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オープニングセレモニー

第1話 パーティー、婚約破棄、ゲームスタート

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 ※ この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

 ――――――




 煌びやかな卒業パーティー。
 そこには赤や青、緑など色鮮やかな服と大きな宝石のアクセサリーで着飾った生徒たちが、男女ペアで楽しそうに踊っていた。
 
 まぁまぁ。
 これまた……楽しそうにダンスしていらっしゃるわ。

 周囲のあまりの輝かしさに、思わず私の口からため息が漏れる。
 
 だが、彼らにとって楽しいのは今のうち。これから起きることを思うと、私の口から笑みが漏れそうで。

 …………ああ、我慢我慢。
 今の私はパートナーのいない寂しい女。
 心を殺して、悲しい顔をしておかないと。

 手にしていたマスカットのジュースを口にしながら、周囲を見渡す。キラキラと輝くシャンデリアの光の下で、ダンスする人たち、談笑する人たち――全ての人間が輝いて見えた。

 私以外はみんな笑顔。ほーんと幸せそうね。
 
「葬式みたいな服だわ……」

 私の服を見たのであろう、誰かが小さく呟く声が聞こえる。
 
 他の生徒たちが色とりどりの服を着ている中、私は真っ黒のドレスを着て、壁の隅に1人立っていた。ドレスの首元や肩の部分は待雪草と百合の花のレースとなっていて、とても可愛いらしい。
 
 しかし、ドレスの色は深い闇のような黒。他のネックレスや手袋、ハイヒールの靴の色も真っ黒。まぁ、あの方から貰ったバラの髪飾りだけは赤黒いが。

「本当に真っ黒ね」
「うふふ、葬式会場と間違えたのかしら」
「きっとドレスコードを知らないのよ」

 相手が公爵令嬢と知ってか、聞こえないよう小さな声で話す女の子たち。だが、私は地獄耳。そんなこそこそと話していても、全部聞こえているわ。

 だが、反応はしない。面倒くさいので、ここはあえて聞こえていないふりをする。

「アドヴィナ・サクラメント!」

 陰口に耳を澄ましながらぼっーと天井を眺めていると、突然私の名前が会場に響いた。同時に、会場はシーンと静まる。

 私は声の主がいるであろう方向に目を向けた。見ると、会場の中央に立っていたのは私のよく知っている彼。周りを見渡せば、参加者のほとんどが私に視線を集めていた。

 …………みんなが卑しい目で見ているけど、乙女ゲーっていっつもこんな感じなの? なんかだるすぎない?

 心中世界観に呆れながらも、私は歩き出す。人々は皆私を避け、自然と道ができていく。私は淑女らしく威厳を保ちながらその道を真っすぐ進み、自分の名を呼んだ彼の元へと向かった。
 
 会場の中央にいたのは軍服のような服を着た赤髪の男子。

「一体何用でしょうか? 殿下」

 私の名を呼んだのはこの国の王子――――エイダン・フレイムロード。燃えるような赤い髪と橙の瞳を持つ、私の名ばかりの婚約者。彼は近くの少女をぎゅっと抱き寄せ、向かいに立つ私をギッと睨んできた。
 
「アドヴィナ・サクラメント! 俺は貴様との婚約を破棄する!」
 
 ああ……口元が緩むわ。頑張って抑えなきゃ。

 こうなることなど以前から分かっていた。今更驚きなどしない。むしろシナリオ通りすぎて、今にも笑い出しそうだ。
 
 演技スイッチを入れ、私はわざとらしくハッと息を飲む。

「あの……理由をお聞きしても?」

 理由なんて知っているから、別に聞く必要はない。が、一応尋ねる。すると、エイダンは近くにいた少女を抱き寄せ、こう言った。

「貴様はハンナに多くの嫌がらせを行った。そのような行いをする者が未来の国王の妃になってはたまらない」

 エイダンが抱き寄せている金髪の美少女、ハンナ・ラッツィンガー。彼女は乙女ゲームの主人公。正真正銘のヒロインちゃんだ。

 なぜそんなことを知っているか……。
 ――――それは私がその乙女ゲームをプレイしたことがあるから。

 私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。でも、前世の記憶を思い出したのは1年ほど前。2年は経っていない。

 なので、確かに前世を思い出すまでは、ハンナをあらゆる嫌がらせを行っていた。でも、思い出してからは、私はすぐに彼女に謝った。ちゃんと頭を下げ、丁寧に謝罪したはずだ。

 なのに、今になって私を責めるとは…………。

 どうせ私が邪魔だから、適当にでっち上げて私との婚約を破棄しようというのでしょうね。まぁ、その方が私にとって、好都合だけど。

「なるほど、そうですか…………そのことに関しましては、私は一度謝罪したはずですが?」
「とぼけるな。あれからも嫌がらせを行っていただろう」
「していませんが……証拠はあるのです? 私が行ったという証拠が」
「目撃者がいる。これで十分だろう」

 エイダン王子はハンナの隣や後ろに立つ男たちに目を向ける。ハンナの周りにいたのは、国王陛下の側近の子、私の弟。彼らが目撃者なのか、エイダン王子の言葉にコクコクと頷いている。

 目撃だけって、証拠にしては薄いけど………………ま、いっか。

「では本当に私との婚約を破棄なさるのですね?」
「当然だ」

 私は両手を組み背筋を伸ばす。そして、令嬢らしい演技をやめ、全身の力を抜き、深く呼吸した。

「はぁ……やっと、やっとだわ……」

 婚約破棄されるこの日をずっと待っていた。
 この日のために全て準備をしてきた。

「ハッ、やっと罪悪感でも生じたか、アドヴィナ。だが、今更謝っても遅いぞ」

 何を勘違いしたのか、エイダンは私を見てフッと笑った。

 はぁ? 
 罪悪感? 私が謝罪ぃ? 
 この人、一体何を言っているの?

「そんなアホなことおっしゃらないでくださいな、殿下。私に罪悪感なんてあるわけないじゃないですか。皆様が勝手に罪をでっち上げて、適当な証拠を作って、私を断罪ごっこをしているだけ。それなのに私が罪悪感を感じる? ハハッ! バカにも程がある!」

 冤罪をかけられて、ありもしないはずの罪悪感を生じる方がおかしいわ。ほんと。

 突然饒舌になった私に、エイダンは動揺したのか目を見開いている。信じられないものでも見ているかのようだった。

 ああ……その顔見物だわ。
 最高のリアクションよ。

「やはりお前は悪女だな……」
「私が悪女、ですか?」
「ああ、悪女で魔女だ」

 特段悪いことをしていないのに、悪女?
 使のに、魔女?

「アハハハハハッ!!」

 私は笑いをこらえきれなくなり、目に手を覆い豪快に笑った。他の人は狂った私に絶句。静かな会場に私の笑い声だけが響いた。

「アハハ! 私が悪女で魔女だなんて!」

 記憶を思い出すまではいじめをしていたし、行動はいいとは言えなかった。だが、悪女とまではいかないだろう。少なくとも最近の半年間はいい子ちゃんでいたはずよ。
 
「なのに、悪女だなんて……アハハ!」

 ああ、ホントこの人を選ばなくてよかった。
 思い込みが酷い人だと思ってはいたけど、ここまでとは。

 まぁ、私は本物の悪女になるのは間違いないのかもしれないわね。

「はぁ……あなたたちは見たくもないぐらいにほーんとアホだけど、あなたを愛していた心優しいアドヴィナのために、一応聞いてあげましょう。殿下、婚約破棄は本当に取り消しません?」
「ふん、取り消すものか」
「ふーん、そうですか……」

 まぁ、これだけ確認取ったし、やっちゃっていいか。

 私は右手を空に上げ、ぱちんと指を鳴らす。その瞬間、パーティー会場から一転。私は城下町の大通りに立っていた。
 
 だが、移動したのは私だけではない。エイダン王子もヒロインちゃんも子息さんも私の弟も、会場にいたほとんどの人間が移動していた。

 うんうん、みんな上手く転移できたようね……よしよし。

 先ほどまで喪服ドレスだった私だが、転移と同時にお色直し。色が黒であることには変わらないが、今着ているのは一部がシフォン生地になっていて、足が大胆にも透けているドレス。

 コルセットでウエストがきゅっとしまっており、胸元は開いている少しセクシー。
 でも、黒のシフォン生地でできた肩掛けでセクシーさは抑えられ、気品があった。また、首元には大きな宝石のついたチョーカーをつけている。

 うん! このドレス、薔薇の刺繍が入っていてかわいいわ! 太ももに剣銃をしまえるから、これからの時間にとっても向いてる。

 ほんと気分が上がるわ~。
 あの人の趣味はほーんといいわね。大好き。
 私も頑張んなくちゃっ!

 ドレスを見繕ってくれたあの方に感謝しながら、私はルンルン気分で歩いていく。そして、大通りのど真ん中まで来ると、そこに設置されていた木造の台の上に立ち、あらかじめ用意していたマイクのような形の音声拡張魔法道具を手に取って、口元に向けた。

「ええ、コホン。突然の転移に動揺している方もいらっしゃると思いますが、ご安心を。ここは先ほどの会場とは異なる異空間です。あのままパーティー会場でゲームをしてもよかったのですが、折角なので世界を作らせていただきました。最高でしょう!?」

 と投げ返るが、誰も反応なし。ポカーンと口を開け、フリーズしたまま思考が追いつかない人がいたり、下唇を噛んで訝しむ目で見ていら人がいたり、と反応はさまざま。

「そんな最高の場所に来てくださった皆様には、これからデスゲームをしていただきます」
 
 この世界は乙女ゲーム「セレスティア ~運命の青空~」の舞台となった場所。でも、私に乙女ゲームの世界は合わない。どちらかといえば、ブラッティな殺し合いゲームの方がぴったりで、転生するのなら、バイ◯ハザード的な世界が良かった。

 しかし、実際に来てしまったのはメルヘンでファンタジーな世界。

 だから、私は世界を自分に合うようにした。
 手間と時間はかかってしまったけど、パーティーに間に合ったわ。
 
 これでやっと……やっと! ゲームを楽しめる!

「さぁ! さぁ! 存分に殺し合いましょう!」

 私は前世の記憶を持つ悪役令嬢――――アドヴィナ・サクラメント。
 輝かしい卒業パーティーで婚約破棄を受けたその日に、復讐がてらデスゲームを開始した。



 ――――――――

 この作品は最後まで毎日更新いたします。最終回は来年1月28日です。よろしくお願いいたします。

 今日は3話更新の予定です。2話は19時頃更新いたします。よろしくお願いします<(_ _)>
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