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第2章 大星祭編
閑話 セトとイシスとシスコンお兄様 後編
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遅れました! 閑話終わりです! よろしくお願いします!
――――――――
「シン………明日も、講義するの?」
シンが教授する「エレシュキガル講座」。1週間を限りに行われるそれだが、1日目にしてイシスとセトは音を上げていた。
1日6時間という鬼畜講座ではあるが、1週間という期間があり、最初は希望が見えていた。しかし、実際受けてみるとどうだろうか。1時間で進んだのはエレシュキガルが生後1か月に達したところまで。単純計算で、6時間だと6ヶ月しか進まないことになる。
どう考えたって、1週間では終わらない。察したセトとイシスは崖から突き落とされたような絶望感を味わっていた。
だが、2人は立ち上がった。シンと交渉し、毎日受けるのではなく、2日に1回の講義にしてもらおうと。
だから、まず明日は休めるかどうか探ったのだが………。
「もちろんさ! あ、来なかったら、分かってるよね?」
「「………」」
シンの手にあるのはレイピア。瞬きの間に、剣先が2人に向けられていた。彼の反射速度は人並み外れており、イシスとセトも彼には追い付かないことは知っている。
逃げたところで彼には秒で捕まるし、行かなければ部屋に入ってきて子守歌のようにエレシュキガルの愛を語ることだろう。
結局、2人に逃げ道などなかった。講義を断れば、待っているのは紛れもない本物の死。2人の心臓はシンの手に握られていた。素直に彼の授業を受けた方が何倍も平和だった。
「ま、また明日ね………シン………」
「俺たちはもう寝る。夕食は部屋で食べるよ。明日もよろしくな……」
「ああ、また明日ね~」
諦めたセトとイシスは、半眼のまま明日来る約束をし、部屋を出ていく。
一方のシンはすっきりしたような笑顔を浮かべて2人に手を振って見送った。今の彼は少しではあるが、愛し妹を語ることができたためか、顔にあったのは誰よりも爽やかな笑み。
次の講義を行うのが楽しみなのか、シンは剣をしまいながら、ルンルンで鼻歌を歌っていた。
「ああ、明日が楽しみだな~。誰かに我が妹のことを話すのはいいなぁ。やっぱりエレシュキガル教でも作ってしまおうか」
「それはやり過ぎです、シン様」
シンの背後で待機していた赤毛褐色の侍女。氷のように冷たい表情の彼女は、しょうもないシンのアイデアに、溜息をつきながら横に首を振った。
他に待機していた侍女や執事たちも彼女にコクリと頷く。
「え~? ダメか~い?」」
「はい。エレシュキガルはもちろん、アーサー殿下が許さないと思いますよ」
「むぅ~」
頬を膨らましむくれた顔でシンはソファに腰を下ろす。即座に彼の前に紅茶が置かれた。シンの案を否定した侍女アマンダは、シンとエレシュキガルの幼少期からレイルロード家に使える者だった。
執事よりも付き合い長い彼女は、シンのアドバイザー。シンよりも一回り上の彼女はシンが困った時にはよき相談相手となってくれていた。
まぁ、アマンダがシンにこうして尋ねるのは、ほぼ彼の暴走を止めるために動いているだけだが。
先ほどの一連の流れを見ていたアマンダは、彼に気になっていたことを尋ねてみる。
「シン様、一つお聞きしたいことがございます」
「なんだ~い?」
「あえて詰め寄ったのは2人に気持ちの整理をつけさせるためですか?」
2人に罰を与える――その事情は聞いていた。2人はエレシュキガルの誘拐事件に関わっているが、エレシュキガル自身は処罰を与えないと考え、シン自身の手で罰を実行しようとしていると。
確かにシンのエレシュキガル完璧把握講座は、拷問に等しい罰である。アマンダ自身長い間受けてきたため、それはよく理解している。
だが、アマンダにはそれだけのために2人を連れてきたのではないと感じていた。エレシュキガルのためではあり、イシスとセト2人のことを考えて、レイルロード家に連れてきたのだろうと。
「さすがアマンダだね………そうだよ。2人は妹に謝罪したとはいえ、罰なしでは罪悪感は完全に消えない。あのまま学園に行ってしまえば、整理がつかずモヤモヤを抱えたままだったはずだ。しかし、優しいエレのこと、自分で罰を与えるなどできないだろうし、アーサーが実行しようとしたとしても、エレが止める」
「だから、2人をここに連れてきた、と」
「そ。エレの目がなければ、罰なんて与え放題だからね~」
「ですが、あの罰はないと思います。2人があまりにも可哀想です」
「え~? そう? 最高の罰……いや、むしろご褒美だと思うけど」
「それはシン様とアーサー殿下だけです」
理解できないと言いたげに、アマンダに眉を顰められる。他の使用人たちも同じことを思っていたのか、彼女の言葉にうんうんと激しく首を振った。
「まぁ、2人には心の整理が絶対に必要だろう? 罰を受けないままだと、勉学にも王としての勉強も身に入らないだろうからね~」
「それは………そうですね」
「そうだろう? ………セトはいずれ王になる存在。エレは王は2人のどちらでもなればいいと言ったみたいだけど、俺としては彼が王になるべきだろうね。彼であれば、ファーリーアスターは以前よりも強国になる。イシスの方は……そうだね、偉業を成し遂げてくれるような気がするんだ」
「イシス様が……ですか。どんなことなんでしょう?」
「さぁ? 俺がただ直感的に考えているだけだけどね」
そう言って、シンはお茶目にウィンクする。しかし、受けたアマンダは無反応。具体的に教えてほしいと目で懇願するが、乙女のようにかわいくウィンクをしてくるだけ。
思わずアマンダは手が出そうになるが、そこはぐっと堪え、睨むだけで耐えた。
「まぁ………でも、あの子はただの少女のままではいないはずだよ?」
そんな冷たい視線を流し、明るい声でそう話すシン。その深紫の瞳は愛しいエレシュキガルのことを話す時よりも眩しい、未来に希望を見るような輝きを放っていた。
★★★★★★★★
「イーも、エレシュキガルと同じ学校行ってみた、いとは思ってたけど……びっくり、しちゃった……シン、ありがと……」
「俺も………こんな風になってまさか自分たちが学園に行けるとはな………ありがとう、シンさん」
エレシュキガルが通う学園に行くことになったセトとイシス。シンが学校について話すと、よほど嬉しかったのか、ぺこりと並んでシンに頭を下げていた。
2人の言葉に、シンは笑みを浮かべて、頭をそっと撫でる。その手つきはまるで親のよう。こういう時に限っては、“シスコン兄様”の影は消え、兄様らしい兄様になっていた。
「喜んでもらえてよかったよ」
エレシュキガルが2人を通わせようとしていたが、手配などをしたのは全てシン。妹の体調が芳しくないことを察して、彼が全て手続きを済ませた。
「ここ以上に本がたくさんあるんだろう? 楽しみだよ、シンさん」
「イーはこーれくらい感謝、してる………ありがと、シン」
少年のような無垢な笑顔を浮かべるセトと、感謝の気持ちを手を広げて表現するイシス。
正直妹のために淡々と作業をこなしただけではあったが、予想以上の嬉しそうな反応に、シンはふと優しい笑みを漏らした。
「じゃあ、2人にはさっそく準備をしてもらおうか」
「はい!」「うん!」
セトとイシスは、講座時間の合間合間にシンやレイルロード家の使用人に手伝ってもらいながら、着々と寮生活の準備、文房具の購入を済ませていく。
さらには2人の部屋も用意されており、レイルロード家にいる間も快適に過ごせるように自由に部屋の内装を変えてもらった。
講座以外の時間は、天国と思えるほど快適。公爵はもちろん、詳しい事情を知らないであろう使用人たちも全員温かく見守ってくれている。自分もレイルロード家の子どもになったかのよう。
その和やかなレイルロード家の雰囲気の中、2人はのびのびと過ごし、学園生活に向けて順調に準備を進めていく。
セトとイシスは元々読み書きはでき、読書も好きで、書庫に入り浸っていた。シンは空いている時間に勉強を教え、彼らの成長を見守っていた。
エレシュキガルから2人の学習能力は高いと聞いていたシン。案の定、2人は飲み込みが早くセトは学年相当の範囲をあっという間に終え、エレシュキガルと同じレベルに追いつき、イシスはまだ学園に通える年齢ではなかったが、余裕で飛び級できる所まで到達していた。
「イシスは大丈夫そうだね。よかった」
シンとしてはイシスがこのまま学園に通っていいのか心配していたが、それも杞憂だったようだ。セトと離れ離れにはしたくなかった彼としては一安心。
最初こそ、怖がらせてしまったが、エレシュキガルを傷つける者は誰であっても許すつもりはない。しかし、今後妹に危害を加えないのであれば、彼としては全力で2人と支援するつもりだった。
2人に関わる度に、シンは彼らの成長を感じ、本来の優しさに気づいていく。妹を傷つける心配はもうない、心優しい人間になれるのだろうと思い、2人の成長を見守った。
そうして、時は過ぎ――――学園編入前日。
「行ってくるね、シン」
「行ってきます、シンさん」
レイルロード家に来た時の姿とは全く違う。瞳には希望に満ちたハイライトを持ち、背筋はピンと伸び、制服をまとう2人は立派な姿へと変わっていた。
そんな2人に、シンはふっと温かな微笑みを漏らす。支援してきた身として、2人の姿は喜ばしく思っていた。
「今は君たちの家はここだから、いつでも帰ってきてくれ。僕はいつでも待ってるよ」
「うん、エレシュキガルと一緒に帰ってくる、ね?」
エレシュキガルのことになると怖いシンだが、今の彼は2人の兄のようで。そして、シンを見つめる2人の瞳は、星のように輝いていた。
「………………」
「ん? おい………イシス?」
セトの問いかけに答えず、トコトコと歩きだしたイシス。彼女はシンの前まで行くと、彼をぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、シン」
「………」
「イー、頑張ってく、る………」
セト以外の人間に自分から触れることはそうそうなく、見慣れない妹の行動に驚き、抱き着かれている当の本人のシンも瞠目していた。
「頑張って楽しんでおいで」
「うん」
ぽんぽんと白い髪の頭を柔らかく温かく撫でる。シンを見上げた少女は愛らしく無垢な笑みを浮かべた。
遅れて近づいたセトも、シンとハグを交わし、激励の言葉を送られ、セトとイシスは馬車へ乗り込んだ。
「休暇には帰ってくるよ」
「イーも。また、ね、シン………いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
そうして、2人は馬車に揺られながら、見えなくなるまでシンに手を振り、学園へと旅立った。
―――――――
追記:教育係編第1話は明日4月15日夜に更新します! 遅れてすみません! よろしくお願いいたします!
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「シン………明日も、講義するの?」
シンが教授する「エレシュキガル講座」。1週間を限りに行われるそれだが、1日目にしてイシスとセトは音を上げていた。
1日6時間という鬼畜講座ではあるが、1週間という期間があり、最初は希望が見えていた。しかし、実際受けてみるとどうだろうか。1時間で進んだのはエレシュキガルが生後1か月に達したところまで。単純計算で、6時間だと6ヶ月しか進まないことになる。
どう考えたって、1週間では終わらない。察したセトとイシスは崖から突き落とされたような絶望感を味わっていた。
だが、2人は立ち上がった。シンと交渉し、毎日受けるのではなく、2日に1回の講義にしてもらおうと。
だから、まず明日は休めるかどうか探ったのだが………。
「もちろんさ! あ、来なかったら、分かってるよね?」
「「………」」
シンの手にあるのはレイピア。瞬きの間に、剣先が2人に向けられていた。彼の反射速度は人並み外れており、イシスとセトも彼には追い付かないことは知っている。
逃げたところで彼には秒で捕まるし、行かなければ部屋に入ってきて子守歌のようにエレシュキガルの愛を語ることだろう。
結局、2人に逃げ道などなかった。講義を断れば、待っているのは紛れもない本物の死。2人の心臓はシンの手に握られていた。素直に彼の授業を受けた方が何倍も平和だった。
「ま、また明日ね………シン………」
「俺たちはもう寝る。夕食は部屋で食べるよ。明日もよろしくな……」
「ああ、また明日ね~」
諦めたセトとイシスは、半眼のまま明日来る約束をし、部屋を出ていく。
一方のシンはすっきりしたような笑顔を浮かべて2人に手を振って見送った。今の彼は少しではあるが、愛し妹を語ることができたためか、顔にあったのは誰よりも爽やかな笑み。
次の講義を行うのが楽しみなのか、シンは剣をしまいながら、ルンルンで鼻歌を歌っていた。
「ああ、明日が楽しみだな~。誰かに我が妹のことを話すのはいいなぁ。やっぱりエレシュキガル教でも作ってしまおうか」
「それはやり過ぎです、シン様」
シンの背後で待機していた赤毛褐色の侍女。氷のように冷たい表情の彼女は、しょうもないシンのアイデアに、溜息をつきながら横に首を振った。
他に待機していた侍女や執事たちも彼女にコクリと頷く。
「え~? ダメか~い?」」
「はい。エレシュキガルはもちろん、アーサー殿下が許さないと思いますよ」
「むぅ~」
頬を膨らましむくれた顔でシンはソファに腰を下ろす。即座に彼の前に紅茶が置かれた。シンの案を否定した侍女アマンダは、シンとエレシュキガルの幼少期からレイルロード家に使える者だった。
執事よりも付き合い長い彼女は、シンのアドバイザー。シンよりも一回り上の彼女はシンが困った時にはよき相談相手となってくれていた。
まぁ、アマンダがシンにこうして尋ねるのは、ほぼ彼の暴走を止めるために動いているだけだが。
先ほどの一連の流れを見ていたアマンダは、彼に気になっていたことを尋ねてみる。
「シン様、一つお聞きしたいことがございます」
「なんだ~い?」
「あえて詰め寄ったのは2人に気持ちの整理をつけさせるためですか?」
2人に罰を与える――その事情は聞いていた。2人はエレシュキガルの誘拐事件に関わっているが、エレシュキガル自身は処罰を与えないと考え、シン自身の手で罰を実行しようとしていると。
確かにシンのエレシュキガル完璧把握講座は、拷問に等しい罰である。アマンダ自身長い間受けてきたため、それはよく理解している。
だが、アマンダにはそれだけのために2人を連れてきたのではないと感じていた。エレシュキガルのためではあり、イシスとセト2人のことを考えて、レイルロード家に連れてきたのだろうと。
「さすがアマンダだね………そうだよ。2人は妹に謝罪したとはいえ、罰なしでは罪悪感は完全に消えない。あのまま学園に行ってしまえば、整理がつかずモヤモヤを抱えたままだったはずだ。しかし、優しいエレのこと、自分で罰を与えるなどできないだろうし、アーサーが実行しようとしたとしても、エレが止める」
「だから、2人をここに連れてきた、と」
「そ。エレの目がなければ、罰なんて与え放題だからね~」
「ですが、あの罰はないと思います。2人があまりにも可哀想です」
「え~? そう? 最高の罰……いや、むしろご褒美だと思うけど」
「それはシン様とアーサー殿下だけです」
理解できないと言いたげに、アマンダに眉を顰められる。他の使用人たちも同じことを思っていたのか、彼女の言葉にうんうんと激しく首を振った。
「まぁ、2人には心の整理が絶対に必要だろう? 罰を受けないままだと、勉学にも王としての勉強も身に入らないだろうからね~」
「それは………そうですね」
「そうだろう? ………セトはいずれ王になる存在。エレは王は2人のどちらでもなればいいと言ったみたいだけど、俺としては彼が王になるべきだろうね。彼であれば、ファーリーアスターは以前よりも強国になる。イシスの方は……そうだね、偉業を成し遂げてくれるような気がするんだ」
「イシス様が……ですか。どんなことなんでしょう?」
「さぁ? 俺がただ直感的に考えているだけだけどね」
そう言って、シンはお茶目にウィンクする。しかし、受けたアマンダは無反応。具体的に教えてほしいと目で懇願するが、乙女のようにかわいくウィンクをしてくるだけ。
思わずアマンダは手が出そうになるが、そこはぐっと堪え、睨むだけで耐えた。
「まぁ………でも、あの子はただの少女のままではいないはずだよ?」
そんな冷たい視線を流し、明るい声でそう話すシン。その深紫の瞳は愛しいエレシュキガルのことを話す時よりも眩しい、未来に希望を見るような輝きを放っていた。
★★★★★★★★
「イーも、エレシュキガルと同じ学校行ってみた、いとは思ってたけど……びっくり、しちゃった……シン、ありがと……」
「俺も………こんな風になってまさか自分たちが学園に行けるとはな………ありがとう、シンさん」
エレシュキガルが通う学園に行くことになったセトとイシス。シンが学校について話すと、よほど嬉しかったのか、ぺこりと並んでシンに頭を下げていた。
2人の言葉に、シンは笑みを浮かべて、頭をそっと撫でる。その手つきはまるで親のよう。こういう時に限っては、“シスコン兄様”の影は消え、兄様らしい兄様になっていた。
「喜んでもらえてよかったよ」
エレシュキガルが2人を通わせようとしていたが、手配などをしたのは全てシン。妹の体調が芳しくないことを察して、彼が全て手続きを済ませた。
「ここ以上に本がたくさんあるんだろう? 楽しみだよ、シンさん」
「イーはこーれくらい感謝、してる………ありがと、シン」
少年のような無垢な笑顔を浮かべるセトと、感謝の気持ちを手を広げて表現するイシス。
正直妹のために淡々と作業をこなしただけではあったが、予想以上の嬉しそうな反応に、シンはふと優しい笑みを漏らした。
「じゃあ、2人にはさっそく準備をしてもらおうか」
「はい!」「うん!」
セトとイシスは、講座時間の合間合間にシンやレイルロード家の使用人に手伝ってもらいながら、着々と寮生活の準備、文房具の購入を済ませていく。
さらには2人の部屋も用意されており、レイルロード家にいる間も快適に過ごせるように自由に部屋の内装を変えてもらった。
講座以外の時間は、天国と思えるほど快適。公爵はもちろん、詳しい事情を知らないであろう使用人たちも全員温かく見守ってくれている。自分もレイルロード家の子どもになったかのよう。
その和やかなレイルロード家の雰囲気の中、2人はのびのびと過ごし、学園生活に向けて順調に準備を進めていく。
セトとイシスは元々読み書きはでき、読書も好きで、書庫に入り浸っていた。シンは空いている時間に勉強を教え、彼らの成長を見守っていた。
エレシュキガルから2人の学習能力は高いと聞いていたシン。案の定、2人は飲み込みが早くセトは学年相当の範囲をあっという間に終え、エレシュキガルと同じレベルに追いつき、イシスはまだ学園に通える年齢ではなかったが、余裕で飛び級できる所まで到達していた。
「イシスは大丈夫そうだね。よかった」
シンとしてはイシスがこのまま学園に通っていいのか心配していたが、それも杞憂だったようだ。セトと離れ離れにはしたくなかった彼としては一安心。
最初こそ、怖がらせてしまったが、エレシュキガルを傷つける者は誰であっても許すつもりはない。しかし、今後妹に危害を加えないのであれば、彼としては全力で2人と支援するつもりだった。
2人に関わる度に、シンは彼らの成長を感じ、本来の優しさに気づいていく。妹を傷つける心配はもうない、心優しい人間になれるのだろうと思い、2人の成長を見守った。
そうして、時は過ぎ――――学園編入前日。
「行ってくるね、シン」
「行ってきます、シンさん」
レイルロード家に来た時の姿とは全く違う。瞳には希望に満ちたハイライトを持ち、背筋はピンと伸び、制服をまとう2人は立派な姿へと変わっていた。
そんな2人に、シンはふっと温かな微笑みを漏らす。支援してきた身として、2人の姿は喜ばしく思っていた。
「今は君たちの家はここだから、いつでも帰ってきてくれ。僕はいつでも待ってるよ」
「うん、エレシュキガルと一緒に帰ってくる、ね?」
エレシュキガルのことになると怖いシンだが、今の彼は2人の兄のようで。そして、シンを見つめる2人の瞳は、星のように輝いていた。
「………………」
「ん? おい………イシス?」
セトの問いかけに答えず、トコトコと歩きだしたイシス。彼女はシンの前まで行くと、彼をぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、シン」
「………」
「イー、頑張ってく、る………」
セト以外の人間に自分から触れることはそうそうなく、見慣れない妹の行動に驚き、抱き着かれている当の本人のシンも瞠目していた。
「頑張って楽しんでおいで」
「うん」
ぽんぽんと白い髪の頭を柔らかく温かく撫でる。シンを見上げた少女は愛らしく無垢な笑みを浮かべた。
遅れて近づいたセトも、シンとハグを交わし、激励の言葉を送られ、セトとイシスは馬車へ乗り込んだ。
「休暇には帰ってくるよ」
「イーも。また、ね、シン………いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
そうして、2人は馬車に揺られながら、見えなくなるまでシンに手を振り、学園へと旅立った。
―――――――
追記:教育係編第1話は明日4月15日夜に更新します! 遅れてすみません! よろしくお願いいたします!
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