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俺は遊園地で再宣言されるんです

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 俺は2人とどうしようもないやり取りをして、お化け屋敷に出ると、俺のスマホが着信音を鳴らし始めた。ポケットからスマホを取り出し、画面を見て電話の相手を確認する。
 ——————————なっ。
 
 「誰からの電話なの??」
 
 俺のスマホ画面を見ようと、茉里奈は首を伸ばす。俺はすぐに画面を隠した。
 
 「知り合いから。大事なことなんだ。ちょっと待っててくれ」
 
 俺は2人に声を掛けると、比較的人が少ない場所に移動し、通話ボタンを押した。
 
 「もしもし!! 芦ケ谷!?」
 『突然ごめんね』
 「いや、全然大丈夫だ」
 『光汰くん、今、遊園地にいる??』
 「ああ、いるよ」
 
 すると、俺の脳内でさっきのイケメンがフラッシュバックする。
 さっきのことを聞かないと……………………例えあのイケメンが芦ケ谷の新しい彼氏であっても。
 
 「俺さ、聞きたいことがあるんだけどさ」
 『うん、何??』 
 「さっきの隣にいた人って……………………誰??」
 
 恐る恐る尋ねる。
 新しい彼氏なんだ、とか言われたら俺はどうしたらいいんだ??
 そわそわしながら、芦ケ谷の返答をじっと待つ。
 
 『あれはね………………………………………………………………私のお兄ちゃん』
 「はあぁぁぁぁぁぁ————————————————!!!!!! よかったぁ————————!!!!」
 
 安堵のあまり、俺は思わずその場で叫ぶ。周りにいた人たちはギョッとしていたが、そんなことはどうでもよかった。
 
 『光汰くん』
 「なに??」
 『まさかお兄ちゃんを彼氏だと勘違いしたとかないよね』
 「……………………」
 
 なんか答えてはいけないような気がしたので、俺は無言でいた。なぜか額には冷や汗が流れる。
 電話越しにハァというため息が聞こえて、
 
 『よく勘違いされるけど、あれは正真正銘、私のお兄ちゃん』
 
 そして、芦ケ谷は声を小さくして、言った。
 
 『私の彼氏になるのは光汰くんだから……………………その辺は分かっていて』
 
 んなぁぁぁぁぁ————————!!!!
 俺は何を勘違いしていたんだぁ————————!!!! めちゃくちゃ幸せ者じゃないか!!!!
 今すぐに会いたい。呪いをかけられていたとしても、会いたい。
 
 「俺、今すぐ芦ケ谷に会いたい。どこにいる??」
 『出入口前にいるけど……………………その前に私……………………』
 
 俺は芦ケ谷がいる場所が分かると、走り出す。
 すると、待ってくれていた茉里奈と樹梨がいるのが見えた。
 
 「光汰っ!! どこに行くの!?」「お兄ちゃん!!」
 「ちょっと待っていてくれて。すぐ済むから」
 
 そう言って、俺は2人の横を通り過ぎる。あの2人は芦ケ谷のことになるとうるさいからな。
 スマホの方にもう一度話しかける。
 
 「芦ケ谷!? さっき何か言おうとしてたけど何??」
 『それはその……………………私、ちゃんと光汰くんの彼女になりたい。』
 「うん」
 
 喜びのあまり叫びたくなるところだが、黙って彼女の話に耳を傾けた。足はひたすら動かしている。
 
 『前はノリで言ってしまった感があったけど……………………』
 
 全力ダッシュしていた俺は出入口前で芦ケ谷を見つけることができた。隣には黒髪イケメンお兄ちゃんもいる。呪いで近づけないので、芦ケ谷から離れた場所で俺は足を止めた。
 
 「芦ケ谷……………………」
 
 彼女も俺に気づいたのか、こちらに真っすぐ目を向けてくる。
 そして、彼女はスマホを耳元から外し……………………そして、叫んだ。
 
 「私、魔法少女になる!! 本気だから!!」
 
 大勢の人がバッと芦ケ谷の方に注目する。みんな、彼女を凝視していた。芦ケ谷兄は妹の宣言にあんぐりと口を開けている。
 俺はというと…………………………………………苦笑いだった。
 芦ケ谷が俺のことが好きだから魔法少女になってくれるというのは嬉しい。
 
 嬉しいんだけれども……………………。
 近くにいた女の子が芦ケ谷の方を指さしていた。
 
 「ママー。あのお姉ちゃん、魔法少女になりたんだって」
 「見ちゃダメよ。ああいう人は危ないから」
 「でも、本気・・で魔法少女になるって……………………」
 「それが危ない人の発言なの。さぁ、帰りましょ」
 
 お母さんらしき人はそう言うと、女の子を芦ケ谷から遠ざける。
 周りにいた人たちも好き好きに言っていた。
 
 「かわいいのに、痛い人だな」
 「近くにいるイケメンお兄さんも痛い人なんじゃない??」
 「ほんと?? かっこいいから話しかけようと思ったのに」
 
 芦ケ谷兄は二次被害を食らっていた。彼は完全にフリーズ状態。
 周りの声を聞き、自分がやってしまったことに理解したのか、芦ケ谷は顔をりんごのように真っ赤にしていた。

 こんな時に言うのもなんだけど、照れた芦ケ谷もかわいい。俺はつい(決してニヤニヤではない)笑みをこぼす。
 
 「分かったよ!! 俺、待ってるから!!」
 「う、うん……………………」
 
 涙目の芦ケ谷は顔を俯け、小さく返事をする。
 
 「呪いを解いてくれることを待ってるから!!」
 
 俺がその一言を叫んだことで、少なくとも一部の人、子どもたちには遊園地のイベントと勘違いされた。
 …………………………………………大人たちには「痛い人」認定されちゃったけど。

 でも、これでよかった。
 帰ろうとする芦ケ谷を遠くから見送ると、戻ろうとして、振り返ると、2人が立っていた。
 
 「今の何??」「電話の相手、チート女だったんだ」
 
 不気味なオーラを放つ2人が立っていた。
 
 「お兄ちゃん、帰ったら説教ね」
 「えっ」
 「私も今日は光汰に説教しておかないと、悪夢を見る気がする」
 「えっ!?」
 
 2人に連行され、お昼ご飯を食べ、家に帰る。そして、俺は数時間にわたる説教を2人から食らった。
 解放されたのは夕方。2階にある自分の部屋に戻った俺はベッドに直行。仰向けに寝転がった。
 長時間説教を食らっても、それでも、俺は満面の笑みだった。

 だって、芦ケ谷の本音を聞けたんだぜ?? ちゃんと彼女になりたいって言ってもらえたんだぜ??
 ああ————————今なら最高の夢を見れそう。
 そう思った俺は目をつむる。しかし、夢を見ることさえ、邪魔をされた。
 
 「お兄ちゃん、夕ご飯作ってー」
 
 1階からそんな声が響く。タイミングがあまりにも悪かった。
 さっき説教終えたばかりじゃないか。俺は疲れたんだ。眠らせてくれ。
 
 「私も疲れたの。お兄ちゃんの説教のせいでー」
 「……………………」
 
 だから、俺の心を読むなよ。
 妹、樹梨は朝にあった通り、ご飯はまともに作れない。
 仕方ないな……………………起きますか。
 
 「はいよ」
 
 そう返事をして、俺はキッチンへと向かった。
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