悪役令嬢のデスゲーム ~婚約破棄の時、それは復讐の始まりです~

せんぽー

文字の大きさ
1 / 58
オープニングセレモニー

第1話 パーティー、婚約破棄、ゲームスタート

しおりを挟む
 ※ この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

 ――――――




 煌びやかな卒業パーティー。
 そこには赤や青、緑など色鮮やかな服と大きな宝石のアクセサリーで着飾った生徒たちが、男女ペアで楽しそうに踊っていた。
 
 まぁまぁ。
 これまた……楽しそうにダンスしていらっしゃるわ。

 周囲のあまりの輝かしさに、思わず私の口からため息が漏れる。
 
 だが、彼らにとって楽しいのは今のうち。これから起きることを思うと、私の口から笑みが漏れそうで。

 …………ああ、我慢我慢。
 今の私はパートナーのいない寂しい女。
 心を殺して、悲しい顔をしておかないと。

 手にしていたマスカットのジュースを口にしながら、周囲を見渡す。キラキラと輝くシャンデリアの光の下で、ダンスする人たち、談笑する人たち――全ての人間が輝いて見えた。

 私以外はみんな笑顔。ほーんと幸せそうね。
 
「葬式みたいな服だわ……」

 私の服を見たのであろう、誰かが小さく呟く声が聞こえる。
 
 他の生徒たちが色とりどりの服を着ている中、私は真っ黒のドレスを着て、壁の隅に1人立っていた。ドレスの首元や肩の部分は待雪草と百合の花のレースとなっていて、とても可愛いらしい。
 
 しかし、ドレスの色は深い闇のような黒。他のネックレスや手袋、ハイヒールの靴の色も真っ黒。まぁ、あの方から貰ったバラの髪飾りだけは赤黒いが。

「本当に真っ黒ね」
「うふふ、葬式会場と間違えたのかしら」
「きっとドレスコードを知らないのよ」

 相手が公爵令嬢と知ってか、聞こえないよう小さな声で話す女の子たち。だが、私は地獄耳。そんなこそこそと話していても、全部聞こえているわ。

 だが、反応はしない。面倒くさいので、ここはあえて聞こえていないふりをする。

「アドヴィナ・サクラメント!」

 陰口に耳を澄ましながらぼっーと天井を眺めていると、突然私の名前が会場に響いた。同時に、会場はシーンと静まる。

 私は声の主がいるであろう方向に目を向けた。見ると、会場の中央に立っていたのは私のよく知っている彼。周りを見渡せば、参加者のほとんどが私に視線を集めていた。

 …………みんなが卑しい目で見ているけど、乙女ゲーっていっつもこんな感じなの? なんかだるすぎない?

 心中世界観に呆れながらも、私は歩き出す。人々は皆私を避け、自然と道ができていく。私は淑女らしく威厳を保ちながらその道を真っすぐ進み、自分の名を呼んだ彼の元へと向かった。
 
 会場の中央にいたのは軍服のような服を着た赤髪の男子。

「一体何用でしょうか? 殿下」

 私の名を呼んだのはこの国の王子――――エイダン・フレイムロード。燃えるような赤い髪と橙の瞳を持つ、私の名ばかりの婚約者。彼は近くの少女をぎゅっと抱き寄せ、向かいに立つ私をギッと睨んできた。
 
「アドヴィナ・サクラメント! 俺は貴様との婚約を破棄する!」
 
 ああ……口元が緩むわ。頑張って抑えなきゃ。

 こうなることなど以前から分かっていた。今更驚きなどしない。むしろシナリオ通りすぎて、今にも笑い出しそうだ。
 
 演技スイッチを入れ、私はわざとらしくハッと息を飲む。

「あの……理由をお聞きしても?」

 理由なんて知っているから、別に聞く必要はない。が、一応尋ねる。すると、エイダンは近くにいた少女を抱き寄せ、こう言った。

「貴様はハンナに多くの嫌がらせを行った。そのような行いをする者が未来の国王の妃になってはたまらない」

 エイダンが抱き寄せている金髪の美少女、ハンナ・ラッツィンガー。彼女は乙女ゲームの主人公。正真正銘のヒロインちゃんだ。

 なぜそんなことを知っているか……。
 ――――それは私がその乙女ゲームをプレイしたことがあるから。

 私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。でも、前世の記憶を思い出したのは1年ほど前。2年は経っていない。

 なので、確かに前世を思い出すまでは、ハンナをあらゆる嫌がらせを行っていた。でも、思い出してからは、私はすぐに彼女に謝った。ちゃんと頭を下げ、丁寧に謝罪したはずだ。

 なのに、今になって私を責めるとは…………。

 どうせ私が邪魔だから、適当にでっち上げて私との婚約を破棄しようというのでしょうね。まぁ、その方が私にとって、好都合だけど。

「なるほど、そうですか…………そのことに関しましては、私は一度謝罪したはずですが?」
「とぼけるな。あれからも嫌がらせを行っていただろう」
「していませんが……証拠はあるのです? 私が行ったという証拠が」
「目撃者がいる。これで十分だろう」

 エイダン王子はハンナの隣や後ろに立つ男たちに目を向ける。ハンナの周りにいたのは、国王陛下の側近の子、私の弟。彼らが目撃者なのか、エイダン王子の言葉にコクコクと頷いている。

 目撃だけって、証拠にしては薄いけど………………ま、いっか。

「では本当に私との婚約を破棄なさるのですね?」
「当然だ」

 私は両手を組み背筋を伸ばす。そして、令嬢らしい演技をやめ、全身の力を抜き、深く呼吸した。

「はぁ……やっと、やっとだわ……」

 婚約破棄されるこの日をずっと待っていた。
 この日のために全て準備をしてきた。

「ハッ、やっと罪悪感でも生じたか、アドヴィナ。だが、今更謝っても遅いぞ」

 何を勘違いしたのか、エイダンは私を見てフッと笑った。

 はぁ? 
 罪悪感? 私が謝罪ぃ? 
 この人、一体何を言っているの?

「そんなアホなことおっしゃらないでくださいな、殿下。私に罪悪感なんてあるわけないじゃないですか。皆様が勝手に罪をでっち上げて、適当な証拠を作って、私を断罪ごっこをしているだけ。それなのに私が罪悪感を感じる? ハハッ! バカにも程がある!」

 冤罪をかけられて、ありもしないはずの罪悪感を生じる方がおかしいわ。ほんと。

 突然饒舌になった私に、エイダンは動揺したのか目を見開いている。信じられないものでも見ているかのようだった。

 ああ……その顔見物だわ。
 最高のリアクションよ。

「やはりお前は悪女だな……」
「私が悪女、ですか?」
「ああ、悪女で魔女だ」

 特段悪いことをしていないのに、悪女?
 使のに、魔女?

「アハハハハハッ!!」

 私は笑いをこらえきれなくなり、目に手を覆い豪快に笑った。他の人は狂った私に絶句。静かな会場に私の笑い声だけが響いた。

「アハハ! 私が悪女で魔女だなんて!」

 記憶を思い出すまではいじめをしていたし、行動はいいとは言えなかった。だが、悪女とまではいかないだろう。少なくとも最近の半年間はいい子ちゃんでいたはずよ。
 
「なのに、悪女だなんて……アハハ!」

 ああ、ホントこの人を選ばなくてよかった。
 思い込みが酷い人だと思ってはいたけど、ここまでとは。

 まぁ、私は本物の悪女になるのは間違いないのかもしれないわね。

「はぁ……あなたたちは見たくもないぐらいにほーんとアホだけど、あなたを愛していた心優しいアドヴィナのために、一応聞いてあげましょう。殿下、婚約破棄は本当に取り消しません?」
「ふん、取り消すものか」
「ふーん、そうですか……」

 まぁ、これだけ確認取ったし、やっちゃっていいか。

 私は右手を空に上げ、ぱちんと指を鳴らす。その瞬間、パーティー会場から一転。私は城下町の大通りに立っていた。
 
 だが、移動したのは私だけではない。エイダン王子もヒロインちゃんも子息さんも私の弟も、会場にいたほとんどの人間が移動していた。

 うんうん、みんな上手く転移できたようね……よしよし。

 先ほどまで喪服ドレスだった私だが、転移と同時にお色直し。色が黒であることには変わらないが、今着ているのは一部がシフォン生地になっていて、足が大胆にも透けているドレス。

 コルセットでウエストがきゅっとしまっており、胸元は開いている少しセクシー。
 でも、黒のシフォン生地でできた肩掛けでセクシーさは抑えられ、気品があった。また、首元には大きな宝石のついたチョーカーをつけている。

 うん! このドレス、薔薇の刺繍が入っていてかわいいわ! 太ももに剣銃をしまえるから、これからの時間にとっても向いてる。

 ほんと気分が上がるわ~。
 あの人の趣味はほーんといいわね。大好き。
 私も頑張んなくちゃっ!

 ドレスを見繕ってくれたあの方に感謝しながら、私はルンルン気分で歩いていく。そして、大通りのど真ん中まで来ると、そこに設置されていた木造の台の上に立ち、あらかじめ用意していたマイクのような形の音声拡張魔法道具を手に取って、口元に向けた。

「ええ、コホン。突然の転移に動揺している方もいらっしゃると思いますが、ご安心を。ここは先ほどの会場とは異なる異空間です。あのままパーティー会場でゲームをしてもよかったのですが、折角なので世界を作らせていただきました。最高でしょう!?」

 と投げ返るが、誰も反応なし。ポカーンと口を開け、フリーズしたまま思考が追いつかない人がいたり、下唇を噛んで訝しむ目で見ていら人がいたり、と反応はさまざま。

「そんな最高の場所に来てくださった皆様には、これからデスゲームをしていただきます」
 
 この世界は乙女ゲーム「セレスティア ~運命の青空~」の舞台となった場所。でも、私に乙女ゲームの世界は合わない。どちらかといえば、ブラッティな殺し合いゲームの方がぴったりで、転生するのなら、バイ◯ハザード的な世界が良かった。

 しかし、実際に来てしまったのはメルヘンでファンタジーな世界。

 だから、私は世界を自分に合うようにした。
 手間と時間はかかってしまったけど、パーティーに間に合ったわ。
 
 これでやっと……やっと! ゲームを楽しめる!

「さぁ! さぁ! 存分に殺し合いましょう!」

 私は前世の記憶を持つ悪役令嬢――――アドヴィナ・サクラメント。
 輝かしい卒業パーティーで婚約破棄を受けたその日に、復讐がてらデスゲームを開始した。



 ――――――――

 この作品は最後まで毎日更新いたします。最終回は来年1月28日です。よろしくお願いいたします。

 今日は3話更新の予定です。2話は19時頃更新いたします。よろしくお願いします<(_ _)>
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...