ………」
血を吐きだすエレシュキガル。人間らしい反応だが、アーサーはそれでも動じない。刺したエレシュキガルに汚物を見るかのような冷酷な瞳を向けていた。
「エ、っは? あは、ナンでSあスの………」
「なぜって、君が偽物で彼の人形だからだよ」
「………にンGYお%う? わアし、人ギョ#ウじ¿ゃNaい………エレShUき?ガル………」
アーサーの言葉を不気味に否定しながら、醜く泥となって消えていくエレシュキガルもどき。偽物とはいえ、自分の愛する人が惨く消えていく様子に、アーサーは顔を引きつらせていた。
………セトは最初からエレシュキガルを渡すつもりなんてなかった。
『無理なんだよ、お前が動いたところで』
自分が動いたところで、セトを助けることはできない。なら、捕らえたエレシュキガルなら解決できるということだろうか………?
一体何をする気なんだろうか………嫌な予感がするが………。
事情がどうであれ、約束を破るなど許せない。まぁ、誘拐犯に約束を守らせること自体難しいかもしれないが、このままだとエレシュキガルが無事なのか確認できない。
早く彼女の居場所を突き止めなければ――――。
アーサーは転移するクロールを使い、学園の客間に戻った。部屋にはすでにマナミがおり、彼女は机に広げた巨大な地図をじっと観察していた。
その地図にはグレックスラッド王国と周辺国が描かれており、その上で爪ほどの大きさしかないブルースカイのアゲハ蝶が飛んでいた。
この地図はマナミが追跡用に作ったもの。セトに渡した袋と金に固く隠された魔法をかけ、この地図と袋の位置が連動するようになっていた。アゲハ蝶は袋と金の位置を示している。
「あっ、分裂した」
「分裂した方、すぐに止まったね………袋がどこかで捨てられたのかな」
「その可能性が高いわね、ああ全ての紙幣に魔法をかけておいてよかったわ」
マナミの言う通り、袋のみにかけていれば移動の道中で捨てられた場所をセトの隠れ場所だと判断するところだった。
分裂した蝶は動くことなくその場に止まったため、袋が捨てられた。もう一方の蝶はもうスピードで動いていた。
こちらの捜索から逃れるためには、国外に出る必要がある………行き先は隣国の共和国か北の王国か、それとも魔王軍か………。
「止まったわ………」
アゲハ蝶が止まった場所。
それは隣国でもなく魔王軍占領地でもなく、グレックスラッド王国だった――――。
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セトが乗っ取り操っていた幼女。彼女は王城から身代金を受け取った後、事前に準備していたミニスクロールで瞬間移動していた。
しかし、エレシュキガルとイシスがいる彼の隠れ家に帰ったわけではない。
幼女をこのまま隠れ家に来させてしまうと、彼女に何か追跡装置でも仕掛けられていたら、場所を特定されてしまう。
幼女は薄暗い空き部屋に転移。そこにいた女性へ袋を渡し、女性もまた転移。それを繰り返し、袋は転移する度に次から次へと引き渡され、5歳の少年が受け取り転移した先の部屋にはセトの姿があった。
「袋に異常はなし、仕組まれている形跡もなし、金額も間違いなし………おけ、少年よ。ゴーホームだ、お疲れさん」
セトは少年から袋を受け取り中身を確認すると、少年を家へと帰す。そして、自分も地下室へ戻ろうとした瞬間。
「また会えたね、セト王子」
部屋の隅にいたそいつに声をかけられた。
「………………」
転移させるごとに付けている人間がいないことは確認していた。袋に魔法をかけられていないか厳重に注意したというのに、王子はどうやって追跡したのかセトの前に立っていた。
だが、彼が襲ってくる様子はない。
「身代金は確認したのだろう? エレシュキガルを返してもらえるかな」
「……………ああ、エレシュキガルね。その前に、残りの50億は?」
「王城だ。もう用意してある。いつでも取りに来るといい」
「分かった」
セトは空き部屋のクローゼットを開ける。そこには大きな袋があった。
「この袋の中に愛しの婚約者さんが入ってるよ」
と言って、顎で袋を指すセト。
袋にエレシュキガルが入っているとは正気だろうか、ずっとこの中に閉じ込めていたのだろうか………。
婚約者が適当にあしらわれて、一瞬むっとするアーサー。彼はすぐに袋の紐を解き、中にいるエレシュキガルを助け出す。
「起きて、エレシュキガル」
セトが彼女の肩に触れると、ゆっくりとエレシュキガルの瞼が開いた。
「………エレシュキガル?」
アーサーに声をかけられ、見上げるエレシュキガル。虚ろだった紫の瞳は、アーサーを捕えた瞬間ハイライトが入った。
「アーサー様っ――――!!」
そして、勢いよくアーサーに抱き着くエレシュキガル。アーサーも抱き返すように、後ろから頭を押さえぎゅっと抱きしめていた。
★★★★★★★★
同時刻――――イシスとセトの地下室。
「イー、本当にこれ全部食べてよいのですか?」
「うん。ここにあるお菓子、全部エレシュキガルのための、もの………食べ、て………」
お菓子への欲望は底抜けなエレシュキガル。大量にあるが、全てお菓子はイシスが作ってくれたものだろう。
エレシュキガルはもちろん遠慮なく、シュークリームを頬張った。そして、次々にお菓子を口に放り込みながら、イーに1つの疑問をぶつけた。
「イー、私捕まってるんですよね? なぜこんなに美味しいものをくださるんです?」
金を集めるために自分を捕えたのなら、こんなによくする必要なんてない。金の浪費になってしまうため、拘束した上で牢屋に放り込んでおけばいいことだろう。
すると、イシスはらしくない引きつった笑顔を浮かべて。
「………………エレシュキガルに、いっぱい美味しいものを食べてほしいか、ら………エレシュキガル、お菓子好きで、しょ?」
「はい、大好きです! お気遣いありがとうございます、イー」
「うん、まだまだあるか、ら………いっぱい……食べて、ね………?」
「はい! ありがとうございます!」
イシスが震えた明るい声で答えていたことに、エレシュキガルは気づかないまま………感謝を述べてケーキを平らげていた。
★★★★★★★★
アーサーは、セトが消えるその瞬間までエレシュキガルを抱きしめていた。しかし、セトが消えた瞬間、パッと乱暴にエレシュキガルを突き放した。
「アーサー様? どうされたのですか?」
「………」
床に座り込み、こてんと首を傾げるエレシュキガル。
………ああ、本当によくできている。
体はエレシュキガルそのままだ。
一寸たりとも間違いがない。
声も全く同じ、仕草も彼女のままだった。
腰に携えていたレイピアを手に取るアーサー。彼は剣を構えると、容赦なく彼女の胸にレイピアを刺した。
「っ、はっ………」
血を吐きだすエレシュキガル。人間らしい反応だが、アーサーはそれでも動じない。刺したエレシュキガルに汚物を見るかのような冷酷な瞳を向けていた。
「エ、っは? あは、ナンでSあスの………」
「なぜって、君が偽物で彼の人形だからだよ」
「………にンGYお%う? わアし、人ギョ#ウじ¿ゃNaい………エレShUき?ガル………」
アーサーの言葉を不気味に否定しながら、醜く泥となって消えていくエレシュキガルもどき。偽物とはいえ、自分の愛する人が惨く消えていく様子に、アーサーは顔を引きつらせていた。
………セトは最初からエレシュキガルを渡すつもりなんてなかった。
『無理なんだよ、お前が動いたところで』
自分が動いたところで、セトを助けることはできない。なら、捕らえたエレシュキガルなら解決できるということだろうか………?
一体何をする気なんだろうか………嫌な予感がするが………。
事情がどうであれ、約束を破るなど許せない。まぁ、誘拐犯に約束を守らせること自体難しいかもしれないが、このままだとエレシュキガルが無事なのか確認できない。
早く彼女の居場所を突き止めなければ――――。
アーサーは転移するクロールを使い、学園の客間に戻った。部屋にはすでにマナミがおり、彼女は机に広げた巨大な地図をじっと観察していた。
その地図にはグレックスラッド王国と周辺国が描かれており、その上で爪ほどの大きさしかないブルースカイのアゲハ蝶が飛んでいた。
この地図はマナミが追跡用に作ったもの。セトに渡した袋と金に固く隠された魔法をかけ、この地図と袋の位置が連動するようになっていた。アゲハ蝶は袋と金の位置を示している。
「あっ、分裂した」
「分裂した方、すぐに止まったね………袋がどこかで捨てられたのかな」
「その可能性が高いわね、ああ全ての紙幣に魔法をかけておいてよかったわ」
マナミの言う通り、袋のみにかけていれば移動の道中で捨てられた場所をセトの隠れ場所だと判断するところだった。
分裂した蝶は動くことなくその場に止まったため、袋が捨てられた。もう一方の蝶はもうスピードで動いていた。
こちらの捜索から逃れるためには、国外に出る必要がある………行き先は隣国の共和国か北の王国か、それとも魔王軍か………。
「止まったわ………」
アゲハ蝶が止まった場所。
それは隣国でもなく魔王軍占領地でもなく、グレックスラッド王国だった――――。
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